第3章 主体的・能動的な国際対応の推進―国際社会への貢献
1.国際対応の新たな動向

(3)核不拡散対応

 〔これまでの状況〕
 我が国は,原子力の研究,開発及び利用を平和利用に限って推進している立場から,国際的核不拡散の枠組みの維持・強化に協力している。
 核不拡散を保証する国際的枠組みとしては,「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)があり,この条約の下でIAEAによる保障措置が行われている。これに対し我が国は,原子力平和利用と核不拡散とは両立し得るとの立場から,合理的な核不拡散の在り方を検討しており,国際的な秩序を確立するため,二国間及び多国間で種々の協議を進めている。
① 我が国は,米国と原子力協定を締結しており,同協定に基づいて,米国から濃縮ウラン等の核燃料を輸入している。米国から供給された濃縮ウランを用いて発電を行った際に生じた使用済燃料の再処理については,現在,米国による個別の同意を必要としている。
 これに対し,日米双方は昭和57年6月以来,再処理問題について従来の個別同意方式から,包括同意方式に変更するための協議を続けてきたが,本年11月,包括的同意方式を導入した新協定が署名された。
 今後,日米両国において所要の国内手続きを経た後発効することとなっている。
② 「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)については5年毎に必要に応じて条約の運用を検討するための再検討会議が開催されることが規定されている。この規定に基づき,現在までに3回のNPT再検討会議が開催されている。なお,NPTは1995年に一応期限切れとなり,その後の延長に関し審議されることとなっている。
③ 我が国は,日・IAEA保障措置協定に基づいて,国内保障措置体制(国内計量管理制度,国内査察)の維持を前提として,全原子力活動に対して,IAEAの保障措置を受け入れている。また保障措置技術については,IAEAの保障措置に関する技術開発を我が国として支援するため,「対IAEA保障措置技術開発支援計画」(JASPAS)を積極的に推進する等,保障措置の効果的・効率的適用のため,各種研究開発を行っている。
④核物質防護については,核物質の不法な移転によりもたらされる危険を防止することが重要な課題の一つであることが認識され,昭和55年3月,IAEAの場でまとめられた核物質防護条約が署名のため開放された。同条約は21か国の批准で発効することとなっており,本年1月,スイスが21番目の批准を行ったため,本条約は本年2月に発効した。


(注1)包括同意方式:核物質等に関する規制を個別ケースごとに行使するのではなく,あらかじめ,一定の条件を定め,その枠内であれば,一括して承認する方式。
(注2)保障措置:原子力発電,再処理等平和利用のための核燃料物質が核兵器等の軍事活動に転用されないように監視すること,及びその対応策。方法としては,設計審査,記録,報告,査察等がある。

 我が国においては核物質取扱量及び核物質の輸送機会の増大が予想されることから,核物質防護の重要性は強く認識されてきている。
 こうした状況を踏まえ,今後,我が国における原子力活動への国際的信頼性を確保するとともに,原子力先進国としての責務を果たすためにも,国内の核物質防護体制を強化する必要がある。このため,我が国としても核物質防護条約への早期加入とともに,我が国の核物質防護体制強化のため,関連法令の改正等諸般の準備を進めている。
 〔今後の方針〕
 我が国は,今後とも核不拡散を担保する健全な国際的な枠組みの維持・強化のため,原子力平和利用の厳格な推進者としての主体性をもつて核不拡散対応を図っていくこととしている。
 そのため,以下のことを進めていく。
① NPT/IAEA保障措置体制の維持・強化
 a)IAEAの機能の健全性の維持を図るため,
・職員・専門家の派遣の拡大
・保障措置技術向上のための研究開発協力の推進
 b) NPTの1995年以降の存続に向けての国際的コンセンサス作りへ貢献するため,
・多国間・二国間のあらゆる場を通じ, NPT非締約国の加盟を促進するための努力の継続
・NPT非締約国がフルスコープ保障措置を受け入れられるような効果的措置
 c)開発途上国対応のため
・IAEA技術協力プロジェクト等の効果的・効率的な推進
② 主体的核不拡散対応の明確化
 協力相手国の国情に十分配慮しつつ,我が国との間の原子力協定・政府間取極の締結,NPTへの加盟,フルスコープ保障措置の受け入れ等相手国に対し我が国が要請する協力条件の明確化
③ 核不拡散信頼性の一層の向上
・我が国の核不拡散対応の内外への明確化,適切な国際広報の実施の推進及び国内保障措置体制の充実・強化
・核物質防護条約への早期加入とともに,我が国の核物質防護体制を強化するための関連する国内法令の整備
④ IAEA保障措置の効果的・効率的適用
・民間再処理施設等の大型化・自動化された核燃料サイクル施設の円滑な操業と両立し得る効果的・効率的な国内保障措置システムの早期確立及びIAEA等の場を通じた働きかけ等による当該システムの信頼性の確保
・保障措置技術に関する研究開発の一層の充実


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