2.原子力委員会の決定等

(4)専門部会等報告書

ウラン濃縮懇談会報告書

1989年5月16日
 原子力委員会ウラン濃縮懇談会

 ウラン濃縮懇談会は,1988年4月,新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに,今後の研究開発の進め方について検討するため,「新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ」を設置した。当懇談会は,同ワーキング・グループより,1988年8月1日及び1989年4月28日の2回にわたり,別添の報告書の提出を受けた。当懇談会としては,これらの報告書に基づき,以下の考え方に立って,今後の新素材高性能遠心機の開発・実用化を進めていくことが適当であると考える。
1.新素材高性能遠心機の研究開発は,ほぼ順調に進展してきているが,今後,その実用化を図っていくため,遠心機1,000台程度からなる実用規模カスケード試験装置の建設・運転を行うこととする。
 この試験装置の設置場所としては,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所とし,その建設・運転のスケジュールとしては,1989年度に建設に着手し,1991年度の運転を開始することを目途とすることが適当である。
2.実用規模カスケード試験装置の建設・運転は,関連メーカーの協力の下に,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。
3.実用規模カスケード試験装置の建設・運転と並行して,引き続き,新素材高性能遠心機に関する所要の研究開発を進めていくことが重要であるが,1991年度以降については,民間がその研究開発の主導的な役割を担うこととし,一方,動力炉・核燃料開発事業団は,基礎的・基盤的な研究開発,先導的な研究開発,国として必要な安全性の研究等を実施するとともに,必要に応じ,民間の行う研究開発を支援するものとする。


(別添1)
原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書

1988年8月1日

1.はじめに

(1)我が国におけるウラン濃縮の事業化は,動力炉・核燃料開発事業団が中心となって開発を進めてきた遠心分離法の技術により進められている。
 本年4月には,岡山県人形峠において,遠心分離法のウラン濃縮原型プラント(200トンSWU/年)の部分操業が開始され,この原型プラントは,来年1月頃には,全面運転に入る予定である。
 この成果を踏まえ,日本原燃産業(株)は,青森県六ヶ所村において,昭和66年頃の操業開始を目途に,商業用ウラン濃縮工場の建設計画を推進している。
(2)一方,我が国のウラン濃縮事業を取りまく環境は,現在,極めて厳しく,世界的なウラン濃縮役務の供給能力の過剰及び最近の急激な円高の進行により,国内におけるウラン濃縮事業の一層の経済性の向上が強く求められている。
 このような状況の下,我が国において国際競争力のあるウラン濃縮事業を確立していくためには,今後,経済性の一層の向上を図り得るウラン濃縮新技術の開発・実用化が極めて重要な課題である。
(3)岡山県人形峠における原型プラントに採用された遠心機は,技術的にみて,ほぼ完成の域に達したものであり,その遠心機が青森県六ヶ所村における商業プラントの第1期分(600トンSWU/年)に採用されることとなっている。この遠心機については,今後これ以上の飛躍的な技術的進歩は期待し難く,また,回転胴に高価な素材を用いていることから,今後のコスト・ダウンにも限界があるものと考えられる。
 一方,新素材回転胴を用いた高性能遠心機は,これまでの研究開発の成果からみても,在来の遠心機に比べ大幅な性能の向上が見込まれ,また,遠心機の製造コストも,今後,低減化が期待されている。さらに,ウラン濃縮新技術のなかでは,最も開発が進んでいる技術であり,また,既存の技術あるいは設備との整合性もよいため,比較的容易かつ早期に実用化が可能な技術と考えられる。
 このため,日本原燃産業(株)は,青森県六ヶ所村において昭和70年頃から操業を開始する予定の商業プラントの第2期分(900トンswu/年)においては,新素材高性能遠心機を導入することを計画している。
(4)当ワーキング・グループは,昭和63年5月以来,これまで4回の会合を開催し,新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに,今後の研究開発の進め方について調査審議を行った。
 ここに,これまでの調査審議の結果を中間的に取りまとめたので,報告する。

2,新素材高性能遠心機開発の成果と今後の課題

(1)開発の成果
 新素材高性能遠心機の開発については,昭和61年10月28日の原子力委員会ウラン濃縮懇談会報告書の中で,「官民の有機的連携の下に,関係者の人的交流も含めた積極的な対応により,新素材高性能遠心機についてできるだけすみやかに実用化への見通しを得るよう開発を進める」とされている。この方針に沿って,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者は,昭和61年12月,研究協力協定を締結し,新素材高性能遠心機の開発及びその製造技術の開発を進めてきた。動力炉・核燃料開発事業団において進めてきた遠心分離機の開発については,これまで,単機開発,集合機開発,システム試験等を実施し,所期の成果を収め,現在ブロック試験の試運転を開始したところである。また,メーカーにおいて行われてきた遠心機の製造技術の開発については,ほぼ見通しが得られつつあり,今後,国の支援を受けて,さらに製造技術の改良を行う予定である。
 これらの技術開発の成果を取りまとめれば,以下のとおりである。

①新素材高性能遠心機の開発

(イ)単機開発
 低コスト指向の回転胴,軸受等の試作を行い,実機採用の見通しを得た。
 また,各種の運転条件下における遠心機の分離特性を確認した。

(ロ)集合機開発
 実規模集合機により,構造設計が妥当であることを確認するとともに,コスト評価としては,単機当たりのコストが在来の遠心機より低くなり得るとの見通しを得た。

