第2章 原子力分野における我が国の国際社会への貢献
1.先進国との協力

我が国の原子力分野における国際協力は,原子力研究開発の黎明期から,米国を中心とする原子力先進国に学ぶ形で始まり,海外諸国から役務や技術の提供を受けつつ,我が国の原子力研究開発のポテンシャルを高め,原子力開発利用の推進を図る,いわゆる「キャッチ・アップ型」の国際協力という面が強かった。我が国の原子力研究開発は,自主性を一つの基本として進められてきているが,このような海外諸国との協力により,原子力開発利用の進展,原子力技術の自主技術化・高度化がより効率的に達成されたともいえる。
 近年の科学技術力及び経済力の向上を踏まえ,我が国はこれまでのようなキャッチ・アップ型の国際協力から脱皮し,主体的,能動的に国際社会に貢献していくよう求められている。1987年6月に策定された「原子力開発利用長期計画」においても,原子力開発利用の基本目標の一つの柱として,我が国の原子力分野における主体的・能動的な国際社会への貢献をうたっている。
 先進国との協力については,既に,米国,西独,カナダ,オーストラリア,ベルギー及びスイスと放射性廃棄物管理,処理処分に関する研究協力,米国,西独及びフランスと原子力安全に関する研究協力等を行うとともに,米国,英国,カナダ及びフランスとは,原子力施設の廃止措置1に関する情報交換を行ってきている。また,1989年6月に経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)において正式に決定された,核種分離・消滅処理**等に関する科学技術情報交換の国際協力計画(オメガ計画)は,我が国が積極的にリーダーシップをとって提案したものであり,我が国の能動的な国際協力関係樹立への着実な取り組みとして注目すべきものである。


 注)* 原子炉の廃止措置については,①密閉管理方式,②遮蔽管理方式,③解体撤去方式及び④これらの組み合わせ方式が考えられている。我が国は,原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし,個別には合理的な密閉管理の期間を経る等諸状況を総合的に判断して定めることとしている。
 **  高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じて核種毎に分離し,有用核種については利用を図るとともに,超ウラン元素などの長寿命核種は加速器や原子炉を用いて短寿命核種又は非放射性核種へ変換していく技術。

 核融合については,国際原子力機関(IAEA)の下で,米国,欧州共同体(EC),ソ連及び我が国の協力により,1988年から国際熱核融合実験炉(ITER)の共同概念設計を実施しており,この中においても,我が国は人的,技術的に積極的な貢献を行っている。ITERの共同概念設計は,1990年12月に終了する予定であり,この後の計画については現在関係国間で検討中であるが,我が国の果たすべき役割については各国から大きな期待が寄せられている。また,1989年2月には,日・EC核融合協力協定が署名され,これに基づき,既にフランスとの間で共同研究が実施されている。
 また,高速増殖炉についても,従来から米国,英国,西独及びフランスと共同研究,情報交換等の協力が進められている。
 先進国との協力については,今後,高速増殖炉,核融合等,人類共通の利益に供し,かつ人的,資金的に規模の大きい分野の研究開発の効率的推進や,安全確保対策,放射性廃棄物の処理処分,原子力施設の廃止措置,基礎研究等原子力開発利用にあたっての人類共通の課題の解決に重点が置かれ,二国間協力だけでなく,多国間の国際協力の重要性も益々高まるものと考えられる。また,我が国の研究機関に先進国からの研究者を積極的に受け入れ共同研究等を実施することも,今後一層重要となってくるものと考えられる。


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