2.原子力委員会の決定等

(5)専門部会等報告

原子力基盤技術の推進について

昭和63年7月26日
原子力委員会基盤技術推進専門部会

はじめに
 先般策定された「原子力開発利用長期計画」(昭和62年6月原子力委員会)において,今後は原子力の持つ新たな可能性の開拓を目指していく段階にあるとの認識に立ち,これからの研究開発は,技術の芽の探索,体系的な研究開発の積重ね等により大きな技術革新を引き起こし,ひいては科学技術全般への波及効果が期待される原子力のフロンティア領域といわれる創造的・革新的領域を重視し,基礎研究とプロジェクト開発とを結びつける基盤技術開発を推進するとの方針が示されている。
 このことから,これら基盤技術開発を計画的・効率的に進めることによって,原子力開発利用におけるリーディングカントリーとして国際的な責務を果たすとともに,安全性・信頼性・経済性の向上という原子力技術に課せられた今日的課題のブレークスルーを図り,21世紀初頭の原子力技術体系を構築する必要がある。こうした原子力利用のさらなる進展を図ることにより,活力があり豊かな未来社会を創り出していくことができるものと期待される。
 このため,昭和62年9月に基盤技術推進専門部会が設置され,当部会の下に設けられた分科会における基盤技術の各分野毎の技術的な検討とともに,基盤技術の開発を着実に推進する方策等について審議検討を行い,今般以下のとおり取りまとめた。
 なお,原子力基盤技術開発については,本報告書にて取り上げられている技術分野以外の新たな分野の技術開発の可能性も含めて,技術開発の方向,技術開発体系,推進体制等について,技術開発の進展,諸般の情勢変化に伴う見直しを適宜行いつつ,中長期的観点に立って,着実かつ積極的に推進することが重要である。

I.原子力基盤技術開発の意義

1.これまでの原子力開発の方向性
 我が国の原子力開発利用は,原子力発電等を早期に実用化することを目指しながら,初期段階では欧米の進んだ技術を導入することによりこれに追いつき,さらに高速炉などの新型炉や核燃料サイクル技術における欧米の技術に目標を置いた自主開発を進めてきた。この結果が今日の原子力発電の定着,核燃料サイクルの事業化等に展開してきたものであり,この30年の技術開発はいわば“キャッチアップ型”の技術開発とでも言い表すことが出来よう。
 こうして確立した原子力技術は,広範な学問領域に立脚する技術であるとともに,巨大なシステム技術,先端技術,極限技術及び高信頼性技術としての特質を持っており,幅広くかつ高度な地域及び技術が集大成されたものと考えられる。しかしながら,これまでの技術開発は,これらの幅広い技術的な基盤を強化することよりも既存の技術を組みあげていくプロジェクト型が中心であり,原子力分野における新たな技術革新や創造的な技術を積極的に生み出していくという視点を持って行っていくものではなかった。このため,原子力技術体系は既存技術の飛躍的ブレークスルーや創造的技術の創出のために必要な基盤を充分確立してきたとは言い難い。

2.原子力を取り巻く状況の変化
 今日我が国が置かれている諸状況を鑑みるに,エネルギー情勢を始め,原子力を巡る環境はオイルショック時より大きく変化してきている。すなわち,原油価格が低位に推移し,エネルギー需要が緩やかな伸びを示している中,原子力発電についていえば昭和40年代,50年代の発電規模の増大といういわば量的拡大の時代から,発電の安全性・信頼性・経済性等の質的な向上を目指す時代へと移行しつつある。さらに,核燃料サイクルの実用化,放射線利用の高度化等原子力分野におけるニーズは一層多様化・高度化しており,これに弾力的に対応する技術開発が必要となっている。
 こうした中で,1986年4月に発生したソ連チェルノブイル原子力発電所の事故が,国際社会に大きな衝撃を与え,これを契機とし安全確保の重要性に対する認識が今まで以上に高まっているが,今後とも原子力技術に対する信頼性及び安全確保の一層の向上のための不断の努力を続けていかねばならない。
 さらに,国際的にも,既に原子力先進国となった我が国に対して,これらの期待が特に強まっていることを付け加えねばならない。
 また,最近の科学技術の進歩に目を向ければ,現在の原子力技術体系の基本構成要素が構築された時にはまだ十分には技術開発が進められていなかったセラミックス等の新素材に係る材料技術,コンピュータのハードウェア・ソフトウェア等の情報処理・通信技術,レーザー等の光技術,遺伝子操作等のライフサイエンス技術に係る研究開発が近年急速に進められてきており,21世紀を担う技術として様々な技術分野で注目され,技術開発の新たな潮流を生み出しつつある。

3.今後の原子力技術開発の方向と基盤技術
 以上のような諸般の情勢を踏まえ,20世紀を残すところ10年と少しとするに至った現在,来たるべき21世紀に必要とされる原子力技術体系を意識的に構築していく必要がある。これにより,現在進行している種々のプロジェクトにおける既存技術にブレークスルーをもたらす新たな技術的知見を与えたり,あるいは今までの原子力技術体系にはなかった未知の技術領域を創出することも十分に期待できる。
 このため,これまで培ったきた原子力における技術ポテンシャルを活用しながら,原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術,放射線リスク評価・低減化技術を当面の原子力基盤技術として位置付け,従来の原子力技術体系にインパクトを与えるようないわば創造型の技術開発へと重点を移し,積極的にこれを推進する必要がある。これによって,原子力開発利用のリーディングカントリーとしての責務を果たすとともに,多様化・高度化する原子力分野におけるニーズに対応し,ひいては科学技術全体の進展において先導的な役割を担うなど,原子力開発利用の新たな展開を図っていくことが可能となるものである。

II.原子力用基盤技術開発の概念
 原子力基盤技術として開発する原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術,放射線リスク評価・低減化技術の各概念を以下に示す。
 なお,ここで示されている技術分野以外にも,技術開発の進展,諸般の情勢変化に伴って新たな分野の技術開発の必要性が考えられる場合には,これを加えて推進することとする。

1.原子力用材料技術開発の概念
 材料技術の開発の特徴は,あるゆる科学技術において鍵となるものであると同時に,開発された技術が他の分野の技術革新を誘発するという波及効果を有しており,このような意味でいえば,いかなる分野の材料技術も生来的に「基盤技術」であるといえる。
 原子力分野における材料技術のこれまでの研究は,軽水炉,高速増殖炉,核融合炉といった炉型別の開発戦略の中で,目標の早期達成のための限定的要素技術開発といったいわゆる「縦割型」中心で進められてきている。例えば,耐放射線性構造材料の研究開発としては,鉄基材料を中心とした材料の開発が行われている。しかしながら,ここでいう基盤技術としての原子力用材料技術開発においては,より中長期的観点に立って,21世紀の原子力技術体系にインパクトを与え,ひいては原子力分野に限らず他の分野の材料技術開発への波及効果も期待できるようなものを積極的に取り入れる。
 原子力用材料技術開発の概念について大別すると,第一に特に高性能化,高機能化を狙った全く新しいタイプの原子力用材料の創製を行うとともに,創製した材料の優れた諸特性の機構解明に係る研究開発を行う。ここでは,耐放射線性に優れた構造材料,機能材料の開発,放射線を低減化する低放射化材料,高性能遮蔽材料等の開発及び放射線場における材料の化学反応といった複合極限環境下で実際におこる化学反応の基本的単位である反応素過程の解明を取り扱う。第二に,ますます高度化した機能を有する材料挙動の正確な把握や使用限界の決定を行ったり,新材料の開発のための貴重な知見,指針を与えるものとして,ミクロレベルにおける分析的・系統的な材料解析・評価を行う。中でも特に,放射線環境下で起こる諸現象の原子・分子レベルでの解析技術の高度化及び材料の信頼性・安全性技術の高度化に関する研究開発を行う。また,上記の研究開発により得られた結果を中心にして,データ及び知識の体系化を図り,原子力用材料設計のための独自のデータ・ベース構築に係わる研究を行う。なお,これら2つについてはお互いに独立なものではなく,相補的関係にあるものである。

2.原子力用人工知能技術開発の概念
 人工知能技術は,1950年代に技術開発が開始されて以来,集積回路等のハードウェア技術やコンピュータ・ソフト等のソフトウェア技術の急速な技術革新に支えられて伸びてきており,1980年代に入ると専門家の知識を活用するエキスパート・システム技術を高度化するため知識の獲得・学習などの高度な機能を実現するための開発へ重点が移りつつある。また,単調なルーチンワークから人的資源の解放をもたらすことが可能なロボット技術開発も積極的に進められている。これらの技術は巨大技術システムにおける人間と機械との間のヒューマン・インタフェースを改善する技術としてあらゆる科学技術分野で適用されることが期待されている。
 中でも,原子力技術のような特殊で巨大な技術体系では機器・設備面による安全性の向上に加えて,機器・設備を扱う人間や機器・設備と人間とのヒューマン・インタフェース面などを含めた原子力施設全体としての安全性の向上が重要である。このため,原子力施設設計・点検補修・異常データなどから得られた原子力施設に係る各種の知識を格納した知識ベースを用いる原子力用人工知能技術開発を進めることによって,原子力施設の運転管理・異常診断・ロボットによる点検補修などをより確実に行うことが可能となると期待されている。
 一方,原子力施設は一般産業の施設と比較して大規模かつ複雑であり,作業の内容が極めて多様であること並びに放射線物質を取り扱う施設であること等の特殊性を有することから,原子力用人工知能技術は一般産業における人工知能技術に比べ高度な信頼性を持つ必要があること等厳しい要求が課せられていることを十分に認識して技術開発を進める必要がある。
 これらを考慮しながら技術開発を進めることにより,狭あいな放射線場で複雑な判断・動作能力を有する点検・補修用ロボット,マン・マシン・インタフェースの良いプラント運転監視システムの研究開発を行い,人間の運転・保守等を支援するシステムを伴ったプラントを中間的な目標とし,究極的には自己判断・制御を行う自律型プラントを目指すこととする原子力開発利用長期計画に示す原子力用人工知能開発計画を具現化することができると考える。この場合,原子力施設に新たに導入されていく人工知能を有する制御装置,監視装置,ロボットなどの技術開発に際しては,原子力技術開発において従来からの安全確保の概念を堅持し,システムとして体系的に検討を行いながら,段階的に進める必要がある。さらに,人工知能を具備した原子力施設とそれに携わる運転員・保守員等とのヒューマン・インタフェースのあり方についても十分に検討する必要がある。
 このような技術開発を進めることによって,「知的活動を行っている人間と高度化しつつある機械が混在しながら,ある目標に向かって動作する」という原子力施設特有の複雑な作業・操作・制御を示す「人間-機械系の世界」を記述することができる「原子力施設学」ともいうべき新たな学問領域も創出されていくと考えられる。
 これら原子力施設の自律化を進めるためには,
① 原子力施設の運転・保守において人間に代わり得る人工知能を備えたハードウェアおよびソフトウェア技術
② 人間の能力を十分に発揮させるためのマン・マシン・インタフェース技術
③ 信頼性を飛躍的に向上させるとともに故障原因を正確に把握する機能と故障修復機能を有する自律化に対応したプラント・システム技術
の開発を進めていく必要がある。
 このような自律型システム技術には,自己診断機能,自己保存機能,学習機能等の自己改良機能,未知事項処理機能という基本機能が具備されている必要がある。

3.原子力用レーザー技術開発の概念
 レーザーは,時間的・空間的制御性のきわめて良い光の利用を可能とし,高度のエレクトロニクス技術との結合によって,情報分野では既に技術革新を生み出しつつある。これらレーザー技術については,既にウラン濃縮,核融合等への利用のための研究開発が行われているが,レーザーの持っ特質をさらに広く原子力分野へと活かしていくことが期待されている。
 すなわち,原子力利用におけるレーザーの注目すべき性質としては,①原子・分子を特定のエネルギー準位に励起することが可能なこと,②レーザーの指向性を利用した遠隔操作性,③大きなエネルギーを一ケ所に集中できること等が挙げられる。これらの性質を原子力分野に利用するに当たっては,高密度なエネルギーとしての特性はもとより,例えば分離技術においては大量処理,経済性が必要となるなど基本的に高出力が要求されるものである。
 それゆえこれに伴って効率,寿命,信頼性の向上が求められる他,高い繰返しにより高出力のレーザーを発生させる技術が必要となる。さらには同位体・元素とのかかわり合いが利用の中心となるため,様々な励起エネルギーに対応するための波長可変技術が必要となってくる。
 これら原子力分野で用いられるレーザーに関する技術,すなわち原子力用レーザー技術には三つの技術領域がある。すなわち,原子力分野の技術革新に対応するためのレーザー応用技術,これらの応用技術を支えるために必要なレーザー本体及び周辺機器技術,及び原子力に新たな利用の可能性を与えるレーザー技術である。

4.放射線リスク評価・低減化技術開発の概念
 近年におけるライフサイエンスの進展は著しく,遺伝子操作,発生工学,細胞融合,染色体工学等いわゆるバイオテクノロジーの開発がなされ,生物学のあらゆる分野に大きなインパクトを与えている。
 原子力開発利用において常に留意している放射線の人体への影響を評価する放射線リスク評価については,従来は疫学的な研究により得られた知見を中心に進められてきたが,これに最新のライフサイエンス分野の研究成果を積極的に取り入れることにより,より一層充実した知見を得ることや放射線リスク評価技術に係る新しい技術を創出することが期待されている。
 例えば,遺伝子操作を駆使した新生物種の創出によるバイオセンサーの開発,遺伝子操作・細胞融合法によって作出したモノクローナル抗体による発がん高リスク個体の検出法の確立,発生工学的技術を用いて各種クローン化遺伝子を導入した放射線リスク評価のためのモデル実験動物(トランスジェニックマウス等)の開発等が挙げられる。
 さて,人間をはじめとして地球上のあらゆる生物は,生命の誕生以来,宇宙線,大地からの放射線,体内や食物,大気などに含まれている自然の放射性物質からの放射線などの自然放射線と永きにわたって共存してきた。これら自然放射線量には,地域差があるが,地球全体の平均値で年間約2ミリシーベルトである。これを原子力の開発利用に伴う放射線量と比較すると,例えば我が国の発電用軽水炉施設の線量管理目標値(全身)は年間0.05ミリシーベルトであり,これは関東地方と関西地方の自然放射線量の地域差に入るような小さいものである。しかしながら,原子力開発利用においてはこれら小さな線量についても高い線量の影響評価を外挿して安全側に評価している。
 すなわち,放射線医学的に低線量とされている0.2~0.25シーベルト程度以下の線量(以下,低線量という)では,疫学上放射線による影響は見られていないが,放射線リスク評価について安全を期するため,発がん,遺伝的影響について高線量域での線量効果関係を直線外挿して低線量域でのリスクの評価を行っている。これら低線量域でのリスクの評価について,ライフサイエンス分野の最新の研究成果を導入することにより遺伝子,分子レベルで評価することが可能となれば,発がん,発生障害,遺伝的影響等に関する知見をより一層充実させ,低線量域における評価をさらに適切に行うことにより,国民の安全確保に関する知見のより一層の充実を図ることができる。
 放射線リスク評価・低減化技術開発においては,以上を踏まえながら,放射能等の測定技術開発,放射線被ばく線量評価技術開発,外部被ばく・内部被ばくの人体への影響評価技術開発等を進めることにより,放射線リスク評価技術開発を行うとともに,これらの知見をもとにして,放射線リスクを低減化するために必要な技術開発を行う。

