第1章 原子力発電の定着と今後の展開 ―基軸エネルギーとしての確立
4.核燃料サイクルの確立

(1)ウラン濃縮

 〔国内濃縮の意義〕


(注)核燃料サイクル
原子力発電所の燃料であるウランは,①採鉱された後,②製錬,転換,③濃縮(天然ウランに含まれるウラン235の割合を高める工程),④燃料加工(濃縮ウランを焼き固め,燃料棒の形にする工程)等の各工程を経て,⑤原子炉に装荷される。燃料は,原子炉で3~4年間燃焼した後,原子炉から取り出されるが,この使用済燃料の中には燃え残りのウランの他に,原子炉内で新たに生成したプルトニウムが含まれている。これらは,原子力発電所の燃料として再利用できる貴重な国産資源である。この燃え残りのウラン及びプルトニウムは,⑥使用済燃料の再処理により,分離・回収され,⑦ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料等の核燃料として加工され,再び,⑧軽水炉,⑨新型転換炉及び⑩高速増殖炉において利用される。さらこれらの使用済燃料も再処理され,得られたウラン及びプルトニウムは,再び原子炉の燃料として使用される。また,原子力発電所,再処理工場等で発生する放射性廃棄物については,その種類,性状に応じて適切に処理,処分等が行われる。このような核燃料の流れを核燃料サイクルという。

 我が国の原子力発電の運転に必要な濃縮ウランの供給については,米国及びフランスに依存している。現在,エネルギー需要の伸びの鈍化及びこれに伴う国際的な原子力発電開発計画の遅れにより,濃縮役務の国際的な需給バランスは緩和状態にある。このため,当面の濃縮ウランの確保については,楽観的に見通せる。しかし,我が国としては長期的に濃縮ウランの安定供給を確保するという見地に加え,プルトニウムの利用に関し,我が国の自主性を確保する観点から,経済性を考慮しつつ,国内におけるウラン濃縮の事業化を進めていく方針である。
 なお,事業確立の指標としては,2000年過ぎに年間3000トンSWU程度の規模(2000年時点の濃縮需要は年間7000トンSWU程度)とすることを目標としている。


(注) SWU:分離作業単位。ウランを濃縮する際に必要となる仕事量を表す単位。例えば,約0.7%の天然ウランから約3%に濃縮されたウランを1kg生成するためには,約4.3kg一SWUの分離作業量が必要である。

 〔遠心分離法による濃縮の事業化〕
 濃縮ウランの国産化に当たっては,当面遠心分離法によりこれを推進することとし,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として技術開発を進めてきた。同事業団は,昭和54年度に岡山県人形峠にパイロットプラントを建設し,ウラン濃縮の試験研究について多くの成果を上げている。さらに,これに引き続き,現在,商業プラントへの橋渡しとなる年間200トンSWUの原型プラントの建設・運転を民間の協力を得て進めている。
 これらの成果を踏まえて,青森県六ケ所村において1991年ごろの運転開始を目途に最終規模年間1,500トンSWUの商業プラントの建設計画が日本原燃産業(株)により進められている。
 本年5月,当該濃縮事業に関し,日本原燃産業(株)から原子炉等規制法に基づく事業の許可申請がなされており,また,ウラン濃縮機器(株)の遠心分離機製造工場も完成するなど,民間事業化に向けて準備が着々と進んでいる。
 〔次段階の技術開発〕
 現在の世界の濃縮役務能力過剰状態及び最近の円高の進行を背景に国内濃縮事業は,今後事業化の各段階において一層の経済性の向上を図っていくことが重要な課題となっている。
 原子力委員会においては,昭和60年12月にウラン濃縮懇談会を設置し,技術開発の推進方策等について審議を行ってきたが,昭和61年10月報告書がまとめられ,今後の技術開発戦略が示された。さらに,新長期計画において,今後の開発方針として以下の事項が確認された。
① 遠心分離法ウラン濃縮技術については,大きな性能向上が見込まれ,かつ,既存技術あるいは設備と整合性がよい新素材高性能遠心機の開発を,実用化への見通しを得るよう,官民の協力の下に鋭意推進する。
② レーザー法ウラン濃縮技術のうち,原子法については,当面数年間の研究組合方式による民間を中心とした集中的開発と日本原子力研究所等による長期的・基盤的な研究開発とを補完させつつ進め,1990年度ごろにはこれらの成果を見た上でその後の推進方策について必要に応じ見直す。また,分子法については動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所において原理実証研究等を進め,1990年度ごろに原子法との比較・検討を行い得るよう研究開発を進める。
③化学法ウラン濃縮技術については,現在,実用化への見通しを得るための試験が行われているところであるが,今後の進展を見守りつつ適切な時期に評価を行う。
 現在,新技術開発については,まず,新素材を用いた高性能遠心分離機の開発が,動力炉・核燃料開発事業団において,民間との協力により進められている。さらに,遠心分離法に続くウラン濃縮技術としてレーザー法の開発が進められており,これまで日本原子力研究所において原子レーザー法の研究が,また,動力炉・核燃料開発事業団の協力を得て,理化学研究所において分子レーザー法の原理実証研究が進められてきている。まが,原子レーザー法については,本年4月にレーザー濃縮技術研究組合が国の認可を受けて発足し,日本原子力研究所と協力を図りつつ,研究開発が本格化されることとなった。このほか,旭化成工業(株)において国の助成を受けて化学法の開発が進められている。


目次へ          第1章 第4節(2)へ