第1章 原子力に期待される役割とその展開
1.世界のエネルギー事情と原子力発電

(1)最近のエネルギー事情と原子力発電の現状

 世界のエネルギー需要の伸びは,第2次石油危機以降,基調としては鈍化する傾向にある。また,一次エネルギー源の多くを占める石油資源については,消費量が抑制されていること,新規油田の探査・開発の進展により供給能力に余裕があること等から,近年,その価格は低位にある。この石油価格に連動して,天然ガス,石炭の価格も低水準で推移しており,全体としてエネルギー需給は緩和基調にある。
 このようなエネルギー需給の緩和基調の背景には,石油危機を契機とした各国における省エネルギー努力及び近年の緩やかな経済成長の他に,石油代替エネルギーの開発によるエネルギー供給源の多様化が大きく貢献している。特に,全世界のエネルギー消費量の3/4を消費している先進諸国の中には,石油代替エネルギーの1つの柱として,積極的に原子力発電に取り組んでいる国が多い。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国においては,1983年から1987年までの間に,国内総生産(GDP)が約15%伸びたにもかかわらず,石油消費量は約5%伸びたに過ぎない。
 一方,原子力発電によるエネルギー供給は同期間に約1.6倍にも増大し,一次エネルギー供給全体に占める割合も5.8%から8.4%へとその比重を増している。このようなことから,原子力発電は,石炭,天然ガス等の他の石油代替エネルギーとともに,石油消費量抑制に大きく貢献してきていると考えられる。
 世界における原子力発電所は,1988年6月現在で410基(約3億1,562万キロワット)が運転中である。
 原子力発電所の新規運転開始基数は,この5年間,毎年20〜25基程度と安定しており,世界的に原子力発電計画が着実に進められていることを示している。また,1987年の原子力発電電力量は,1兆6,600億キロワット時に達し,これは世界の総発電電力量の約16%を占めるに至っている。
 原子力発電による発電電力量の割合は,毎年着実に増加しており,電力供給の主要な担い手としての地位を占めてきている。


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