第3章 我が国における原子力開発利用の展開
3.科学技術の進展への貢献

(1)先導的プロジェクト等の推進と波及効果

 核融合炉,高温工学試験研究炉等の先導的プロジェクトの研究開発は,各種の先端技術,極限技術等を統合化し,広範な科学領域に立脚していることから,科学技術等の水準向上のための牽引力となるものである。

 核融合の分野では,将来の核融合発電炉の実現を目指し,日本原子力研究所のトカマク型臨界プラズマ試験装置(JT-60)を中心に研究が進められているが,大学等においても,各種閉じ込め方式及び炉工学技術についての基礎的研究が行われている。特に,大学における大型ヘリカル計画を推進するため,国際的にも開かれた大学共同利用機関として,「核融合科学研究所」が1989年5月に設立された。また,核融合炉の研究開発を通して,高性能粒子加熱装置の開発によるプラズマ加熱技術の向上,真空技術に関する研究による真空壁の表面現象の解明及び真空機器の開発,超電導磁石技術の研究による高性能な超電導線材の開発,コーティング技術の開発による工作機械の刃(バイト)への応用,大電力高速制御技術のビルディングの変電設備等への応用等,種々の波及効果が生み出されている。

 高温工学試験研究については,日本原子力研究所が,高温ガス炉技術の確立及び高度化のための研究開発並びに高温に関する各種先端的基礎研究を行う試験研究施設として高温工学試験研究炉の建設準備を進めるとともに,高温ガス炉技術に関する各種の研究開発を進めている。これらの研究開発を通して,耐熱合金材料の開発,高温ヘリウムガス技術等の基礎分野の研究が進んでいる。また,高温ガス炉の核熱を利用する水素製造技術の研究開発も行われている。
 また,原子力船の研究開発の分野では,日本原子力研究所が原子力船「むつ」を中心とした舶用炉の研究開発及びそれに関する基礎研究を進めている。原子力船「むつ」の研究開発については,1988年8月より原子炉容器の蓋を開放して,核燃料,炉内構造物等の点検・整備を実施するとともに,1989年6月から7月にかけて船体点検を実施したところである。さらに,同年8月より原子炉の復旧作業を進めるとともに,同年9月より起動前機能試験を実施しているところであり,今後,出力上昇試験,海上試運転を経て,1990年秋より,概ね1年間の実験航海を行い,その後解役する予定である。また,将来の舶用炉の実現を目指した経済性,信頼性の優れた舶用炉の改良研究も進められており,「むつ」の実験航海により得られる実験データ,知見は,この舶用炉の改良研究に反映されることとなっている。

 さらに,高転換軽水炉,中小型安全炉,モジュール型液体金属炉等の新しい型の原子炉については,将来の原子炉技術のブレークスルーの可能性を検討するため,基礎的・基盤的研究が幅広くかつ段階的に進められている。特に中小型安全炉については,日本原子力研究所が炉本体の受動的安全性を高める原子炉システムの基礎的研究を行っている。


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