III.原子力基盤技術開発計画
 推進すべき4つの技術分野について,各々行うべき技術課題及びその将来像について以下に示す。

1.技術開発課題

(1)原子力用材料の技術開発課題
 原子力用材料技術開発においては,
① 放射線の照射損傷による材料特性の劣化を改善するための耐放射線性材料の創製。
② 放射線を低減するための材料開発。
③ 原子力の複合極限環境下での,原子力用材料の化学反応・制御に関する研究開発。
④ 原子力の高度化と信頼性をさらに増大させるための,材料の解析・評価,及び信頼性高度化技術の開発。
⑤ 原子力用材料データベースの構築に関する研究開発。
を基本的な技術要素として,図1に示す原子力用材料技術体系を確立させ,これらの技術を効率的に開発していく必要がある。

① 耐放射線性材料の開発
 耐放射線性材料の開発は,高速炉の高度化,核融合炉の開発等を推進する上で重要であり,放射線損傷劣化等の機械的性質の改善を目的とした耐放射線性新構造材料の開発,および機能特性劣化の改善を目的とした耐放射線性新機能材料の開発を行う必要がある。

② 放射線を低減するための材料開発
 放射線を低減するための材料開発は,原子力を将来にわたって安全なシステムとして利用するため,また原子力の利用分野を拡大するためには不可欠である。この中では,材料自体の放射化率を低減することを目的とした低放射化材料及び放射線を効率的に遮蔽する材料の開発を行う必要がある。

③ 原子力用材料の化学反応・制御に関する研究開発
 原子力用材料の使用環境における特徴は,放射線等の粒子衝撃のような物理的攻撃に併せ,化学反応によって材料が表面から侵されるという複合極限環境である。このため,放射線場での材料の化学反応に着目し,個々の反応素過程を解明していく必要がある。また,この研究成果をもとに,放射線腐食・エロージョン・コロージョン予測技術開発,表面構造制御・改質等の技術的開発を進める必要がある。

④ 原子力利用材料の解析・評価及び設計のための技術開発
 原子力用材料に対して要求される機能はますます高度化しているが,その材料挙動を正確に把握したり,使用限界を決定したり,新材料開発への知見を得る等のためには,ミクロなレベルにおける分析的・系統的な材料解析・評価が肝要である。このため,放射線環境下で起こる諸現象の原子・分子レベルでの解析技術の高度化等を推進する必要がある。また,原子力用材料の信頼性・安全性技術の高度化に関する研究開発においては,新しいモニタリング・計測技術を開発するとともに,材料の寿命・余寿命の評価法の開発を目指す必要がある。

⑤ さらに,これらの研究開発から得られた結果を中心に,データおよび知
 識を体系化し,基盤技術原子力用材料に関するデータベースを構築・整備する必要がある。

(2)原子力用人工知能の技術開発課題
 原子力用人工知能技術開発においては,その中核となる自律型システム技術に必要なハードウェアとソフトウェアを技術開発する必要がある。自律型システム技術に必要なハードウェア技術においては,特に機能分散と配置分散を行うことが可能な分散型高速並列処理コンピュータ・システム技術を確立することが必要である。これにより,原子力施設における運転・保守情報を一括処理するのではなく並列処理することができるとともにネットワーク・システム等の故障時にも信頼性の確保を図ることが可能となる。この他,ロボット,センシング素子・機器等のハードウェア技術を確立させることが必要である。ソフトウェア技術においては,プラント用知識ベース,ロボット用知識ベースとともに,原子力施設に係る多種多様な情報を自動的に分類し,これを体系化するために必要な基本ツールである知識ベース形成システム技術を確立することが必要である。
 さらに現在ではまだアイデア段階であったり,技術開発の初期段階ではあるけれども,人工知能に係る技術開発が順調に進めば21世紀初頭に目途が立つと期待されるニューロ・コンピュータ・システムやバイオ・コンピュータ・システム等の技術を原子力用人工知能技術に導入すれば,加速度的に技術開発が進捗することが期待される。
 なお,人工知能技術開発が様々な分野・機関等で進められていることを考慮しながら,原子力用人工知能の技術開発を進める必要がある。
 以上を踏まえて,これらの要素技術開発として,
① 知識ベース・システム
② 情報収集・処理技術
③ ロボット技術
④ シミュレーション技術
⑤ マン・マシン・インタフェース技術
を基本的な要素技術として,図2に示す原子力用人工知能技術体系を確立させ,これらの技術を効率的に開発していく必要がある。

① 知識ベース・システムに係る要素技術
 知識ベース,推論機構,知識ベース構築手法等の知識ベース・システムの中核となる要素技術,分散型や事象駆動制御等の知識ベース・システム高度化技術,ロボット運用支援システム等の知識ベース・システム利用技術に係る開発を進める必要がある。

② 情報収集・処理技術
 原子力特有の極限環境下においても機能を長期間保持することができるとともにロボットに搭載可能で広範囲にわたる環境情報を高精度かつ高信頼性を持って情報収集・処理することができるような極限環境センシング・ディバイス技術,自律化を進めるために必要となる情報収集と知識ベース・システムとを組み合わせた知的情報収集システム技術,画像処理,プラント制御情報処理等の知識情報処理システム技術に係る開発を進める必要がある。
 また,既存のコンピュータを高度化したり,ニューロ・コンピュータ等の新概念のコンピュータを導入したりしていく必要もある。

③ ロボット技術
 ロボットの動作制御系・機構・プラント内を自律的に動くための動力源等のロボット機器技術,ワークスペース評価システム・ロボット運用支援システム・知的遠隔操作システム等のロボット行動評価技術,プラント内で発生した異常を自律的に探索して応急処置を施したり,ロボットが受ける放射線量を予測評価する等のロボット関連技術に係る開発を進める必要がある。

④ シミュレーション技術
 操作等によってプラントに生じる事象を事前あるいは同時並行的に評価を行うとともにプラントに生じている異常を早期に発見し的確な操作や保守を確実に行うために必要となるプラント運転予測技術,自律型ロボットの運動予測技術,ロボットの動作に適したプラント機器配置を評価するために必要となるシミュレーション技術に係る開発を進める必要がある。

⑤ マン・マシン・インタフェース技術
 原子力施設では未経験な事態にも的確に対処する必要があることから,高度なフェイル・セーフ機能を持ち人間を効果的に支援することができるマン・マシン・インタフェース技術を高度化させることが重要である。このため,多種多様な情報を優先度付けを行いながら運転員へ適切に提供するための技術,原子力施設の運転操作の信頼性を向上するための運転操作高度化技術,運転員の知識を表現するため等のモデリング技術に係る開発を進める必要がある。

(3)原子力用レーザーの技術開発課題
 原子力用レーザーは,基盤技術として,図3に示す①原子力用レーザー応用技術,②原子力に必要とされるレーザー技術,③原子力に新たな利用の可能性を与えるレーザー技術からなる。すなわち,

① 原子力用レーザー応用技術
 ア) 同位体・元素等の分離技術
 レーザーを用いた,溶液中あるいは非溶液中での放射性核種や構造材料の同位体・元素等の分離・濃縮の可能性が考えられ,放射性核種等の溶液中での群分離または単離精製ではレーザーを用いた光酸化還元反応技術・光誘起化学反応技術を,非溶液中での放射性核種等の分離または同位体分離ではT,C,Kr,I等の分離プロセス技術,Pd等長寿命核種のクリーンアップ技術を,構造材料レベルの同位体濃縮では分子化合物及び原子ビームを用いるレーザープロセス適用技術等のレーザー応用技術開発を行う必要がある。
 イ) レーザー計測・分析技術
 核種分析,濃度測定・分析,質量測定・分析,形状分析等の計測について,特にインライン化を可能とする技術開発を行う必要がある。
 ウ) 原子力材料,施設等のレーザー加工技術
 レーザーを用いた原子炉の解体切断,高レベル固化体廃棄物収納缶の溶接など,高線量下での切断・溶接のための技術開発を行う必要がある。
 また,レーザーを用いた表面清浄技術,高耐食性表面処理技術等の表面処理技術の開発を行う必要がある。
 エ) レーザープラズマ利用の可能性を拓くための技術
 レーザー核融合技術,プラズマ加熱制御技術,レーザープラズマによるX線発生技術,レーザー加速技術の開発を行う必要がある。

② 原子力に必要とされるレーザー技術
 ア) 高出力
 レーザーの持つエネルギーの高密度な特性を活かす加工利用,レーザープラズマ利用には原子力用として高出力が要求され,また同位体・元素等の分離利用には分離対象の大量処理と経済性の実現が必要であり使用レーザーの高出力化を図る必要がある。
 このため,既存レーザーの大型化,大口径化等の技術開発を行う必要がある。また,自由電子レーザー(FEL),VUV-X線領域のレーザー,核反応ポンピングレーザー等の新レーザーについては,まずは発振方法自体の研究等の基礎研究を着実に積み上げ,次に実用出力レベルへの高出力化を図る必要がある。
 さらに,レーザーの高出力化において共通的要素の大きいと考えられる光学部品,レーザー励起電源やレーザーシステムの大規模化に関する周辺技術について技術開発を行う必要がある。
 イ) 波長可変
 波長可変制御が可能なレーザー技術が確立すれば,原子・分子を特定のエネルギー準位に任意に励起することが可能となり,より多様な同位体・元素等の分離が実現する他,さらに新しい用途を拓くことができる。
 このため,既存の色素,固体レーザー等については波長可変の実用性をさらに高めるとともに,レーザー光の波長変換技術の高効率化を行う必要があり,自由電子レーザーについては周波数の安定化,短波長レーザーについては発振波長の多様化を進めるための技術開発が必要である。
 ウ) 高繰り返し
 高出力化による大量処理をさらに効率的に行うためには,パルス発振レーザーに高い繰返し能力を持たせる必要がある。このため,各レーザーに共通な技術として予備電離技術,高速フロー循環技術,高速パルス励起技術,熱設計技術の開発を行う必要がある。
 エ) 高効率
 高出力レーザーでは,トータルなエネルギーバランス及び経済性を向上させるためにその高効率化が重要である。このため,従来型レーザーについてはレーザー媒質の高効率化,高効率の励起技術等が必要である。
 また,自由電子レーザー等の新レーザーについては,電子ビームの高品質化の研究,励起用レーザーの開発等が重要であると考えられる。
 オ) 長寿命・高信頼性
 高出力連続運転,放射線下でのインライン計測利用を進めるためには,レーザーの耐放射線性を含めた長寿命化に関する技術開発が必要となる。さらに原子力利用における格段の高信頼性要求に対応するためにも,レーザーの高信頼性に関する技術開発が必要となる。
 このため,光学部品・放電部品の高耐力化,励起光源の出力・発振モードの安定化等のレーザー周辺技術開発を行う必要がある。
 カ) その他(短波長・短パルス等)
 X線やγ線領域などの短波長レーザーが実現すれば,内殻電子や原子核の励起を利用した新分野への応用が期待される。このためVUV等領域で発振する希ガスエキシマーレーザーの実用化に向けた研究,レーザープラズマ励起方式やFELの短波長化等新レーザーに係る理論的,実験的研究を進める必要がある。また,短パルスレーザーについては原子力分野の高速化学反応への応用が期待される。このため,広帯域増幅媒質を用した極短光パルス発生技術,誘導ブリルアン散乱等による短パルス化技術等の開発を行う必要がある。

③ 原子力に新たな利用の可能性を与えるレーザー技術
 超微細構造等の基礎的分光の研究,高密度プラズマ中での原子衝突過程の研究等のレーザーの物理利用に係る基礎研究,選択励起に基づく蛍光・共鳴電離過程の研究,溶液中の酸化・還元反応素過程の研究,励起状態の制御に関する研究等のレーザー化学利用に係る基礎研究を行う必要がある。

(4)放射線リスク評価・低減化の技術開発課題
 放射線リスク評価・低減化は,基盤技術として,図4に示す①被ばく線量評価技術,②放射線リスク評価技術,③放射線リスク低減化技術からなる。
すなわち,

① 被ばく線量評価技術
 放射線リスク評価の基盤となるものは,人間の被ばく線量を精度よく評価することであり,放射性核種が発生源から各種環境媒体を経て人体に至る挙動及び人体に摂取された後の体内代謝挙動をより一層詳細かつ高精度に解明する技術の開発を行う必要がある。このため,放射性核種の環境中での挙動解析を進めるために必要な地球規模長期影響評価モデル開発等の挙動高精度予測システム技術開発,低線量放射能(線)検出技術,バイオロジカルドシメトリー技術等の測定技術高度化開発を進めることによって,放射性核種の環境中での挙動及び放射線の特性の解析技術開発を行う必要がある。
 また,人体に取り込まれた後の被ばいの態様は,放射性核種の物理化学的性質及び生体側の状態を反映した代謝によって決定される。このため,分子レベル代謝モデル化技術,細胞,組織,臓器レベル代謝モデル化技術等の代謝の高精度モデル化技術開発,全身及び臓器負荷量算定技術,体内放射線分布精密理論測定技術等の代謝測定技術(無侵襲法等)開発を進めることによって,放射線感受性組織がどの様な時間分布において被ばくするかをより精密に理解することができる生体内代謝挙動現象の解析技術の高度化を行う必要がある。

② 放射線リスク評価技術
 低線量のリスク評価については,高線量域での線量効果関係を安全側に直線外挿することにより推定しているが,知見のより一層の充実のため,発がん,発生障害,遺伝的障害に関し遺伝子あるいは分子レベルでの研究を中心としてライフサイエンス分野の最新の知見を導入することにより,著しい成果が期待される。これら3種の傷害は評価技術の対象となる細胞も発現時期も機構も相異する。したがって,各々に応じた解析技術,モデル化技術,検出定量化技術等をライフサイエンス分野の先端技術を導入することにより開発する必要がある。
 人の低線量放射線被ばくによる発がんリスクを評価するためには,遺伝的高リスク集団解析技術,生体制御システム解析技術,発がん標的細胞定量技術に係る技術開発を進めることによって放射線の線質あるいは被ばく様式によるがん発生率の違い,公衆の構成員による発がん感受性の違い,集団中に含まれる遺伝的にがんにかかり易い個体(高リスク個体)の割合,個体の発がんに寄与する様々な要因に関する知見をさらに深めていく必要がある。
 また,胎内被ぼくによる障害は被ばくの時期により質的にも量的にも大きく異なるので,各時期の被ばくのリスクの評価を的確に行うための解析技術が必要がある。また,ヒトの発生に関わる障害はほ乳類発生学を理解して解析できるものであるので,発生制御遺伝子検索・固定技術,初期胚障害検出解析技術等の発生工学技術等の高度化を行う必要がある。
 さらに,放射線の遺伝的リスクを大別すると遺伝子(DNA)の損傷に起因するDNA変異リスクと,種に特異的な染色体に含まれている1組の遺伝情報の変異,すなわちゲノム変異リスクに分けられる。このため,遺伝的変異検出基礎技術,DNA変異検出技術,ゲノム変異検出技術の開発を進めることによって,遺伝子や染色体の分子レベルでの構造変化の発現・制御機構を明らかにする技術,細胞・個体・集団レベルでの遺伝的変異の迅速かつ精度の高い検出技術の開発を行う必要がある。
 以上の放射線リスク評価に関する技術は,最終的には総合して,人間集団・個人の健康を損なう頻度(確率)を定量的に予測・推定し,その数値に対して,国・社会あるいは個人がとるべき処置・態度についての判断に結びつけてゆくものである。このため,放射線リスク総合的評価手法,放射線リスク予測手法,放射線リスク比較解析手法等の開発を行う必要がある。