(ハ)システム試験
 操作条件をパラメーターとしたカスケード特性試験を行い,在来の遠心機によるカスケードと変わらない制御性を有することを把握するとともに,設計値に近い分離パワーを得た。

(ニ)ブロック試験
 カスケードの基本特性を把握するための数十台からなるプロック試験装置の据付工事を完了し,その試運転を開始したところである。

②遠心機製造技術の開発

(イ)回転胴製造技術の開発
 製造法の湿式法への統一,高速加工試験,連続硬化法の実証等を行い生産性向上の見通しを得た。

(ロ)回転胴品質管理技術の開発
 寸法検査及び非破壊検査のための基本装置を試作し,検査時間の短縮等の見通しを得た。

(2)今後の課題
 新素材高性能遠心機の開発は,前述のとおり,ほぼ順調に進められているところであるが,これを商業プラントに導入するためには,今後,ブロック試験の成果を見極めるとともに,以下の研究開発を進める必要があると考えられる。
① 実規模カスケードの特性評価
② 商業プラントヘ向けての遠心機製造技術の検証
③ 新素材高性能遠心機の性能確認
④ 新素材高性能遠心機の実証的経済性評価
⑤ 新素材高性能遠心機の故障率及び長期耐久性の把握
⑥ 実規模カスケードの運転技術の確立
⑦ 新素材高性能遠心機の信頼性の実証

3.今後の新素材高性能遠心機の技術開発の進め方

(1)新素材高性能遠心機によりウラン濃縮の事業化を進めていくためには,前述したような技術的課題を解決するため,今後できるだけ早期に,パイロット規模試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の建設・運転を行う必要がある。
 新素材高性能遠心機のパイロット・プラントは,商業プラントの設計・建設に必要なデータを取得するためのパイロット的役割を果たすとともに,商業プラントへの新素材高性能遠心機の導入を最終的に決断するための実証的役割をも果たすことが期待される。
(2)パイロット・プラントの遠心機の台数としては,①このプラントの設計・建設を通して取得できるデータは,実規模カスケードになるべく近い規模のもので実施すれぱするほど,商業プラントの設計を合理的なものとし,商業プラントの経済性・信頼性を向上させるものとなること,②遠心機製造の観点から重要なのは,商業プラントへの導入に向けての製造技術の検証であり,パイロット・プラントにおける遠心機の製造本数がその大きな要因となることなどを考慮すれば,1000台程度とすることが適切と考えられる。
 また,パイロット・プラントの設置場所としては,既設施設を活用することにより,その建設を短期間に行うことが可能であり,かつ,建設費の大幅な低減化が可能であることから,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所が適切と考えられる。
(3)以上の考え方に基づき,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者は,共同して,パイロット・プラントの詳細設計を速やかに進めるものとする。
 なお,このパイロット・プラントの建設・運転体制等については,引き続き,当ワーキング・グループにおいて調査審議を進めるものとする。


(別添2)
原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ報告書

1989年4月28日

1.はじめに

 新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループは,昨年8月1日,新素材高性能遠心機の開発状況及び実用規模カスケード試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の遠心機台数,設置場所,詳細設計の進め方等についての検討結果を中間報告書としてとりまとめ,原子力委員会ウラン濃縮懇談会に報告した。
 その後,当ワーキング・グループは,合計7回の会合(動力炉・核燃料開発事業団の東海事業所と視察を含む。)を開催し,中間報告以降の研究開発の進渉状況を評価するとともに,パイロット・プラントの建設・運転体制等について検討した。
 ここに,中間報告以降の当ワーキング・グループの調査審議の結果をとりまとめ,報告する。

2.中間報告以降の研究開発の進渉状況

(1)遠心機の開発
 新素材高性能遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発を進めた結果,技術的課題の解決の見通しが得られ,パイロット・プラントに採用する遠心機の基本仕様が決定された。

(2)ブロック試験
 新素材高性能遠心機の多台数生産の経験が得られるとともに,ブロック試験装置の運転試験を通じ,軽ガス発生特性,起動時間等のカスケードの起動に関する基礎的なデータ及び濃縮特性等のカスケード特性に関する基礎的なデータが得られ,ブロック試験の所期の目的を達成しつつある。

3.今後の進め方

(1)新素材高性能遠心機を商業用ウラン濃縮工場に導入していくためには,中間報告書でも述べたとおり,パイロット・プラント(遠心機1,000台程度,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所に設置)の建設・運転が必要である。
 一方,中間報告以降に本格的な運転を開始したブロック試験装置の運転試験の状況,遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発の状況を含め,これまでの研究開発により得られた成果からみて,パイロット・プラントの建設・運転に進むために必要な技術的な見通しは得られたものと評価される。
 以上から,今後,パイロット・プラントの建設・運転を進めていくものとし,そのスケジュールとしては,1989年度にパイロット・プラントの建設に着手し,1991年度にその運転を開始することを目途とすることが適当である。
(2)このパイロット・プラントの建設・運転を通じ,これまでに動力炉・核燃料開発事業団に蓄積されてきた関連技術を民間に円滑に移転するとともに,将来の民間のウラン濃縮事業を担う技術者の育成を図ることが重要である。
 このため,パイロット・プラントの建設・運転は,関連メーカーの協力の下に,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。特に,建設・運転のために人形峠事業所で必要となる要員は,動力炉・核燃料開発事業団と民間の適切な協力の下に確保するものとする。
(3)新素材高性能遠心機の実用化を確実なものとするためには,パイロット・プラントの建設・運転と並行して,引き続き,所要の研究開発を進めていくことが重要である。
 現在,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が協力して,1990年度までの予定で,新素材高性能遠心機に関する共同研究が進められている。
 1991年度以降については,新素材高性能遠心機の改良・高度化のための研究開発は民間で行うなど,民間が新素材高性能遠心機に関する研究開発の主導的な役割を担う一方,動力炉・核燃料開発事業団は,基礎的・基盤的な研究開発,先導的な研究開発,国として必要な安全性の研究等を実施するとともに,必要に応じ,民間の行う研究開発を支援するものとする。このような基本的な考え方に立って,官民の適切な役割分担及び協力の下に,1991年度以降の新素材高性能遠心機の研究開発を実施していくものとする。


