第3章 我が国における原子力開発利用の展開

1,我が国における原子力発電の動向

(1)軽水炉等による原子力発電の動向

①原子力発電の現状
 我が国の原子力発電は,1990年に入って2基が運転を開始したこーとにより,1990年9月末現在,運転中のものは39基(研究開発段階の新型転換炉「ふげん」を除く),発電設備容量は3,148万キロワットとなっている。これに建設中及び建設準備中のものを含めた合計は53基,4,590万8千キロワットである。
 原子力発電は,1989年度末現在,総発電設備容量(電気事業用)の17.4%,1989年度実績で,総発電電力量(電気事業用)の25.8%を占め,主力電源として着実に定着してきている。また,1989年度は,故障・トラブルによる停止が大きく減少した反面,定期検査が集中したことにより,定期検査停止期間が最近7年間で最も長くなっているため,設備利用率は低くなっているものの,70.O%で,1983年度実績で70%を超えて以来,7年間引き続いて70%台の高い水準で推移してきている。

②原子力発電の経済性
1989年度運転開始ベースのモデルプラントについて,耐用年を通じた発電原価を通商産業省が試算した結果によれば,原子力発電が9円/キロワット時程度,石炭火力及びLNG火力発電が10円/キロワット時程度,石油火力発電が11円/キロワット時程度となっている。この試算には,原子力発電所の廃止措置費用が含まれており,20銭/キロワット時程度である。
 現時点においては,化石燃料価格の低迷により,以前に比べて他の電源との発電原価は接近してきているものの,上記試算に含まれていない放射性廃棄物の最終処分に係る経費(数十銭/キロワット時と推定)を含めても,原子力発電は依然として経済性の高い電源となっている。

③立地の促進等
 政府及び事業者は,原子力施設の立地を促進するため,各種メディア,原子力モニター制度等を活用して,地元住民を始めとする国民の理解と協力を得るための努力を重ねている。
 また,立地地域の振興対策の拡充を図るため,電源三法の活用等が逐次図られている。
 1986年に発生したチェルノブイル原子力発電所事故以降,国民全体に,原子力発電の安全性,放射能汚染等に対する不安が広がつたため,これに対し,原子力発電の安全性,必要性等に係る説明会,パンフレットの配布等を適宜実施している。

④軽水炉技術の研究開発
 我が国では,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が一体となって,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
 これらの成果は,現在運転中又は建設中の在来型軽水炉の一層の改良に反映されるとともに,特に,第3次計画においては改良型軽水炉(ALWR)の開発が進められた。東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号機(1996年運転開始予定)及び7号機(1997年運転開始予定)は,このALWRの初号機であり,原子炉圧力容器内臓型冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等の新技術が採用されている。
 また,軽水炉は今後長期にわたって原子力発電の中核を担うこととなると考えられるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,更なる安全性の向上を目指しつつ高度化を図っていくため,炉心の高機能化,燃料の高燃焼度化,新素材の活用等の検討が進められている。
 特に,燃料の高燃焼度化については,長期サイクル運転による経済性の向上及び使用済燃料の発生量低減のため,関西電力(株)高浜発電所3号機及び4号機において,最高燃焼度48GWd/t燃料が実用化され,順次他の軽水炉においても導入していくとともに,さらに一層の高燃焼度化が進められる。

⑤原子炉の廃止措置
 原子炉の廃止措置に関する技術開発については,実際の商業用発電炉の廃止措置が必要となる時期を考慮し,1990年代後半に向けて技術の向上を図ることとしており,1981年度から,日本原子力研究所が動力試験炉(JPOR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。同研究所では,1986年度から約6年間の計画でJPDRの解体実地試1験を行っており,1990年5月から9月にかけて原子炉圧力容器の解体作業を行った。
(財)原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な炉内構造物切断技術,解体廃棄物処理技術等について確証試験を進めている。
 また,1988年度に,官民の参加により(財)原子力施設デコミッショニング協会が設立され,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行われている。
 電気事業者においては,原子炉の廃止措置費用について,世代間負担の公平を図るため,発電を行っている時点で,引当金を積み立てる方式によって料金原価に算入することとし,1989年3月決算から原子炉廃止措置費用の引当金の計上を開始した。