③ 放射線リスク低減化技術
 放射線リスクを正当に評価する技術の開発が必要であることは言うまでもないが,さらに積極的に放射線リスクを低減化する技術の開発を行う必要がある。これについては近年のライフサイエンスの著しい進歩により大きな可能性が生まれており放射線リスクの原因を除去する技術と,原因を排除しきれなかった場合においてこれを障害にまて発展させないようにする技術の二面から取り組む必要がある。
 このため,放射線リスクの発生原因回避除去技術のうち,放射性核種の体内取り込みによるリスクを回避するための生体汚染防止技術として,環境から生体への核種移行の防止,生体に取り込まれた核種を体外へ強制的に排泄させる技術の両方を確立させることで必要がある。また,放射線誘発フリーラジカルの検出,捕捉,除去技術を開発する必要がある。
 また,生体には,放射線障害に対する防御機構が元来備わっている。これには,障害を受けたDNAを修復する能力,修復しきれなかった障害が変異細胞の出現に結びつかぬように制御する機構,さらに,変異細胞が出現したにもかかわらず,これが発がんという重大事態にまで発展しないようにする機構などがある。技術の性質上,1)細胞,2)遺伝子,3)蛋白質 の3レベルに分けて考え,放射線リスクの生物学的低減化技術として未分化細胞利用技術,遺伝子機能統御技術,機能蛋白質利用技術の開発を行う必要がある。

2.技術開発の将来像
 原子力開発利用体系の今後については,昨年6月に策定された「原子力開発利用長期計画」の中で将来の目標が示されている。これによれば,今日のエネルギー需給の安定は,世界的な石油危機後のエネルギー需給構造の調整によるところが大きく,将来のエネルギー需要は緩やかな伸びを示していくものと予測されているとし,原子力を我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置付け,その安全性・信頼性・経済性等の質の向上を重視して開発を進めていくこととしている。すなわち,原子力発電の基本路線として,軽水炉によるウラン利用に勝るプルトニウム利用体系の確立を目指し,「再処理-リサイクル路線」を,またプルトニウム利用形態に関しては「軽水炉から高速増殖炉へ」を基本に炉型戦略を進めることとしている。このため,軽水炉及び新型転換炉における一定規模のプルトニウム利用を進めながら長期的な核燃料サイクルの総合的な経済性の向上を図ることによって,2020年代~2030年頃における高速増殖炉によるプルトニウム利用に係る技術体系の確立を目指していくこととしている。さらに,超長期的な未来を見れば,人類の恒久的エネルギー源の確保を可能とする核融合の実現や科学技術の高度化に寄与する放射線等原子力の利用など,未知の開拓領域があるとしている。
 また,21世紀を担う科学技術の実現時期の予測が昨年9月に科学技術庁から出されているが,これは最新の科学技術の進展状況やその動向を考慮に入れつつ,材料,ライフサイエンス,労働環境,情報・通信等の専門分野の研究者,技術者による実現予測を行ったものである。中でも原子力基盤技術分野に関連する材料技術では,金属材料の単結晶化技術,材料開発用のシミュレーション技術,残存寿命推定技術等の高度化された評価技術,金属・セラミックスの接合技術,新機能を持つ物質の合成手法技術等の機能材料技術等が21世紀には実現されると予測されている。人工知能技術では,ニューロ・コンピュータ等の非ノイマン型並列処理コンピュータ等の高速処理コンピュータ技術,臨場感のあるテレビ映像システム,三次元画像処理技術,複雑なパターンを人間並に識別する技術等の情報収集・処理技術,人に代わって巡回しトラブルを除去することができる知能ロボット等が実現されると予測されている。また,レーザー技術では,X線領域のレーザー技術,工業用大出力エキシマーレーザー発生装置,波長可変レーザーを用いた材料合成技術等が,21世紀の技術として確立あるいは普及することが予測されている。
 さらに,ライフサイエンス技術では,高等生物における遺伝情報発現機構の解明と人為的操作技術の開発,神経の形成機構やその高次活動としての記憶,思考等の脳活動を研究する神経科学,脳科学の進展,さらにがんや遺伝子病の発症機構や老化機構の研究が21世紀初頭までに大幅に進展すると予測されている。また,環境科学分野では,環境及び生体中における元素の存在形態ならびに形態別生物影響のメカニズムが解明され,放射性核種等有害物質の存在形態を人為的に変換操作することにより,その無害化ならびに生物濃縮を阻止する技術の開発が可能となると予測されている。
 これらに鑑みれば,基盤技術開発の意義のところでも述べたとおり,科学技術の面からみた原子力の総合性及び先端性に着目して,原子力研究の幅を広げ,高度な知識及び技術が集大成された原子力技術体系の技術基盤を充実強化し,他の分野との相互交流,連携を深めることにより創造的・革新的な技術や知識を生み出していくことにより科学技術全体への波及についても展望されるものである。
 以下に基盤技術の各分野の将来像について述べる。

(1)原子力用材料の将来像
 ここで取り上げた原子力用材料技術開発の明確な実現目標を正確に設定することは容易なことではないが,1990~2030年の長期的な開発イメージを与えるものを示す。
 1990年代に,0.1nmレベルでの材料照射損傷その場分析評価技術開発を確立する。これにより,照射損傷を起こしつつ,それを顕微鏡的手法により原子レベルで動的に観察することが可能となり,照射損傷の素過程の解析,材質劣化機構の解明,新材料の実現を期待する。
 ポリエチレン等のポリマー系材料は,中性子線に対する軽量遮蔽材料の1つであるが,2000年代初頭には,500°C以上の高温に耐えるポリマー系遮蔽材料の実現を期待する。これにより,放射線が効率的に遮蔽でき,原子力施設の安全性の向上に資する。また,元素には複数の同位体が存在するが,その中の低放射化同位体だけから成る金属材料を実現し,原子力システムの安全性及び原子力の利用分野の拡大に資する。
 2010年代には,耐放射線性新機能材料として,X線・γ線等の放射線場でも使用可能な光導波材料を開発し,光の伝送・制御に利用する。また,データベースの人工知能化及びそれを使った材料設計システム開発を行い,利用者の求めに応じた材料設計を行うためのデータ・ベースを提供する。さらに,照射損傷や化学反応等の素過程を追跡するために,それらの現象が起こる実際の時間を分解し,かつ試料の厚さ方向の分析を行う実時間3次元マイクロ構造解析技術の確立を期待する。
 316ステンレス鋼は,照射量20dpa,ヘリウム生成量1800ppm程度の照射により,著しい脆化を示すが,2020~2030年には,照射量100dpa,ヘリウム生成量5000ppmで,しかも2000~3000°Cの高温にも耐える耐放射線性構造材料の実現を期待する。さらに,照射により,特性劣化につながるような結晶欠陥等が見かけ上増加しない,いわゆる自己修復型耐放射線性半導体等の創製を期待する。
 また,核反応利用による放射性同位体を消滅させる低放射化複合材料といった放射線低減化材料の実現を期待する。さらに,人工知能と照射損傷理論による汎用照射下寿命予測法を確立し,材料の信頼性・安全性評価の高度化に資する。原子力用材料化学においては,原子力用材料における放射線等の物理的攻撃と化学反応を併せた原子力極限環境下の表面反応速度制御利用による表面構造制御・改質材料の実現を期待する。

(2)原子力用人工知能の将来像
 2000年過ぎまでに知識ベース形成用ツール,知識ベースの形成,分散型高速並列コンピュータ・システムの実現を期待し,これらの技術を用いて改良したマン・マシン・インタフェース技術を活用した運転監視システムの実現を期待する。
 また,2005年頃に知識ベース・システムの中核的技術である自律型基本形成システムを確立,自律型ロボットと自律型プラントの実現を期待する。
 さらに,超知能化コンピュータ・システムとバイオ・コンピュータ・システム並びにそれらを統合したコンピュータ・システムが実現すれば,2015年頃に超自律型ロボットと超自律型プラントの実現が期待できる。
 特に,原子力用人工知能技術開発は新型炉や核燃料サイクルに関して現在行われている技術開発に比べて,極めて早いテンポで進められることが予測されるので,原子力施設の機器開発等と整合性のある技術開発を進めていく必要がある。

(3)原子力用レーザーの将来像
 技術開発課題に示したように,原子力用レーザー応用技術は,技術開発が進行中のレーザーまたは応用のために新たに必要となるレーザーを想定しつつ,その応用方法の技術開発を行い,原子力に必要とされるレーザー技術においてはこれら応用面からみた要求事項を満足するレーザーの技術開発を行うものである。従ってこの二つは表裏一体となって技術開発が進められていく必要がある。また,原子力に新たな利用の可能性を与えるレーザー技術は,将来における原子力用レーザーの新しい可能性を発掘するための知見の獲得,その獲得方法の技術開発である。従って,原子力用レーザー応用技術開発と原子力に必要とされるレーザー技術開発は中期的ビジョンを持ち,また原子力に新たな利用の可能性を与えるレーザー技術開発は長期戦略的観点から推進していく必要がある。
 技術開発の将来像としては,同位体・元素等の分離技術では,1990年代後半において,その目安としてgオーダーの分離が可能となるシステム技術の実現を期待する。
 レーザー計測・分析技術では,1990年代後半における原子力施設のインライン化の実現を期待する。
 原子力材料,施設等のレーザー加工技術では,実際の施設等を解体する場合に必要となってくる要素技術の開発をおこなうものであり,1990年代後半において実用化試験段階へ移行することを期待する。
 レーザープラズマ利用の可能性を拓くための技術では,既にプロジェクトの規模で進めている核融合への応用も含めて,プラズマ加熱及びプラズマレーザー発振等中心となる技術の実証を1995年頃までに達成し,2000年にプラズマ制御等のシステム化技術の実現を期待する。

(4)放射線リクス評価・低減化の将来像
 被ばく線量評価技術のうち環境中での挙動の解析技術については,基本的な要素技術である拡散,沈着挙動等の解析及び環境中放射能(線)の測定技術の高度化を進め,この成果を広範囲,長半減期核種の時間的挙動の把握へと展開していく。また,生体内代謝挙動の解析技術については,モデルの高精度化を図るとともに,測定技術については1990年代後半における高度の物理・化学・生物的方法を用いたin vivo法の実現を期待する。
 放射線リスク評価技術は,将来における遺伝子レベルでの放射線影響の理解に基づき,関連する物理・化学及び情報科学の先端的技術の導入により,個人及び集団における健康リスクの総合的な評価を目指すものである。
 放射線発がんについては,ライフサイエンスの先端技術を導入した高リスク集団の解析を行い,1990年代後半には分子レベルでの基礎的な検出技術の実現を期待する。また,放射線による発生障害については,まず障害の定量化,実験動物の開発等を行い,1990年代後半には発生工学技術等の導入による障害の検出及び評価技術の実現を期待する。さらに,放射線の遺伝的リスクについては,1990年代前半には体細胞突然変異及び染色体異常の分子レベルでの検出技術,後半にはその自動化技術の実現を期待する。
 以上を踏まえて,放射線リスクの総合評価技術については,1990年代後半に本基盤技術の進捗に合わせた革新的評価コードの実現を期待する。
 放射線リスク低減化技術については,上記の成果を生かし1990年代後半から2000年にかけて新しい低減化の概念が生み出されることが期待される。
 ただし,現時点で考えられる低減化技術についても高度化を図っておくことは当然のことであり,これはまた新概念の技術開発発想のための基礎としても非常に重要である。

IV.原子力基盤技術開発の効率的推進
 原子力基盤技術開発は,プロジェクト中心に進められてきた我が国の原子力開発利用の足腰を強化することを狙って,原子力フロンティアと言われる先導的・創造的・革新的な技術開発を進めることとしており,前に示した技術開発計画に従って,効率的・効果的かつ体系的に進めることが求められている。
 このため,原子力基盤技術開発の特徴に鑑みた効率的推進方策を行う必要がある。以下に研究交流,人材育成,国際交流,研究評価等について述べる。

1.技術開発の効率的推進に関する基本的考え方

① 能動的な研究交流の推進
 原子力基盤技術開発を進めることによって,21世紀初頭の原子力技術体系を構成する技術を組みあげることとしているが,このような技術体系を構築するためには研究者,研究機関の独自性を尊重しつつもある定められた技術開発の方向性のもとで進めるという従来の研究開発,技術開発とは異なる原子力基盤技術開発に適した開発体制を整え推進することが求められている。すなわち,原子力基盤技術開発は,相当長期間を要する技術開発になることから,国が主導して進めることが妥当であるが,この場合,基礎研究,プロジェクト開発等に様々な実績を持つ国研,国の研究開発法人,大学,民間等の研究機関がそれぞれの特色を発揮させながら産・学・官の研究ポテンテャルを結集する必要がある。このうち民間では長期的な技術開発についてニーズが比較的明らかになっていても放射線等の原子力の特殊性が付随するものについてはその手段の整備が簡単でないため活発に行われているとは言えないが,これに対してコンピュータ技術等原子力基盤技術開発に係る一部の技術領域のように原子力のみならず科学技術一般におけるニーズが明らかになっているものについては長期的観点に立つ技術開発もかなり進んでいることを踏まえ,民間の研究ポテンシャルを最大限に生かすようにすることが必要である。
 さらに,原子力基盤技術開発では,材料科学,情報処理・通信技術,光技術,ライフサイエンス技術等の最先端の科学技術を用いて技術開発を行うこととしており,特に最近のバイオ・テクノロジーを利用したコンピュータに関する技術開発のようにライフサイエンス技術と情報技術が結び付いた技術開発が行われている例にも見られるように,今後は原子力基盤技術開発においても従来行われてきた分野あるいは専門の領域を越えた幅広い技術開発を積極的に進めることが創造的な技術の創出にとってますます重要となってくるものと考えられる。
 以上,原子力基盤技術開発を効率的に推進するに当たっては,原子力分野のみならず非原子力分野を含めた幅広い分野の研究者,研究機関間の研究交流が不可欠であある。
 このため,国研・国の研究開発法人では,既に共同研究,受託研究,委託研究,協力研究等の相互補完型の研究交流を行うとともに客員研究官制度,流動研究員制度,外来研究員制度等の研究者交流や施設の共同利用等の研究交流の諸制度が整備されているが,これらを十分に活用し,方向性を失うことなく能動的かつ弾力的な研究交流を積極的に行うため,産・学・官の研究ポテンシャルの結集に不可欠な協調的かつ競合的で活力のある研究開発環境を作っていく必要がある。

