第2章内外のエネルギー情勢等と我が国の原子力発電,核燃料サイクル等の開発利用の状況

3.我が国の原子力発電,核燃料サイクル,プルトニウム利用等の開発利用の状況

(1)原子力発電

①原子力発電の現状
我が国の原子力発電は,1992年9月末現在,運転中の商業用発電炉は41基,設備容量は3,323万9千キロワット,新型転換炉原型炉「ふげん」を含めると,42基,3,340万4千キロワットとなっている。これに建設中及び建設準備中のものを含めた合計は,商業用発電炉で53基,4,590万8千キロワット,研究開発段階発電炉を含めると,55基,4,635万3千キロワットである。
原子力発電は,1991年度末現在,総発電設備容量(電気事業用)の18.5%,1991年度実績で,総発電電力量(電気事業用)の27.1%を占め,主力電源として着実に定着してきている。また,1991年度の設備利用率は,73.8%で,1983年度実績で70%を超えて以来,9年間続いて70%台の高い水準で推移してきている。設備利用率が1990年度に比べ増加した主な原因は,故障・トラブル及び定期検査による発電損失の割合が減少したことによると考えられる。
②原子力発電の経済性
通商産業省の平成元年度における試算結果では,発電原価は原子力発電が9円/キロワット時程度,石炭火力及びLNG火力発電が10円/キロワット時程度,石油火力発電が11円/キロワット時程度となっている。
以前に比べて他の電源との発電原価は接近してきているものの,この試算には,20銭/キロワット時程度の原子力発電所の廃止措置費用が含まれており,また,上記試算に含まれていない放射性廃棄物の最終処分に係る経費を含めても,原子力発電は同等以上の経済性を有する電源となっている。
③軽水炉技術の研究開発
我が国では,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
これらの成果は,現在運転中又は建設中の在来型軽水炉の一層の改良に反映されるとともに,特に,第3次計画においては改良型軽水炉(ALWR)の開発が進められた。現在建設中の東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号炉(1996年運転開始予定)及び7号炉(1997年運転開始予定)は,このALWRの初号炉であり,原子炉圧力容器内蔵型冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等の新技術が採用されている。
また,1991年6月に総合エネルギー調査会原子力部会軽水炉技術高度化小委員会が取りまとめた報告書によると,今後の軽水炉技術の開発に当たっては,経験の蓄積を積極的に活用し,安全性の原則を毎認識し,新しい知見・技術を取り入れていくことが重要とし,安全性確保の更なる取組として,故障・トラブル対策の高度化,ヒューマンファクターに係る対策の高度化,安全設計の高度化,静的安全性の可能性の追求及び廃炉対応の高度化を挙げている。
④原子炉の廃止措置
原子炉の廃止措置に関する技術開発については,実際の商業用発電炉の廃止措置が必要となる時期を考慮し,1990年代後半に向けて技術の向上を図ることとしており,1981年度から,日本原子力研究所が動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。
同研究所では,1986年度からJPDRの解体実地試験を行っており,圧力容器の解体を終えて,1991年2月から放射線遮蔽体の解体作業に着手している。
また,1988年度に,官民の参加により(財)原子力施設デコミッショニング研究協会が設立され,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行っている。
(財)原子力発電技術機構においては,廃止措置に関する技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な炉内構造物切断技術,解体廃棄物処理技術等について確証試験を進めている。
電気事業者においては,原子炉の廃止措置費用について,世代間負担の公平化を図るため,発電を行っている時点で,引当金を積み立てる方式によって料金原価に算入することとし,1989年3月期決算から原子炉廃止措置費用引当金の計上を開始した。

