はじめに

1.我が国において,原子力発電を中心とする原子力開発利用は着実に進展してきている。今や,原子力発電は電力供給において中核的役割を果たしており,放射線利用についても,医療,農業,工業等国民生活に定着してきている。このような原子力開発利用の推進に当たって,我が国は,優れた安全確保の実績を積み重ね,原子力利用による恩恵を享受しつつ,経済発展,生活水準の向上を図ってきている。

2.しかしながら,原子力発電については,1986年4月のソ連チェルノブイル原子力発電所事故以来,世界的に種々の議論がなされていることから,世界のエネルギー事情,資源の有限性,地球的規模の環境問題等,世界の国々が一致協力して取り組まねば解決できない国際的課題に目を向け,改めて,その中での原子力発電の位置付けについてとらえてみるとともに,原子力施設のなお一層の安全確保に努めていくことが必要とされる状況となっている。

3.また,既に四半世紀以上の原子力開発利用の実績を有する我が国としては,今後とも,国際的な視野に立って,先進国との互恵的協力のみならず,原子力開発利用に意欲的な開発途上国への人的,技術的協力を行う等,原子力分野において世界への積極的貢献を行っていくことが求められている。特に,ソ連のチェルノブイル原子力発電所事故後は,原子力発電所苛酷事故による国境を越えた影響についての認識が強まり,安全確保に係る種々の国際協力への取り組みが活発化しており,我が国の果たすべき役割についても大きな期待が寄せられている。

4.このため,原子力委員会としては,本年報において,世界のエネルギー需給,地球的規模の環境問題等を含め,世界的視野から見た原子力発電の役割,海外における原子力発電を巡る状況等を概観し,世界における原子力発電の位置付けを展望するとともに,原子力に関わる安全確保,各種研究開発分野等において,我が国が果たすべき国際社会への貢献について述べることとした。


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