第1章 原子力発電の定着と今後の展開 ―基軸エネルギーとしての確立
3.軽水炉主流時代の長期化への対応

〔原子力発電の現状〕
 我が国の原子力発電は,本年に入って,新たに3基が運転を開始した。
 これによって,10月末現在,運転中のものは合計35基,発電設備容量2,788万1千キロワットとなっており,これに建設中及び建設準備中のものを加えた合計は51基,発電設備容量4,319万6千キロワットとなっている。
 また,原子力発電は,昭和61年度末現在,総発電設備容量の16.2%,昭和61年度実績で,総発電電力量の27.8%と石油火力の23.3%を上回り,主力電源として定着している。設備利用率も昭和61年度は引き続き75.7%と高い水準を維持し,また運転中のトラブルによる自動停止頻度も昭和61年度は0.2回/炉・年と引き続き低い優れた実績を残している。
 〔原子力発電の経済性〕
 経済性については,発電に係る経費が経年的に変化することを考慮した耐用年発電原価の昭和61年度運開ベースのモデルプラントについての通商産業省の試算結果によれば原子力が9円/キロワット時程度,石炭火力が11円/キロワット時程度,石油火力が12円/キロワット時程度となっている。(燃料価格については,原子力が年0〜1%の価格上昇のケース,石炭が年1〜3%の価格上昇のケース,また,石油は2000年に30〜40ドル/バーレルに上昇するケースをそれぞれ想定して試算している。また,本試算においては,原子力の発電原価には原子炉廃止措置及(注)耐用年発電原価:発電所の法定耐用年数(原子力16年,火力15年)期間にかかる費用が経年的に変化することを考慮し,その積算値を平均化した発電原価び放射性廃棄物の最終処分に係る経費は含んでいないが,これらの経費の上乗せ分は現時点の知識で推定すると,耐用年発電原価の概ね1割程度と見込まれる。)

 現時点においては,以前に比べ他の電源とのコストの差が接近してきているものの,原子力発電は依然として最も経済性の高い電源である。
 また,当面,ウラン価格の大幅な上昇は考えられないこと,研究開発により建設費を低減できる見通しが得られること等から,今後,原子力発電の経済性は高まるものと考えられる。
 〔立地の推進等〕
 現在,立地の促進の手段として,各種メディア,原子力モニター制度等の活用による広報活動等が積極的に推進されている。
 チェルノブイル原子力発電所事故に際しては,我が国の原子力発電の安全性等に係る説明会,パンフレット配布等広報が適時実施された。
 また,立地地域の振興対策の充実を図るため,電源三法の活用等が逐次図られている。
 〔軽水炉技術の研究開発〕
 これまで,自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上及び従業員の被曝低減等を目的とした軽水炉改良標準化計画が昭和50年から進められてきたが,このうち第1次及び第2次改良標準化計画が終了して実施に移されている。これに引き続いて現在,改良型軽水炉(A-BWR,A-PWR)の日米共同開発を中心とする第3次改良標準化の実施に取り組んでいる。
 またこのほかにも燃料の高燃焼度化,高性能燃料の開発,あるいは,新素材等先端技術の積極的な応用による軽水炉の高度化なども進められている。
 一方,最近,既存型軽水炉の改良にとどまらず,更なる安全性・信頼性・経済性の向上を目指して,基礎・基盤に立ち返った研究開発に積極的に取り組んでいこうとする動きがあり,例えば高転換軽水炉やいわゆる固有の安全性を有する軽水炉の開発等について検討が進められている。


(注1)高転換軽水炉:在来の軽水炉の水と燃料の比率を工夫して,転換比(ウラン235が消費される量と新しく生まれるプルトニウムの量との比率)を高くすることにより,プルトニウムをエネルギー源として有効に活用し,ウラン資源の節約を図る原子炉。
(注2)固有の安全性:原子炉が安全性に関するある限度(例えば,炉心温度)を超える,又は,超えようとしている状態になったとき,炉の構造,或いは,構成物質が有する自然法則,性質などに基づいて,外部からの動作源(例えば,人的操作)なしで,炉を安全な状態に導く性質。

 〔原子炉の廃止措置〕
 原子炉の廃止措置は,原子力発電を円滑に進める上で極めて重要な課題であるので,商業用原子炉の廃止措置が必要となる昭和70年代前半に向けて必要な研究開発を行ってきている。これまで日本原子力研究所において,昭和56年度から動力試験炉(JPDR)をモデルとして行ってきた解体,遠隔,除染等の要素技術開発が終了し,技術的見通しが得られたことを踏まえて,昭和61年度より,約6年間の計画でJPDRの解体実地試験に取り組んでいる。

 また,原子力工学試験センターにおいては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から,特に重要な技術の実用化を促進するため,確証試験を進めている。
 なお,廃止措置に伴う費用については,本年3月の電気事業審議会料金制度部会中間報告を受けて,電気料金原価に算入するための検討が行われている。


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