第2章 原子力研究開発の新たな方向 ―創造的科学技術の育成
3.先導的プロジェクト

(3)原子炉の利用分野の拡大

 原子炉の利用分野の拡大として,まずは推進動力源と熱利用が挙げられる。これらの原子力船,高温ガス炉の研究開発は,長期的なエネルギー問題の解決に寄与し得るとともに,小型動力炉分野の技術や高温照射条件下における材料技術等を先導する効果が大きい。
 現在,これらは,原子力船研究開発,高温工学試験研究として推進されている。
 〔原子力船〕
 我が国における原子力船の研究開発は,昭和60年3月日本原子力研究所が日本原子力船研究開発事業団の業務を承継して以来,日本原子力研究所が中心的役割を果たしている。同研究所において,原子力船「むつ」による研究開発及び舶用炉の改良研究を進めるとともに,それに関する基礎研究を関係試験研究機関と協力して推進している。
 原子力船「むつ」による研究開発については,昭和64年度に出力上昇試験,昭和65年度末までにおおむね1年の実験航海を実施した後,解役する予定である。現在,関根浜新定係港の港湾施設及び附帯陸上施設の建設が進められており,本年度末までに原子力船「むつ」を新定係港に回航する予定である。
 〔高温工学試験研究〕
 我が国の高温工学試験研究は,日本原子力研究所を中心として,進められてきた。同研究所では,高温ヘリウムの各種構造物への伝熱・流動等の実証試験,臨界実験,燃料要素照射試験等により,高温ガス炉要素技術の研究開発を行っている。
 最近のエネルギー情勢,核熱プロセス利用の需要の動向等高温ガス炉を取り巻く社会情勢の変化にかんがみ,原子力委員会は昭和61年3月高温ガス炉研究開発計画専門部会を設置し,今後の高温ガス炉研究開発の進め方等について検討を行い,昭和61年12月に報告書をまとめた。これを受けて新長期計画では,これまでの高温ガス炉の実用化への第一段階としての実験炉を建設する計画を見直し,多様な試験研究を効率的に行える高温工学試験研究炉を建設し,高温ガス炉技術の基盤確立及び高度化を図るとともに,高温工学に関する先端的基礎研究を進めることとしている。
 この考え方に基づき,現在,日本原子力研究所において高温工学試験研究炉の設計研究を進めている。


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