核燃料リサイクル専門部会報告書

1989年12月12日
 原子力委員会核燃料リサイクル専門部会

1.はじめに

 原子力委員会の核燃料リサイクル専門部会は,本年6月以降,使用済燃料の再処理により回収されるプルトニウム及びウランの利用の進め方について,総合的かつ具体的に調査審議を進めてきた。
 当専門部会の審議事項のなかで,特に,英仏への再処理委託により回収されるプルトニウムの我が国への返還輸送を円滑かつ確実に実施することが,喫緊の政策課題となっている。
 プルトニウムの返還輸送としては,動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という。)が利用するプルトニウムに係るものと,電気事業者(電源開発株式会社を含む。)が利用するプルトニウムに係るものがあるが,当面の数年間に限ってみた場合,我が国における主たるプルトニウムの利用者は,動燃である。
 以上の状況から,当専門部会としては,これまでの調査審議の結果を踏まえ,動燃が利用するプルトニウムの返還輸送の当面の進め方について,以下のとおりとりまとめたので,報告する。
 なお,電気事業者が利用するプルトニウムの返還輸送,軽水炉におけるプルトニウム利用,回収ウランの利用等については,当専門部会において,引き続き,調査審議を進めていくものとする。

2.返還輸送の開始時期

 動燃は,現在運転中の高速増殖炉の実験炉「常陽」及び新型転換炉の原型炉「ふげん」でプルトニウムを使っており,さらに,現在建設中の高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」の運転のためのプルトニウムを必要としている。
 「もんじゅ」は,1992年10月に計画されている臨界に向けて建設が進められており,動燃は,このための初装荷燃料の製造を本年10月に開始した。「もんじゅ」の初装荷燃料の製造に必要となるプルトニウムは,動燃が現在保有しているプルトニウムと,東海再処理工場で今後回収されるプルトニウムとで賄う計画である。
 「もんじゅ」の初装荷燃料の製造は,1992年春には終了する計画であるが,その後,引き続き,「もんじゅ」の取替燃料及び「常陽」の取替燃料の製造を行うこととなり,これらにプルトニウムが必要となるため,東海再処理工場が今後予定通り操業した場合においても,国内のプルトニウムに不足が生ずることは避けられない見通しである。
 このため,1992年秋頃までには,プルトニウムの返還輸送を実施するものとする。

3.返還輸送の方法

 プルトニウムの返還輸送の方法としては,航空輸送と海上輸送の2つの方法がある。
 我が国としては,動燃が利用するプルトニウムについては,航空輸送を基本に,「返還輸送」の準備を進めてきており,このため,1984年以降,航空輸送容器の開発に取り組んできた。我が国としては,今後とも,動燃において航空輸送容器の開発を進めていくものとするが,1987年12月に米国議会で成立したいわゆる「マコウスキー修正条項」を新たに満足する必要が生じたことなどから,その開発にはなお相当の期間を要する見込みであり,1992年までに実用化することは,不可能と判断される。
 このため,当面の返還輸送は,海上輸送により行うものとする。

4.返還輸送の推進方策

 1992年のプルトニウムの返還輸送は,新日米原子力協定の下での第1回目の輸送であり,また,その後引き続き行われることになる返還輸送を円滑に実施していくためにも,極めて重要なものである。
 このように,1992年の返還輸送が原子力政策上の重要な課題であることから,国としては,関係省庁の密接な協力の下に,新日米原子力協定の実施取極附属書5のガイドラインに沿つた海上輸送が実施できるよう,万全を期す必要がある。
 このような国の支援体制の下に,1992年の返還輸送は,電気事業者等関係者の協力を得つつ,動燃が実施主体となって行うこととし,動燃は,今後,輸送計画の作成等の諸準備を早急に進めていくものとする。


放射性廃棄物対策専門部会報告書

1989年12月19日
原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会

1.はじめに

 使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の地層処分については,現在,昭和62年6月の原子力委員会の「原子力開発利用長期計画」に基づき,地層処分技術の確立を目指した研究開発と地質環境等の適性を評価するための調査が行われているところである。
 地層処分の研究開発については,昭和55年12月の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」において,研究開発のあり方が示され,昭和59年8月の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)」においては,「有効な地層の選定」についての成果が示された。
 その後も原子力開発利用の最も重要な課題の一つとして地層処分の研究開発が進められて来ているが,その推進に当たっては国民的理解を得つつ進めることの重要性がますます認識されて来ており,このような観点から,今後の地層処分の研究開発の一層の進展を図るために,本専門部会において所要の検討を行ってきた。
 本報告においては,地層処分による安全確保の基本的考え方を示すとともに,現在までの研究開発成果を踏まえ,地層処分の技術的可能性の見通しについて検討した。また,国民的理解のためには技術的信頼性がその基礎であり,地層処分技術の一層の信頼性の向上に向けて,当面の期間において特に重点的に進めるべき研究開発項目とその進め方についてとりまとめたので,ここに報告する。

