第1章 原子力発電
5.原子炉の廃止措置

我が国において実用発電用原子炉の廃止は,1990年代後半以降に現実のものになると予想される。
 原子力開発利用長期計画においては,原子炉の廃止措置を進めるに当たっての基本的考え方として
① 安全の確保(作業環境の放射線防護及び周辺公衆の被ばく防止等)
② 原子炉の廃止措置後における敷地の有効利用
③ 地域社会との協調
を挙げ,原子炉の廃止措置の進め方について,原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし,個別には合理的な密閉管理の期間を経る等,諸状況を総合的に判断して定めるものとしている。
 原子炉の廃止作業は,現時点でも既存技術,または,その改良により対応できると考えられるが,作業者の安全性の一層の向上を図る等の観点から技術の向上を図ることとしている。
 このため,科学技術庁では日本原子力研究所に委託し,同研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして,1981年度から10年程度の期間をかけて解体撤去のための技術開発を進めており,計画の前半で解体技術,除染技術,遠隔操作技術等の総合的な技術開発を行い,1986年度からそれらの技術を応用した解体実地試験を実施している。
 なお,計画前半の技術開発の成果については,日本原子力研究所が外部専門家等からなる検討委員会に評価を依頼し,その結果,JPDR解体実地試験の遂行に技術的見通しが得られたとの評価を受けている。
 さらに,1985年9月に発足した経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の原子力施設デコミッショニング・プロジェクトに関する科学技術情報交換協力計画に我が国からも日本原子力研究所が参加し,米国を始めとする9カ国との間で解体技術等に関する情報の交換を行い,一層円滑な原子炉の廃止措置に備えることとしている。
 また,1986年12月から始めたJPDR解体実地試験は1988年度においては,原子炉周辺機器の解体撤去をほぼ終えるとともに,炉内構造物の一部の解体撤去に着手したところである。
 (財)原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な技術の実用化を促進するため確証試験を進めている。また,商業用原子力発電施設の廃止措置のあり方について,1985年7月総合エネルギー調査会原子力部会において,最終的に運転を終了した原子力発電施設は,その規模,炉型等にかかわらず,5~10年の密閉管理後解体撤去することを,基本方針とする旨の報告書が取りまとめられた。同報告書によれば,費用については,例として,110万キロワット級の原子力発電施設で約300億円程度(昭和59年度価格)と試算している。
 廃炉費用の確保に関しては,1989年3月期決算から,原子炉廃止措置費用の引当金方式による積立が開始された。
 また,1988年12月に,廃止措置に関する技術の確立を目的として,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する試験研究及び技術情報の提供等を行う(財)原子力施設デコミッショニング研究協会が設立された。


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