第3章 我が国における原子力開発利用の展開
2.放射線利用の推進

(1)医療分野への利用

 医療分野においては,放射線は診断・治療の手段として既に不可欠のものとして,我々の健康維持に重要な役割を果たしている。
 放射線による診断では,最も広く普及している胸・胃等のエックス線撮影を始めとして,エックス線コンピュータ断層撮影(X線CT)による診断等が実用化している。また,特定の部位に選択的に集まる放射性医薬品(放射性同位元素)を体内投与し,脳の機能等を調べるポジトロンCT法による診断も開発されており,他の臓器への適用も研究されている。

 このような放射線や放射性物質の利用による診断を多角的に用いることによって疾患を多面的に調べられるようになってきている。例えば脳の疾患の場合,X線CTにより組織の形状変化を診断し,ポジトロンCTにより神経伝達物質の存在や動きを捕らえて脳の機能を診断することが可能である。現在,これらの診断法を使い分け,その結果を総合的に解析・評価することにより,脳卒中,脳腫瘍などの疾患についての正確な診断が下せるようになりつつある。
 一方,放射線治療は,臓器や体の機能をあまり損なわないように治療を行うことが可能であるため,その重要性は高まってきている。特に,がんの治療については,外科治療や化学療法とともに,エックス線,ガンマ線等の放射線による治療が広く普及している。放射線治療は,早期がんに対しては,外科療法と同等な治癒効果があることが実証されており,また,最近では,高齢化社会に備えて,放射線治療の効果に対する期待が更に高まっている。

 さらに,放射線医学総合研究所においては,がん細胞に対する治療効果が高い重粒子線によるがん治療の早期実現を目指した調査研究も実施されており,重粒子線がん治療装置の製作が進められている。重粒子線によるがん治療は,患部のがん細胞部分を集中的に照射することが可能であるため,正常組織の障害を少なくすることができ,がん治療の切り札としての期待が高い。


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