第1章 国際的視野から見た原子力発電と我が国の状況
1.世界のエネルギー事情と原子力発電

(1)世界のエネルギー需給と原子力発電

 現代の世界政治・経済は,各国が相互依存性を強めてきており,国際関係を勘案せずに自国の政策決定を行うことはできない状況にある。これは,エネルギー政策についても同様であり,経済発展・国民生活の基盤を支えるエネルギー資源の有限性,地理的偏在性等にかんがみると,国際的視点が不可欠である。特に資源の乏しい我が国においては,常に長期的な国際情勢をにらみながら適切な政策決定を行う必要があるとともに,開発途上国を含む世界への貢献という先進国の一員としての責務を果たすことが重要である。
 世界のエネルギー需要の伸びは,第二次石油危機以降,基調としては鈍化する傾向にあったが,近年,開発途上国を中心として世界的にこの伸びは増加傾向にある。1989年の(財)日本エネルギー経済研究所の見通しによると,世界のエネルギー需要は,1986年の76億トン(石油換算)から,2030年にはその2.8倍の218億トンに増大すると見込まれている。そのうち,開発途上国のエネルギー需要は,現在の4倍と大幅な増大が予想され,世界全体の需要に占める割合も24%から34%へと高まるものと見通されている。特に,世界全体の石油需要の2030年までの増分の約7割が,開発途上国によるものであり,今後は,開発途上国の動向が国際石油需給を大きく左右するものと予想される。このように,長期的には,石油需要は開発途上国を中心に増大する一方, OPEC(石油輸出国機構)諸国への依存度が上昇し,石油供給が不安定化することが懸念される。したがって,長期的には,石油需給はひつ迫し,原油価格は上昇するものと考えられている。このため,先進国においては,石油火力発電による石油消費を抑制すること等によりエネルギー供給面における石油への依存度を低減することがエネルギー政策の基本となっている。また,限られた貴重な資源である石油については,より高度な技術や産業基盤を有する先進国を中心として,他のエネルギー源により代替し,後世代の利用のために残しておくことが益々強く求められるようになってきている。さらに,石油は,化学工業の原料等のように,他に代替できない付加価値のより高い用途もあり,このような用途のために残しておくという観点からも,エネルギー源としての利用を抑制していくことが重要である。

 このような観点から,先進国を中心として,省エネルギー努力を継続するとともに,石油に対する依存度を低減するため,石炭・天然ガス等の他の化石エネルギー,水力・地熱・太陽等の再生可能エネルギー,原子力発電等の石油代替エネルギーの開発に積極的に取り組んできている。その中でも,原子力発電については,経済性,供給の安定性等の観点から,多くの先進国がその開発を推進してきている。
 最近,二酸化炭素等による地球温暖化,窒素酸化物・硫黄酸化物等による酸性雨等の地球規模の環境問題に対する懸念が高まってきているが,エネルギー利用は,これらの地球環境問題と密接に関連するものであり,その対応に当たって,エネルギー政策は極めて重要な役割を果たすものと考えられる。このため,国際原子力機関(IAEA),経済協力開発機構/国際エネルギー機関(OECD/IEA)等においても,地球環境問題に関する検討を行っており,1989年5月のIEA閣僚理事会において採択されたコミュニケは,省エネルギーの推進,エネルギー利用効率の向上,新エネルギーの開発等の重要性をうたうとともに,国家的決定がなされている場合には,建設・運転及び廃棄物処理における安全性の維持と向上を条件として,原子力発電が温室効果等の地球規模の環境問題解決のための重要な選択肢の一つであることを述べている。
 また,1989年9月に開催された「地球環境保全に関する東京会議」の場においても,同様の結論が出された。

 さらに,1989年7月にパリで開催されたサミットの経済宣言においても,環境問題が大きく取り上げられたが,これに関連して,「原子力発電において最も高い安全基準を維持すること及び発電所の安全な操業と放射性廃棄物の管理に関する国際協力を強化することにコミットし,原子力発電が温室効果ガス排出を制限する上で重要な役割を果たすことを認識する」旨うたわれている。
 このように,原子力発電は,世界的に見た場合,安全性の確保,放射性廃棄物対策の確立を前提に,重要な役割を果たすことが期待されている。


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