② 創造的な人材の意識的な育成等
 原子力基盤技術開発においては,単なる他分野の先端技術の導入ではなく,創造的科学技術が創出されることが重要である。このため中長期的視点に立ち,創造的な資質を有する若手研究者等人材の積極的な育成が必要となる。
 すなわち,原子力基盤技術開発においては従来の原子力技術開発では部分的には行っていても体系的には行っていなかった分野の技術開発を行うこととしているので,民間を含めて国研,国の研究開発法人においても基盤技術開発分野に係る研究開発人材は必ずしも多いとは言えないのが現状である。
 このため,研究者交流を積極的に行うことにより研究開発機関間における研究者の相互触発を図ることはもちろんのこと創造性のある研究者を意識的に育成していくことが不可欠である。この場合,育成される研究者がアクティブな技術開発現場とのつながりを持てるようにすることが重要である。特に大学と国研・国の研究開発法人の間の若手研究者を含めた研究者交流は,欧米を参考にしながら検討していく必要がある。また,積極的な人材の活用を図るため基盤技術開発に必要な研究ポテンシャルを持つ研究者の発掘に努め,これを育成し,その潜在的な能力を最大限に活かすことも重要である。
 さらに,創造的な技術開発を展開していくためには,それを担う研究開発機関自体が組織として活性化することはもちろんのこととしても,研究者一人一人が創造性のある研究開発能力を発揮できるように研究開発環境を整備していくことが肝要である。特に,最先端の研究開発を進めていくためには最先端かつ最新の研究開発情報に接することができるようにすることが必要である。このため必要となる情報収集は現状では個人の努力に依存するところが大きいが,システム的な情報サービスを行ってこれを効率化させていくことも必要である。

③ 積極的な国際交流の展開
 わが国の技術開発は,総じて欧米の研究テーマ・研究手法を目標に置いたり,基本特許を導入したりして進められてきたが,最近わが国の研究開発のポテンシャルは飛躍的に向上してきており,世界のわが国の科学技術に対する期待も高まっている。このことから,わが国は従来にも増して基礎・基盤研究に研究の重点を移し,原子力分野を含めた科学技術のリーディング・カントリーとしての責務を果たし,国際的に貢献していくことが強く求められている。
 また,最近の技術開発は,規模が大きくなってきていることや技術開発成果の影響が国内だけに留まらず国際的になってきていることから,国際共同の技術開発が行われつつあり,わが国はこれに対して積極的にリーダーシップを執っていく必要がある。
 中でも,原子力基盤技術開発において取り上げている新素材,情報・エレクトロニクス・ロボティクス,レーザー,ライフサイエンスの各分野の科学技術は明日を拓く可能性のある技術として認識され,欧米では豊富な研究ポテンシャルを有する原子力研究開発機関がこれらの分野の研究開発を行うようになる等幅広く研究開発が進められており,わが国の研究開発と相互触発をすることによって加速度的に研究開発が進捗することが期待される。このため,諸外国の関係研究機関のポテンシャル及び共同研究等のニーズの把握に努めるとともに,わが国の共同研究等のニーズを諸外国に広く知らせる枠組を整備すること等によって国際共同研究,研究者国際交流等の国際交流をリーダーシップを執りながら積極的に進めていく必要がある。また,国際交流を展開するに必要な環境整備も進める必要がある。

④ 新しい研究評価の導入
 研究開発を効果的・効率的に推進していくためには,的確な研究評価を行うことが不可欠となる。研究評価については,科学技術会議政策委員会が策定した「研究評価のための指針」(昭和61年9月)の中で研究評価を考える上で研究を基礎的研究と開発的研究に峻別し,前者については主として新しい研究の芽を育てる観点(独創性の高い研究開発課題の選択と推進,成果の発掘等)から評価を行い,後者については主として円滑な研究開発を推進する観点(必要性・有用性の高い研究開発課題の選択と推進,効率的・効果的な研究開発資源の配分等)から評価を行うのが適切であるとしている。原子力基盤技術開発は,研究開発の方向性を持ちつつ創造的な研究開発を行うというここでいう二つの研究の中間に位置するものであり,両方の研究評価の持つ利点を融合させる等原子力分野における新たな研究評価を確立していくことが必要である。
 すなわち,原子力基盤技術開発においては,研究開発の目標及び実現可能性がある程度明確になっている場合が多くチェック・アンド・レビューなど研究評価も比較的行い易かった従来のキャッチアップ型の研究開発とは違って,研究開発目標,スケジュール,研究開発のアプローチ方法等が模索的となることに留意しつつ研究評価を行う必要がある。
 以上を踏まえつつ,原子力基盤技術開発における研究評価は研究開発テーマが持つ先端性・独創性・革新性・学術性等に重点を置き行うこととする。また,原子力基盤技術開発を進めることによって既存の原子力技術体系のブレークスルーを図るとともに他の分野の技術開発の牽引車となることも期待されているので,研究評価においては原子力基盤技術の成果の他の分野へのスピンオフの状況把握をも行うべきである。
 さらに原子力基盤技術開発においては各研究機関に蓄積されている研究ポテンシャルを活用することとしているので,研究開発体制が適切であるかを評価するとともに共同研究等の研究交流状況や共同利用施設の利用状況についても評価を行うものとする。
 一方,原子力基盤技術開発は開発対象としている技術の将来像をイメージとして置き,長期的な観点に立った開発が必要とされるので,研究評価も長期的観点に立ちながら技術開発目標達成度,スケジュール達成度について行うこととする。なお,原子力基盤技術開発の対象となっている材料,人工知能,レーザー,ライフサイエンス等の技術開発のスピードは極めて速いことから,研究評価を行うに当たっては国内外の当該技術分野の研究開発状況,研究開発体制等についても十分に調査し,評価把握することとする。
 また,原子力基盤技術のような先端分野における研究開発においては,その研究開発規模が拡大するのに伴い,組織的な研究開発を進めることによって目標を達成することとなる。また,厳しい研究開発競争が行われている今日では,研究機関が持つ総合的な研究開発能力が重要となり,研究評価を活かした総合的な研究開発能力の向上が望まれる。このことから,研究評価を行うに当たっては,研究開発課題自身のもつ先端性・独創性あるいはその成果の原子力分野でのブレークスルー効果や他の科学技術分野への波及の効果等の評価のみならず,人材・資金・施設等の研究資源の効率的・効果的な配分及び適切な研究開発体制の構築等の総合的な観点からの研究評価を行い,これを研究マネージメントに反映させていくことが必要である。
 研究評価を行う時期としては,事前,中間,事後の三段階があるが,原子力基盤技術開発では,創造的な研究開発の新しい芽を育てる視点に立った事前評価,長期的ビジョンの中での研究の方向性を確認する中間評価,次のステップの芽を見い出し,技術開発の発展を図るのため事後評価を的確に行うことが望まれるが,その中でも創造性を見つけるための最初のベクトルを与える事前評価が重要となる。

2.技術開発の効率的推進の方策

① 研究交流促進の体制整備
 基本的考え方にも示したように,原子力基盤技術開発は各研究機関の研究ポテンシャルを活用することとしているが,一方で原子力の研究開発においては原研,動燃,国研等の様々な性格・機能を有している研究機関が既にあることを踏まえ,新たな中核的な研究機関を設置することなく,既にあるそれぞれの研究機関の責任の下に進めるようにすべきである。
 この場合,各研究機関の研究ポテンシャルを結集するために用いられる共同研究,施設共同利用,情報交流等を効率的・効果的でかつ円滑に推進することが,原子力基盤技術開発において特に重要であり,この役割を担うセンター的な研究交流促進機能を整備することが必要である。この機能を活用して,国内研究機関相互間の研究協力のみならず,広く諸外国との共同研究等の促進を図る必要がある。
 また,創造的な原子力基盤技術開発を進めるために必要な原子力分野及び非原子力に関する基礎的な知識を有する人材については必ずしも多いとは言えない状況にある。従って,各研究機関におけるOJT(Onthe Job Training)による人材育成のみに頼るのではなく,最先端の研究開発を行っている研究者の指導を受けることができるようにする等人材の意識的な育成促進を図る必要がある。研究機関と大学との間の研究者交流を今まで以上に積極的に進める他,創造的な人材を育成促進する機能を上記のセンター的な研究交流促進機能に含めるべきである。
 さらに,研究開発によって得られた成果は,可能なものについては各研究機関でデータベース化を図ることとするが,これらの成果を各研究者が効率的・効果的に利用することができるようにするためには,各研究機関に蓄積されたデータベースをリンク化する必要がある。このため,これらデータベースに関するネットワーク機能及びサービス機能を上記のセンター的な研究交流促進機能に含めるべきである。

② 研究交流における施設整備と利用の促進
 原子力基盤技術開発を進めていくために必要となる大型の研究施設については,共同利用を推進し,施設の効率的・効果的利用を図るようにすべきである。このため,国研・国の研究開発法人の各研究機関に既に設置されている大型施設のうち,共同利用可能な施設については利用機会の積極的な提供を進め,また未整備な施設については利用者のニーズを踏まえながら整備を進めることとする。
 特に,原子力用材料開発においては中性子照射,照射後試験,大型放射光施設,材料評価等が不可欠であることから,かかる施設を整備することが必要である。また,レーザーにおける総合的な研究開発に必要となる自由電子レーザーや放射線による遺伝子等への影響を評価するために必要となる放射線リスク評価用の大型コンピュータ,実験動物施設の整備を進めることとする。さらに,原子力用人工知能技術開発等によって得られた成果を用いて実機実証を行う際には,動燃,原研等の原子力施設も活用し,それに必要な措置を行うこととする。
 一方,国研の大型施設は,施設を有する国研と共同研究する場合及び国研の研究を受託する場合に無償で使用することが可能であるものの,施設の運転・維持のための専用の人員が確保されていないことから,現在のままで開放利用のような形で利用を進めることは事実上困難となっており,施設の効率的利用の障害となっている。以上を踏まえ,原子力基盤技術開発の推進に必要な施設が有効に利用できるよう,運営の弾力化とともに,施設の運転・維持を外部委託等することによって,内外の研究機関による共同利用化を促進することができるよう必要な措置を講じる必要がある。
 国の研究開発法人が有する大型施設は,共同研究,照射の受託等により利用されている。こさらの施設利用においては,原子力基盤技術開発に対して施設共同利用のインセンティブを与えるための必要な措置を講じながら利用効率の向上を図ることとする。また,利用者・有識者等の第3者等の参加の下に施設利用の調整を行う委員会を設け,円滑な利用を図っていくことが必要である。
 さらに,原子力基盤技術開発においては,大型の共同利用施設を用いながら国際共同研究を積極的に進めていく必要がある。また,これを行うために必要となる国際会議場や外国人用の宿舎の整備を行う必要がある。現在,科学技術庁における原子力研究交流制度等の国際的な研究交流の用に供することができる宿舎が,新たに原研等にて整備されつつあるが,既存の宿舎については高い利用実績とともに,国際交流にとって極めて有効に機能していることを考えれば,原子力基盤技術開発においても,今後これらを整備充実していく必要がある。
 また,原子力基盤技術開発によって得られたデータベースを包括的にサービス・管理するために必要となるコンピュータ・システム,このコンピュータ・システムをホストとして活用し,研究者間の情報交換に使用することができるパソコン通信システム,基盤技術開発に携わる人材の育成を行うために必要な施設等については,総合的な研究交流促進施設として整備を進めることとする。

③ 研究者交流等の環境整備
 基本的考え方にも示したように,研究者が創造的な研究開発を進めるためには,同じ分野や異なる分野の研究者の間で第一線の研究情報を交換することが不可欠であるので,原子力基盤技術開発の適切なテーマ毎に専門の研究者で構成する研究会を設置する等の措置を講じる必要がある。この研究会は,参加者,参加機関の自主的な運営のもとで開催することを原則とするが,国研,大学の若手の研究者が参加することができるようにするための必要な措置を講じることとする。また,最近の情報通信システムの発達によって研究者が一堂に会さなくとも情報の交流を任意の場所・時間にて行うことができるようなパソコン通信システムが開発されてきている。これを研究者交流の補完的方法として積極的に導入・整備することにより研究会のより一層の効率的・効果的な運営を図っていくこととする。
 また,共同研究は国研等で積極的に進められているが,今まで以上に民間あるいは外国等との共同研究を促進するために,研究交流促進法(昭和61年5月)が制定されるとともに,産・学・官及び外国との研究交流の促進に関連する諸制度の運用に関する基本方針について(昭和62年3月)が閣議決定された。これにより,国研の研究者の共同研究における処遇改善,民間の研究者が国研で研究できるようにするための規程整備等の優先的実施許諾のための規程整備等が進められ,国研と民間との間においても共同研究のインセンティブが働くような措置がとられている。原子力基盤技術開発においては,この措置を十分に生かしながら共同研究を積極的に進めることとする。
 国の研究開発法人における共同研究は,従来から共同研究で得られた成果を共同研究実施者間で共有することとなっており,受・委託研究も含めた共同研究を積極的に進めることとする。さらに,原研,動燃では研究者交流の諸制度が整備されていることから,原子力基盤技術開発ではこれらを積極的に活用していくこととする。

④ 研究成果の普及促進
 原子力基盤技術開発によって得られた成果を,積極的に原子力の各技術分野に移転させていく必要がある。また,原子力基盤技術で開発される材料,人工知能,レーザー・ライフサイエンスに係る技術は,非原子力分野でも有用な技術であることから,原子力分野から非原子力分野へも積極的に波及させていく必要がある。
 このため,研究開発によって得られた成果が,原子力・非原子力を問わず多くの分野の研究者や研究機関に周知せしめることを目的として,成果報告会・シンポジウムを開催し,成果の普及促進を図ることとする。また,国際共同研究を行う場合にも,国際シンポジウム等により成果の普及促進を図ることとする。更に,蓄積された研究成果を各研究機関においてデータベース化するとともに,これらをネットワーク化することにより広く利用できるようにする。

⑤ 原子力基盤技術における研究評価
 原子力基盤技術開発の研究評価に当たっては,研究開発課題そのものの評価から研究開発体制や研究機関の研究ポテンシャル活用状況評価までにわたる幅広い研究評価が行われる必要があることから,各研究機関が研究開発の実施責任者であるとの認識に立ち,自身による研究評価を確実に行うことが必要である。この場合,評価者に有識者等の第三者を入れながら,研究開発の成果,研究資源,研究マネージメント等に重点を置いて行われるべきである。
 これを踏まえて国としての研究評価は,評価対象技術分野の国内外の研究開発状況調査を基に,研究開発目標達成度,スケジュール達成度並びに我が国全体としての研究ポテンシャル活用度を含んだ研究開発体制について行うものとする。研究評価は,基盤技術推進専門部会並びに同専門部会に設置されている分科会で行うこととする。専門部会においては,技術開発の方向性,目標及びスケジュールの達成度,研究開発体制等の総合的な評価を,分科会においては,技術的見地から技術開発課題レベルの評価を行うことが適当である。また,両者とも各研究機関で行われた研究評価の結果についても報告を受けることとする。
 なお,研究評価時期としては,基本的考え方に示したように,原子力基盤技術が長期的観点に立つ研究開発をされることに鑑み,研究開発テーマが持つ先端性・独創性等を中心に事前評価を的確に行うことを第一とする。
 また,原子力基盤技術開発においては,可能性のある研究開発テーマを積極的に取り上げていく半面,研究開発の中途段階でも研究評価の結果によっては,研究開発をさらに促進したりあるいは中止することができるような研究開発の柔軟性を持つことが必要であるので,中間段階でマイルストーン的な研究評価を行うこととする。この場合,評価時期として,初期の研究開発が終了して研究開発を拡大する必要のある時期に第1回目の中間評価を行うこととし,研究開発開始後例えば3年を経てから行うことを目途とする。さらに,第2回目の中間報告は,研究開発を本格化する必要のある時期に行うこととし,研究開発開始後例えば5年を経てから行うことを目途とする。

