はじめに

1.我が国における原子力発電が総発電電力量の26%を占め,中核的なエネルギー源としての役割を果たしているとともに,医療,農業,工業分野において放射線が幅広く利用されている等,原子力の開発利用は,着実に進展しており,我が国の経済発展,国民生活の向上に大きく寄与している。

2.一方,本年8月のイラクのクウェート侵攻による原油価格の上昇は,我が国のエネルギー需給構造の脆弱性を改めてクローズアップさせるものとなり,近年のエネルギー価格の低迷により薄らぎつつあったエネルギーの安全確保の重要性並びに省エネルギーの推進,石油代替エネルギーの開発・導入の必要性を改めて認識させる結果となった。

3.また,近年大きな問題となっている地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題は,人類の生存基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあり,その解決が強く望まれており,積極的な対応が実施されつつある。
 特に地球温暖化問題については,化石燃料の燃焼により発生する二酸化炭素がその大きな原因となっていることから,エネルギー利用効率の向上,非化石エネルギーへの転換が重要な課題となっている。

4.原子力発電は,技術により得られる準国産エネルギーであり,供給安定性,経済性等に優れた中核的石油代替エネルギーである。また,原子力発電はその発電の過程において二酸化炭素,窒素酸化物等を排出しないエネルギーであることから,地球環境問題の解決において重要な役割を果たすことが期待されている。

5.このように,我が国における脆弱なエネルギー需給構造に鑑み,限られたエネルギー源の選択肢の中で,安定的なエネルギー供給の確保,地球環境問題への対応を図るためには,省エネルギーの推進とともに,原子力の開発利用が必要不可欠である。特に,核燃料サイクルについては,ウラン資源の有効利用等を図り,我が国におけるエネルギーの安定供給の確保の一層の向上のためには,自主的な核燃料サイクルの確立が必要不可欠である。

6.しかしながら,1986年のチェルノブイル原子力発電所事故を契機として,今まで無関心であった一般層を含め国民各層が原子力に対する不安・疑念を感じるようになってきており,原子力の開発利用を円滑に進めるに当たっては,国民の理解と協力を得ることがより一層重要な課題となっている。

7.このような状況の下,原子力委員会は,国際石油情勢等エネルギーを巡る状況を概観し,原子力発電の位置づけを展望するとともに,核燃料サイクルの必要性等について改めて整理した。原子力関係者においては,安全の確保と国民の理解の増進を図りつつ,一歩一歩着実に原子力の開発利用を進めていくことが切に望まれる。


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