第2章 我が国の原子力開発利用の動向
1.原子力発電の動向―基軸エネルギーとしての確立

(1)軽水炉等による原子力発電の動向

① 原子力発電の現状
 我が国の原子力発電は,昭和62年8月に2基が運転を開始したことにより,昭和63年11月末現在,運転中のものは合計35基,発電設備容量は2,788万1千キロワットとなっている。これに建設中及び建設準備中のものを加えた合計は53基,4,590万8千キロワットとなっている。
 また,原子力発電は,昭和62年度末現在,総発電設備容量の17.1%,昭和62年度実績で,総発電電力量の29.1%と石油火力の23.8%を上回り,昭和60年度の実績で石油火力を上回って以来,主力電源として着実に定着してきている。また,設備利用率は,昭和62年度には77.1%と過去最高の実績となった。これは,定期検査期間を除けば,ほとんど故障・トラブル等による停止なく運転されていることを示している。実際,運転時の故障・トラブル等に基づく計画外停止回数も,昭和61年には0.4回/基・年と低く,引き続き諸外国に比べ優れた実績を示している。これは,軽水炉に係る技術開発・改良の推進,故障・トラブル等を含めた運転経験情報の活用等を図り,故障・トラブル等の克服に努めてきた成果である。

② 原子力発電の経済性
 前述したように,昭和62年度運転開始ベースのモデルプラントについて,耐用年を通じた発電原価を通商産業省が試算した結果によれば,原子力が9円/キロワット時程度,石炭火力が10~11円/キロワット時程度,石油火力が11~12円/キロワット時程度,LNG火力が11~12円/キロワット時程度となっている。現時点においては,以前に比ベ他の電源とのコストの差が接近してきているものの,原子力発電は依然として最も経済性の高い電源である。

③ 立地の促進等
 現在,政府及び事業者は,立地を促進するため,各種メディア,原子力モニター制度等を活用して,地元住民をはじめとする国民の理解と協力を得るための努力を続けている。
 チェルノブイル原子力発電所事故以降,国民全体に,原子力発電の安全性,放射能汚染等に対する不安が広がってきており,我が国の原子力発電の安全性等に係る説明会,パンフレット配布等が適時実施されている。
 また,立地地域の振興対策の拡充を図るため,電源三法の活用等が逐次図られている。

④ 軽水炉技術の研究開発
 我が国では,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が一体となり,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上,従業員の被ばく低減等を目的とした軽水炉改良標準化計画を昭和50年から進めてきた。このうち,第1次及び第2次計画の成果は,既に運転を開始しているプラントに適宜反映されている。
 第3次改良標準化計画は,第1次,第2次計画の成果を基に自主技術を基本として,信頼性,稼働率,運転性,立地効率の向上,従業員の被ばく低減等を図り日本型軽水炉の確立を目指して昭和56年から開始された。本計画においては,現在運転中あるいは建設中の在来型軽水炉について引き続き一層の改良を図るとともに,これと並行していわゆる改良型軽水炉(A-LWR)の開発が進められた。
 それぞれ昭和71年,73年に運転開始が予定されている東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号機及び7号機は,この改良型軽水炉の初号機になることとなっており,原子炉圧力容器内蔵型の冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等が採用されているほか,単位出力あたりの建設コストは在来型に比べ20%程度の低減が見込めるとされている。
 また,軽水炉は長期にわたって原子力発電の中核を担うこととなると考えられるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,更なる高度化を図っていくため,炉心の高機能化,燃料の高性能化,新素材の活用等の検討が進められている。

⑤ 原子炉の廃止措置
 廃止措置関連の技術開発については,商業用原子炉の廃止措置が必要となる昭和70年代前半に向けて,昭和56年度から,日本原子力研究所において動力試験炉(JPDR)をモデルとして行われてきている。昭和61年度からは,約6年間の計画でJPDR解体実地試験に取り組んできており,現在,すべての燃料体の搬出を終えて,炉内構造物の解体工事を実施している。
 また,(財)原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な原子炉圧力容器の切断技術,原子炉生体遮蔽壁の表層はく離技術,炉内構造物の切断技術等について確証試験を進めている。
 なお,廃止措置に伴って放射能レベルが極めて低い多量の放射性固体廃棄物が発生することから,現在,そのような廃棄物の合理的な処分を行うための放射能レベルに関する基準値について,原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会において検討を行っている。
 また,廃止措置に伴う費用の取り扱いについても検討を行うこととしている。


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