第9章 核不拡散
1.核不拡散に関する我が国をめぐる二国間の動向

(2)新日米原子力協定

 日米間の再処理問題について恒久的な解決を図ることを目標として,1981年10月,ワシントンにおいて,日米両国は米国産核燃料の再処理に関する長期的取極を1984年12月末までに作成する意図を有すること,それまでの間,東海再処理工場はその能力(210トン/年)の範囲内で運転すること,等を骨子とする新たな共同決定の署名,共同声明の発表が行われた。
 また翌年の1982年6月には,中川科学技術庁長官が訪米し,ブッシュ副大統領,ヘイグ国務長官,エドワーズエネルギー長官等米国政府要人と会談し,日米双方は再処理問題について包括同意方式による解決を早期に図るため直ぐにも話合いに入ることで意見の一致をみた。
 これを受けて,1982年8月以来累次にわたる交渉を経て,1987年11月,包括同意方式を導入した新協定が署名された。その後,我が国においては1988年5月25日,国会による承認手続が完了し,また,米国においても,1988年4月25日,所要の国内手続が完了したことから,1988年6月17日,東京において発効のための外交上の公文が交換され,同協定は翌7月17日発効した。同協定においては,当初,一定のガイドラインに従う航空輸送について,米国の包括同意が得られたが,海上輸送についても包括同意方式とし,これを安定的に行う可能性を検討していくことが有意義であるとの,日米間の意見の一致を見,交渉を進めた結果,1988年10月,協定実施取極附属書の一部修正が行われ,一定のガイドラインに従う海上輸送についても包括同意の対象となることとなった。

(参考)

原子力の平和利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定等の骨子
(1988年7月17日発効)
 新日米原子力協力協定は,前文,本文(16カ条),末文及び2つの附属書から成っており,これに関連して合意議事録が作成されている。
 また,実施取極は,前文,本文(3カ条),末文及び5つの附属書から成つており,これに関連して合意議事録が作成されている。これらの主な内容は次の通り。
① 両国政府は,専門家及び情報の交換,核物質等の供給並びに役務の提供等について協力し,この協力は,この協定の規定及びそれぞれの国において効力を有する関係条約等に従う。
② この協定の適用を受ける核物質等については,両国政府が合意する場合には,貯蔵,管轄外移転,再処理,形状又は内容の変更及び20%以上の濃縮を行うことができる。両国政府は,貯蔵,管轄外移転,再処理及び形状又は内容の変更に関する合意の要件を,長期性,予見可能性及び信頼性のある基礎の上に満たす別個の取極を締結する。
③ この協定の適用を受ける核物質には,適切な防護の措置がとられる。
④ この協定の下での協力は,平和的目的に限って行われる。この協定の適用を受ける核物質等は,いかなる核爆発装置のためにも,いかなる核爆発装置の研究又は開発のためにも,また,いかなる軍事的目的のためにも使用してはならない。この規定の遵守を確保するため,この協定の適用を受ける核物質は,国際原子力機関の保障措置等の適用を受ける。
⑤ いずれか一方の政府が,この協定の規定に従わない場合,他方の政府は,この協定の下でのその後の協力を停止し,この協定を終了させて,この協定の適用を受ける核物質等の返還を要求する権利を有する。
⑥ 旧日米原子力協力協定は,この協定が効力を生ずる日に終了し,旧協定の下で開始された協力はこの協定の下で継続され,旧協定の適用を受けていた核物質等は,この協定の適用を受ける。
⑦ 両国政府は,この協定の解釈又は適用に関し問題が生じた場合等において相互に協議するとともに,両国政府間の交渉等によっては解決されない紛争については,その決定が両国政府を拘束する仲裁裁判に付託することを合意することができる。
⑧ なお,実施取極においては,この協定上規制の対象となる貯蔵,管轄外移転,再処理及び形状又は内容の変更について,それらが両国において合意された施設において行われること等の一定の条件が満たされる場合には,両国政府が合意すること等が規定されている。


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