第3章 我が国の先導的プロジェクト等の開発利用の状況と今後の原子力開発利用の進展に向けて

5.国民の理解の増進と協力の促進

(最近の世論の状況)
 1990年に行われた総理府の世論調査によると,原子力発電の必要性については,「必要である」64.5%,「必要でない」20.7%となっている。また,今後10年間の主力エネルギーとして「原子力」と回答した人は,約50%と最も多くなっている。さらに,今後の原子力発電の増減については,「慎重に増やす」が約44%と最も多く,「現状維持」が約30%となっている。一方,原子力発電の安全性については,「安全ではない」と考える人(47%)が「安全である」と考える人(44%)よりも若干多い。また,原子力に対する不安については,不安に思うほとんどの項目において,前回調査に比べ増加している。主な項目は,放射線の人体への影響,放射性廃棄物の処理処分等となっている。
 さらに,原子力発電に対する情報源に対する信用度については,信用できる説明主体として,「テレビ・ラジオなどの報道」,「学者・専門家,「新聞・雑誌などの報道」を挙げた人がそれぞれ3〜4割と多く,「国・地方自治体」と回答した人は約12%であった。
(原子力に対する国民の理解と協力の増進のための活動の現状)このように,総理府世論調査においては原子力に対する不安・心配の高まりや,国や事業者に対する信用度が決して高くはないといった現状が明らかになった。こういった結果を踏まえ,国や事業者は,安全確保の実績を積み重ねるとともに,その時点で分かり得る情報を迅速,正確に提供することはもちろん安全管理体制の全体構造,当該事故の状況,影響度,対策等について分かりやすい説明に引き続き努力し,原子力に対する正確な理解を求めるとともに,日頃からの誠実な対応により,信頼感の醸成を図っていくことが求められている。
 このような活動を行うに当たっては,国民にとって,原子力の安全性や放射線の性質等が実感できないことも原子力に対する理解と協力の増進を図る上での障害となっており,施設見学会等による体験型広報が理解の促進に役立つと考えられることから,今後は,国民に原子力施設を実際に見てもらう機会を更に一層増やしていくことが重要である。
 他方,未来を担う青少年に対し,科学教育及びエネルギー教育等の場において正確な知識の普及を行い,子供の頃からエネルギー・原子力について理解を深める場を提供することや,学校を卒業した社会人に対しても生涯教育の場等を活用して,エネルギーや原子力に対する学習の機会を広く提供することは,原子力,省エネルギーを含めエネルギー全般について国民一人一人に考えてもらうための基盤を作るためにも必要なことである。
 このような認識の下,現在,国,地方自治体,事業者等によって,原子力に対する国民の理解と協力の増進のための活動が種々行われている。内容的には,全国各地で開催される勉強会への講師の派遣,電話により質問に答えるテレフォン質問箱,パソコン通信相談室といった対話型の活動,施設見学会や自然放射線を実際に測定する実験セミナーの開催や簡易型放射線測定器「はかるくん」の貸出しといった体験型の活動が中心となっている。
 さらに,これらの全国広報に加え,立地地域においても,施設の必要性,安全性に対する住民の疑問や不安に直接答えるべく,国の担当官や専門家が,各地で説明会・座談会を実施するなど,地域の事情に応じた,懇切丁寧な広報を心掛けている。
(安全確保の実績の積み重ね)
1991年2月に発生した関西電力(株)美浜発電所2号炉の蒸気発生器伝熱管破損事故は,我が国で初めて非常用炉心冷却装置が実作動したことから,国民の原子力発電に対する不安感を抱かせる結果となった。
 本事故に関しては,振止め金具の挿入不完全に起因して蒸気発生器伝熱管の破断に至ったものであるが,安全審査において評価されたところの安全設計の機能が大筋において適切に働いた結果,安全は基本的に確保されたとする原子力安全委員会の調査審議結果が1992年3月に取りまとめられている。
 しかし,安全性の有無に関係なく,事故・故障・トラブルは,それ自体が国民の不安を抱かせる原因となっていることから,安全確保対策の実施状況や事故・トラブルの環境への影響度などについて,理解を深めてもらうとともに,安全性の一層の向上を図り,安全確保の実績を積み重ねることにより,国民の理解と協力を得るよう努力することが重要である。
 このため,今後とも厳重な安全規制と万全な運転・管理の実施,安全研究の充実・強化に積極的に取り組み,より国民の信頼感を得られる体制の強化を図ることが重要である。
(国際評価尺度の導入について)
 我が国では,1989年以来,原子力施設における事故・故障等について,その影響の度合いを分かりやすく示すための尺度を導入して,一般国民の的確な理解の促進に資してきたところである。一方,国際原子力機関(IAEA)と経済協力開発機構原子力機関(OECD/N EA)の協力によって国際的な評価の尺度について我が国及びフランスの事故・故障等評価尺度の経験を活かして検討が行われ,1992年3月までにほぼ合意がなされた。このような動きを踏まえ,我が国では本年8月より従来の尺度を改め,この国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear Event Scale)を導入することとした。


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