第2章 我が国における核燃料サイクルの確立に向けて

1.我が国における使用済燃料の再処理-リサイクル路線の推進

(1)我が国における再処理―リサイクルの必要性
 軽水炉では,天然ウランを濃縮し,ウラン235の含有率を2~4%程度にして使用する。このような形でウランを使用した場合,天然ウランの利用可能年数(確認埋蔵量/生産量)は63年と石油,天然ガス等の化石燃料と同様に有限である。
 しかしながら,原子炉の中でウランを核分裂させた場合には,核分裂をしにくいウラン238が核分裂によって放出される中性子を吸収し,燃料として利用できるプルトニウムに変化する。再処理によってこの天然ウランよりウラン235の含有率の高い燃え残りのウラン及びプルトニウムを回収し,有効に利用することができれば,天然ウランの利用率を数~数十倍へと飛躍的に増大させることができる。これは,化石エネルギー等他のエネルギーにない原子力エネルギーに特有の利点である。さらに,高速増殖炉を用いれば,消費した核燃料(ウラン235,プルトニウム)よりも多くの核燃料(プルトニウム)を生み出すこともできる。
 したがって,限られたエネルギー源の選択肢の中で,増大するエネルギー需要に対応して,我が国のエネルギーの安定供給,国際エネルギー需給の長期的な安定化等を図るためには,使用済燃料から回収されるプルトニウム及びウランを利用し,ウラン資源の利用効率を高めることが必要不可欠である。
 また,天然ウラン自体は輸入したものであるのに対し,使用済燃料は国内で発生するものであるから,これを再処理して得られるウラン,プルトニウムは,準国産エネルギー源とも位置付けられる。したがって,使用済燃料を廃棄物として消極的に位置付けるのではなく,新たなエネルギー資源として積極的に位置付けて,その利用を図っていくことが重要である。
 さらに,使用済燃料から,有用なウラン及びプルトニウムを回収し,残りの僅かな量の核分裂生成物等を分離することにより,放射性廃棄物としてコンパクトな形で管理,処分することが可能となる。この意味からも使用済燃料を再処理することは,大きな意義を有する。
 リサイクル,資源の再利用は,時代の要請と言うべきものであり,特に国土が狭く,資源に恵まれない我が国としては,あらゆる分野において極力無駄を排し,資源のリサイクルに努めるべきである。再処理一リサイクルは,この趣旨に沿うものであり,当面のエネルギー価格,ウラン価格の低迷のみにとらわれることなく,長期的な観点に立って,着実に技術基盤の確立に努めることが必要である。
 使用済燃料を再処理し,新たな燃料としてプルトニウムを利用するに際しては,消費した核燃料よりも多くの核燃料を生成する高速増殖炉を活用することが,究極的な目標である。しかしながら,高速増殖炉の実用化に至るまでの間,着実にプルトニウム利用技術全般の蓄積・確立を図るとともに,ウラン資源の一層の有効利用を図るため,当面,プルトニウムの軽水炉における利用(プルサーマル),新型転換炉における利用を進めることが重要である。
 プルトニウムについては,人体への影響等の観点から,その利用について懸念を示す向きもあるが,適切な封じ込めと放射線管理技術により安全に取り扱うことは十分可能である。欧米の先進国においては,その取扱いについて既に40年以上の実績があるとともに,我が国においても,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団や放射線医学総合研究所における30年以上のプルトニウム取扱いの実績があり,これまで周辺住民や環境に影響を及ぼすような事象は一切発生しておらず,これら長年の実績が安全性を実証している。

