第1章 原子力に期待される役割とその展開
1.世界のエネルギー事情と原子力発電

(2)将来のエネルギー需給見通しと原子力発電

 将来の世界のエネルギー需要は,先進国において省エネルギーの進展,産業構造の変化等によって今後それ程大きな伸びは見込まれないが,開発途上国においては工業化の進展や人口の増加,生活水準の向上等から着実な増加が予測される。現在,国連統計によると,開発途上国には世界人口の約3/4の人々が住んでいるが,そのエネルギー消費量は,全世界の約1/4に留まり,1人当たりのエネルギー消費量は先進国の約1/10にしか過ぎない。これらの国々の人口規模と今後の経済発展に伴うエネルギー消費単位の増大を勘案すると,開発途上国におけるエネルギー需要の伸びは,潜在的に極めて大きなものと考えられる。
 したがって,世界全体のエネルギー需要も緩やかながら着実に伸びていき,自由世界のエネルギー需要は,日本エネルギー経済研究所の見通しによると,2000年には1983年の約1.4倍に増大するものと見込まれている。

 中長期的に見た石油需給については,需要面からは,先進国において伸びを極力抑制するとしても,新興工業経済地域(NIES)をはじめとして,開発途上国等において相当の伸びが見込まれるため,全体としては増大傾向にある。また,供給面からは,OPEC(石油輸出国機構)諸国以外の産油地域の生産能力の低下が予想され,OPEC諸国が増産に踏み切ったとしても,世界の石油生産能力はほとんど横ばいで推移することとなり,これにより再びOPEC依存度が上昇し,石油供給が不安定化することが懸念される。このため,石油需給は再びひっ迫し,原油価格は上昇するものと考えられている。
 このような見通しの下で,先進各国は,引き続き,石油依存度低減を目標とした政策を推進していくこととしている。脱石油のための政策の柱は省エネルギーと石油代替エネルギー開発の推進である。
 省エネルギーに関しては,石油危機以降,各国はエネルギー利用効率の改善等の技術開発及び政策的努力を積極的に行ってきており,この努力は継続していく必要がある。
 石油代替エネルギーの開発は,石油依存度を低減させるためだけでなく,発電用燃料として使用されている石油を代替することにより,その分代替のきかない化学工業の原料等への石油供給を増やすためにも必要である。また,今後,経済活動の拡大が期待される開発途上国に,その経済発展に必要な石油資源を残しておくことも,我が国を始めとする先進国の責務である。
 このような考え方に基づき,先進諸国を中心に,石油代替エネルギーとして,石炭,天然ガス等の化石エネルギー,水力,地熱,太陽等の再生可能エネルギー,原子力発電等の開発が行われている。どの石油代替エネルギーをどの程度,どのようなバランスで開発していくかについては,各国のエネルギー事情により自ずと異なるが,後述するとおり,多くの先進諸国においては,量的,経済的,技術的観点及び窒素酸化物,二酸化炭素等を発生させないという環境への影響の観点から,原子力発電をエネルギー供給源の主力の一つとして,安全確保に万全を期しつつ,積極的に開発していくこととしている。
 例えば,1987年に経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)が発表した長期展望によると,世界の原子力総発電設備量は,2000年には5〜6億キロワット,2025年には9〜22億キロワットに達すると予測されている。


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