高速増殖炉研究開発の進め方
 昭和63年8月26日原子力委員会高速増殖炉開発計画専門部会

1はじめに
(1)原子力開発利用長期計画においては,高速増殖炉を我が国の将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発することとしており,その開発を進めるにあたっては,軽水炉によるウラン利用体系に勝るものとして高速増殖炉によるプルトニウム利用体系を構築していくことを積極的に目指すこととしている。
 また,「高速増殖炉の開発は相当の長期にわたって,官民の適切な協力体制の下に,不断の努力を傾注する必要があり,その具体的展開については,今後,原子力委員会の高速増殖炉開発計画部会において引き続き審議を進めることとする」旨が定められている。
 高速増殖炉開発計画専門部会は,1984年に高速増殖炉開発懇談会の報告書がとりまとめられた後の高速増殖炉の実用化に向けた内外の情勢の変化も考慮して,
① 高速増殖炉の開発に関する長期的推進方策
② 研究開発に関する推進方策
③ 実証炉の基本仕様等の評価検討
④ 国際協力に関する推進方策
⑤ その他高速増殖炉の開発に関する重要事項
の審議を行うべく,1986年5月に設置された。
 本専門部会においては,原子力開発利用長期計画に基づいて,原型炉「もんじゅ」の建設が1992年の臨界目途に進められるとともに,実証炉の開発が基本仕様選定を1990年頃,その着工を1990年代後半に行うことを目標として進められていることを踏まえて,関係機関における研究開発の的確かつ効率的な推進をはかる必要があることに鑑み,昨年4月より基礎調査分科会において,関係機関の研究開発の状況等をレビューするとともに,炉の開発を中心に,研究開発推進に当たっての基本的事項及び研究開発課題について調査検討を進めてきた。
 本検討のとりまとめに当たっては,次の3点を基本とした。
① 原子力開発利用長期計画に示された基本計画を踏まえ,国内関係機関における研究開発等の状況及び海外の動向のレビューを行うとともに,現状における課題等を整理・検討し,また,今後の研究開発の進めかたについて具体的な検討等を行い,研究開発の方向あるいは実施にあたっての重要事項等を明らかにする。
② 研究開発課題,目標等については高速増殖炉の実用化までを見通しつつも,向こう10年程度の間に実施すべきものを対象として,具体的に展開する。
③ 研究開発を官民あげて重点的,効率的かつ柔軟性を持って推進するため,研究開発の進展状況を踏まえつつ,実証炉の基本仕様の選定等,今後の研究開発の節目となる時期において見直しを行う。
 なお,今後の研究開発の進展に対応して,核燃料サイクルの研究開発についても調和のとれた推進が図られるよう配慮する,必要がある。

2.高速増殖炉開発を巡る状況

(1)高速増殖炉開発の意義
 高速増殖炉は,発電しながら消費する以上の核燃料を生成する画期的な原子炉であり,この高速増殖炉によるプルトニウム利用が本格化すれば,将来的には天然ウランの所要量を大きく低減させ,原子力利用における核燃料資源の制約に関する問題を基本的に解決し得るものと考えられる。したがって,高速増殖炉を我が国の将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発を進める必要があり,その推進にあたっては安全性,経済性等の観点から,軽水炉によるウラン利用体系に勝る高速増殖炉によるプルトニウム利用体系を積極的に構築していくことが極めて重要である。
 我が国がかかる観点から,その研究開発を積極的に推進していくことは,国内のエネルギー供給基盤の強化のみならず,国際社会のエネルギー安定確保にも長期的に貢献していくという政策的意義をもつものである。
 また,高速増殖炉の技術は極めて広範な科学技術領域に立脚した総合システム技術であり,その研究開発の推進は広範な科学技術の水準の向上にも資するものである。

(2)我が国の研究開発の状況
 我が国の高速増殖炉の開発は,1956年の原子力委員会「原子力開発利用長期計画」に基づいて開始され,初期には日本原子力研究所(以下,原研)を中心に基礎的な研究が実施された。続いて原子力委員会は1966年,「動力炉開発の基本方針について」を定め,高速増殖炉開発をナショナルプロジェクトとして,各界の協力のもと,総力を結集して進めることとし,その推進機関として動力炉・核燃料開発事業団(以下,動燃)が翌年設立された。動燃の設立に際しては,実験炉「常陽」の概念設計書を始めとする原研の成果が移管され,以後,動燃を中心として,基盤となる技術の研究開発が体系的に実施されるとともに,これらを集約して実験炉「常陽」,原型炉「もんじゅ」の開発が進められてきた。このナショナルプロジェクトには,我が国の電力,メーカー等も動燃への人材派遣あるいは機器の製作等を通して参画し,技術的蓄積が着実に行われてきている。
 電気事業者は1966年から1972年にかけてアメリカのフェルミ炉計画にメーカー等とともに参加したのを手始めに,軽水炉で培ってきた技術を背景に実証炉設計に向けての合理化設計研究を実施し,また種々の要素研究を財電力中央研究所(以下,電中研)を含めて行い,自己の技術蓄積を図ってきた。
 さらに,原型炉「もんじゅ」の建設に協力して技術協力と工事施工管理を行い,実務の習得をも図ってきた。1987年の原子力開発利用長期計画においては,原型炉に続く実証炉の設計,建設,運転は電気事業者が主体となって進めることが明確にされた。電気事業者は実証炉の業務を日本原子力発電(株)(以下,原電)に委託している。
 実証炉の開発に関する研究開発にあたって,原電,動燃,原研は4機関で構成する高速増殖炉研究開発運営委員会を設け,所要協議,調整を行い,円滑かつ効率的な推進を図っている。
 この他,高速増殖炉実用化に係るものとしては,国の支援を受けて行われる耐震試験等の技術確証試験,主要機器のフィージビリティスタディ等がある。
 一方,核燃料サイクル分野の研究開発の現状を見ると,高速増殖炉再処理技術については,動燃において研究開発が進められ,現在,工学規模の試験が可能な施設(リサイクル機器試験施設)の設計を行っている段階にある。
 なお,今後は,これらの成果を十分に踏まえ,2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントの建設計画の具体化を図ることとされている。
 また,MOX燃料加工技術についても動燃において研究開発が進められ,プルトニウム燃料製造施設(PFPF)FBRラインが1987年には完成し,1988年より運転を開始することになっている。
 以下に主要関連機関の研究開発状況を示す。

① 動力炉・核燃料開発事業団
 動燃は,1967年10月設立以来,自主技術により高速増殖炉を開発するとの国の基本方針に基づき,実験炉,ついで原型炉の開発を進めてきた。その開発に当たっては広い分野にわたる研究開発が必要なことから,大洗工学センターに大型試験施設を含む研究開発施設を整備し,まず実験炉「常陽」,次いで原型炉「もんじゅ」のための研究開発を実施してきた。実験炉「常陽」では1977年4月に初臨界を達成し,1978年10月から熱出力5万kWで増殖炉心による運転・試験を開始した。その後照射炉心への改造を行い,1983年3月よりは,熱出力10万kWで燃料・材料の照射をはじめ各種の試験を実施してきている。
 一方,原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kW)については,1983年5月に設置許可を得て,1985年10月から本格的な建設工事を開始し,現在,1992年10月に臨界の予定で建設を進めている。
 動燃は,これら実験炉「常陽」,原型炉「もんじゅ」の建設,運転に係る研究開発に加えて,炉心・燃料設計,高温構造設計手法,事故時原子炉挙動解析手法の高度化等を進めるとともに,大型炉の基盤的要素技術の高度化,及びこれに関連する設計研究を実施するなど,実用化に向けた基盤技術の確立,向上を図ってる。
 なお,これらの研究開発の実施に当たっては国際協力によって技術の相互補充,施設,データの有効利用を図るなどの効率的推進が図られ,多くの分野において成果が得られてきた。

② 日本原子力発電(株)
 電気事業者は,実用大型炉の予備的な設計研究を1970年代後半に開始し,1981~1983年には「高速増殖実証炉概念に関する研究」において,原型炉「もんじゅ」を参考としたループ型炉のプラント全般とタンク炉型の主要部について安全比,成立性,運転・保守性及び経済性向上のための検討を行った。その結果,経済性については100万kW規模で軽水炉の3~4倍の建設費が確定されたため大幅なエスト低減の必要性が認識され,1984年よりこの方策を探る「合理化設計研究」が始められ。
 電気事業者の行う高速増殖炉開発の業務が原電に委託されたのに伴い,原電は,1986年度から実証炉設計研究の一環として,実用化段階に採用する可能性のある革新的技術の成立性とコスト低減効果を検討する「革新的技術の摘出合理化効果の研究」,及び,実証炉の建設主体として基本仕様の選定,設計,建設,運転,保守等を円滑に進めるため必要な研究開発,並びに,実用化を目指した安全性・信頼性向上,経済性向上のための研究開発を進めている。

③ 日本原子力研究所
 原研は,その幅広い原子力研究のポテンシャルを活かし,主として基礎的研究を実施してる。燃料・材料に関しては,炭化物燃料の調整,JRR-2,JMTRを用いた照射試験,照射後試験を実施している。また,FCAを用いて炉物理,遮蔽等の中性子工学的研究,核データの評価研究を実施してきており,NSRRを用いた燃料破損実験等の安全性研究についても検討を進めている。

④ (財)電力中央研究所
 電中研は,電気事業者の中央研究所としてつちかってきた技術を生かして,1984年より高速増殖炉のコストダウンを目的として耐震構造の設計法の高度化及び機器の設計合理化,構造信頼性に関連した高温構造設計法の高度化,熱流動設計の合理化に関する研究,さらに実用化に資する革新的技術の検討等を実施している。

(3)海外における高速増殖炉開発の動向

① 欧州
 欧州の先進各国は原子力エネルギーの有効利用のために,核燃料サイクルの確立とプルトニウムの有効利用が長期的観点から重要であると確認しており,このため高速増殖炉の開発を重視する政策をとってきている。

(i)各国の動向
 a. フランス
 フランスでは実験炉ラプソディ (熱出力40MW,1967年臨界)に始まり,原型炉フェニックス(電気出力25万kW,1973年臨界)を建設し,さらに,西ドイツ,イタリア他と共同で,実証炉スーパーフェニックス(電気出力124万kW,1985年臨界)を建設するまでほぼ順調に進められてきた。
 スーパーフェニックスは,1986年12月に全出力運転を達成したが,1987年3月に使用済燃料貯蔵槽からナトリウム漏洩が発生し,運転が停止されている。現在,この使用済燃料貯蔵槽を貯蔵には用いない方式での運転再開等が検討されている。
 b. イギリス
 イギリスでは,実験炉DFR(電気出力1.5万kW,1959年臨界)に始まり,原型炉PFR(電気出力27万kW,1974年臨界)を建設しており,現在,PFRは運転中である。
 なお,英国政府は1988年7月に高速増殖炉の研究開発について政府投資を縮減し,重点化を行う方針を打ち出している。
 c. 西ドイツ
 西ドイツでは,実験炉NKK-II(電気出力2万kW,1977年臨界)が運転中である。ベルギー,オランダとの共同による原型炉SNR 300(電気出力33万kW)については,建設はほぼ終了しているが,燃料装荷についての州政府の許認可が未だ得られず,運転開始には至っていない。

(ii)今後の欧州高速増殖炉開発
 スーパーフェニックスに続く次期欧州高速増殖炉の建設については,全欧州で協力して行う方向で話しあいが進められている。
 具体的には,ヨーロッパ高速炉電力会社グループ(EFRUG)が,1987年7月に,従来個別に進められてきたSNR-2, SPX-2, CDFRの設計を統合し,これらの技術をベースにして今後5年間で,経済性の一層の向上を図りつつ,かつ,関係各国において将来許認可が得られるような欧州統合実証炉(EFR)の共同設計を行う方針の協議に入った。
 発表されている予定によると,設計作業は2段階に分がれ,最初の2年間で概念設計,コスト見積り,研究開発項目の摘出等を行い,それをもとに次の3年間で詳細設計を行うこととしている。
 このEFRの建設に必要な研究開発については,1984年1月に調印された5ケ月 (フランス,イギリス,西ドイツ,イタリア,ベルギー)の政府間覚書の下に,各国の電力会社間,設計会社間,及び研究開発機関間でそれぞれ協力協定を結び,密接に分担,強力,調整を行いつつ研究開発等を実施する予定とされている。

② アメリカ
 アメリカは早くから高速増殖炉開発を開始し,実験炉クレメンタイン(熱出力25MW,1946年臨界),EBR-1(電気出力200万kW,1951年臨界),EFFBR(電気出力6.6万kW,1963年臨界),EBR-II(電気出力2万kW,1963年臨界),SEFOR(熱出力200MW,1969年臨界),FFTR(熱出力400MW,1980年臨界)等が建設され多くの研究開発データを蓄積されてきたが,このうちEBR-II,FFTFは今も順調に運転されている。
 原子炉CRBR(電気出力38万kW)の建設は1983年に中止されたが,その後DOEは,基盤的研究を進めつつ,新しい取組みとして新型LMR計画を推進してきている。この計画においては,固有の安全性をより一層活用し,コスト面でも軽水炉と対抗できる設計を求め,金属燃料を使用する小型モジュラータイプのPRISM(電気出力15.5万kW:GE社)及びSAFR(電気出力45万kW:RI社)を研究対象として採用し,設計研究を行ってきている。これと併行してアルゴンヌ国立研究所(ANL)において研究が進められてきた金属燃料を用いる燃料サイクル施設併設炉(「一体高速炉」(IFR))に係わる技術開発を精力的に進められてきている。これらの研究を踏まえてDOEは,本年7月新型LMRとしてPRISMを選定し,今後3年間概念設計を行ない,この後,2年間の予備設計,さらに引き続き詳細設計を行なう方針を決定した。

③ ソ連
 ソ連では,実験炉BOR-60(電気出力1.2万kW,1969年臨界),原型炉BN-350(電気出力換算約35万kW,1972年臨界),原型炉BN-600(電気出力60万kW,1980年臨界)が運転されている他,1986年からの5ケ年計画で,実証炉BN-800(電気出力80万kW)を2基建設する予定で,すでにサイトの準備工事,プラント機器の製造を開始している。
 また,NB-1600(電気出力160万kW)の概念設計が進められている。