2.地層処分による安全確保の基本的考え方

 我が国においては,原子力発電所の使用済燃料は資源のリサイクルを図るため再処理することとしている。再処理において,使用済燃料からウラン及びプルトニウムを回収した後に残る放射性廃棄物は,半減期が30年程度のストロンチウム―90,セシウム―137等の放射能の高い放射性核種を含み高レベル放射性廃棄物とよばれている。また,高レベル放射性廃棄物には放射能はそれ程高くはないが半減期の長いアメリシウム-241等の放射性核種も含まれている。
 この高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化し,30年間から50年間程度冷却のため貯蔵した後,深地層中に処分すること,すなわち地層処分することをわが国の原子力開発利用の基本方針としている。

(1)地層処分の基本概念
 高レベル放射性廃棄物の最大の特徴は,他の放射性廃棄物と比べて放射能が極めて高い点にある。しかし,その放射能のほとんどは,発生後数百年の間に急速に減少する。高レベル放射性廃棄物処分について第一に考慮すべき点は,この期間の高レベルの放射能に対する安全確保である。
 また,高レベル放射性廃棄物は,放射能は低くても寿命の長い放射性核種を含んでおり,そのため,高レベルの放射能が減衰してからも長期にわたって放射能が残留する。この残留する放射能に対してさらに長期的な安全確保を図ることが,高レベル放射性廃棄物処分について考慮すべき第二の点である。
 更に高レベル放射性廃棄物の第三の特徴として,その発生量が極めて少ない点が挙げられる。現在の原子力発電所では1トンの燃料から約3億キロワット時の電気を生産しているが,これは約10万世帯の家庭の1年間の電力消費量に相当し,これに対して発生する高レベル放射性廃棄物中の放射性物質の量は,数十キログラムである。高レベル放射性廃棄物処分の安全確保に当たっては,この発生量が極めて少ないという特徴が考慮されるべき点である。
 地層処分システムの基本概念は,高レベル放射性廃棄物のこれらの特徴と密接に関連している。すなわち,深地層は,本来,極めて長期的な地質学的時間にわたって安定に存在するものである。このため,適切な地点を選ぶことにより,人間が廃棄物の影響を直接受けることがないようにすることができるとともに,放射能レベルが高い期間はもとより,その後の残留期間においても,埋設処分された高レベル放射性廃棄物を地層中に安定的に保護しておくことが期待できる。また,放射性廃棄物の発生量が極めて少ないことは,このような地層処分システムに適する深地層の空間を確保し易いこととなり,地層処分概念の成立にとって重要な要因となっている。
 このような地層処分の基本概念において,技術的に見て特に重要な点は,深地層中には,普通,地下水があり,その地下水によって放射性廃棄物中の放射性核種が生活圏に運ばれる可能性について十分留意しておく必要があることである。深地層中の地下水は,もともと動きにくく,かつ化学的にも放射性核種を溶かしにくい性質を有するが,その安全確保に必要な基本的要件は次の3点である。
① 廃棄物と地下水との接触の可能性を十分低く制限しておくこと。(以下,この要件を「地下水接触の抑制」という。)この地下水接触の抑制は,放射能レベルが高い初期の数百年の期間において,廃棄物が地下水と接触する可能性を十分低く制限することにより,放射性核種を廃棄物中に閉じ込めておき廃棄物中の大部分の放射能を確実に減衰させることがその主たる目的である。
② 廃棄物が地下水と接触したとしても,廃棄物中の放射性核種が溶出しにくいようにし,かつ埋設場所から移動しにくいようにしておくこと。(以下,この要件を「溶出・移動の抑制」という。)この溶出・移動の抑制は,高レベルの放射能が減衰した以降の長期間においても,放射性核種を埋設場所とその近傍に留めておくことを主な目的としている。
③ 放射性核種が埋設場所から移動したとしても,それが生活圏に到り有意な環境影響を及ぼさないことを確認しておくこと。(以下,この要件を「環境安全の確認」という。)この環境安全の確認は,廃棄物中の放射性核種が地下水を介して人間環境に有意な影響を及ぽさないことを確認するものであり,上記の①「地下水接触の抑制」及び②「溶出・移動の抑制」による安全確保に加えて,地層処分の安全確保をより確かなものとすることを主な目的としている。
 このような地層処分の基本概念を参考1に取りまとめる。
 これら3つの要件を満たすような地層処分の方法として次に示す多重バリアシステムが適切と考えられる。

