第3章 我が国における原子力開発利用の展開
2.放射線利用の推進

(2)農林水産業分野への利用

 農林水産業分野においては,農作物の品種改良,害虫防除等に放射線が利用されている。特に害虫防除については,鹿児島県奄美群島,沖縄県久米島,宮古群島等において放射線照射により不妊化した虫を放飼すること(不妊虫放飼法)によってウリミバエの根絶に成功している。これによって,キュウリ,スイカ,パパイヤ等55種以上の農作物への被害が防止されるとともに,ウリミバエの本土への侵入を防ぐため,作物の移動が規制されていたこれらの作物の本土への出荷が可能となった。
 食品照射については,国連食糧農業機関(FAO),国際原子力機関(IAEA),世界保健機関(WHO)の合同専門委員会が1980年に「10キログレイ以下の線量での照射食品の健全性に問題はない」との結論を出しており,諸外国でその実用化が進められている。さらに,1988年12月,90カ国16機関の専門家の参加により「照射食品の受容,管理,貿易等に関する国際会議」が開催され,各国において,消費者の理解の増進等に取り組むとともに,諸制度の整備等,食品照射の適切な利用についての検討を行うべきであるとの結論が出されている。
 我が国においては,1955年頃より食品照射の研究が進められ,1967年に原子力委員会が定めた食品照射研究開発基本計画に基づき,ジャガイモ,玉ねぎ等7品目の研究開発が1988年3月に終了し,この間に,1972年から放射線照射によるジャガイモの発芽抑制が実用化されている。
 また,イネ,オオムギ等の耐倒伏性,病虫害抵抗性等改良や,放射性同位元素をトレーサとした海洋中の栄養塩類の生態系内での分布と移動の解明等にも放射線が利用されており,国立試験研究機関を中心に研究が進められている。


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