(2)核燃料サイクルの確立

①核燃料サイクル事業化の進展
 我が国の核燃料サイクルの研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として進められてきたが,このうち,核燃料の再転換・成型加工については,既に民間における事業化が行われており,多くの実績を積み重ねている。また,ウラン濃縮,軽水炉使用済燃料再処理,低レベル放射性廃棄物埋設についても,民間における事業化の段階を迎えつつあり,日本原燃産業(株)及び日本原燃サービス(株)が,青森県六ヶ所村において,核燃料サイクル施設の事業化計画を進めている。
 ウラン濃縮については,日本原燃産業(株)が,1988年8月の事業許可を受けて,1991年頃の操業開始に向けて建設を進めている。低レベル放射性廃棄物埋設施設については,日本原燃産業(株)が1988年4月,廃棄物埋設事業許可申請を提出しており,科学技術庁における安全審査が終了し,現在,原子力委員会及び原子力安全委員会において二次審査中である。使用済燃料の再処理施設については,日本原燃サービス(株)が1989年3月,再処理事業指定申請を提出している。
 また,海外から返還される高レベル放射性廃棄物の管理については六ヶ所村の再処理工場の敷地内に貯蔵を計画している日本原燃サービス(株)が1989年3月,廃棄物管理事業許可申請を提出した。

②ウラン濃縮
 我が国におけるウラン濃縮の国産化については,長期計画においては,当面,遠心分離法を推進することとしており,動力炉・核燃料開発事業団が中心となってその研究開発を進めてきた。同事業団は,岡山県人形峠において1979年9月以来,パイロットプラントの運転を続けてきたが,1990年3月に所期の目的を達成したため運転を終了した。パイロットプラントに続いて,同事業団は原型プラントの建設を民間の協力を得て進め,1988年4月には第一期分が,1989年5月には第二期分が操業を開始し,合計200トンswu*/年の能力を有するプラントが完成した。日本原燃産業(株)は,これらの成果を踏まえ,1988年8月の事業許可を受け,同年10月,青森県六ヶ所村で商業プラントの建設を開始し,1991年頃の一部操業開始を予定している。その後,逐次増設し,最終的には濃縮能力1500トンSWU/年の規模とする計画となっている。
 動力炉・核燃料開発事業団と民間との協力により進められている新素材高性能遠心機の研究開発に関しては,1989年5月の原子力委員会ウラン濃縮懇談会の報告書に従い,実用規模カスケード試験装置を建設・運転することとしている。
 一方,遠心分離法に続くウラン濃縮に関する新技術としては,レーザー法と化学法の研究開発が進められている。


注)*  SWUは,分離作業単位(SeparativeWorkUnit)の略。
swuは,天然ウランを濃縮する際に,必要とする濃縮度の濃縮ウランを得るための仕事量を表す基本単位である。ウラン濃縮度を高める程,また廃棄濃度を低くする程,SWUは大きくなる。例えば,約0.7%の天然ウランから3%の濃縮ウランを1トン生産するためには,4.306トンSWUの分離作業量が必要である。

 このうち,レーザー法については,日本原子力研究所及びレーザー濃縮技術研究組合が原子レーザー法の研究を進めており,同研究組合は,日本原子力研究所東海研究所構内において1989年6月から実験機の建設を進めていたが,1990年5月完成し,同年夏より各種の試験を行っているところである。
 また,動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所は,分子レーザー法の研究開発を進めており,工学規模の実証試験を行うことを目標に,レーザーの高度化研究等を実施している。
 さらに,旭化成工業(株)は,国の助成を受けて化学法の研究開発を進めている。