3.研究開発推進に当たっての基本的事項

(1)高速増殖炉開発のシナリオ
 研究開発の推進方策の検討に当たっては,研究開発成果の反映・活用される場である実証炉から実用炉に至る開発のシナリオを踏まえて,各技術分野毎の重点的な課題および研究開発目標の明確化等を図ることが重要である。
 実用化に至る開発シナリオとしては,原子力開発利用長期計画に基づいて,次の通りとした。
① 2020年から2030年頃の実用化を目標として原型炉「もんじゅ」に続く実証炉をはじめとする複数の炉を適切な期間をおいて継続的に建設する機会を設定する。研究開発はこれらの建設段階毎に収れんさせつつ実用化を見通した形で長期的観点から総合的に実施していく。
② 実証炉については官民の適切な協力を図りつつ,設計,建設,運転には電気事業社(原電)が主体的役割を果たすこととし,1990年代後半に着工することを目標として,1990年頃を目途に基本仕様の選定を行い,これに引き続いて,基本設計,詳細設計を実施する。炉型はこれまでの開発経験の蓄積に鑑み,MOX燃料を用いるナトリウム冷却型炉を中心に開発を進める。
③ 実用化に向けた高速増殖炉の経済性については,安全性,信頼性,運転・保守性について軽水炉と同等以上の水準を保ちつつ,経済的に軽水炉と十分競合し得るものとすることを目標にプラント機器,設備等の高性能化,コンパクト化等を図るための研究開発を進める。原型炉「もんじゅ」に続く実証炉については,実用化までの長期的な展望のもとにおける1段階として位置付け,実用化への見通しを得ることができる炉として開発を進める。

(2)研究開発推進の体制
 高速増殖炉の研究開発における官民の役割分担については,現在,民間における実証炉関連研究が立ち上がりつつあり,今後,民間の研究開発が本格化していく状況にあることから固定的なものとして設定することは適当ではないが,当面はそれぞれが以下の考え方にそって研究開発を推進することが妥当と考えられる。

(国)
・高速増殖炉実用化に向けた先導的,基盤的な研究開発,データベースの整備等の基礎研究,開発リスクの大きい研究開発等,民間のみでは十分な実施を期待しがたいもの。
・安全規制等,国自らの責務遂行のために必要なもの。

(民間)
・実証段階以降のプラントの設計,建設,運転に必要な研究開発
・実用化を目指した安全性,信頼性及び経済性向上のための研究開発
 実証炉の開発に当たっては,設計,建設,運転に主体的役割を果たす原電と,これまでの高速増殖炉研究開発の中核的な役割を果たし,かつ,今後の関連研究開発においても重要な役割が期待されている動燃が密接に連携し,また,原研,電中研,メーカー等関係する研究開発機関も含めた協調体制の下で,整合性をとりつつ,それぞれの機関がその役割に即して,責任を持って進めていくことが重要である。
 高速増殖炉の研究開発関係機関の協力体制として,原電,動燃,原研及び電中研の4機関で構成する高速増殖炉研究開発運営委員会が1986年に発足している。本委員会は,国の高速増殖炉の開発方針に基づき,国内関係機関が実施する高速増殖炉の研究開発業務の効率的な分担,運用及び関連する国際協力について協議,調整を行うことを目的として設置されたものである。現在,その活動も軌道に乗ってきており,今後もかかる体制の下で具体的協力を進めていくことが適当である。
 特に,動燃と原電との間においては,動燃が蓄積してきている技術の移転及び今後の実証炉の開発のための技術協力が進められており,その推進にあたっては情報の移転,人材の交流,施設の有効活用等,今後とも,幅広い対応を行っていくことが重要である。

(3)大型施設を必要とする研究開発
① 我が国においては,動燃大洗工学センターに実験炉「常陽」,燃料・材料照射後試験施設,ナトリウム関係試験施設等が整備され,燃料の照射試験,主要コンポーネント機器の開発等が実施されてきており,また,電中研等においても大型施設による耐震等の研究が実施されて来ている。さらに,国際協力のもとに,アメリカ,フランスの所有する施設を利用した種々の研究開発が行なわれて来ている。
 今後,高速増殖炉の実用化に向けた長期的な研究開発を効率的に実施していく上で,大型施設を必要とする研究開発は,資金計画の面からも重要であり,これについて的確かつ効率的に実施していくことが重要である。
② このためには,まず,どのような研究開発課題にどのような大型施設を必要とするか,これを具体的にどのように実施していくか等について,実証炉の基本仕様の制定等,今後の開発の進展に対応しつつ,また,所要の時点に成果が得られるように,順次検討していくことが必要である。その際には,動燃がこれまでに整備している,あるいは整備を進めている大洗工学センターの有効活用を図る必要があり,また,これまで実施してきているような国際協力の活用にも留意していくことが重要である。
 このため,動燃施設の活用に関しては,動燃,原電,メーカーを含めた協力体制,役割分担等についての考え方を検討していくことが重要である。
③ 特に,現在建設の進められている原型炉「もんじゅ」については,その設計,建設,運転の経験を通じて基準,解析コード等の妥当性の確認及び高度化,燃料の長寿命化,大型機器の健全性の実証,運転・保守経験の蓄積等を図り,得られた成果を実証炉以降の開発に的確に生かしていくことが重要である。

(4)国際協力
① 国際的な高速増殖炉の研究開発の状況を概観すると,欧州においては主要国間の国際協力による実証炉開発が実施されており,一方,アメリカにおいては,エネルギー省が中心となって進めている新しいタイプの高速増殖炉概念の構築について,我が国との協力を希望して来ている状況にある。
② 高速増殖炉の研究開発については,我が国はその着手が欧米に比べて遅れたこともあり,先行した欧米諸国の経験に学びつつ,いかに効率的に国内に高速増殖炉開発の技術基盤を整備するかという点に重点を置いて研究開発を進めてきた。また,高速増殖炉の構成する主要技術のいくつかのものについて,日米の2国間協力あるいは日米欧,日欧の多国間協力を実施し,情報交換,研究者交流から,海外の大型施設を用いた試験研究に至る多様なレベルの協力を実施し,所期の成果をあげて来ている。これら欧米諸国との技術交流は,今後の我が国にとっても継続していく必要がある。
③ さらに,実証炉の開発を積極的に推進しようとしている今日こおいては,高速増殖炉の実用化に向けて,長期的な研究開発を推進していくための基盤形成等を国際的なスケールでも考えていくことが必要となってきており,我が国が開発した技術と諸外国の技術との相互補完を図ることにより国際社会へ貢献していくという視点も重要である。
 なお,国際協力の具体的展開については,時宜を得た十分な検討が必要である。

(5)その他の重要事項
 高速増殖炉の実用化に向けた研究開発は,かなりの長期間に及ぶものであり,かつ,実用化までの間における炉の建設は少数基に限られること等から,高速増殖炉技術を担う人材の確保,育成,特に,技術者の世代間の技術,経験の継承を的確に行っていくことに十分配慮していくことが必要となる。
 我が国における高速増殖炉の研究開発は,これまで,動燃を中心に進められてきたが,今後は,発電プラント技術としての実証,習熟及び性能向上並びに経済性の確立を図っていく実用化移行段階を迎え,特にメーカーの技術力,ノウハウ等がより一層必要となっている。
 これまでメーカーは,高速増殖炉開発に関し,
① 動燃が必要とする専門的人材の派遣
② 研究開発試験装置の建設,計算コードの開発・試験解析の受託
③ 実験炉「常陽」,原型炉「もんじゅ」の製作設計,製作,建設の受注
④ 電気事業者の設計研究等の受託
⑤ 海外のメーカーとの技術協力
等を通じ,技術の開発,蓄積及び人材の育成を図ってきている。
 今後は,プラントの建設を適切な期間をおいて継続的に行い,設計及び関連した研究開発を実施することにより,これらのメーカーの技術力の継続的を維持・向上をも図り得るよう配慮する必要がある。特に,原型炉「もんじゅ」の建設の進捗に伴い,これらのプロジェクトの経験を有する人材を実証炉以降の開発に十分活用できるような対策について,検討を行うことが必要である。

4.研究開発課題
 高速増殖炉の実用化に向けた研究開発は長期的な視点に立って継続的に実施すべきものであるので,実用化までに複数の炉を建設する機会を設定し,研究開発をこれらの場面で収れんさせつつ進めるとの基本的考え方をとっている。
 今後の実用化に向けた研究開発においては,プラントの安全設計方針等,プラント構成を検討する上で基本となる「システム」,「安全」及び「耐震」の研究開発が重要であり,また,プラントの大型化,コトス低減,信頼性向上を目指して「炉心・燃料」,「プラント機器設備」,「構造・材料」及び「熱流動」の研究開発に重点的に取り組んでいく必要がある。さらに,プラントの運転・保守性の向上を目指した研究開発も必要である。
 ここでは,それぞれの分野について,研究開発の当面する重要なステップである実証炉の設計,建設等の段階に着目しつつ,重要な研究開発テーマを取り上げるとともに,これらについて,研究開発内容,目標,成果の反映時期及び主な研究開発実施機関を明らかにした。また,成果の反映は実証炉以降となるようなものでも早急に着手を要するものは,その旨を示し課題に含めた。
 (1)システム       (5)構造・材料
 (2)炉心・燃料      (6)熱流動
 (3)プラント機器・設備  (7)耐震
 (4)安全         (8)運転・保守

(1)システム

a.研究目的
 実証炉の基本仕様選定に向けてのプラントシステムの評価,検討を実施するとともに,二次系削除など革新技術を導入したプラントシステムの評価・検討等高速増殖炉実用化に向けた長期的なシステム研究開発を行う。

b.研究内容

(実証炉基本仕様の選定)
 実証炉は,高速増殖炉の実用化に向けた第一のステップであるとの位置付けを踏まえつつ,各種設計パラメータの最適化を行い,システム概念を構築し,その成立性,安全比,経済性の評価に基づいて基本仕様を選定すべく,次の事項について1990年頃を目標として研究開発を実施する。
○ 実証炉のシステム評価研究

(革新的技術等を導入した高速増殖炉システムの検討)
 実用化に向けて,有望な革新的技術やシステム概念の成立性の評価を行うため,次の事項について研究開発を実施する。
○ 将来炉のシステム評価研究

c.主な研究開発実施機関
 原電,動燃,電中研

(2)炉心・燃料

a.研究目的
 炉心設計,燃料設計に係る評価手法の高度化,データベースの拡充を通じて,炉心・燃料のコンパクト化,長寿命化及び高性能化を図る。

b.研究内容

(大型炉心の開発)
 核設計,遮蔽設計,炉心熱流力設計などの評価技術の高度化及びデータベースの拡充に係る次の項目について,実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ 核設計手法の高度化
 ○ 遮蔽設計手法の高度化
 ○ 炉心熱流力設計手法の高度化
 ○ 炉心動特性評価手法の高度化
 ○ 炉心構成要素の長寿命化
 ○ 炉心事故解析に用いる核データの拡充

(長寿命燃料の開発)
 燃料サイクル費低減を目ざし,実証炉初期炉心では9万MWD/Tの燃焼度を想定し,また,これ以降さらに燃焼度の向上を図り,約20万MWD/Tの燃焼度を達成できるよう,次の事項について研究開発を実施する。
 ○ 長寿命燃料・材料の開発
  ・改良オーステナイト鋼燃料開発
  ・高強度フェライト鋼燃料開発(長期的に実施)
 ○ 燃料設計手法の高度化
 ○ 燃料使用限界に係る評価研究

(新燃料の研究)
 高速増殖炉燃料の大巾な性能向上の可能性を持つ新燃料として,次の燃料についての研究を長期的に進める。
 ○ 炭化物・窒化物燃料の評価
 ○ 金属燃料の評価

c.主な研究開発実施機関
 動燃,原電,原研,電中研

(3)プラント機器・設備

a.研究目的
 実証炉規模への出力のスケールアップに伴い,炉容器のみならず1次/2次系機器が大型となることを踏まえ,信頼性が高く合理的なプラントを実現するために,これを構成するプラント機器・設備について新概念の適用を含め,その高性能化,コンパクト化を図る。

b.研究内容

(原子炉構造の大型化に伴う合理化)
 出力のスケールアップに伴い原子炉構造に新概念を適用することに関して,その構造健全性を含めた諸特性,機能を確認し,合理化を図るべく次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として,研究開発を実施する。
 ○ 炉容器のコンパクト化
 ○ ルーフスラブ,回転プラグ等の炉上部構造のコンパクト化
 ○ プレナム隔離構造,炉心下部構造物等炉内構造物の簡素化
 ○ 反応度制御設備の開発

(実証炉級冷却系機器の開発)
 主循環ポンプ,蒸気発生器,中間熱交換器を主体として,冷却系機器の合理化概念の成立性,実機への適用性を明らかにし,信頼性が高く,コスト削減を図ることができる冷却系を実現するため次の事項について実証炉の着工時期を目標に研究開発を実施する。
 ○ 1次主循環ポンプの開発
 ○ 中間熱交換器の開発
 ○ 蒸気発生器の開発(一体貫流蒸気発生器の開発,ナトナウム・水反応対策の検討)
 さらに,長期的課題として2重管蒸気発生器の研究開発を実施する。

(配管系の簡素化,合理化)
 ナトリウム配管は熱膨張対策上長大となりやすいため,その短縮化を追求し,合理化を図るべく次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ トップエントリー配管システムの開発
 ○ 配管ベローズ継手の開発

(燃料取扱い系の簡素化,合理化)
 機器設備の簡素化,合理化と廃棄物低減化を指向した燃料取扱い設備の開発を行うべく,次の事項について実証炉の工事認可開始時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ コンパクト型燃料交換機及び出し入れ機の開発
 ○ 燃料洗浄設備の合理化
 ○ 燃料移送及び貯蔵設備の合理化

(計測・制御システムの簡素化,合理化)
 計装の高度化により異常事象の拡大防止機能を強化するとともに原子炉施設の信頼性,安全性の向上及び運転制御性の向上を計るべく,次の事項について実証炉の安全審査開始時期及び着工時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ 原子炉計装,プロセス計装の高度化
 ○ 監視,検査用計装の高度化
 ○ 異常診断システムの開発

c.主な研究開発実施機関
 原電,動燃,電中研

(4)安全

a.研究目的
 軽水炉と同等の水準の安全性を確保しつつ,合理的なプラント設計を行うため高速増殖炉の固有の安全特性,passive safetyをも考慮して,より合理的な安全設計・評価方針の策定,安全評価手法の高度化ならびにデータベースの整備を行う。

b.研究内容

(合理的な安全論理の構築)
 高速増殖炉の固有の安全特性,passive safetyの積極的活用を考慮しつつ実用化を展望し得る実証炉を建設するために,その基本仕様選定時までに,より合理的を安全設計・評価に係る基本的考え方を明らかにするとともに,実証炉の安全審査開始時期を目指して次の事項について研究開発を実施する。
 ○ 実証炉安全設計方針の検討
 ○ 実証炉安全評価方針の検討

