第7章 基礎・基盤研究等
1.基礎研究の動向

 原子力関係の基礎研究は,物理・化学分野,生物・医学分野及び燃料・材料その他の工学的分野に大きく分類できる。
 物理・化学分野は,炉物理,核物理,放射線化学等の研究分野があり,研究炉,加速器等の大型研究施設を中心に,日本原子力研究所,理化学研究所等において研究が行われている。
 日本原子力研究所においては,JRR-1からJRR-4までの研究炉及び20MVタンデムバンデグラフが建設された。このうち,JRR-1は停止されたが,JRR-2,-4は供用中であり,JRR-3は改造され,1989年3月臨界を経て利用が再開されている。これらを始めとする各種加速器を用いて,炉物理・核物理等の基礎研究が行われており,さらに,放射線高度利用研究を推進するためのイオン照射装置の建設及び基礎的・先導的科学技術を推進するための大型放射光施設の建設が現在進められている。また,理化学研究所においては,超重元素の探索を中心とする原子核物理の研究を始めとして,重イオン科学を更に推進するため,重イオン科学用加速器リングサイクロトロンが建設され,1989年から,これを用いた研究が開始されている。
 生物・医学分野は,基礎生物学,基礎医学,臨床医学等の広い研究分野があり,放射線医学総合研究所を中心にトレーサーを利用した生体内の生理学的・生化学的研究,放射線障害のメカニズムを解明するための研究,陽子線,速中性子線,重粒子線等によるがん治療に関する研究等が行われている。
 このうち,放射線障害のメカニズムの解明は,低レベル放射線の人体,の影響等の基礎的知見を得るものとして不可欠であり,近年の原子力開発の進展に伴って重要性を増している。こうした状況を踏まえ,放射線医学総合研究所においては,晩発障害実験棟及び内部被ぼく実験棟において,放射線による晩発障害の研究,プルトニウム等超ウラン元素による内部被ばくの影響に関する研究が進められている。
 一方,放射線を利用した悪性腫瘍治療については,X線,ガンマ線,電子線等の従来の放射線より治療効果の高い陽子線,速中性子線,重粒子線等を導入すべく,基礎的な生物研究から臨床研究までさまざまな段階で研究が行われている。放射線医学総合研究所においては,現在,サイクロトロンを利用して,速中性子線,陽子線を用いた治療研究が行われている。さらに,1989年度からは,特別研究として重粒子線等によるがん治療法に関する調査研究が開始されているほか,「重粒子線がん治療装置」の製作が進められている。また,短寿命RI標識薬剤を用いた陽電子核医学診断技術に関する研究も行われている。
 燃料・材料その他の工学的分野については,日本原子力研究所を中心に,金属材料技術研究所,無機材質研究所等において材料試験炉(JMTR)を用いた照射試験等の研究が進められている。


目次へ          第7章 第1節(1)へ