(2)核燃料サイクル
①核燃料サイクルの事業化の推進
 我が国の核燃料サイクルの研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として進められてきたが,このうち,核燃料の再転換・成型加工については,既に民間における事業化が進んでおり,多くの実績を積み重ねている。
 また,ウラン濃縮,軽水炉使用済燃料再処理,低レベル放射性廃棄物埋設等については,従来より日本原燃産業(株)及び日本原燃サービス(株)が青森県六ヶ所村において事業化を進めてきたが,1992年7月に両社は合併し,本社を青森市内におく日本原燃(株)が設立され,同社により引き続き事業化の進展が図られている。
 ウラン濃縮施設については,1992年3月に一部の操業が開始された。
 低レベル放射性廃棄物埋設施設については,1992年12月の操業開始に向けて,現在建設が進められている。使用済燃料の再処理施設については,原子力委員会及び原子力安全委員会による審査中である。また,海外から返還される高レベル放射性廃棄物貯蔵施設については,1992年4月の事業許可を受けて,同年5月に着工した。操業開始は,1995年2月の予定である。
 なお,核燃料サイクルの事業化等,原子力開発利用の進展に応じ,核燃料物質等の輸送については,今後ともますます拡大することが予想される。
②ウラン濃縮
 我が国におけるウラン濃縮の国産化については,動力炉核燃料開発事業団が中心となってその研究開発を進めてきた。同事業団は,岡山県人形峠において1979年9月以来,パイロットプラントの運転を続けてきたが,1990年3月に当初の目的を達成したため運転を終了した。パイロットプラントに続いて,同事業団は200トンswu*/年の能力を有する原型プラントを運転中である。日本原燃(株)は,この成果に基づき,1988年8月の事業許可を受け,同年10月着工し,1992年3月に濃縮能力150トンSWU/年の規模で操業を開始した。今後,逐次増設し,最終的には濃縮能力1,500トンSWU/年の規模とする計画となっている。


*SWUは,分離作業単位(SeparativeWorkUnit)swuは,天然ウランを濃縮する際に,必要とする濃縮度の濃縮ウランを得るための仕事量を表す基本単位である。ウラン濃縮度を高めるほど,また,廃棄濃度を低くするほど,SWUは大きくなる。例えば,約0.7%の天然ウランから4%の濃縮ウランを1トン生産するためには,廃棄濃度が0,25%の場合,約5,8トンSWUの分離作業量が必要である。

 動力炉・核燃料開発事業団は新素材高性能遠心機の研究開発に関して,1989年5月の原子力委員会ウラン濃縮懇談会の報告書を受けて,民間との協力により実用規模カスケード試験装置を1992年に建設し,1993年から運転を開始することとしている。
 一方,ウラン濃縮に関する新技術としては,レーザー法及び化学法の研究開発が進められてきた。
 このうち,レザー法については,日本原子力研究所及びレーザー濃縮技術研究組合が原子レーザー法の研究開発を進めており,同研究組合は,1990年5月に実験機を完成させ各種のシステム試験を行っており,日本原子力研究所は基礎プロセス試験を実施している。

 また,動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所は,分子レーザー法の研究開発を進めているが,同事業団は,1990年11月に工学実証試験装置を完成させ,試験を実施しており,理化学研究所は,この試験を支援するための工学基礎試験を実施している。
 なお,化学法については,旭化成工業(株)が研究開発を進めてきたが,同社は1991年7月にモデルプラントの開発は終了したとして,現在研究開発活動を休止しており,今後の国内需給動向を踏まえて,将来の活動を検討するとしそいる。
 このような新技術の研究開発の進展を踏まえ,原子力委員会は1991年7月からウラン濃縮懇談会において,新技術の評価検討及び遠心分離の体制について調査審議を行い,1992年8月に報告書を以下のとおり取りまとめた。
(ア)遠心法については,六ヶ所濃縮工場(1,500トンSWU/年)の安定操業を図るとともに,経済性の向上を図る必要がある。六ヶ所濃縮工場の更なる経済性の向上のためには現在開発中の新素材高性能遠心機の導入に続く,更に高度化した遠心機の開発導入が必要であり,遅くとも平成15年度の六ヶ所濃縮工場への導入に向けた計画を検討する必要がある。さらに,動力炉・核燃料開発事業団で基礎的,先導的な研究開発等を実施する。
(イ)原子レーザー法については,これまでの研究開発の成果で実用化に至るまでの,技術的問題点が明らかとなりつつあり,また海外での開発状況も勘案すると,これらの問題点を解決するための技術的見通しもあるため,現在保有するシステム試験施設を活用し,システムの最適化を目指した要素技術等の研究開発を継続し,平成10年頃に実証段階に進むべきか否かの評価検討を実施することが適当である。
(ウ)分子レーザー法については,未だ工学実証試験に入ったばがりであることから,技術の可能性を見極めるために,工学実証試験等を活用し,工学試験を継続し,原子レーザー法に係る評価検討の時期にそれまでの成果を評価検討することが適当である。
 化学法の開発は,技術自体については十分な成果が得られたが,商業化につながる実証プラント建設については今後の国内外のウラン濃縮の需給動向等を総合的に踏まえ,判断されるべきである。
(工)六ヶ所濃縮工場以降の国内濃縮事業規模の拡大及びその時期については,内外の動向等を勘案し今後の検討を進めていくことが必要である。
③軽水炉使用済燃料再処理
 軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われてきた。同事業団の東海再処理工場は,1977年9月にホット試験*を開始し,初期のトラブルを克服して順調に操業を行い,1991年度末までの累積再処理量は約609トンUに達している。
 我が国で発生する使用済燃料の再処理については,東海再処理工場のほか,英国及びフランスに委託しており,1991年度末までには,軽水炉使用済燃料約4,200トンUが両国に,ガス炉使用済燃料約1,100トンUが英国に運ばれている。
 将来的には,国内の再処理需要については,現在操業中の動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と,日本原燃(株)が計画を進めている青森県六ヶ所村の再処理工場により対応することとしている。また,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処理するまでの間適切に貯蔵・管理することとしている。