(2)我が国における核燃料サイクル開発の現状と将来展望

①自主的核燃料サイクルの必要性・現状
 核燃料サイクルのうち再処理については,濃縮,成型・加工,発電利用という従来の一方向の燃料使用形態から,循環的な燃料使用形態に転換するための極めて重要な工程である。この再処理については,動力炉・核燃料開発事業団が,茨城県東海村において,我が国の使用済燃料の一部を再処理しているが,それ以外のほとんどを海外に依存している状況である。また,現在,軽水炉で使用されているウラン燃料の濃縮については,動力炉・核燃料開発事業団が岡山県人形峠においてウラン濃縮原型プラントを運転しているが,濃縮役務のほとんどは,海外に依存している。
 核燃料サイクルのうち再処理によって得られるプルトニウム及びウランは,国内で再処理,濃縮等が行われるからこそ,準国産エネルギーと言えるのであって,核燃料サイクルのうちの再処理,濃縮等を海外に委託して行ったのでは,せつかくの準国産エネルギーも輸入エネルギーと同様の制約を受けることになることから,より一層のエネルギーセキュリティの向上を図るため,自主的な核燃料サイクルを確立することが不可欠である。

 濃縮については,現在,日本原燃産業(株)が青森県六ヶ所村において1991年度の操業を目指し,動力炉・核燃料開発事業団が開発してきた国産濃縮技術を基にした国産商業プラントを建設中である。
 再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場において,1977年のホット試験開始以来,着実に技術的蓄積と実績を積み重ねており,現在,90トン/年の処理を目標とした安定運転を実施している。また,青森県六ヶ所村において,世界で最先端にあるフランス等の技術及び東海再処理工場で培ってきた技術的蓄積を駆使して日本原燃サービス(株)により再処理工場の建設計画が進められている。

②高速増殖炉等の研究開発
 高速増殖炉については,1977年臨界以来,動力炉・核燃料開発事業団の実験炉「常陽」が順調に運転されている。さらに同事業団では,この成果を踏まえ,民間の協力を得て,高速増殖炉の性能,信頼性の確認,経済性の検討・評価を目的とした,原型炉「もんじゅ」の建設を1992年の臨界を目指して着実に進めており,これにより,高速増殖炉技術の基本的確立が図られるものと期待される。実証炉については,日本原子力発電(株)を中心として,1990年代後半の着工を目途に,安全性,信頼性の向上,革新的技術の成立性,運転・保守性及び経済性向上のための研究開発,概念設計が実施されている。
 実証炉以降については,適当な間隔で炉を建設,運転することにより,経済性の向上,技術の成熟化を図り,2020年代~2030年頃を目途に,高速増殖炉による・プルトニウム利用の技術体系の確立を図ることとしている。

 前述のとおり,高速増殖炉の実用化までの間,プルトニウム利用技術体系の確立とウラン資源の有効利用の観点から,軽水炉及び新型転換炉においてプルトニウムの着実な利用を進めることとしているが,軽水炉での利用については,核燃料の成型・加工を含めた利用体系全体における商業規模での技術蓄積を図るとの観点から,1990年代前半を目途に実用規模の実証計画を進め,その後本格利用に移行することとしている。また,新型転換炉での利用については,当面原型炉「ふげん」及び青森県大間町において建設計画が進められている実証炉においてこれを推進する。
 このように,我が国においては,高速増殖炉,新型転換炉及び軽水炉においてプルトニウム利用を図っていくこととしている。当面,動力炉・核燃料開発事業団が「もんじゅ」の初装荷燃料製造等のために必要としているプルトニウムは,動力炉・核燃料開発事業団が保有しているプルトニウムと,東海再処理工場で回収されるプルトニウムで賄う計画であるが,その後の「もんじゅ」の取替燃料等の分については東海再処理工場が予定通り操業した場合においても,国内のプルトニウムに不足が生じることは避けられない見通しである。このため,1992年秋頃までには,海外再処理委託により回収されるプルトニウムの返還輸送を実施することとしている。これ以降についても,動力炉・核燃料開発事業団の「常陽」,「ふげん」及び「もんじゅ」等の燃料が必要であるほか,新型転換炉実証炉及び軽水炉におけるプルトニウム利用並びに高速増殖炉実証炉の計画もあり,国内におけるプルトニウムは不足が生じる見込みである。このため,海外からの回収プルトニウムの返還輸送を適切なタイミングで実施する必要がある。

