第3章 安全の確保及び環境保全
1.ソ連チェルノブイル原子力発電所事故に対する我が国の対応

 昭和61年4月26日午前1時23分(日本時間同日午前6時23分),ソ連のチェルノブイル原子力発電所4号炉で事故が発生し,大量の放射性物質が周辺環境に放出される事態となった。
 事故発生後,我が国においては,放射能対策本部(昭和36年に閣議決定により内閣に設置,本部長科学技術庁長官)の下で,環境放射能調査等の万全な放射能対策が講じられた。具体的には,32都道府県及び気象庁における空間線量率,雨水,浮遊じんの測定,防衛庁による高空浮遊じんの測定など,放射能監視体制を強化した。その後,事故に由来すると思われる放射性物質は全国的に検出されたが,国民の健康上問題となるものではなかったこと,放射能レベルが十分低い状態になったこと等により,放射能監視体制は,平常時の体制に移行された。
 一方,原子力安全委員会は,ソ連原子力発電所事故を極めて重大なものとして受けとめ,本件に関して幅広く調査,検討を行い,我が国の安全確保対策に反映させるべき事項の有無等につき審議することを目的として,昭和61年5月13EI,ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置した。
 本調査特別委員会は,同年9月9日,それまでに得られた情報,資料等をもとに事故の事実関係について整理するとともに,事故原因につき若干の評価を加えた第1次報告書をとりまとめた。
 その後,本調査特別委員会は,引き続き事故に関する情報,資料等の収集に努めるとともに,事故の状況等についての定量的な解析,評価等を踏まえ,我が国の原子力発電所の安全確保対策の現状について,改めて検討,評価し,我が国の原子炉施設の安全確保対策上意義ある事項について考察し,本年5月28日最終報告書をとりまとめた。
 本報告書では,結論として,今回の事故の状況に照らして,我が国の原子力発電所の安全確保対策の現状を調査した結果,我が国の原子力発電所の安全性は,現状においても十分に確保されており,今回の事故に関連して,現行の安全規制や慣行を早急に改める必要のあるものは見出されずまた,防災対策についても,我が国の原子力発電所の特徴等を考慮して定めた原子力防災体制及び諸対策を基本的に変更すべき必要性は見出されないと指摘している。また,「従来から認識し実行しているものの,改めて心に銘ずべき事項」として以下の7項目を指摘しており,これら7つの事項については,その重要性を再認識することにより,今後の我が国における安全性の一層の向上に資していくことが重要であるとしている。
(1)個々の設計の改良に応じた適切な安全評価及びそのための研究
(2)異常事態に関する知識の充実及び運転管理面への反映
(3)安全意識の醸成
(4)人的因子及びマン・マシン・インターフェイスに関する研究
(5)シビアアクシデントに関する研究
(6)原子力防災体制及び諸対策の充実
(7)安全性に関する情報交換,研究等に関する国際協力


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