* 実際に放射性物質を用いて行う試験

 六ヶ所村の再処理工場(処理能力は年間800トンU)については,1999年頃の操業開始を目指して建設する計画であり,動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の操業によりこれまで培ってきた技術蓄積をも活かして所要の検討を進め,1989年3月,再処理事業指定申請を内閣総理大臣に提出した。1991年8月には,科学技術庁における審査が終了し,1992年9月現在,原子力委員会及び原子力安全委員会において審査中である。
④低レベル放射性廃棄物の処理処分
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち,気体及び一部の液体廃棄物については,フィルターを通したり,蒸発処理を講じた後,所定の濃度以下であることを確認し,大気中または海水中に放出している。その他の液体及び固体廃棄物については,発生量を極力低減した後,固化,焼却等により適切な処理を行って,各発電所等の敷地内に安全な状態で貯蔵されている。1992年3月末現在,原子力発電所において貯蔵されているものは200リットルドラム缶に換算して約48万本分となっている。
 低レベル放射性廃棄物の最終的な処分については,陸地処分及び海洋処分を基本的な方針としている。
 このうち,陸地処分については,日本原燃(株)が,1992年12月の操業開始を目指して,青森県六ヶ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する低レベル放射性廃棄物埋設施設を建設している。この施設の埋設能力は200リットルドラム缶に換算して約20万本相当であるが,今後,逐次増設し,最終的には約300万本相当の規模とする計画である。全国の原子力発電所から六ヶ所村の施設までの海上輸送については,原燃輸送(株)所有の「青栄丸」により行われる予定であるが,現在,「青栄丸」が完成し,実輸送に向けての準備が行われている。
 また,海洋処分については,関係国の懸念を無視して行わないとの考えの下,慎重に対処することとしている。
 使用済燃料の再処理,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工の過程で発生する,TRU核種を含む放射性廃棄物については,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしている。これを受け原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1991年7月,「TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分に関する報告書」を取りまとめた。同報告書においては,TRU核種を含む放射性廃棄物の区分の考え方,区分の目安値,処分方策の具体化の手順等,今後の処理処分の推進のための具体的在り方を示している。


*超ウラン元素,ウランより原子番号の大きい元素の総称(Trans-Uranium)

