第1章 原子力に期待される役割とその展開
2.エネルギー利用と地球規模の環境影響

(1)エネルギー利用と環境への影響

 我々の享受している文明社会は,種々のエネルギー消費の上に成り立っている。しかしながら,このようなエネルギー利用は,多かれ少なかれ環境に対して何らかの影響を与えている。近年,酸性雨,二酸化炭素等による温室効果等,国境を越えた地球規模の環境汚染に対する関心が高まってきており,エネルギー利用による環境影響も世界的に注目を集めている。我々の経済活動や日常生活に大きな支障が生じるような形でのエネルギー利用の制限は現実的ではないものの,できる限りエネルギー利用による汚染を低減していく努力が求められていることは異論のないところであろう。
 石炭,石油等の化石エネルギーは,その燃焼に伴い,硫黄酸化物,窒素酸化物等の大気汚染物質が発生する。これらの放出量を削減するためには,排出源を確定し,これを規制することが必要となる。このような排出源には,自動車,家庭用熱源等の小規模・分散的なものと,工場,発電所等の大規模・集中的なものとがあるが,環境に与える影響度を勘案しつつ,排出抑制対策を行う必要があり,その一環として,火力発電所等の大規模・集中的な排出源に対する対策も極めて重要である。火力発電所については,我が国を先進として,各国において従来から規制基準が設けられ,これを受けて公害防止機器の設置等の環境対策を積極的に行うとともに,必要な技術開発に熱心に取り組んできている。しかしながら,排出源の増大に伴い,酸性雨等環境に対する集積的な効果が欧米を中心として地球規模にまで及んでいるのが現状である。
 一方,化石エネルギーの燃焼に伴い二酸化炭素が発生するが,これについては,現状の技術開発状況の下ではその放出を抑制することが困難であり,排出量の増大に伴い,大気中における濃度の上昇による影響が心配されている。このような二酸化炭素の濃度上昇は,地表から宇宙空間への放熱を妨げ,地上の気温を上昇させる「温室効果」をもたらすものとされている。
 昭和63年6月にカナダのトロントで開催された「大気変動に関する国際会議」において,オゾン層破壊,酸性雨と併せこの問題が議論された。その中で,現在のような二酸化炭素を中心とする温室効果ガス*濃度の増加が続けば,21世紀半ばまでに気温が1.5〜4.5°C,海面が30cm〜1.5m程度上昇し,大規模な気候変動や沿岸地方の都市の浸水等の影響が生ずるおそれがあるとしている。そして,このような問題への対策として,同会議においては,二酸化炭素の発生抑制や他の温室効果ガスの排出抑制等の実施を提言しており,その中で,原子力発電については,安全性,核不拡散,廃棄物処理の課題が克服されることを前提として代替エネルギーとなり得るとしている。


注) * 太陽光のうち,可視光線及び紫外線を透過させ,地表に到達させるが,地表からの赤外放射を吸収し,温室効果を生じさせるガス。二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素,クロロフルオロカーボン(フロンガス)等がある。

 太陽エネルギー,風力エネルギー等の再生可能エネルギーは酸化物や二酸化炭素の発生がないこと等,環境に対する影響が小さいという特長を有しているため,従来より積極的な研究開発が行われてきている。しかしながら,それらの多くは研究開発途上にあり,経済性,供給安定性等の点において技術開発の余地が大きい。特に,我が国においては,国土,自然条件等の制約により,再生可能エネルギーの大規模な開発は容易でないと考えられる。例えば,水力発電については,今後の新規開発地点は小規模で開発コストも割高になるものと考えられ,揚水発電を除いては,大幅な供給増は見込まれない。

 太陽エネルギーについては,国土,日照時間等の制約から現存の技術では,大規模な開発はなお困難と予想される。風力エネルギー等他の再生可能エネルギーについても,安定的なエネルギーを大量に供給することを期待することは困難である。このように,我が国においては,再生可能エネルギーは,経済性,供給安定性といった面で,原子力発電や化石エネルギーを代替することは困難と考えられ,補完的な役割を果たすものと考えられる。
 また,再生可能エネルギー利用による環境への影響は小さいものの,皆無というわけではない。例えば,水力発電,地熱発電等については,自然公園内等,豊かな自然環境を有する場所に利用可能なサイトが多いため,開発に伴い何らかの環境影響が生じたり,水力発電については,河川の流量変化等の影響が生じるというおそれがある。


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