③軽水炉使用済燃料再処理
 軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われてきた。同事業団の東海再処理工場は,1977年9月に使用済燃料を用いたホット試験を開始して以来,初期のトラブルを克服し,最近では順調に運転を継続しており,1989年度末までの累積再処理量は約442トンに達している。
 我が国で発生する使用済燃料の再処理については,上記東海再処理工場のほか英国及びフランスに委託しており,1989年度末までには,軽水炉使用済燃料約3,500トンUが両国に,ガス炉使用済燃料約1,000トンUが英国に運ばれている。フランスでは,ラ・アーグに海外顧客用の再処理工場が建設され,1989年に一部運転を開始,1990年8月からは全面運転を行っている,。また,英国では,セラフィールドに新たな再処理工場の建設が進められている。
 将来的には,国内の再処理需要については,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と,日本原燃サービス(株)が計画を進めている青森県六ヶ所村の再処理工場により対応することとしている。また,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処理するまでの間適切に貯蔵・管理することとしている。
 日本原燃サービス(株)は,1997年頃の操業開始を目指して,同再処理工場(処理能力は年間800トン)を建設する計画であり,動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の運転によりこれまで培ってきた技術蓄積を生かして所要の検討を進めていたが,1989年3月,再処理事業指定申請を科学技術庁に提出した。

④放射性廃棄物処理処分

〔低レベル放射性廃棄物〕
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物は,各発電所,研究施設等で固化等の処理を施し,敷地内に安全な状態で貯蔵されている。1989年度末現在,その累積量は200リットルドラム缶に換算して約76万本分,うち原子力発電所において貯蔵されているものは約47万本分となっている。
 陸地処分については,日本原燃産業(株)が1992年頃の操業開始を目指して,青森県六ヶ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する埋設施設の計画を進めている。同施設の埋設能力は200リットルドラム缶換算で約20万本であり,逐次増設し,最終的に約300万本とする予定である。

〔高レベル放射性廃棄物〕
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,これまでに動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場で発生したものが,厳重な管理の下に同工場のタンク内に貯蔵されている。1989年度末現在,その累積量は溶液の状態で,365となっている。これに加え,将来は日本原燃サービス(株)が青森県六ヶ所村に建設を計画している民間再処理工場の運転開始に伴い高レベル放射性廃棄物が生じる。
 ガラス固化技術については,フランス等において実用化されているなど実績が積み重ねられており,我が国においても,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められてきている。同事業団は,この成果を踏まえ,1992年度の試験運転開始を目指して,1988年6月に東海再処理工場に付設してガラス固化プラントの建設に着工した。さらに,同事業団では,ガラス固化した高レベル放射性廃棄物等の貯蔵及びこれらに関連する研究開発,高レベル放射性廃棄物の処分技術の研究開発等を行う「貯蔵工学センター」を北海道幌延町に設置することを計画している。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分については,動力炉・核燃料開発事業団を中核機関として研究開発及び調査を行い,その後,処分事業の実施主体が選定する予定地における処分技術の実証を経て,処分場の建設・操業・閉鎖を行う計画である。
 原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1989年12月高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目とその進め方に関する報告書をまとめた。同報告書においては,高レベル放射性廃棄物の地層処分による安全確保の基本的考え方及び今後重点的に推進すべき研究開発項目とその進め方が示されている。
 また,高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,含まれる有用元素の資源化という新たな可能性を目指して,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1988年10月「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」を取りまとめた。高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離を行い,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種または非放射性核種への変換を行うため長期的視野に立つて,群分離技術,有用金属回収技術及び専焼炉,加速器等による消滅技術等に関する研究開発を官民の力を結集して計画的かつ効率的に推進することとしている。また,1989年6月から,核種分離・消滅処理等に関わる科学技術情報交換の国際協力計画(通称:オメガ計画)が経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)において開始された。