(3)プルトニウム利用
 我が国においては,ウラン資源の有効利用を図り,エネルギーの安定供給を確保するなどのため,使用済燃料の再処理により得られるプルトニウムの利用体系の確立が重要である。その際,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉の利用を基本とするが,当面は,軽水炉及び新型転換炉において一定規模でのプルトニウム利用を進めることとじている。
 原子力委員会核燃料リサイクル専門部会は,1991年8月に,2010年頃までを見通した長期的視野から核燃料リサイクルの具体的方策を提示した「我が国における核燃料リサイクルについて」を取りまとめた。
 この報告書においては,まず,プルトニウムの利用面について,ウラン資源の利用効率が高いなどの特長を有する高速炉(FBR)を,我が国のプルトニウム利用の基本と位置付けており,今後とも,その実用化を目指すとしている。また,我が国の原子力発電計画において,当面主流である軽水炉においてプルトニウム利用を進めることとし,それによって,エネルギー供給面で一定の役割を果たすとともに,併せて,FBRの実用化に向けて,実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術,体制等を整備していくことが必要であるとしている。さらに,リサイクル体系の柔軟性を高める観点から,核燃料利用の面で融通性に富む新型転換炉(ATR)において,その特長を活がしつつ,プルトニウムの利用を進めることが適当であるとしている。
①軽水炉におけるプルトニウム利用及び新型転換炉
 我が国における軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,電気事業者を中心に進められており,既に,少数体規模実証計画が実施されている。これに続いて,最初の利用計画として,1990年代央に,80万キロワット級以上の沸騰水型軽水炉(BWR),PWRそれぞれ1基において,その4分の1炉心相当分のMOX燃料を装荷する方法を採用することとしている。これに続いて,3分の1炉心相当分のMOX燃料の装荷を,100万キロワット級軽水炉に換算して1990年代末には4基程度,2000年過ぎには12基程度の規模にまで段階的かつ計画的に拡大し,リサイクル利用を行えるよう準備を進めることとしている。
 新型転換炉の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,1977年より原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
 また,これに続く実証炉については,電源開発(株)が2001年3月の運転開始を目指して,青森県大間町において,電気出力60万6千キロワットのATR建設のための準備を進めている。
②高速増殖炉
 高速増殖炉は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成する画期的な原子炉であり,将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発が進められている。高速増殖炉の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており,既に実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)が,現在まで順調に運転され,原型炉等の開発に必要な技術データや運転経験が着実に蓄積されてきている。また,同事業団では民間の協力を得て,福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めており,1991年4月に機器の据え付けを完了し,1992年度臨界を目途に,総合機能試験を行っている。
 実証炉については,1990年代後半に着工することを目標に,日本原子力発電(株)を中心に,実証炉関係の研究開発,基本仕様の選定等を行うこととしている。1990年6月,電気事業者は,当面トップエントリー方式ループ型炉の技術的成立性の確認を主たる目的とした,実証炉の予備的概念設計研究を進めていくことを決定し,日本原子力発電(株)において1992年3月に同設計研究を完了した。今後,プラント全般について,総合的評価を行うための概念設計等を行うこととしている。なお,動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)の間で,実証炉の開発をより円滑,効率的に進めることを目的に,1989年3月,「高速増殖実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」が締結され,具体的協力が進められている。

③高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉使用済燃料の再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,実規模モックアップ試験,高レベル放射性物質研究施設における基礎的データの蓄積等が図られている。高速増殖炉使用済燃料再処理の研究開発は,高速増殖炉の開発と整合性をもって進めることが重要である。今後,工学規模のホット試,験施設を建設し,プロセス・エンジニアリングの確立を図り,これらの成果を十分に踏まえ,2000年過ぎの運転開始を目途に,パイロットプラントの建設計画の具体化を図ることとしている。
④MOX燃料加工
 プルトニウム利用体系を確立するためには,多量のプルトニウムの安全な取扱技術を含めて所要の研究開発を進め,MOX燃料加工の実用化を図る必要がある。
 MOX燃料加工については,原子燃料公社(現動力炉・核燃料開発事業団)が1966年にMOX燃料製造の技術開発に着手して以来,動力炉・核燃料開発事業団が行ってきている。1992年3月末現在,「ふげん」,「常陽」,「もんじゅ」用燃料の累積製造実績は113トンMOXを達成している。さらに現在,新型転換炉実証炉用燃料製造施設(40トンMOX/年)の建設計画が予定されている。
 また,軽水炉による核燃料リサイクル利用計画及び1999年頃にも予定されている六ヶ所村の再処理工場の操業開始を踏まえ,年間約100トン程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があるほか,その事業化の推進のために,国内における技術の実証を図るとともに,動力炉・核燃料開発事業団の有するMOX燃料加工技術の民間事業者への円滑な移転を行う必要がある。そのため,事業化方策を早期に策定するとともに,動力炉・核燃料開発事業団の施設活用等について早急に検討を進める必要がある。
 なお,海外再処理により回収されるプルトニウムについては,一定期間,適切な量について,海外でMOX燃料加工を行うことが適当であり,そのための検討を進めることが必要である。
⑤プルトニウムの輸送
 海外再処理によって回収したプルトニウムの国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備を図ることとしている。
1988年7月に発効した新日米原子力協定では,一定のガイドラインに従う航空輸送に対し,包括同意が得られ,その後の日米両国の交渉を経て,同年10月には,一定のガイドラインに従う海上輸送についても包括同意の対象となることとなった。
 その後,1989年12月の原子力委員会核燃料リサイクル専門部会で,当面の国際輸送は海上輸送で行うこと,1992年秋頃までには輸送を実施すること等を内容とした報告書を取りまとめた。
1992年秋頃には,高速増殖原型炉「もんじゅ」の燃料製造に必要なプルトニウムのフランスから日本への海上輸送が実施されることになっており,海上輸送の円滑な実施に向け,実施主体である動力炉・核燃料開発事業団が中心となって鋭意準備を進めるとともに,海上保安庁においても護衛のための巡視船を1992年4月に完成させるなど,関係機関が協力して準備を行っている。

