第2章 原子力分野における我が国の国際社会への貢献
2.開発途上国との協力

(2)開発途上国協力を通じた我が国の貢献

 原子力分野においても技術先進国となりつつある我が国には,開発途上国の原子力利用を様々な形で支援し,その発展に貢献することがきく期待されている。

①研究協力
 現在,我が国は,インドネシア,マレイシア,韓国,中国等と放射線利用,安全研究,廃棄物処理処分,ウラン鉱資源調査等の協力を行っている。また,タイとの間では放射線を利用した汚泥処理に関する共同研究,メキシコとの間では,ラジオアイソトープ技術等に関する研究協力を行うことを検討中である。
 我が国は,このような二国間協力のみならず,国際原子力機関(IAEA)のもとで実施されている「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に1978年に加盟し,積極的に広くアジア太平洋地域との協力を行ってきている。
 また,我が国と地理的,経済的に密接な関係にある東アジアや東南アジア等の近隣アジア地域と我が国を含めた地域ぐるみの協力を進めることは,特に有益であることから,1989年度中に,近隣アジア地域の各国代表者が意見交換を行う国際的な場を設ける等により,具体的な検討を進めることとしている。
 一方,大学においても,放射化学分析,プラズマ物理等の基礎分野における共同研究が実施されているほか,民間においても,電気事業者間で研究協力,技術交流等が活発に行われている。

②人材交流
 他の科学技術協力と同様,原子力分野における開発途上国協力においても,技術やハードウェアの移転と同時に,これを生かし根づかせていくための研究者,技術者の育成が肝要である。このため,我が国としては,種々の制度を設けて,開発途上国からの研究者・研修員の受け入れ,専門家派遣等を行い,人材交流を通じて,開発途上国の技術基盤向上に貢献している。

 科学技術庁では「原子力研究交流制度」,「原子力関係管理者研修制度」等の制度を通じ,研究者等の受け入れ,研修,専門家の派遣を行っている。
 これらの制度については,各国からの要望が強く,特に研究者受け入れについては,その数が年々大きく伸びてきている。これに伴い,受け入れ研究機関における,外国人研究者のための宿舎,実験室等の基盤整備も行われている。
 一方,国際協力事業団(JICA)においても,開発途上国に対する経済協力,技術協力の一環として,原子力分野の研修員受け入れ,専門家派遣等を行っており,受け入れ研修員の数は年々増加している。また,専門家派遣については,インドネシア,韓国,マレイシア等,アジア地域の国を中心として行われている。
 さらに,大学においては,原子力工学の奨学生特別プログラムを1989年より新たに開設し,開発途上国の学生を修士,博士及びポストドクター課程に受け入れることとしている。
 共同研究等を通じた国立研究機関・大学等からの専門家派遣及び研修員受け入れや,(財)海外電力調査会,(社)日本原子力産業会議,電気事業者等民間における専門家派遣,研修員受け入れ,視察等も活発に行われている。全体として見ると,専門家派遣については,中国及びインドネシアが,研修員受け入れについては,中国及び台湾が主要な対象国・地域となっている。

③その他
 開発途上国との間では,前述のような研究協力,人材交流のほか,政府,民間双方のレベルでの情報交換,意見交換等が活発に行われている。また,JICAにおいては,技術協力の一環として,開発途上国に対し,原子力関係機材の供与も行っている。特に,1989年7月には,マレイシアにおいて,原子力の平和利用分野における初めてのJIAプロジェクト方式の技術協力として,放射線利用研究プロジェクトが発足し,研修生受け入れ,専門家派遣と併せて,電子線加速器等の機材供与が行われることとなっている。
 このように,我が国の原子力分野における開発途上国協力は,官民共に着実に進展しつつあるが,先進国との協力と比べると,まだ緒についたばかりであり,今後益々強まってくる開発途上国からのニーズに的確に対応していくためには,なお一層の強化・充実が求められる。特に,多くの開発途上国においては,原子力開発利用の取り組みは放射線利用や研究炉を利用した研究開発が中心であり,今後,農業,医療,工業等の分野において,それぞれの国情に適した放射線利用や研究炉を利用した基礎研究,放射線防護等に関する協力ニーズが増大するものと考えられる。また,韓国,台湾等,原子力発電が既に定着している国・地域,あるいは,中国等,今後積極的に原子力発電を開発していこうとしている国においては,特にチェルノブイル原子力発電所事故を契機とした安全確保の意識高揚を背景として,世界的にも優れた安全運転実績を有する我が国から,原子炉の設計,製作,運転に至るまでの安全確保のための技術,研究成果,ノウハウ等を習得しようというニーズが高まってきている。我が国としては,これらのニーズをも踏まえ,相手国の経済力や技術力に適合した形での協力を行っていくとともに,先進国の一員としての国際的な責務を果たすため,開発途上国に積極的に貢献していくことが重要である。


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