平成元年版
原 子 力 白 書 平成元年11月
原子力委員会
平成元年 原子力年報の公表に当たって 我が国において,原子力発電は既に四半世紀以上の歴史を持ち,今や総発電電力量の約3割を担う基軸エネルギーとなっています。この間,公衆の健康に影響を与えるような事故を起こしたことは一度もなく,優れた安全確保の実績を積み上げてきています。
しかしながら,チェルノブイル原子力発電所の事故後,最近は,特に原子力に対する国民の関心が高まってきており,原子力発電や核燃料サイクルの必要性・安全性,原子力を巡る海外諸国の動向などについて,様々な議論がなされています。
原子力発電や核燃料サイクルは,我が国の経済や国民生活を支えるエネルギーを安定的に供給する上で不可欠であると同時に,最近時に関心の高まっている酸性雨,地球温暖化などの地球規模の環境問題,国際社会への我が国の貢献など,長期的・世界的視野に立って見ても,極めて重要な役割を果たすものと考えられます。したがって,我が国としては,引き続き原子力開発利用を積極的に進めていくこととしていますが,このためには,安全確保に万全を期すことはもちろんのこと,国民の理解と協力を得ることが重要です。
このため,本年の年報は,世界のエネルギー事情,地球規模の環境問題,諸外国の原子力発電を巡る状況など,世界的視点から,原子力発電の位置付けについてとらえ.原子力分野において我が国が果たすべき国際社会への貢献についてまとめるとともに,この一年間における我が国の原子力開発利用の現状を記述しております。
本年報が広く国民各位の原子力開発利用に関する理解を深めるために役立てば幸いです。
平成元年11月17日
国 務 大 臣 科学技術庁長官 斎藤 栄三郎 原子力委員会委員長
本書の構成と内容 本書は,この一年の原子力開発利用の動向を取りまとめたものである。
第I部「総論」においては,特に,エネルギー事情,環境問題等の長期的,世界的な状況及び世界主要国の原子力発電を巡る状況を概観し,その中で我が国の原子力発電の位置付けや国際的貢献についてとらえるとともに,我が国における原子力発電,放射線利用等の原子力開発利用の進展状況について取りまとめた。
第II部は「各論」として,「原子力発電」,「核燃料サイクル」,「安全の確保及び環境保全」,「新型動力炉の開発」,「核融合,原子力船及び高温工学試験研究」,「放射線利用」,「基礎・基盤研究等」,「国際協力活動」,「核不拡散」及び「原子力産業」について,各々最近の動向を中心に具体的に説明している。
第III部は「資料」として,原子力委員会の決定,原子力関係予算,年表等を取りまとめた。
なお,原子力開発利用においては,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に務めている。それについては,別に「原子力安全年報」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項に留めることにした。
目 次