(2)多重バリアシステムの構成とその機能
 高レベル放射性廃棄物は,再処理工程において液体状で発生する。それをより安全な形態に固化するに当たっては,ガラスが廃棄物中に含まれる種々の放射性核種を安定に保持する性質を備えているので,ガラス質の形態に変えキャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に封入して固める。その後,30年から50年間程度冷却のために貯蔵した後,地層中に処分する際は,さらに安全確保のために,キャニスタ中に封入された廃棄物をオーバーパックと呼ばれる容器に入れる。すなわち,廃棄物はキャニスタとオーバーパックの二重の容器に入れた形(以下,これを「埋設廃棄体」という。)で地層中に埋設する。埋設廃棄体と地層との間には粘土質材等の緩衝材を充填する。これらの人工的に設けられる多層の安全防護系を人工バリアと呼び,これに対して,地下水を浄化するなどの安全防護機能を本来的に有している地層を,天然バリアと呼ぶ。地層処分においては,これらの多層の人工バリアと天然バリアが持つ,次に示すような種々の機能を多重に組み合わせる,いわゆる多重バリアシステムによって,前記の安全確保の3要件を満たすことが期待できる。
① 透水性の低い緩衝材は,地下水の周囲からの浸透を制限し,その中での地下水の動きを極めて遅くする効果がある。このような,緩衝材の働きは,安全確保の第一の要件である地下水接触の抑制のために有効に機能する。
(以下,緩衝材の有するこの機能を「地下水透水抑制機能」という。)
② オーバーパックは,透水性の低い緩衝材に包まれており,容器材料の腐食が生じにくく,ガラス質に封じ込まれた放射性核種を容器内の廃棄物に長期間閉じ込めておく機能を有しており,地下水接触の抑制に寄与する。
(以下,オーバーパックの有するこの機能を「放射性核種閉込め機能」という。)
③ 容器が壊れて,たとえ地下水が廃棄物と接触したとしても,放射性核種はガラス質の形態に固化してあるので,地下水中への溶出が抑制される。
 また,地下水の量が限られており,長半減期の放射性核種の大部分は,もともと地下水に溶けにくい性質を有していることからも,廃棄物から溶出する放射性核種の量は制限される。
 この廃棄物の特性は,安全確保の第二の要件である溶出・移動の抑制のために有効に機能することが期待できる。(以下,廃棄物自体の有するこの機能を「放射性核種溶出制限機能」という。)
④ 緩衝材中では,ほとんど水の動きがないため,地下水中に溶け込んだ放射性核種の移動は拡散によるものが支配的であるが,緩衝材は放射性核種を吸着しやすい性質を持つているので,それによってもその移動の程度は大幅に制限される。
 また,この移動には長時間を要するので,この間においても放射性核種の放射能は減衰し,溶出・移動の抑制に寄与することとなる。(以下,緩衝材の有するこの機能を「放射性核種吸着保持機能」という。)
⑤ 緩衝材中を通り抜けて地層に到る可能性については,放射性核種を運ぶ媒体となる地層中の地下水の動きは緩慢である上,放射性核種は岩石との間で吸着等相互作用をしながら移動するため放射性核種の地層中の移動は地下水の動きに比べてさらに大幅に遅くなり,この移動期間中に放射性核種の放射能が減衰する。
 この地層の働きは,安全確保の第三の要件である環境安全の確認にとって重要な機能となる。(以下,地層の有するこの機能を「放射性核種移動遅延機能」という。)
⑥ なお,この放射性核種移動遅延機能に加えて,地下水中の放射性核種は,地層中のいろいろの方向に分散しつつ移動し,次第に希釈されていく。
 この機能もまた環境安全の確認にとって重要な要素となる。(以下,地層の有するこの機能を「放射性核種希釈分散機能」という。)このような多重バリアシステムの構成とその機能を参考2に取りまとめる。

3.地層処分研究開発の特徴と現在までの研究開発成果

(1)地層処分研究開発の特徴
 地層処分研究開発の第一の特徽は,地層処分の多重バリアシステムにおいて,安全性の観点から,個々のバリアについて要求される機能と多重バリアシステム全体について要求される性能が長期に及ぶことである。
 このため,必要な技術開発を段階的かつ着実に進めるとともに,個々のバリア機能を補完させつつ必要なシステム全体の性能を達成していくという考え方が重要である。
 したがって,多重バリアシステム全体についての長期的性能の評価が地層処分の最重要課題となる。
 この性能評価においては,(イ)多重バリアシステムの個別の構成要素,(ロ)地層や埋設廃棄体に関する熱,応力,水理条件等の影響因子及び(ハ)種々の化学反応や物質移動等の現象等が相互に関連する複雑な系を対象とすることになり,その長期的な安全確保上の性能を科学的に明らかにしていくことが必要である。
 第二の特徴は,多重バリアシステムの性能は,最終的には処分予定地の地質環境との関連において評価されることになるが,処分予定地が選定されるまでは,できるだけ,広範な地質環境条件に適合し得る多重バリアシステムの見通しを示していくことが必要であるという点である。
 このため,蓋然性の高い研究開発成果を得る必要があり,地層処分の観点から見た地層の長期的特性について地球科学的視野にたつた研究を進めるとともに,水理条件等の特に重要な影響因子については適切なモデルによる解析を行っていくことが重要である。また,多重バリアシステムのそれぞれの機能に関しては対象とする地質環境条件をできるだけ広く想定してその技術開発を行っていく必要がある。
 これにより処分技術の適用範囲を広く考えることが可能となり,その技術的選択の幅が広がることとなる。

