第1章 国際的視野から見た原子力発電と我が国の状況
2.我が国における原子力発電を巡る最近の状況

(1)我が国における原子力発電及び核燃料サイクルの必要性

 我が国は,石油危機以降,石油代替エネルギーの開発,省エネルギーの推進等により,石油依存度の低減を図るなどエネルギー供給構造の脆弱性の克服に努めてきている。これは,我が国がエネルギー資源の8割以上を海外からの輸入に依存しており,米国,英国などの他の先進国と比較しても,極めて高い輸入依存度を示しているためである。エネルギーは,国民生活,経済活動に不可欠な基盤であり,安定した豊がな社会を維持するためには,現在,我が国のエネルギー供給の半分以上を占める輸入石油への過度の依存を解消し,エネルギーの安定供給を確保していくことが必要である。

 特に,最近の我が国におけるエネルギー需要の動向を見ると,1987年度及び1988年度における最終エネルギー消費量の対前年度比はそれぞれ4.8%,5.4%と高い伸びを示しており,1987年10月に策定した「長期エネルギー需給見通し」における需要の伸びの見通し(年率1.3%)を大きく上回る実績を示している。特に,石油危機以降,我が国のエネルギー需要は経済成長率と必ずしも連動して伸びておらず,エネルギー弾性値*が0.10(1973〜83年度)に落ちていたのに対し,最近は1.01 (1988年度)と再び高い値を示しており,上向きの経済動向に伴って,エネルギー需要が急増するのではないかとの見通しがある。また,電気事業者の電力施設計画をもとに,電源開発調整審議会が1989年7月にとりまとめた「電源開発基本計画」によると,今後10年間に電力需要は年率2.7%(1987年の電気事業審議会需給部会中間報告では年率2.3%)で伸びると予測されている。この背景には,内需中心の高い経済成長,ライフスタイルの変化等,各種の構造的な変化があるのではないかと考えられており,今後の見通しについては詳細な検討が必要であるものの,我が国のエネルギー需要は今後とも着実に増大するものと予想される。
 一方,世界の石油需給は,最近では緩和基調にあるものの,近年の石油価格の低迷を背景として国際的な石油需要が増大していることや,石油資源は有限であり,しかもその産油国は政情の不安定な中東地域が中心であることなどから,中長期的には再びひっ迫してくる可能性が高い。
 したがって,我が国において安定したエネルギー供給を確保していくためには,今後とも引き続き石油代替エネルギーの開発を推進することが必要であり,各エネルギー源の特徴を最大限に生かした最適な組み合わせ(エネルギー・ベスト・ミックス)によりエネルギー源の多様化を図っていくことが重要である。
 特に,石油代替エネルギーの中でも,原子力発電は,供給安定性,経済性等の面で優れており,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に大きく貢献するものと考えられる。また,前述したように,世界的な観点から,先進国を中心として原子力発電を推進し,使い易い資源である石油を後世代のために残しておくことや,化学工業の原料等他では代替できないより付加価値の高い用途のために残しておくことも重要である。さらには,二酸化炭素等による地球温暖化,窒素酸化物等による酸性雨等,最近世界的な関心を集めている地球規模の環境問題の解決のために,原子力発電が安全確保を前提として重要な役割を果たすことも期待されている。


*エネルギー需要の伸び率とGNPの伸び率の比率。

 原子力発電以外の石炭火力発電,LNG(天然ガス)火力発電等の石油代替エネルギーについても,エネルギー供給源多様化の観点から,その開発を積極的に進める必要があることは言うまでもない。また,太陽光,風力等の再生可能エネルギーについは,環境への影響が小さい等の長所もあり,鋭意研究開発が行われている。しかしながら,石炭火力発電は二酸化炭素,窒素酸化物等を排出するため,その推進に際しては地球温暖化,酸性雨等の地球規模の環境問題に配慮する必要がある。また,太陽光,風力等の再生可能エネルギーは現在研究開発途上であり,経済性,自然条件に左右され易いという供給不安定性等の面から,見通し得る将来においては原子力発電等を代替することは困難と考えられ,補完的な役割を果たすものと考えられている。1987年の電気事業審議会需給部会中間報告によると,太陽光発電,燃料電池等の新発電技術については,2000年時点の電力供給目標には特記されておらず,2005年時点の展望において,数%程度の割合いを占めるものと試算されている。
 したがって,我が国におけるエネルギーの安定確保だけでなく,長期的,世界的な観点から,上記のような世界のエネルギー需給緩和,資源の有効活用,環境問題 解決への貢献等を考慮した場合,原子力発電が,我が国のエネルギー・ベスト・ミックスの中において中核的な役割を果たしていくものと考えられる。
 また,原子力発電の優れた特徴を一層発揮させるためには,使用済燃料の再処理を国内で自ら行い,プルトニウム及び回収ウランの利用を推進することにより,ウランの利用効率を高め,その供給安定性を一層向上させることが不可欠である。西独においては,1989年に入って自国内での再処理工場建設工事の停止が決定されるという動きがあったが,地理的にも経済的にも緊密な関係にあり,経済政策等について一体感を強めている欧州共同体と異なり,資源に乏しく,エネルギーの自立を図る必要がある我が国としては,再処理技術を始め,自主的な核燃料サイクル技術を確立することにより,プルトニウム利用の自主性を確実なものとする等の観点から,国際エネルギー状況に大きく左右されない安定的なエネルギー供給基盤を構築していくことが極めて重要である。また,我が国と同様,ウラン以外のエネルギー資源に恵まれないフランスも,国内にラ・アーグ再処理工場を有し,内外の使用済燃料の再処理を行っており,安全かつ着実な稼働実績を示している。1981年から本格稼働している動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場は,順調に稼働しており,着実に技術・運転経験の蓄積を図るとともに,安全確保の実績を積み重ねてきた。これらの技術を基礎として,青森県六ヶ所村に我が国初の商業用再処理施設の建設計画が進められている。
 原子力発電所や再処理施設などから発生する放射性廃棄物の処理処分については,1989年7月のサミット経済宣言にも述べられているように,原子力発電及び核燃料サイクルを推進していく上での極めて重要な課題であり,環境や人間の健康に影響を与えないよう,十分に安全確保を図っていくことが重要である。低レベル放射性廃棄物の処分については,米国,フランス,英国等が既に陸地処分を実施しているとともに,我が国においても着実に安全研究を行ってきたところであり,現在,民間事業者による浅地中処分の計画が進められており,安全な処分の具体化が図られつつある。高レベル放射性廃棄物については,ガラス固化し,30〜50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地層処分を行うことになっており,ガラス固化処理技術については,フランス,西独において実用プラントが運転されている一方,我が国においても研究開発が行われ,動力炉・核燃料開発事業団がガラス固化プラントの建設に着手しているほか,地層処分に関しては,動力炉・核燃料開発事業団を中核として処分のための研究開発が着実に推進されている。今後とも,放射性廃棄物を人間の生活環境から隔離して,安全に処理処分を行うための対策を積極的に進め,原子力発電,核燃料サイクルの円滑な推進を図っていくことが重要である。


目次へ          第1章 第2節(2)へ