(3)プルトニウム利用への展開
 我が国は,ウラン資源の有効利用を図り,エネルギーの安定供給に貢献するため,使用済燃料の再処理により得られるプルトニウムの利用体系の確立を目指すこととしている。その際,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉の利用を基本とするが,当面は軽水炉及び新型転換炉において一定規模でのプルトニウム利用を進めることとしている。
 原子力委員会は,1989年5月「核燃料リサイクル専門部会」を設置して,軽水炉でのプルトニウム利用の進め方,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工体制の整備,海外からのプルトニウム返還輸送の進め方等について,検討している。

①軽水炉におけるプルトニウム利用及び新型転換炉
 我が国における軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,電気事業者を中心に進められており,現在,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料少数体実証計画が進められている。
 これに,続いて,実用規模の実証計画ではBWR,PWR各1基に最終装荷規模で4分の1炉心のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を装荷し,将来的には100万キロワット級10基程度での利用を進めることとしている。
 新型転換炉(ATR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,現在,原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
 また,これに続く実証炉については,電源開発(株)が1999年の運転開始を目指して,青森県大間町において,電気出力60万6千キロワットの実証炉建設のための準備を進めている。

②高速増殖炉
 前述したとおり,我が国における,高速増殖炉(FBR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており,実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)が,現在まで順調に運転されている。また,同事業団では民間の協力を得て,1992年の臨界達成を目指して福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めている。
 実証炉については,日本原子力発電(株)を中心として,1990年代後半の着工を目途に,実証炉関係の研究開発,基本仕様の選定等が行われている。1990年6月,電気事業者は,当面トップエントリー方式ループ型炉で,出力を60~80万キロワットの範囲内で特定した実証炉の予備的概念設計研究を進めていくことを決めた。なお,日本原子力発電(株)は,動力炉・核燃料開発事業団から技術の円滑な移転を受けるため,1989年3月,同事業団との間に「高速増殖炉実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」を締結し,具体的協力を進めている。

③高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉使用済燃料の再処理は,高速増殖炉の増殖の特性を発揮させ,燃料の有効利用を図るために不可欠である。
 この技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,実規模モックアップ試験,高レベル放射性物質研究施設における基礎的データの蓄積等が図られている。
 今後の研究開発は,高速増殖炉の開発と整合性を図りつつ行うこととしており,ホット工学試験施設における試験を経て,2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントを建設することとなっている。

④MOX燃料加工
 プルトニウム利用体系を確立するためには,多量のプルトニウムの安全取り扱い技術を含めて所要の研究開発を進め,MOX燃料加工の実用化を図る必要がある。
 MOX燃料加工については,原子燃料公社(現動力炉・核燃料開発事業団)が1966年にMOX製造の技術開発に着手して以来,動力炉・核燃料開発事業団が行ってきており,現在,供給能力は,新型転換炉原型炉「ふげん」用燃料製造施設10トンMOX/年及び高速増殖炉用燃料製造施設5トンMOX/年となっている。1989年度末現在,累積製造実績は102トンMOXを達成している。これらに続き,現在,新型転換炉実証炉用燃料製造施設(40トンMOX/年)の建設計画が進められている。
 また,電気事業者によるプルサーマル実用規模実証計画用燃料加工については,動力炉・核燃料開発事業団の施設を活用し,その設備増強等により対応することが考えられている。その後の本格利用については,原則として民間が事業主体として実施することとされている。

⑤プルトニウムの輸送
 海外再処理によって回収したプルトニウムの国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備を図ることとしている。
 回収プルトニウムの国際輸送の方法としては,航空輸送及び海上輸送が考えられる。1988年7月に発効した新日米原子力協定では,一定のガイドラインに従う航空輸送に対し,包括同意が得られ,その後の日米両国の交渉を経て,同年10月には,一定のガイドラインに従う海上輸送についても包括同意の対象となることとなった。
 その後,1989年12月の原子力委員会核燃料リサイクル専門部会で,動力炉・核燃料開発事業団が利用するプルトニウムについては,航空輸送を基本とするものの,航空輸送容器の開発に相当の期間を要することから,当面の国際輸送は海上輸送で行うこと,1992年秋頃までには輸送を実施すること等を内容とした報告書を取りまとめた。


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