(2)現在までの研究開発成果

①「地下水接触の抑制」について
 処分後の初期の数百年の期間については,埋設廃棄体の放射能が高いことに加え,その熱の影響,処分場の建設や埋戻しに伴う影響等により,地下水理が非定常状態であることなどから,放射性核種を廃棄物中に閉じ込めておき,その間に放射能が十分に減衰するようにすることが特に重要である。
 緩衝材の地下水透水抑制機能については,透水性の測定が行われており,地下水の動水勾配がかなり大きな場合でも,緩衝材の中はほとんど静水状態にあることを示す研究成果が得られている。
 オーバーパックの放射性核種閉込め機能については,オーバーパックの候補材の一つである鋳鋼の平均的な腐食速度について,複数の国々で測定が行われ,地下水中でのその腐食速度は非常に小さいという研究成果が得られている。これによって部分的に進行する腐食の可能性を考慮しても,工学的に適切な肉厚の耐食性容器の設計が可能であることが明らかになりつつある。また,オーバーパック周辺に到達し得る地下水の化学的性状等を把握するこどにより,容器の健全性が更に長期間にわたり維持され地下水が廃棄物中の放射性核種と接触する可能性を十分低く抑え得ることが示されつつある。

②「溶出・移動の抑制」について
 埋設廃棄体からの放射性核種の溶出・移動を抑えることは,極めて長い半減期を有する放射性核種について特に有効である。
 廃棄物の放射性核種溶出制限機能については,放射性核種あるいはガラスが地下水に溶けるときの上限濃度(溶解度)が,地下水の化学的性状に依存するものであることが知られている。諸外国及び我が国における地下水分析の結果を見ると,放射性核種とガラスの地下水への溶解度に関連する熱力学的な基礎データから,地下水の化学的性状は放射性核種が極めて溶けにくい条件を備えていることが明らかとなりつつある。さらに,地下水が緩衝材あるいはオーバーパック材の成分と反応することにより,地下水の性状が放射性核種やガラスの溶解度を極めて小さくするように変化していくことから,ますます溶出しにくくなっていくことも示されて来ている。
 緩衝材の放射性核種吸着保持機能については,地下水中に溶出した放射性核種の移動性に関し,緩衝材中での放射性核種の拡散係数や分配係数を測定した結果を見ると,適切な緩衝材を選択することにより,さらに長期間にわたり,大部分の放射性核種を緩衝材中に留めておくことができ,この間に放射能の減衰を期待することが可能であると考えられつつある。

③「環境安全の確認」について
 地層の放射性核種移動遅延機能については,近年,ウラン鉱床等における同様の物質の移動現象を解明する,いわゆるナチュラルアナログ研究が各国で盛んに行われており,放射性核種の埋設場所からの移動があったとしても,地層中においてさらに長期間にわたり,放射性核種の移動が抑制され,この間の放射能の減衰を期待し得ることが示されつつある。
 実際の地下水理や地球化学的条件についても,我が国を含めいくつかの国々では調査が進みつつあり,実際の地下水の動き等を前提とした場合の地層の放射性核種移動遅延機能に関しある程度の見通しが得られている。
 また,地層の放射性核種希釈分散機能についての諸外国における評価結果を見れば,この機能によって安全性がさらに確かなものとなることを期待し得ることが示されている。
 他方,上述の放射性核種移動遅延機能と放射性核種希釈分散機能を相対的に比較すれば,前者の働きが十分大きいので,放射性核種希釈分散機能に関しては,それ程多くを期待しなくても多重バリアシステム全体としての性能は十分確保しうることも指摘されている。

④地層処分の技術的可能性について
 多重バリアシステムの長期的性能を担保する個別の諸機能を定量的に明らかにするためには,これらの機能に影響を与える現象を科学的に解明する必要がある。
 これらの現象については,今後さらに検討を要するものもあるが,前述のような現在までの研究成果により,基本的な部分は次第に明らかになりつつあり,地層処分の技術的可能性の見通しが得られつつある。
 諸外国では,この数年,多重バリアシステム概念に基づく地層処分の技術的可能性についての評価が行われてきている。特に,スイスやスウェーデンにおいては,その評価結果に関して報告書が,取りまとめられ,既に公開されており,また,カナダやベルギーにおいても報告書が取りまとめられ,近く公表される段階にまできている。
 これらの国々における進展にも鑑み,我が国においても現在までの成果をもとに我が国としての地層処分の技術的可能性を総合的に評価すべき段階にきている。

4.地層処分研究開発の重点項目

 地層処分研究開発を進めるに当たっては,当面,地層処分についての国民的理解を得ることの重要性に鑑み,多重バリアシステムの性能を明らかにするとともに,これに基づき長期間にわたり安全性が確保できるような技術的方法を具体的に示していく研究開発を重点的に進めることが適当である。
 上述した現在までの研究開発成果や諸外国の研究開発状況を勘案すると,これらの目的を達成するために,当面の期間において特に重点的に取り組むべき研究開発課題として,性能評価研究,処分技術の研究開発及び地質環境条件の調査研究の3項目が挙げられる。
 現在までの研究開発成果から,各バリアの機能に関しては,ある程度の見通しが得られているが,さらに,それらの各バリアを統合した多重バリアシステムの性能を定量化し,あるいはその信頼性の向上を図っていくためには,上記の3項目のうちで,特に性能評価研究を中心として研究開発を進めていくものとする。
 性能評価研究の成果は,処分技術の研究開発及び地質環境条件の調査研究に対してその将来の方向性や指針を与えるものであり,当面の中心的課題である。

