はじめに

1. 1991年12月のソ連の崩壊により,40年以上にわたり国際情勢の基調をなしてきた東西対立は名実ともに終結し,それに伴い,原子力をめぐる状況も大きく変化している。このような中,1991年より,米国とロシア等の間で,核兵器の大幅な削減合意がなされてきているが,旧ソ連において,核兵器の解体によるプルトニウム・高濃縮ウランなどの核物質の拡散や核兵器関連技術・人材の流出が懸念されている。また,ソ連の崩壊等は旧ソ連・中東欧地域の原子炉に関する情報量を多くし,西側諸国はその安全性に関する懸念を強めることとなった。さらに,イラク,北朝鮮をめぐる動向等は国際原子力機関(IAEA)の保障措置の整備・強化の重要性を認識させた。

2. 一方,世界のエネルギー需要は増加の一途をたどってきており,中長期的には,石油等について供給制約が考えられている。また,先の湾岸危機は,大きな経済的混乱を招くことはなかったものの,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を再認識させた。さらに,地球環境問題への対応の観点からも,供給安定性,経済性,環境影響面で優れた原子力の開発利用の推進の必要性が認識されている。

3. 我が国においては,原子力発電を中心とする原子力開発利用は,着実に進展しており,1991年度において,総発電電力量(電気事業用)の27.1%を原子力による発電によって賄っている。また,我が国が長期にわたって原子力発電を推進し,エネルギー供給の安定化を図る上で極めて重要な自主的な核燃料サイクルについても,青森県六ヶ所村において,その計画が着実に進展している。さらに,原子力の発電以外の用途においても,放射線利用の分野において,医療,農業,工業等国民生活に定着してきており,このように,原子力開発利用は,我が国の経済発展,国民生活の向上に大きく寄与している。

4. また,核兵器の拡散や旧ソ連・中東欧地域の原子炉の安全性などに対する懸念が高まる中,原子力の開発利用を厳に平和利用に限り,国際的にも保障措置に積極的に貢献し,原子力発電所の運転管理等で優れた実績を有する我が国は,信頼性のある核不拡散体制の維持・強化に向けた一層の貢献と旧ソ連・中東欧地域を含めた原子力発電の安全性向上に向けた重要な役割を果たすことが求められている。

5. このような状況の下,原子力委員会は,本書において,国際的な原子力をめぐる状況を概観し,我が国における原子力平和利用のこれまでの経験を踏まえた考え方を述べるとともに,世界のエネルギー需給の状況,原子力の安全確保,各種研究開発など原子力開発利用をめぐる現状を整理し,今後の課題についても記述した。


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