第2章 原子力分野における我が国の国際社会への貢献
3.国際機関等を通じた協力

原子力開発利用については,安全確保,放射性廃棄物処理処分等世界共通の課題が多い。特に,チェルノブイル原子力発電所事故により,その影響がソ連国内のみならず欧州を中心として,国境を越えて広域に及んだことから,原子力発電所の安全確保は,一国内にとどまる課題ではなく,関係国が協力して世界的に取り組む必要があることが改めて強く認識された。
 一方,核融合等,原子力分野の最先端技術研究開発は大規模化しつつあり,人的・資金的にも,世界的レベルでの重複投資を避け,研究開発の効率化を図るためには,複数国間の国際協力を進めることが不可欠である。
 このような背景のもとで,IAEA,NEA等の国際機関等を通じた国際協力の重要性は益々増大してきている。

 我が国は,IAEA及びNEAに加盟し,現在では,原子力先進国の一員として,資金的には各々約1割及び2割強の予算を分担しているほか, NEAの事務局長等枢要な役職をも含め,事務局職員を派遣し,機関の運営や政策決定に大きく貢献している。今後とも,国際機関等への積極的な人的貢献を進めるため,人材育成,海外派遣者の帰国時受入れ等の国内体制の整備を進めることが重要である。
 また,国際機関を通じた研究開発協力プロジェクトにも,積極的に参加するとともに,前述のNEAのオメガ計画のように,日本が提案国となり,リーダーシップをとって推進するプロジェクトも発足し,今後は,より主体的・能動的な対応が期待される。
 チェルノブイル原子力発電所事故以降,一層関心が高まった原子力施設の安全確保のための国際協力については,IAEA等の国際機関における情報交換,研究協力の推進,OSART*等の安全性向上のための各種活動の推進等を図ることにより,先進国のみならず,原子力開発利用の経験の浅い開発途上国をも含めた,世界全体の安全性の一層の向上を図るために貢献することが重要である。
 国際機関以外にも,条約,協定等に基づく政府レベルの多国間協力,民間における多国間協力等,種々の協力が行われている。チェルノブイル原子力発電所事故後は,特に,原子力発電所の安全性に関する情報交換等の重要性が認識され,1989年5月に,各国の電気事業者間において原子力発電所の運転経験を交換し合い,世界的な安全確保の取り組みに資するための世界原子力発電事業者協会(WANO)が設立された。WANOは,パリ,モスクワ,東京,アトランタの4都市にセンターを置き,東京センターは,我が国のリーダーシップにより運営され,我が国の電気事業者・団体11社のほか,韓国電力公社,インド原子力公社,パキスタン原子力委員会,台湾電力公司が属し,中国核工業総公司がオブザーバーとして参加している。この活動を通じて,我が国がアジア諸国の原子力発電の安全性向上に貢献することが期待される。


 注) *  OperationalsafetyReviewIeam世界の原子力発電の安全性,信頼性向上を目指し,IAEAが,加盟国の要請に基づいて原子力発電所の運転管理状況を調査し,国際的に経験交流を行う専門家チーム。


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