第1章 原子力発電の定着と今後の展開 ―基軸エネルギーとしての確立
1.エネルギー情勢と原子力発電

(1)今後のエネルギー情勢の見通しと原子力発電

 〔最近の石油需給〕
 昭和61年の一時期に10ドル/バーレルの水準を割り込んで推移していた原油スポット価格は,昨年12月の第80回石油輸出国機構(OPEC)総会における固定価格制復帰,生産削減等の決定を受け,本年初めから18ドル/バーレル前後で推移してきている。国際石油需給動向についてはペルシャ湾情勢の緊迫化など不透明な要因が多いため,正確に見通すことは難しいが,当面は,国際石油需給は基本的には緩和基調で推移し,原油価格についても最近の水準を中心として推移するとの見方が多くなっている。
 〔今後の石油需給の見通し〕
 しかしながら,中長期的には,開発途上国を中心にしてエネルギー需要が増大していく一方で,非OPEC諸国の生産能力は減退していくことから,1990年代には再びOPEC依存度が上昇し石油供給が不安定化することが懸念されている。さらに,最近原油価格が低位に推移する沖で,新規油田開発,省エネルギー,石油代替エネルギーの開発・導入の停滞の兆候が現れ始めており,このまま停滞が続けば,1990年代と見られていた石油需給再ひっ迫化の時期が早まるとの認識が一般的になりつつある。

 〔石油代替エネルギー開発の必要性〕
 このような中にあって,これまで石油代替エネルギーの開発・導入に努めてきた結果,我が国の石油依存度は,以前よりかなり低下してきてはいるものの,昭和61年度でなお50数%と主要先進国に比べて高い。しかも輸入原油の半分以上を政治情勢の不安定なペルシャ湾諸国に依存しているなど,エネルギー供給構造はなおぜい弱である。このため,短期的な石油需給動向に左右されることなく,長期的な視点から引き続き石油代替エネルギーの開発・導入を始めとするエネルギー政策を着実に進めていくことが重要である。

 〔エネルギー需要構造の変化〕
 以上のように我が国のエネルギー政策の背景となる基本的考え方は変わらないものの,最近エネルギー需要構造に次のようないくつかの変化の兆しが現れ始めているとの指摘がなされている。
 国際協調と国民生活の質の向上を目指すための整合性のとれた経済構造調整を推進していくことは,現下の我が国の重要政策課題である。
 昭和60年秋から始まった急激な円高の進行は,輸出関連製造業を始めとして我が国経済に大きな影響を与え,従来から進みつつあった産業構造の変化をより一層加速した。今後,当面は円高による輸出の減少及び一部の素材型産業における生産縮小が続くなどのエネルギー需要減少要因がある。一方で,長期的には,エネルギー需要の大幅増要因とはならないものの,内需を中心とした加工組立産業の生産増,経済のサービス化・情報化の進展等が見込まれ,さらには民生部門におけるエネルギー需要の堅調な増大が見込まれている。これらの影響を大まかにまとめると,今後のエネルギー需要はこれまでの見通しと比較した場合,伸びが鈍化していくものと予想され,また,石油・石炭・天然ガス・原子力など各エネルギーの構成比にも変化が生じていくものと考えられている。
 〔原子力発電開発規模の見直し〕
 このような状況を踏まえて,新しい長期計画においては,2000年時点での原子力発電開発規模を従来の見通しに比べて低い「少なくとも5,300万キロワット程度」と見込んだ。
 一方,本年10月,第20回総合エネルギー対策推進閣僚会議において,総合エネルギー調査会需給部会で改定された長期エネルギー需給見通しについて報告がなされた。
 また,上記改定を踏まえ,閣議において「石油代替エネルギーの供給目標」が改定された。同目標では,原子力によるエネルギーの供給目標は,昭和75年度(2000年度)において原油換算8,600万キロリットル(これに必要な原子力発電設備容量5,350万キロワット)へと変更された。
 個別のエネルギーの供給目標を見ると,石油が昭和61年度の56.8%から昭和75年度には45.0%に低下し,石炭が18.3%から18.7%に微増し,また,原子力は9.5%から15.9%と着実に増加している。


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