第1章 原子力に期待される役割とその展開
3.我が国における原子力政策

(3)科学技術の新たな展開と原子力開発利用

 原子力利用は人類が今世紀に生んだ科学技術であり,極めて広大な技術的可能性を有している。核融合,核熱利用,放射線利用等原子力の研究開発は新しい技術や知識を創出してきたが,さらに,近時,原子力の研究開発はその幅を広げ,より革新的な分野へと展開しつつある。また,原子力技術は広範な科学領域に立脚し,各種の先端技術,極限技術等を総合化する巨大なシステム技術としての特質を有し,幅広くかつ高度な技術や知識を集大成するものであり,広範な科学技術の牽引力となるものであることから,21世紀における社会の基盤となる知的資産の形成に貢献することとなる。
 例えば,従来からの医療,農業,工業等の分野での放射線の発生及び利用技術の進展を基にして,中性子線,重粒子線,陽電子線,放射光等新しいビーム発生・利用技術やトレーサー技術等放射線の高度利用の展望が急速に開けつつある。これらは,新材料の創出,電子材料の微細加工,生命現象の研究,医療への応用,原子核・素粒子の研究,高度な分析・測定技術への応用等幅広い科学技術分野での貢献が期待されている。さらに,核融合の研究は超電導技術の進展を促す一つの要因となり,放射線を利用した生物学研究は,生体高分子の構造解析,発がん・突然変異等の機構の解析等の面でライフサイエンスの進展に寄与している。
 したがって,原子力の研究開発の特質を踏まえて,新たな展開を図るため,創造型研究開発を指向し,ニーズの多様化・高度化に対応していくとともに,他の科学技術分野との連携・交流に努めることにより,次代の創造的な科学技術の育成を図っていく必要がある。


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