(設計基準内事故及び立地評価事故に関する安全評価手法の高度化)
 各種安全防護設備の合理化に資するために,より適切な裕度と精度をもつよう事故評価手法を高度化すべく実証炉の安全審査開始時期を目標に次の事項について研究開発を実施する。
 ○ 炉心局所事故に関する研究
 ○ 反応度挿入事故,流量減少事故,燃料取扱事故等各種事故に関する研究
 ○ 事故時燃料挙動に関する研究
 ○ ナトリウム漏洩対策に関する研究
 ○ 放射性物質の放出移行挙動に関する研究
(設計基準外事故に関する安全評価手法の高度化)高速増殖炉の安全裕度を合理的に評価する上で有効な知見を得るため,安全解析コードの改良・検証を進めるべく次の事項について,長期的に研究開発に取組むこととし,当面,実証炉の安全審査開始時期を目指して,研究開発を実施する。
 ○ HCDA(仮想炉心崩壊事象)評価手法の信頼性向上(ATWS(異常な過渡変化時のスクラム不作動)事象,LOHS(除熱能力喪失)事象推移評価,放射性物質の放出,移行挙動)

(確率論的安全評価(PSA)手法の高度化)
 PSA手法の高度化を図り,高速増殖炉プラントの安全性を総合的かつ定量的に評価することにより,その安全性を一層向上させるととにも従来の決定論的アプローチを補完して,プラントの合理化検討に資するべく次の事項について長期的に研究開発に取組むこととし,当面,実証炉の安全審査開始時期を目指して,研究開発を実施する。
 ○ データベースの整備拡充
 ○ 高速増殖炉PSA解析手法の高度化
 ○ PSA手法の適用性評価

c.主な研究開発実施機関
 動燃,原電,原研

(5)構造・材料

a.研究目的
 非弾性解析の一層の導入,新構造材料の適用性を含めて高温構造設計指針の高度化を図るとともに,高温破壊力学の適用のための研究開発を行い,LBB(漏洩先行型破損)基準の高度化等を図る。

b.研究内容

(高温構造設計指針の高度化)
 弾性解析をベースとした原型炉用高温構造設計指針の高度化を図ることによって,一層合理的な構造設計ができるよう,次項目について,長期的に研究開発に取組むこととし,当面,実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。
 ○ 高温構造設計指針の高度化
 ○ 構造材料データベースの拡充(9Cr系鋼等)

(非弾性解析法の高度化)
 構造物の非弾性挙動を的確に評価できる非弾性解析法を高度化することにより,より合理的な構造設計ができるよう,次の事項について,長期的に研究開発に取組むこととし,当面,実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。
 ○ 非弾性解析法の高度化
(LBB基準及び炉内機器健全評価への破壊力学手法の適用)
 高温破壊力学手法の活用によって高速増殖炉の特徴を活かした合理的な安全設計方針及び供用期間中検査基準を高度以下すべく,次の項目について,長期的に研究開発に取組むこととし,当面,実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。
 ○ 破壊力学を用いた評価手法の高度化
 ○ 供用期間中検査基準の高度化

c.主な研究開発実施機関
 動燃,電中研,原電

(6)熱流動

a.研究目的
 熱流動の解析の精度を向上させ,熱流動設計手法の高度化を図る。また,自然循環を活用して崩壊熱除去システムの合理化を図る。

b.研究内容
(定常及び過渡時の熱流動評価手法の高度化と検証)定常及び過渡時の熱流動評価手法を高度化・検証し,大型機器における熱過渡条件の緩和など設計の合理化を図るべく,次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標に研究開発を実施する。
 ○ プラントシステム熱流動解析手法の高度化
 ○ 炉容器内熱流動評価手法の高度化
 ○ 炉心内熱流動評価手法の高度化

(自然循環による崩壊熱除去システムの開発,評価)
 自然循環を積極的に利用し,信頼性の高い崩壊熱除去システムを開発すべく,次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ 自然循環時プラントシステム熱流動評価手法の高度化
 ○ 自然循環時炉容器内熱流動評価手法の高度化

c.主な研究実施機関
 動燃,電中研,原電

(7)耐震

a.研究目的
 高温,低内圧,ナトリウムの使用等の高速増殖炉の特質を踏まえ,熱応力と地震力に対して整合性のとれた合理的な設計を行い,耐震上の安全性及び信頼性が高くかつ経済性に優れた高速増殖炉を開発するため,耐震設計手法等の高度化を図る。

b.研究内容

(低床応答建屋耐震設計法の確証)
 高速増殖炉の特徴考慮した耐震設計手法を高度化すべく,基本仕様選定時期を目標に建屋耐震解析法の信頼性向上の研究開発を実施する。

(機器構造耐震設計法の高度化と検証)
 大型化及び合理化を図るために開発された機器構造の耐震安全性と設計の妥当性を確認すべく,次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。
 ○ 炉内流体関連振動評価手法の開発
 ○ 炉心耐震設計法の整備
 ○ 機器配管耐震解析法,耐震限界評価法の開発
 ○ 機器配管用新型支持装置の開発

(原子炉構造の座屈評価法の高度化)
 大型モデルの座屈確証試験により,地震時座屈評価法を確立し座屈評価基準の高度化を行うべく,次の事項について,実証炉の安全審査開始時期を目標に研究開発を実施する。
 ○ 薄肉構造物の地震時座屈評価手法の開発

(免震構造の開発)
 大型免震構造の開発を図るべく,次の事項について,長期的に研究開発に取組むこととし,当面実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。
 ○ 免震構造の開発
 ○ 免震設計用地震動の検討

c.主な研究開発実施機関
 電中研,原電,動燃

(8)運転・保守

a.研究目的
 実証炉の進展・保守を効率的に実施するための技術を確立するため実験炉,原型炉の運転・保守等を通じて関連技術の高度化,支援システムの向上,被曝低減化などの運転保守性の向上を図る。

b.研究内容

(運転保守技術の高度化による予防保全技術の向上と被曝量低減)
 高速増殖炉固有の環境下における保守・補修技術の高度化により,設備の信頼性の向上及び被曝の低減化,作業の効率化,プラント稼働率の向上を図り,運転費の低減に資するべく,次の項目について,当面,実証炉の着工時期を目指して研究開発を実施する。
 ○ 保守・補修技術の高度化
 ○ 供用期間中検査技術の高度化
 ○ 運転支援技術の高度化

c.主な研究開発実施機関
 動燃,原電

群分離・消滅処理技術研究開発長期計画

昭和63年10月25日
原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会

1.はじめに
 我が国は,使用済燃料を再処理することにより発生する高レベル放射性廃棄物は,安定な形態に固化した後,30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層に処分することを基本的な方針としている。
 群分離・消滅処理技術の研究開発は,このような高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,含まれる有用元素の資源化及び積極的な安全性の向上という新たな可能性を目指す研究開発である。
 昭和62年6月に決定された原子力委員会の「原子力開発利用長期計画」においては,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の半減期,利用目的等に応じた分離(群分離又は核種分離)を行い,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換(消滅処理)を行うことは,高レベル放射性廃棄物の資源化とその処分の効率化の観点から極めて重要な課題であり,そのための研究開発を,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等が協力して計画的に推進することとされている。更に,同長期計画においては,群分離・消滅処理の技術開発を国際的な協力にも配慮して進めること及び先導的プロジェクトの一つとして効率的に推進することも示されている。
 また,民間においても電力中央研究所が高レベル放射性廃棄物の処分の効率化を図るとの観点から群分離・消滅処理技術の研究開発に取り組んでいる。
 群分離・消滅処理に関する研究開発を推進するためには,長期的視野に立った研究開発計画に基づき,官民の力を結集して計画的かつ効率的に研究開発を推進することが必要である。このため,群分離・消滅処理の研究開発に関し,今後の約10年を見通した長期計画を取りまとめたので報告する。

2.群分離・消滅処理技術研究開発の必要性
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物は,安定な形態に固化した後,30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中に処分することが基本的な方針とされているが,これは高レベル放射性廃棄物に含まれる半減期の極めて長い放射性核種の人間環境からの長期にわたる隔離を確実にできるようにしていくことが目的である。
 高レベル放射性廃棄物は,放射能が強く,発熱量が大きい核分裂生成物(FP)と,放射能はそれ程強くないが,半減期が極めて長い長寿命核種とを併せ含んだ廃棄物である。また,高レベル放射性廃棄物には,触媒や新しい素材としての利用が期待されるテクネチウム99及び白金族元素(ルテニウム,ロジウム等)や,ラジオアイソトープとしての活用が期待できる核種(セシウム137,ストロンチウム90等)の有用となりうる物質が含まれている。
 このような高レベル放射性廃棄物の含有物の特性に着目し,長寿命核種や白金族元素等を分離し,それぞれの特徴に応じて,処分や有効利用を行えば,高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,有用元素の資源化等が図れる。
 更に,分離した長寿命核種等については,核分裂,核破砕,光核反応等の核反応により,短半減期又は非放射性の核種に変換することにより,より一層処分の効率化等が図れることとなる。
 このように,群分離技術及び消滅処理技術は,高レベル放射性廃棄物の最終処分の負担の軽減化,資源の有効利用等を図るものであり,現在の再処理プロセスや高レベル放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分システムを高度化し,積極的な安全比の向上にも資することとなるものである。この研究の成果は,創造的・革新的要素を多く含んでおり,他の技術分野においても有効であると考えられる。

3.群分離・消滅処理技術研究開発の現状
 我が国における群分離・消滅処理技術の研究開発は,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において開始された。その後,電力中央研究所等においても実施されてきており,次に示すように,現在までに,着実な研究開発の展開を示している。

3.1 群分離技術の研究開発
 高レベル放射性廃液中の元素を,超ウラン元素(TRU核種)群,ストロンチウム・セシウム群,テクネチウム・白金族元素群及びその他の元素群の4群に分離する研究開発が進められている。更に,熱源や放射線源として有用なストロンチウム90,セシウム137等,天然にはほとんど存在しないテクネチウム99,天然資源として地球上の存在比が小さいルテニウム,ロジウム,パラジウム等の白金族元素の単離精製技術の開発が進められている。
 また,高レベル放射性廃液からTRU核種を乾式群分離法で分離する研究開発も開始されている。
 一方,高レベル放射性廃液の群分離と並行して再処理工程における不溶解残渣から白金族元素を回収し,その有効利用を図るための研究開発が進められている。

3.2 消滅処理技術の研究開発
 長半減期のTRU核種を高速中性子を使用した核分裂反応により短半減期又は非放射性の核種に変換する研究開発として,高レベル放射性廃液から群分離により回収されたTRU核種のみで臨界体系を作り得ることに着目し,TRU核種を燃料とする専焼高速炉の概念の検討が進められている。
 また,高速炉臨界実験装置(FCA)を用いたサンプル反応度価値の測定から,TRU核種の炉物理データの整備が進められている。
 また,TRU核種を,現在開発を進めている高速増殖炉(FBR)で消滅させる概念について,TRU核種を多量に含むウランとプルトニウムの混合酸化物燃料の製造・取扱い,FBRでの照射準備,炉心特性の検討がなされている。
 更に,TRU核種をウラン及びプルトニウムと混合して金属燃料を製造し,金属燃料炉心FBRで消滅させる研究開発も開始されている。
 TRU核種を加速器から得られる高エネルギー陽子で直接に核破砕する反応(スポレーション反応)と,その際2次的に発生する中性子による核反応を利用した消滅処理技術の研究開発についても進められている。
 また,ストロンチウム,セシウム等の核分裂生成物やTRU核種をガンマ線を用いた光核反応により消滅処理する研究開発も進められている。

4.群分離技術研究開発の長期計画
 群分離技術の研究開発においては,高レベル放射性廃液の群分離技術の研究開発,再処理工程における不溶解残渣からの有用金属回収技術の研究開発及び分離元素の有効利用技術の研究開発をそれぞれ概ね次に示す昭和75年(西暦2000年)を目途とした長期計画に従って推進することとする。(なお,以下の第I期及び第II期の時期はおよその目標である。)

4.1 高レベル放射性廃液の群分離技術の研究開発
 高レベル放射性廃液に含まれる元素を4群,即ち,TRU核種群,ストロンチウム・セシウム群,テクネチウム・白金族元素群及びその他の元素群に分離するための群分離技術に関する研究開発を実施する。なお,高レベル放射性廃液の群分離技術の開発では,現行再処理技術を改良する可能性をも含めた高度化再処理・群分離プロセスに関する研究開発,群分離後の廃棄物の処理処分に関する研究開発を併せて実施する。以上の群分離技術の開発は主に湿式法による高レベル放射性廃液の処理を対象としたものであるが,TRU核種を溶融塩等を用いて分離する乾式群分離技術に関しても研究開発を実施する。
 また,レーザー光による酸化・還元反応を利用する溶液化学技術を群分離に応用する研究開発を実施する。
 第I期(~昭和71年):群分離プロセスの中心となるべき骨格を構築するために必要な基礎的総合試験研究の段階であり,高レベル模擬廃液及び高レベル実廃液を用いた試験を実施する。高レベル実廃液試験の開始に当たっては事前に,高レベル模擬廃液を用いた湿式プロセス構築のための基礎試験を実施する。更に,群分離プロセスの主工程を決める上で重要な要素技術について評価するため,高レベル模擬廃液を使用した化学工学的予備試験を実施する。
 乾式群分離法の主要技術についての確証を行うとともにシステム試験を実施する。また,TRU核種を用いた乾式群分離ホット基礎試験により基本的技術の確認を行った後,乾式群分離ホット試験を実施する。
 第II期(昭和72~75年):抽出溶媒のリサイクル等を含めた群分離プロセスの総合工学試験の段階であり,化学工学試験も兼ねた高レベル実廃液による試験を実施する。
 また,乾式群分離法によるTRU核種の群分離実証工学試験を行う。
 なお,昭和76年以降においては,群分離プロセスについてのシステム確立のためにパイロット規模試験及びそれに引き続き実用化試験を実施する。

4.2 不溶解残渣からの有用金属回収技術の研究開発
 使用済燃料溶解液中の不溶解残渣に含まれるルテニウム,ロジウム,パラジウム等を回収するため,有用金属回収技術に関する研究開発を実施する。
 第I期(~昭和71年):有用金属回収プロセスの実用化のために必要となる基礎的総合試験研究の段階であり,模擬試料及び実不溶解残渣を使用しての試験を実施する。実不溶解残渣を使用した工学基礎試験の開始に当たっては事前に,模擬試料を用いて回収プロセスについての基礎試験を実施する。更に,重要な要素技術について評価するため,実不溶解残渣を使用した工学試験と併せて設計研究及び所要のモックアップ試験を行う基礎工学試験を実施する。
 第II期(昭和72年~75年):不溶解残渣からの有用元素回収の実証試験の段階であり,パイロット規模の技術実証試験を実施する。
 なお,昭和76年以降においては実証試験の成果を基に実用化を目指す。

4.3 分離元素・核種の有効利用技術の研究開発
 群分離によって得られるTRU核種群,ストロンチウム・セシウム群及びテクネチウム・白金族元素群からアメリシウム241,キュリウム244,ストロンチウム90,セシウム137,テクネチウム99,ルテニウム,ロジウム,パラジウム等を単離精製し有効に利用するための研究開発及び不溶解残渣から回収したルテニウム,ロジウム,パラジウム等を単離精製し有効に利用するための研究開発を実施する。なお,白金族元素の有効利用技術の研究開発では,パラジウム107等の放射性同位体を分離・除去することを目的としたレーザー同位体分離技術の研究開発を併せて実施する。
 第I期(~昭和71年):有用核種の単離精製法及び有効利用に供するための加工調製法に関する化学的基礎試験の段階であり,模擬試料及び実試料による試験を実施する。併せて有効利用・加工システムに関する基礎試験に着手する。
 第II期(昭和72年~75年):単離精製法及び加工調製法に関する総合工学試験の段階であり,実試料による試験を実施する。同時に有効利用・加工システムに関する工学試験を開始する。
 なお,昭和76年以降においては単離精製法,加工調製法及び有効利用・加工システムに関するパイロット規模試験及びそれに引き続き実用化試験を実施する。

