第2章 我が国の原子力開発利用の動向
1.原子力発電の動向―基軸エネルギーとしての確立

(3)プルトニウム利用への展開

 使用済燃料を再処理することによって得られるプルトニウムは,準国産エネルギー資源と考えられ,これを利用することによりウラン資源の有効利用が図れるため,エネルギーの安定供給上,その意義は極めて大きい。このため,プルトニウム利用体系の確立を目指して,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉での利用を基本とし,そのための研究開発を進めていくこととしている。
 当面は,軽水炉及び新型転換炉において一定規模のプルトニウム利用を進め,これにより,将来の高速増殖炉時代に必要なプルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立及び核燃料サイクルの総合的な経済性の向上を図り,これと並行して高速増殖炉の研究開発を着実に進める方針である。そして,2020年代から2030年頃を目途に,高速増殖炉によるプルトニウム利用体系の確立を目指すこととしている。

① 軽水炉によるプルトニウム利用及び新型転換炉
 軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,我が国においては,電気事業者を中心に進められている。
 原子力発電所におけるウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の少数体実証計画として,日本原子力発電(株)が敦賀1号機(BWR)に昭和61年にMOX燃料体2体を装荷したのを始め,関西電力(株)が美浜1号機(PWR)に,昭和63年3月にMOX燃料体4体を装荷した。
 これを通じ,各種の技術データが得られることとなっている。
 また,これに引き続いて,1990年代前半を目途とした実用規模実証計画(最終装荷規模1/4炉心程度)及び1990年代後半の本格的利用(最終装荷規模1/3炉心程度)も計画されている。
 新型転換炉(ATR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,現在,原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
 また,実証炉(電気出力60万6千キロワット)については,ATR実証炉建設推進委員会(電源開発(株),動力炉・核燃料開発事業団,電気事業連合会,科学技術庁,通商産業省で構成)の了承に基づき,建設・運転の実施主体である電源開発(株)が,昭和73年の運転開始を目指して青森県下北郡大間町に建設準備を進めている。

② 高速増殖炉
 高速増殖炉(FBR)については,これまで動力炉・核燃料開発事業団が中心となって開発を進めてきている。同事業団の実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)は,昭和52年の初臨界以来,現在も順調な運転を続けており,多くの技術データが蓄積されている。また,この成果を踏まえ,原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設工事が福井県敦賀市において昭和67年度臨界を目指して進められている。
 また,関連する研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターを中心として原型炉「もんじゅ」及び大型化等に関する研究開発が実施されている。一方,民間においても所要の研究開発が行われている。
 原型炉「もんじゅ」に続く実証炉の開発については,官民の協力の下に進め,同炉の設計・建設・運転に主体的役割を果たす電気事業者が,動力炉・核燃料開発事業団と密接に連携してこれを進めることとなっている。これを受けて,電気事業者は実証炉1号の建設・運転主体を日本原子力発電(株)として,同社を中心に実証炉関係の研究開発,実証炉の基本仕様の選定等を行うこととしている。

 原子力委員会高速増殖炉開発計画専門部会では,高速増殖炉の開発に関する長期的推進方策,研究開発の推進方策等について調査審議を進めていたが,昭和63年8月,新長期計画に示された基本計画を踏まえつつ今後10年間に取り組むべき重要な研究開発課題につき,その内容,目標,成果の反映時期及び主な研究開発機関を明らかにした報告書を取りまとめた。

③ 高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉使用済燃料の再処理は,高速増殖炉の増殖の特性を発揮させ,燃料の有効利用を図るために不可欠である。
 高速増殖炉使用済燃料の再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,実規模モックアップ試験,高レベル放射性物質研究施設における基礎的データの蓄積等が進められている。
 今後は,工学規模でのホット試験を経て,2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントを建設することとしている。

④ MOX燃料加工
 今後プルトニウム利用の展開を図っていくためには,MOX燃料加工の実用化に向けて,多量のプルトニウムの安全取扱技術を含め,所要の研究開発が必要である。
 MOX燃料加工については,これまで動力炉・核燃料開発事業団が行ってきており,供給能力は新型転換炉原型炉「ふげん」用燃料製造施設の10トンMOX/年及び高速増殖炉用燃料製造施設の5トンMOX/年である。また,現在,新型転換炉実証炉用燃料製造施設の建設が進められている。
 前述した電気事業者によるプルサーマル実用規模実証試験用燃料加工については動力炉・核燃料開発事業団の施設を活用し,その設備増強等により対応することとしている。また,将来の本格的利用については,原則として民間事業として実施するものとしており,今後具体的な燃料加工体制を確立していくこととしている。

⑤ プルトニウムの輸送
 海外再処理により回収されるプルトニウムの日本への国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備を図る必要がある。
 回収プルトニウムの国際輸送の方法としては,航空輸送及び海上輸送が考えられる。航空輸送については,現在,動力炉・核燃料開発事業団において,万一の航空機事故の際にも健全性を確保しうる輸送容器に関する研究開発等が進められている。また,海上輸送についても,昭和63年10月,新日米原子力協力協定の下で米国の包括同意が得られたため,今後,その検討を進めることとしている。


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