(1)性能評価研究

①地層処分の概念の有効性の確認
 地層処分の概念の有効性の確認においては,地震等の自然現象や人間活動等の諸事象によって,人間が直接的に埋設廃棄体による影響を受ける可能性について,その発生の可能性と影響の程度を調査・研究し,深地層を高レベル放射性廃棄物の安定な埋設場所とするという地層処分の概念が適切であることを明らかにする。
 なお,これに関連して,地層処分の概念の有効性確認の前提となる諸条件についても,今後検討を進めていくことが必要である。

②多重バリアシステムの有効性の解析
 多重バリアシステムの有効性の解析においては,廃棄物中の放射性核種が地下水に溶出した場合,それによって人間が受ける影響の可能性とその程度について定量的な評価を行う。
 このため,多重バリアシステムを構成する各バリアの長期的機能はどのような条件の下で働き,また,それは長期的にどの程度の安全確保上の効果をもたらし得るか,さらに,それらを統合した多重バリアシステム全体としての長期的性能はどこまで期待し得るかについて,現時点でできるだけ定量的に明らかにし,それによって多重バリアシステムの技術的可能性を評価する。また,併せて,その評価の信頼性を向上させるために,地下水理,熱,応力,化学条件等の多様な条件下における放射性核種の長期的挙動を科学的に解明していくことを目指した研究を行う。
 これらの研究を進めるに当たっては,次のように二つの研究領域を設定して進めることが適切と考えられる。
 多重バリアシステムを構成する人工バリアの機能は地層の条件に影響される可能性があり,また,埋設廃棄体の発する熱や放射線の影響あるいは坑道掘削の影響等により,埋設廃棄体近傍の地層の性質は変化すると考えられる。これらの影響を考慮した上での人工バリアの機能を明らかにするために,人工バリアとこれと相互に影響を及ぼし合う近傍の地層とを併せた領域(この領域を以下「ニアフィールド」という。)を研究領域の一つして設定する。
 ニアフイールドより外の広い地層(この領域を以下「ファーフィールド」という。)は,基本的には,埋設廃棄体の影響をうけることなく地層本来の性質を保つていると考えられ,そこでの地層の諸機能を明らかにするために,ファーフィールドをもう一つの研究領域として設定する。

(i)ニアフィールドについての研究開発
 ニアフィールドにおける人工バリアの機能の評価についての信頼性を高めるために,これらの機能に影響を及ぼす次の各現象についての基本原理を解明するための研究,各現象間の相互作用を解明するための複合試験及び研究並びに各現象の長期的挙動についてのナチュラルアナログ研究を行うとともに,これらの現象の影響を総合的に解析する数学的モデルの開発を行い,それによって,ニアフィールド全体としての性能を評価する。
・緩衝材中の地下水の透水
・人工バリア材と地下水との反応
・金属材料の腐食
・放射性核種及びガラスの地下水への溶解・沈澱
・放射性核種の緩衝材への吸着
・放射性核種の緩衝材中での拡散
・処分場建設時の坑道掘削が地下水理に及ぼす影響

(ii)ファーフィールドについての研究
 ファーフィールド研究の対象となる地層本来の諸機能を評価するために,これらの機能に影響する現象を把握することを目的として,室内及び屋外試験により,地下深部で生じるこれらの現象を観測するために必要な技術の開発を行う。
 次に,現象の観測によって得られたデータを蓄積した上で,基本的な解析手法を構築して,ファーフィールド全体としての性能を評価する。
 特に次の項目について,基礎的研究を行う。
・広域の地下水理・水文機構に関する研究・地層中の放射性核種の移動遅延機能と希釈分散機能に関する研究

(2)処分技術の研究開発
 上述の性能評価研究と併行して,長期間にわたる安全性を確保し得る技術的方法を具体的に明らかにするために,要素技術としての各人工バリア及びそれらを基にした処分場の設計・建設・操業に関する処分技術について,これまで得られた成果をもとにより高い性能を有する技術の研究開発を行う。

(3)地質環境条件の調査研究
 地質環境条件に関する調査研究は,地域を特定することなく全国的な視野で実施される段階にある。
 このため,人工バリアの設置される環境としての特に重要性の高い地質環境条件について,我が国の地表及び地下深部において広範な調査を行い,この結果を我が国の地質環境についてのデータセットとしてとりまとめ,性能評価研究に資するものとする。
 また,将来の特定の地層の地質環境を詳細に評価する段階に備え,高い精度と信頼性を有する地質環境に関するデータを効率的に収集し,それらを解析・評価するために必要な技術及び地質環境を調査する技術の開発を行い,その実用化を図る。