(3)海外における再処理-リサイクルの動向
 英国及びフランスにおいては25年以上の商業工場としての運転実績があり,再処理技術は既に確立されていると考えられる。両国では,我が国を始め旧西独,スイス,オランダ等の国々と再処理委託契約を結び,各国の使用済燃料の再処理サービスを実施している。海外諸国からの再処理委託の増加に対処するため,フランスにおいては1990年8月に大型再処理工場が新たに全面運転を開始し,英国においても大型再処理工場の建設が進められている。他方,米国においては,核不拡散政策の一層の強化等の観点から,再処理は行わない方針をとっている。
 旧西独においては,1986年6月,バッカースドルフ再処理工場の建設をとりやめたが,その理由は,主として,来るべきEC統合の動きの中で,経済性等の観点から国内再処理からEC域内での再処理へと転換したものであり,同国内において発生する使用済燃料は,英仏の再処理工場において再処理委託することとしており,再処理-リサイクル路線に基本的な変更はない。また,同国では,カールスルーエ再処理施設を引き続き運転しており,再処理技術の維持・蓄積が図られている。
 英国セラフィールド再処理工場周辺では,他の地域と比べて小児白血病の発生率が高いとの報道等がなされ,同工場との関係が取り沙汰されている。本問題に関しては,環境放射線の医学的側面に関する委員会(COMARE),国立放射線防護庁(NRPB)等の公的機関において調査がなされ,いくつかの報告書が作成されている。1988年に発表されたNRPBの報告では,1000人余りの小児について,再処理に起因する被ばく線量を評価したところ,その線量は自然放射線による線量より少なく,再処理工場に起因する放射線が,施設周辺の小児白血病増加の原因になっていることはありそうにないと述べている。また,1990年2月には,同再処理工場で働く父親の被ばく線量と小児白血病との関連を示唆するガードナー教授の論文が公表された。同教授の論文は,一つの可能性を示唆したもので,化学薬品等の可能性についても慎重に調査すべきとしており,現在,英国政府等において調査研究を行っている段階である。なお,フランスや日本の東海再処理工場周辺等において同様の現象が見いだされたとの報告はなされてない。
 海外における高速増殖炉(FBR)開発については,米国において1946年に,英国において1959年に,フランスにおいて1967年に実験炉が臨界に達し,現在,米国,欧州等の先進国において原型炉,実証炉等が稼働している。
 欧州においては,フランスの原型炉「フェニックス」,実証炉「スーパーフェニックス」および英国の原型炉「PFR」等が運転中である。
 なお,1989年11月には「スーパーフェニックス」について,プルトニウムの需給バランスや実証炉としての運転をより経済的に行うとの観点を考慮して,FBR実証炉としての性能,特性の確認等に必要な試験を終了する1996年以降,増殖比を現在の1.2から1.02に引き下げることが決定されたが,これはフランスのFBR開発政策に本質的な変更をもたらすものではない。旧西独では,原型炉「SNR-300」の建設がほぼ終了しているが,州政府による許認可手続きの遅れから同炉の運転開始が遅れている。また,欧州の先進国においては,国際協力によるFBRの開発も推進されており,各国における今後の実証炉計画を統合した欧州高速炉(EFR)の開発計画が進められていろ。
 一方,米国においては,モジュラー化,金属燃料等随所に革新的なアイデアを取り入れた新型液体金属冷却炉(LMR)の設計研究を推進している。
 また,軽水炉におけるプルトニウム利用,いわゆるプルサーマルについては,米国を始めフランス,旧西独,オランダ等の欧米の原子力先進国では,1960年代後半より行われており,これまでに良好な実績が得られている。特に,フランスでは,1990年代に16基のPWRにおいてプルトニウム利用計画を進めることにしている。また,旧西独では,7基の原子力発電所においてプルトニウム利用が行われている(1987年現在)ほか,よりプルトニウム利用効率を高めるものとして,高転換軽水炉(HCR)の研究開発にも力を入れている。


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