第1章 原子力発電
(参考)諸外国の動向

世界で運転中の原子力発電設備容量は,昭和62年6月末現在,運転中のものは389基,2億9,068万キロワットに達しており,建設中,計画中のものを含めると総計650基,5億4,228万キロワットとなっている。

 現在,欧米等の先進諸国を中心として世界の26ケ国で原子力発電所の運転が行われているが,その他開発途上国等においても原子力発電所の建設あるいは計画が進められており,これらの国をあわせると37ケ国にのぼっている。
 運転中のものについてみると,米国が全世界の原子力発電設備容量の約31.2%を占めており,フランス,ソ連,日本がそれに続いている。
 炉型別では約8割が軽水炉で占められており,このうち,約7割が加圧水型軽水炉(PWR),残り約3割が沸騰水型軽水炉(BWR)となっている。
 世界各国とも電力需要の伸び悩み等で,エネルギー計画の下方修正が図られているが,そのような状況下においても,原子力は,石油代替エネルギーの中核として,その供給安定性と優れた経済性のため注目されており,今後もさらに原子力発電規模は拡大していくと考えられる。
(米 国)
 米国では,昭和61年において,新たに4基,昭和62年において4基,計約428万キロワットが運転を開始したことによって,昭和62年6月末現在,100基,約9,082万キロワットの原子力発電所が稼動しており,世界最大の原子力発電国どなっている。また,昭和61年の原子力による発電電力量は約4,140億キロワット時で総発電電力量の約16.6%を占め,原子力発電は米国の電力供給に大きく貢献している。
 一方,電力需要の伸びの鈍化,複雑な許認可手続き等の建設期間の長期化と高金利等による建設費の高騰等により,1970年代から計画中,建設中の原子力発電所のキャンセルが相次いでいた問題も,昭和60年に入ってからはキャンセルは発生していない。しかし,原子力発電所の新規発注は昭和54年以来途絶えているため,原子力産業界は,原子力産業の活性化を目指し,米国原子力産業会議(AIF)を米国エネルギー啓発委員会(USCEA)に吸収し,既存の原子力発電事業者経営・人材委員会(NUMARC)の機能を強化する等,原子力産業団体の機能の再編を行った。
 また,エネルギー省は,昭和62年3月,国家エネルギー保障に関する報告書を提出した。その中で,原子力発電の今後の推進を図るうえで,連邦政府が,①産業界の努力とかみ合う将来計画を遂行すること,②立法,許認可,規制の確実な措置をとること,③電力会社の電気料金規則を改善すること,④放射性廃棄物管理システムを確立すること,の4つを実施することを勧告している。
 そして,エネルギーセキュリティ上,石油が最も重要な資源であるとしながらも,成長を続ける電力需要の主要な電力供給源として,また,エネルギー源の多様化を図るうえで原子力発電の果たす役割の重要性は増大するとしている。
(フランス)
 フランスでは,昭和61年において新たに2基,昭和62年において3基,計約360万キロワットが運転を開始したことによって,昭和62年6月末現在,48基,約4,574万キロワットの原子力発電所が稼動しており,世界第2位の原子力発電規模を有している。また,昭和61年の実績では原子力による発電電力量は2,414億キロワット時で総発電電力量の約70%を占めており,原子力発電は電力供給の中心となっている。
 また,次世代の原子炉として,高速増殖炉(FBR)の研究開発分野でも世界をリードしている。FBR原型炉フェニックス(25万キロワット)が昭和48年に運転を開始しているが,さらにFBR実証炉スーパーフェニックス(124万キロワット)も昭和61年12月に定格出力運転に達している。しかし,営業運転開始は,本年3月にナトリウムの漏洩が発見された燃料貯蔵ドラムの修理作業を実施するため,繰り延べられている。
 フランスにおいては,チェルノブイル事故後,1990年代に国内の電力生産量の76~78%を原子力発電で供給するという原子力計画の変更は行われなかったが,原子力安全最高会議(CSSN)の役割を拡大し,原子力安全情報最高会議(CSSIN)と改称し,原子力情報を広く提供するようにした。また,これとは別に本年1月より原子力発電所の放射線測定値や安全性についての情報を提供する週報サービスを実施している。
 しかしながら,近年電力需要の鈍化により設備が過剰ぎみとなってきている。現在では90万キロワットPWRユニットのほとんどが負荷追従運転を行っている。したがって,原子力の発注規模も今までの約5基/年から1基/1.5年のペースに落ちると見られている。このため原子炉メーカーであるフラマトム社は人員削減,メインテナンス,エンジニアリングなどの部門への経営の多角化を図っている。
(ソ 連)