(4)高レベル放射性廃棄物処理処分
①処理処分の基本的進め方
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,これまでに動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場で発生したものが,厳重な管理の下に同工場のタンク内に貯蔵されている。1992年3月末現在,その累積量は溶液の状態で,471立方メートルとなっている。
 また,電気事業者の使用済燃料の海外再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)が返還されることになっている。
 これらの高レベル放射性廃棄物については,ステンレス製の容器に安定な状態にガラス固化し,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。
 原子力委員会は,1991年6月,高レベル放射性廃棄物対策の進め方全般について,より具体的にその考え方を示していくこととした。これを受け,放射性廃棄物対策専門部会において,鋭意検討した結果,1992年8月に報告書「高レベル放射性廃棄物対策について」を取りまとめた。この報告書においては,高レベル放射性廃棄物の処分の進め方と研究開発等の進め方を併行したものとして整理するとともに,高レベル放射性廃棄物対策の進め方に関する具体的なビジョン,特に処分対策全体の手順及びスケジュール,関係各機関の責任と役割等が明確に示されている。
 具体的には,処分方策については,
(ア)実際の処分予定地を選定する実施主体を2000年を目安に研究開発等の進展状況や諸般の情勢等を総合的に勘案し,その設立を図ること
(イ)その後,実施主体は処分予定地を選定し,処分予定地においてサイト特性調査及び処分技術の実証を行うこと
(ウ)処分場の操業開始は,2030年代から遅くとも2040年代半ばまでを目途とすること
 などの,地層処分の手順及びスケジュールが示された一方,研究開発等については,
(ア)その進展状況及び成果を適切な時期に取りまとめること
(イ)深地層の研究施設の計画を処分場の計画と明確に区別して進めること
 などが示され,処分方策と研究開発等を別々に並行して進めていくことが明確化された。
 また,関係各機関の責任及び役割分担については,
(ア)国は,処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うこと
(イ)動力炉・核燃料開発事業団は,研究開発等の着実な推進を図ること
(ウ)電気事業者は,処分費用の確保のみならず,研究開発段階においても発生者としての責任を十分踏まえた役割を果たすこと
 とされた。
 今後は,報告書に示された計画に従い,着実にその対策を実施していくこととしている。
②研究開発の状況
 ガラス固化技術については,フランス,英国等において実用規模のプラントが稼動しており,我が国においても,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められてきている。同事業団は,この成果を踏まえたガラス固化プラントを1992年4月に完成させ,同年5月から模擬廃液を使ったコールド試験を進めており,実廃液を使ったホット試験は1994年以降に開始する予定である。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分については,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会が,1989年12月に高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目と,その進め方に関する報告書を取りまとめた。
 この方針に従い,動力炉・核燃料開発事業団が中核推進機関となり研究開発を実施してきている。
 動力炉・核燃料開発事業団の北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は,高レベル放射性廃棄物等の貯蔵と併せて,地層処分のための研究開発等を行う総合研究センターを目指したものであり,本計画は処分場の計画と明確に区別したものであるとの認識の下,その着実な推進を図っていくこととしている。
 さらに,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,高レベル放射性廃棄物の処理処分の効率化,含まれる有用元素の資源化という新たな可能性を目指して,1988年10月「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」を取りまとめた。この計画は,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離を行い,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換を行うという画期的なものである。これらの研究開発については,長期的視野に立って,官民の力を結集して計画的かつ効率的に推進することとしている。また,1989年6月から,核種分離・消滅処理技術に関する情報交換の国際協力計画(通称:オメガ計画,期間:1989~1993年)が我が国の提案により経済協力開発機構原子力機関(OEC D/NEA)において開始され,1990年11月には,第1回情報交換会議が我が国において開催された。現在,同計画の1998年までの期間延長が検討されている。