5.研究開発の進め方

 地層処分の研究開発を進めるに当たって第一に重要な点は,高レベル放射性廃棄物の発生量が,もともと非常に少ないことに留意して,その特徴をできるだけ生かすことである。処分場の建設を考える場合も必要なスペースは,他の廃棄物の処分場に比べて桁違いに小さくなることもこの特徴に由来している。この特徴を生かせば,地層処分に先立ち,冷却のために30年間から50年間程度安全に貯蔵しておくことについても技術的に比較的容易に対応できる。
 このため,この貯蔵期間に十分な研究開発等を着実に進めていき,最も適切な地層処分の方法を慎重に構築していくことができる。なお,性能評価研究においては,将来予測のための科学的方法の開発等の長期的研究開発課題が含まれることを考えあわせると,そのような地層処分研究開発には,今後10数年以上はかかることが想定される。
 第二に重要な点は,長期的研究開発を効率的かつ着実に進展させるための計画性と柔軟性である。
 地層処分技術は総合科学技術の一つであり,その有効性を実証していくためには,個々の技術を統合化し計画的にその開発を進めていくことが肝要である。
 他方,個々の技術についてそれぞれの分野の技術進歩を勘案し,より信頼性の高い技術を適宜取り入れていくなど研究開発に柔軟に取り組んでいくことが重要である。
 第三に重要な点は,地層処分の観点から見た我が国の地質環境条件を的確に把握し,その特性に応じた処分概念と処分技術を開発していくことである。
 我が国の地層では,地下水の存在が前提とされ,また,諸外国に比べ概して地質構造が多様であることから,地層処分研究開発の対象となる地質環境条件ば多岐にわたり,これに対応する多重バリアシステムも幅広く考える必要がある。
 多重バリアシステムの概念は,諸外国でも採用されているところであるが,その研究開発の進め方は国によって異なる。ベルギーやスウェーデンにおいては,まず地質環境条件の設定が行われ,アメリカやスイスでは,まず安全基準もしくは多重バリアシステムの構成要素についての目標が定められている。
 我が国では,これら諸外国の進め方を参考としつつ,当面の研究開発においては地質環境条件を特定することなく,広い範囲の条件を対象とすることが肝要であり,深地層中の現象を解明するという研究領域を新たに設定して,地層の科学的研究を着実に進めることが重要である。このため,特に地層が本来的に有する特性や,それが掘削等によって受ける影響及び地下深部での諸現象をより正確に把握するために,我が国の代表的な地層を対象に総合的な深地層に係る科学的研究の場として地下の研究施設を設置する必要がある。
 多重バリアシステムに関する諸外国でのこれまでの研究開発成果を参考にすると,地層処分の安全性を決定づける重要な要素は,まずニアフィールドにおける安全性能であり,ファーフィールドにおける性能はそれをさらに確かなものとするという役割を担っていることが示されている。この観点から,今後は,ファーフィールド研究を着実に推進しつつ,ニアフィールド研究に重点的に取り組んでいくことが適切であると考えられている。

6.おわりに

 地層処分の研究開発を進めていくに当たっては,地層処分について国民の理解を得るよう努めることが重要である。このため,今後の研究開発は,研究開発の中核的推進機関である動力炉・核燃料開発事業団が,研究開発成果を適切な時期に報告書として取りまとめ,情報提供を積極的に行うとともに,さらにこれを国が評価することなどを通じて,地層処分についての国民的理解を得つつ進め,地層処分の円滑な実施を目指していくものとする。
 これらの研究開発を総合的かつ効果的に推進するため,動力炉・核燃料開発事業団を中核として,日本原子力研究所,地質調査所等の国立研究機関及び関連する民間機関の技術力を結集していくものとする。



(参考3)
関連用語の説明

〇動水勾配
 多重バリアシステムの有効性の解析を行う上で重要な,地下水の動きを決定づける要因の一つであり,一定の方向の単位距離あたりの水圧(水頭)の変化をいう。地下水は水圧の高いほうがら低いほうへ移動するが,水圧の高さが同じところを結んだ等水圧面に垂直な方向が動水勾配の方向となる。

○拡散係数
 ある物質が,それ自身の濃度勾配に従い移動する際の移動の程度を表す係数。
 地層処分研究開発においては,緩衝材及び地層中の放射性核種の移動の程度を表す一つのパラメータとして用いられる。

○キャニスタ
 高レベル放射性廃棄物ガラス固化体を収納するステンレス製の容器。

○水文学
 降雨による地層への水の供給,地層中での地下水の浸透,及び地下水の地表への流出等の地球上での水の収支を研究する科学分野。
 地層処分研究開発では,広域にわたる地下水の流動状況を把握する上での需要な基礎となる。

○水理学
 地下水の流れる方向や速さなど地層中での水のふるまいを取り扱う科学分野。
 地層処分研究開発では,放射性核種の移動に影響を及ぼす地下水の局所的流向・流速を解析するための基礎となる。

○地質環境
 地層処分の観点からみて重要な,地層及びそれが分布する区域の地質学的特徴に関わる環境。

○ナチュラルアナログ研究
 廃棄物埋設後の放射性核種の挙動や多重バリア構成要素の挙動に関し,それと類似した過去の自然現象を調査する。地層処分に関する諸現象を科学的に理解し,また,その調査結果と性能評価モデルとを比較することにより,性能評価の長期にわたる適用性を確認することに役に立つと考えられる。

○分配係数
 ある物質が,平衡状態において固相と液相との間に分配される際の分配の割合を表す係数。地層処分研究開発においては,放射性核種が地層等の中を移動する際に,岩体への吸着等によりその移動が遅延される程度を表すときの指標として用いられる。

○溶解度
 ある温度及びその他の条件の下に溶液に溶解する溶質の量。アクチニド元素等の難溶性の放射性核種の廃棄物からの溶出は,その溶解度によって決まるが,この値は極めて小さいと考えられている。


目次へ          3.原子力関係予算へ