 ソ連では,昭和61年において新たに2基,昭和62年において3基,計約300万キロワットが運転を開始したことにより,原子力発電設備容量は47基,約3,125万キロワットとなっており,米国,フランスに次いで第3位の原子力発電国となっている。また,国際原子力機関(IAEA)のデータによると,昭和61年の原子力による発電電力量は約1,620億キロワット時であり,これは総発電電力量の11%に当たる。
 ソ連の原子力開発は,5年おきに策定される経済計画の燃料・エネルギー生産部門の中で策定されるが,昭和61年2月に示された第12次5ケ年計画(1986年~1990年)の中で原子力発電開発については,1990年までに原子力発電規模を7,000万キロワットとし,総発電電力量に占める原子力の割合を20~21%にまで引き上げる計画となっている。
 昭和61年4月26日,チェルノブイル原子力発電所で発生した事故では,大量の放射性物質が大気中に放出され,死者31名(昭和62年8月31日現在)と,多くの放射線被ばくによる負傷者が出るなど世界各国にもいろいろな形で大きな衝撃を与えた。しかしながら,ソ連の原子力開発方針に対する同事故の影響はみられておらず,事故後開催されたソ連邦最高会議においても,チェルノブイル原子力発電所事故の教訓を生かした上で第12次5ケ年計画を変更なく実施していくことが再確認されている。
 その後,原子力発電省を創設して国内の原子力開発体制の強化を図るとともに,昨年末,チェルノブイル原子力発電所4号機と同型炉のRBMK炉(チャンネル型黒鉛減速軽水冷却炉)については,新規の建設は見合わせるとの方針を打ち出した。これにより,7基約900万キロワットのRBMK炉の建設が見送られたことになり,ソ連は今後,これを補うべくより安全な原子炉の研究,建設に全力を傾けることになると見られている。
(英 国)
 英国では,昭和61年に3基が運開した後,昭和62年のこれまでに運転を開始した原子力発電所はない。昭和62年6月末現在,38基,約1,275万キロワットの原子力発電所が稼動しており,昭和61年の実績では,原子力による発電電力量は約518億キロワット時で総発電電力量の約18%となっており,安定なベース負荷電源として現在利用可能な経済的オプションのびとつとして利用されている。また,従来のガス炉の経済性の問題と将来の炉型の多様化のために,従来の国産ガス冷却炉路線に加え,サイズウェル地点に英国として初めてPWRを導入することを決定し,本年6月から準備工事が開始している。そして今後引続き,複数基のPWRの建設が続くものと考えられる。
(西 独)
 西独では,昭和62年において新たに高温ガス炉原型炉THTR-300が運転を開始したことによって,昭和62年6月末現在,18基,約1,861万キロワットの原子力発電所が稼動しており,また昭和61年の実績では,原子力による発電電力量は約1,200億キロワット時で,総発電電力量に占める割合は,約30%に達している。また,西独は国内の軽水炉開発に力を注ぐ一方,新型炉として,高温ガス炉(HTGR),FBRの研究開発を進める等,原子力開発に積極的に取り組んでいる。
 チェルノブイル事故後の昨年6月に機構改革を行い,「環境・自然保護・原子炉安全省」を新設した。西独では,電力需要の低迷から今後2000年までに必要な原子力発電所は,せいぜい2~3基程度と考えられている。このため,原子力産業は米国,ソ連,中国等と積極的に交渉して,輸出に一層の努力を注いでいるが,本年10月,西独唯一の原子炉メーカーであるKWU社が親会社のジーメンス社に吸収される等,産業界の再編が行われてLいる。
(イタリア)
 イタリアにおいては,昭和62年6月末現在,3基,133万キロワットの原子力発電所が稼動しており,総発電電力量に占める原子力の割合は約5%(昭和61年)とあまり高くない。
 原子力関連諸法のうち原子力立地促進等のための3条項の廃止の是非を問う国民投票が11月に行なわれ,上記条項を廃止するとの方向が示された。
(オーストリア)
 オーストリアにおいては,完成済のツベンテンドルフ原子力発電所の廃止・解体を決定し,チェルノブイル事故により原子力から完全に撤退することを決めた唯一の国となった。
(韓 国)
 韓国においては,昭和62年に1基95万キロワットが運転を開始したことにより,昭和62年6月末現在,7基572万キロワットの原子力発電所が稼動しており,昭和61年の実績では原子力による発電電力量は283億キロワット時で,総発電電力量に占める割合は約44%に達している。
 一方計画中の,KNU-11,12(霊光-3,4)(各95万キロワット,PWR2基)については,4月,原子炉機器供給に関する契約が韓国電力公社と米国の原子力メーカー3社との間で結ばれた。


目次へ          第2章へ