5.消滅処理技術研究開発の長期計画
 消滅処理技術の研究開発においては,FBR及び専焼高速炉の原子炉による消滅,陽子加速器による核破砕消滅並びに電子加速器による光核反応消滅の研究開発を,それぞれ次に示す長期計画に従って推進することとする。
 なお,消滅処理技術は未踏分野であり,多くの可能性も予想されるので,上記以外の核融合反応を利用した消滅方法等の研究についても検討していくことが必要である。(なお,以下の第I期及び第II期の時期はおよその目標である。)

5.1 原子炉による消滅技術の研究開発
 TRU核種を中性子で核分裂させて短寿命のFPに変換し,同時にその変換エネルギーを有効利用するという観点から,TRU核種の消滅に原子炉を用いることは極めて合理的であり,かつ,技術的に早期実現の可能性が高い。TRU核種消滅用の原子炉としては,TRU核種の多くが高速中性子で核分裂を起こすことから,現在開発中のナトリウム冷却型FBRの利用を図る一方,長期的には消滅処理をより効率的に行うことのできる専焼高速炉の開発が必要とされる。また,消滅処理のためにプルトニウムを燃料とする熱中性子炉の利用も考えられる。
 FBRは,現在,実験炉「常陽」が運転中,原型炉「もんじゅ」が建設中であり,更に大型炉の研究開発が進められている段階にある。これらのFBRにTRU核種を装荷し,消滅させることの研究開発を実施する。
 専焼高速炉は,TRU核種を燃料とし,FBRより高速の中性子で効率的にTRU核種を消滅させる原子炉である。この専焼高速炉の設計概念は,TRU核種の核データの精度及び燃料としての成立性に大きく依存し,また,FBRと共通する分野も多いことから,FBRでの研究開発と並行して,長期的な設計研究を実施し,研究開発課題を摘出していく。
 FBR及び専焼高速炉に共通する課題として,TRU核種の炉物理データの整備と燃料物性の究明がある。これらの課題について,国内の施設を活用するとともに,海外の研究機関との技術協力により効率的に研究開発を実施する。

5.1.1 炉物理・物性
 消滅処理の対象となるTRU核種については,核的断面積,核分裂データ等の炉物理データ及び燃料としての物理的・化学的物性データがほとんど整備されていない現状であり,今後次に示す段階的な研究開発を実施する。
 第I期(~昭和67年頃):核データライブラリにおけるTRU核種データの取得・評価・整備を行うとともに,高速炉臨界実験装置(FCA)での反応率測定のためのサンプル試験等によりその精度を検証する。
 物性データについては,単体及び化合物・合金としての基礎的な物性に関するデータを測定・収集する。
 第II期(昭和68年頃~75年):FCAでTRUの核種及びサンプル量を増大させた炉物理実験を行い,また,「常陽」でのサンプル照射試験の解析によりTRU核種の燃焼チェイン,消滅効果等の評価を行い,炉物理データを整備する。
 物性に関しては,TRU核種を添加したMOX燃料ペレットの物性測定を行い,「常陽」での照射試験に反映させる。また,金属,炭化物及び窒化物燃料にTRUを混合した場合についても同様の物性測定を行う。
 なお,昭和76年以降においては,臨界実験装置を整備し,専焼高速炉を模擬した臨界実験,を行い,炉物理データ及び設計計算コードの整備を図るとともにそのデータを専焼高速実験炉の設計に反映させる。
 物性については,「常陽」での種々の照射試験によりデータベースを構築し,FBR応用及び専焼高速実験炉の設計に反映させる。

5.1.2 FBR応用
 FBRの開発においては,長寿命MOX燃料(混合酸化物)(燃焼度150,000MWd/t以上)を実用化しつつあり,遠隔自動化された燃料製造施設も実稼動し,また,炉心高性能化を目的として金属,炭化物,窒化物等の新型燃料の研究開発も進められつつある。従って,次に示す進め方によりFBRでTRU核種を消滅させる研究開発を実施する。
 第I期(~昭和67年頃)FBRにおけるTRUの消滅特性を評価し,TRU核種混合燃料を用いた炉心特性及びTRU核種消滅処理に適した大型FBRの炉心概念を明確にする。
 TRU核種消滅用燃料としては,MOX燃料を主体とし,他のセラミックス及び金属燃料も対象とする。
 「常陽」でTRU核種消滅用燃料のサンプル照射試験を開始するとともに,TRU核種を混合したMOX燃料の照射試験を行う。更に,群分離によって得られるTRU核種群の燃料調製に関する基礎試験を実施する。これは,専焼高速炉の燃料調製にも反映させるものとする。
 また,TRU核種を添加したウラン-プルトニウム系金属燃料を製作し,基礎特性を調べることにより燃料としての基本的成立性を評価する。
 更に,金属燃料炉心FBRで短半減期核種に変換する消滅特性及び炉心特性を評価する消滅用解析システムの開発を行う。
 第II期(昭和68年~75年)FBRを応用したTRU消滅大型炉心の概念設計を行うとともに,「常陽」での照射試験結果を参照しつつ,「常陽」,「もんじゅ」等への適用評価を行い,TRU核種を混合したMOX燃料の使用を図る。また,MOX燃料以外のTRU核種混合燃料についても基礎特性の調査を行う。
 例えば,金属燃料についても,照射試験及び照射後試験を実施するとともに,金属燃料FBRでのTRU核種の最適消滅法を検討し,併せてその検討結果を専焼高速炉の設計研究に反映させる。
 以上の試験研究の成果を踏まえつつ,「常陽」での装荷試験を実施する。
 なお,昭和76年以降においては,FBRへのTRU核種を添加したMOX燃料の装荷試験を行い,実用化を図るとともに,そのリサイクルを検証する。また,金属燃料サイクル内におけるTRU核種消滅処理用燃料のリサイクルを検証する。

5.1.3 専焼高速炉
 TRU核種は中性子エネルギーが1MeV程度以上になると中性子吸収断面積より核分裂断面積が大きくなり,核分裂する確率が高くなる。そのため,専焼高速炉即ちTRU核種のみで構成される高速炉が実現できれば,効率の高いTRU核種の消滅が可能になるとともに,再処理工場と専焼高速炉を一体化させることにより,輸送が不用となり,TRU核種の同一施設内への封じ込めが実現できる。
 専焼高速炉の開発に当たっては,FBR技術を基盤とするが,炉物理データの充実による核特性の把握,TRU燃料体の製造,照射特性データの取得が急務であり,最終的な評価に当たっては実験炉の建設も検討する。
 第I期(~昭和71年):技術的成立性について基本的検討を実施する段階であり,専焼高速炉の炉心及びプラントの設計研究を進め,技術的課題を特定する。
 TRU燃料の炉物理データ,物性データの取得のため,サンプル照射試験を実施する。
 また,TRU消滅処理システム導入のコスト・ベネフィット解析法の開発に着手する。
 第II期(昭和72年~75年):技術的成立性を実証する段階であり,実用専焼高速炉の予備検討のほか実験炉の予備設計を実施する。
 また,FCAにおいて核データ検証実験を行うとともに,FBRでの燃料照射基礎実験を実施する。更に,TRU核種群の燃料調製に関する工学的予備試験を実施する。
 以上のほか,TRU消滅処理システム導入のコスト・ベネフィット解析を行う。
 なお,昭和76年以降においてはシステムの成立性を実証する段階であり,実験炉の概念設計に続いて詳細設計を行い,実験炉の建設を目指す。
 また,実験炉等の核特性の検証のため,臨界実験を実施するとともに,燃料照射工学実験及び燃料調製工学実験を実施する。以上の研究開発に基づいて,TRU核種消滅処理システム導入の効果を評価する。

5.2 加速器による消滅技術の研究開発
 原子力の研究開発は,従来,核分裂によるエネルギーを利用する原子炉の開発を軸として進められてきたが,核燃料サイクルの一層の整備充実の観点から加速器をより積極的に活用していく方向が期待されるに到っている。即ち,加速器は,加速粒子のエネルギー及び粒子線束強度を変えることができ,また,臨界の問題がないので,原子炉に比べてより自由かつ安全に核反応を制御できるとともに強い粒子線束を得ることのできる可能性を有している。特に消滅処理に関しては,高強度の粒子線束を発生させることが可能であるので,速い消滅処理速度が期待される。また,加速器を用いた消滅処理の際に生ずる中性子を活用するなどの手段によってより一層の消滅処理の効率化等が期待される。
 なお,次項以下に述べる陽子加速器による消滅の第II期における陽子加速器の建設と電子加速器による消滅の第II期における電子加速器の建設にては,第I期の終了時点で総合的なチェック・アンド・レビューを行い,そのいずれか又は両者の建設に関し検討することが必要である。

5.2.1 陽子加速器
 TRU核種は,高エネルギーの陽子で衝撃すると,核破砕が起こり,短半減期の核種又は非放射性核種に変換される。
 この消滅方法は,変換の度合いを大きくすることが原理的に可能であると同時に,臨界炉を使用しないので安全性等からの制約が少ない点に特徴がある。また,核破砕の際に発生する中性子を種として,ターゲットの周囲に配した未臨界炉を駆動するハイブリッドシステムにより,陽子の加速に必要な電力を自給することが期待できる。一方,核破砕の効率について,炉物理実験を強化し確度の高い見通しを得ることと多量の廃棄物を処理するための大出力の陽子加速器の技術開発が課題である。
 第I期(~昭和67年):原理的な実現性を実証する段階であり,核破砕・粒子輸送シミュレーションコードの開発を行うとともに,消滅処理プラントの基本検討を実施する。
 また,ターゲット系の研究として,以上のシミュレーションコードによる核破砕性能予測の概略的な妥当性を検証するため,鉛及びウラン体系を用いた中規模炉物理実験を実施する。
 一方,加速器については,陽子加速器の基本検討のほか,大電流化及び高エネルギー化に関する要素技術の開発に着手する。
 第II期(昭和68年~75年):工学的な実現性を実証する段階であり,核熱・構造設計コードの整備を進めるとともに,消滅処理プラントの概念設計を実施する。
 また,消滅処理プラントの核破砕特性予測精度の検証を目的として,ウラン体系を用いた大規模炉物理実験を実施する。また,核破砕エネルギー領域(MeV~GeV)の核データの収集及び取得につとめる。
 加速器については,以上の炉物理実験,炉物理データ取得,更に,次の段階の試験を実施するため,10mA-1.5GeV級の陽子加速器を建設する。
 また,300mA-1.5GeV級の実用プラント用の陽子加速器の検討を行う。
 なお,昭和76年以降においては経済性を含めたシステムの確立性を実証する段階であり,消滅処理プラントの最適化設計を進め,核破砕効率のほか,エネルギーバランスを含めたプラント性能評価を含めた実用化研究を行う。
 また,ウランから主として構成されるターゲット部からなるパイロット規模の試験を行い,TRU燃料の核破砕性能や副次的に生成する放射性物質の評価のほか,熱的特性燃料・材料の照射特性等の工学試験データを取得する。
 以上の工学試験に基づいて,実用プラント規模の消滅処理プラントの技術的成立性について評価する。
 一方,加速器については,実用プラントのため,300mA-1.5GeV級の大出力加速器の要素技術の開発を行う。
 以上の研究開発に基づいて,加速器によるTRU消滅処理システム導入の効果を評価する。

5.2.2 電子加速器
 電子加速器による消滅処理方法は,光核反応を用いた技術であり,電子加速器で作られる高エネルギーガンマ線を処理系に加えるのみであるので,副次的な放射能の発生が少ない方法である。この方法について,TRU核種,セシウム,ストロンチウム等,幅広い核種を対象として研究を行うものとする。
 ガンマ線発生に用いられる電子加速器は,産業レベルの装置としても技術開発が進んでおり,所要の大電流加速器を開発する基盤は整備されつつある。
 また,光核反応の際に発生する中性子の有効利用を図り,ターゲットの周囲に配した未臨界炉を駆動することにより電子加速に必要な電力を自給することが期待できる。
 大電流の電子加速器を開発するために,ビーム安定化を中心にして理論及び実験による研究を行うことによって,電子加速器による消滅処理方法の実現化を図る。
 第I期(~昭和67年):総合基礎試験研究段階であり,消滅処理システム内での電子線,ガンマ線,中性子線等の輸送及び熱等のコード開発を行うとともに,消滅処理プラントの基本検討を実施する。
 ターゲット系研究として,炉物理データ取得のため既存の加速器を用いた基礎試験を実施する。
 また,大電流加速器の実現可能性の検討に最も重要なビーム安定化等に関する要素技術の開発を実施する。
 なお,消滅処理プラントのシステムは,安全な発電炉としての特徴を備えた電子加速器-未臨界炉のハイブリッドタイプであるが,次の第II期に進むに当たり,エネルギーバランス等についてもチェック・アンド・レビューを行う必要がある。
 第II期(昭和68年~75年):工学的な実現性を実証するため,100mA-100MeV級を目標とした研究用加速器を用いて核熱・構造設計コードの整備を進めるための工学試験を行うとともに,消滅処理プラントの概念設計及び詳細設計を実施する。
 なお,昭和76年以降については,1A-100MeV級の電子加速器を用いてパイロット規模の消滅処理試験を実施する。

6.国際協力
 群分離・消滅処理技術に関する研究開発は,欧州共同体,西独,仏,米国等で進められてきているところである。
 群分離・消滅処理技術の研究開発は,原子力開発を進めている国の共通の重要課題であり,我が国が,今後更に積極的に群分離・消滅処理技術の研究開発を進めるに当たっては,これらの海外諸国と緊密な協力を進めるとともに,OECD/NEA等の国際機関とも連携を図っていくことが必要である。

7.おわりに
 本報告書において高レベル放射性廃棄物の群分離技術及び長寿命核種の消滅処理技術に関する研究開発の長期的な進め方を示したが,群分離技術開発とも関連して,今後,高レベル放射性廃棄物以外のTRU核種を含む廃棄物からのTRU核種の分離技術に関しても研究開発を進めていくことが重要であると考えられる。
 群分離・消滅処理の実用化までには安全性,経済性等も含めた総合的な検討が必要であり,本報告書の長期計画に基づく研究開発についても,概ね3年乃至5年毎に適宜チェック・アンド・レビューを行った上で見直していくことが適当であると考えられる。
 また,今後の長期計画に基づき具体的な研究開発を推進していくに当たっては,行政当局が関係研究開発機関と密接な連携・協力を進め,具体的な実施方策,国際協力等に関し全体的な研究開発の総合調整を図っていくことが必要であると考えられる。

(参考1)群分離技術研究開発のスケジュール

(参考2)原子炉による消滅処理技術研究開発のスケジュール

(参考3)加速器による消滅処理技術研究開発のスケジュール

(参考4)群分離(核種分離)・消滅処理概念図


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