はじめに

1. 今日,我が国の原子力発電は,既に35基,約2,788万キロワットの規模に達し,昭和62年度には総発電電力量の29.1%を占め,昭和60年度に石油火力発電の実績を上回って以来,主力電源としての地位を着実に築いてきている。また,このような原子力発電の推進に当たっては,安全対策に万全を期してきており,これまでの25年間にわたる我が国の原子力発電の実績の中において,公衆に影響を与えるような事故は皆無であり,運転時の故障・トラブル等に基づく計画外停止回数も,昭和61年には0.4回/基・年と世界で最も優れた実績を挙げている。これは,設計,建設,運転すべての段階における長年にわたる着実かつ地道な安全確保のための努力によるものである。
 また,核燃料サイクルについては,青森県上北郡六ヶ所村における三施設建設計画が具体化してきており,我が国における総合的な原子力発電体系の確立へ向けて着実な進展が見られる。
 原子力の研究開発分野においては,その科学技術全般に及ぼす波及効果にもかんがみ,基礎研究,基盤技術開発,先導的プロジェクト等が従来にもまして積極的に進められている。

2. このように,我が国の原子力開発利用は,安全性を確保しつつ,着実に進められてきているが,昨今,チェルノブイル原子力発電所事故により放出された放射性物質で汚染された食品のヨーロッパからの輸入問題や,伊方発電所における出力調整運転試験の実施をきっかけとして,国民の間に原子力発電の安全性・必要性等に対する関心が高まってきている。そこで原子力委員会は,本年の年報の場を借りて,何故我が国において原子力なかんずく原子力発電を推進する必要があるかを改めて述べることとした。

3. 原子力開発利用を円滑に進めていくためには,目標達成に向けた関係者の不断の努力と共に,国民の理解と協力を得ることが必要であり,今後とも関係者によるこのための努力がなお一層求められる。また同時に,原子力委員会は,原子力開発利用長期計画に基づき,今後の技術の進展や諸情勢の変化に適切に対応しつつ,国民の信頼に応える原子力開発利用の展開に努めていくことが重要であると考えている。


目次へ          第1章 第1節(1)へ