(5)放射線利用
 X線によるレントゲン撮影やがん治療等に代表されるように,医療分野を始めとして,我が国においては放射線利用が身近に,かつ広く普及しており,医療,農業,先端技術分野等の多岐にわたる分野で国民生活の向上等に貢献している。1991年3月末現在,放射線障害防止法に基づく放射性同位元素又は放射線発生装置の使用事業所総数は約4,900事業所に達している。また,放射線の新たな利用の可能性を拓くため,より高度な放射線利用技術の研究開発が進められている。
(医療分野での利用)
 医療分野においては,診断,治療,医用材料や医用デバイスの加工製造及び医療器具等の滅菌に放射線が利用されている。
 診断の面では,胸部,胃,骨等のX線撮影をはじめ,X線コンピュータ断層撮影.(X線CT)等が一般的に普及・利用されている。また,放射性医薬品の体内投与(トレーサー利用)とコンピュータトモグラフィを利用した臓器等の機能の画像化による診断も行われており,ポジトロンCT装置は実用化段階に達し,医療診断技術の一層の向上が期待されている。
 治療の面では,X線,γ線,電子線の照射によるがん治療が実用化されている。また,現在,中性子線,陽子線を利用した治療に関する研究も進められている。このほか,京都大学,日本原子力研究所の研究炉を用いて,脳腫瘍等の熱中性子照射治療が行われた実績もある。
 さらに,放射線医学総合研究所において,照射治療に関し優れた性質を持つ重粒子線による治療法の研究及び重粒子線がん治療装置の建設が行われている。
 医療器具の滅菌については,主として,透過力の大きいγ線による滅菌が行われてきたが,最近,高エネルギー電子線による滅菌も行われるようになった。
(農業分野での利用)
 農業分野においては,品種改良,害虫防除,食品照射といった分野において放射線が利用されている。
 植物の品種改良については,コバルト60を用いた品種改良により,風害に強い稲,病気に強い梨等,100種に及ぶ成果を挙げている。
 害虫防除については,1972年よりウリミバエの不妊虫放飼法による根絶防除を沖縄,鹿児島両県で実施しており,1989年10月奄美群島全域における根絶に続き,1990年10月には沖縄本島及び周辺諸島での根絶を達成している。これら根絶達成地域では,スイカ,メロン,マンゴー等の果実類の移動規制が解除され,本土市場への出荷が自由となった。また,残る八重山群島地域においても1993年には根絶が達成されるものと見込まれている。
 食品照射は,食品の保存期間延長等のため,発芽防止,熟度遅延,殺菌,殺虫等を行うものである。我が国では,1967年に原子力委員会が定めた「食品照射研究開発基本計画」に基づき,馬鈴薯,玉ねぎ等7品目について照射効果,健全性等の研究開発が実施され,1974年より馬鈴薯の発芽防止のための照射が実用化されている。なお,1991年10月現在,世界の37か国で合計約60品目について食品照射が法的に許可されている。このうち,米国においては生鮮果実,家禽肉等への照射が許可されている。
(工業分野での利用)
 工業分野においては,工程管理,品質管理のための精密計測・検査及び材料の改質といった分野で放射線が利用されている。
 計測検査については,透過力の大きいγ線,中性子線等を用いた厚さ,密度,水分含有量等の計測が実用化されており,また,鉄鋼,航空機製造等の分野では,放射線を用いた亀裂等の非破壊検査が行われている。
 材料の改質については,材料に放射線を照射することにより,電線被覆材,自動車用タイヤ等の耐熱性,耐摩耗性を向上させること等が行われている。
 また,マイクロエレクトロニクス,精密加工等の分野での利用も行われている。
(その他の分野での利用)
 その他,考古学分野における年代測定など学術研究等の分野でも放射線利用の実施例は多く,また,新たな放射線利用技術開発を目指し,日本原子力研究所におけるイオン照射研究施設建設,日本原子力研究所と理化学研究所の協力の下に実施されている大型放射光施設の建設など,イオンビーム,放射光等の放射線利用高度化研究開発が進んでいる。
 さらに,放射線利用は環境保全の面でも注目されており,日本原子力研究所ではゴミ焼却場の排煙及び石炭燃焼時の排ガス中の有害成分(硫黄酸化物,窒素酸化物,塩化水素)を電子線を用いて除去する技術や,汚泥の放射線処理による殺菌及び速成堆肥化技術の開発を進めている。


目次へ          第1部 第3章(1)へ