第5章 核融合,原子力船及び高温ガス炉の研究開発
1.核融合

(1)研究開発

イ)炉心技術
 トカマク方式については,日本原子力研究所において,臨界プラズマ条件の達成を主目的とするJT-60の本体装置が昭和60年4月に完成し,同4月8日にファースト・プラズマの点火に成功して,実験を開始した。6月末までの第I期プラズマ実験においては,プラズマ電流160万A(世界最高値),平均プラズマ密度48兆個/cm3,中心プラズマ温度2,000万度を達成した。加熱装置は,昭和61年3月に据付を完了し,以後,臨界プラズマ条件の達成を目指して,装置の総合調整及び臨界プラズマ試験の準備が行われている。
 一方,トカマクの高性能化の研究も精力的に推進されている。日米協力により,米国のダブレット-III(非円形トカマク試験装置)を用いて4.6%の高ベータ値の達成に続いて,(平均プラズマ温度7,000万度)×(プラズマ密度7×10B/cm3)を実現する等,好結果が得られている。
 また,ダイバータ効果,高周波によるプラズマ電流の励起維持等の研究をさらに進めるため,中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)を高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)に改造して,非円形プラズマ実験を実施している。
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,新しい展開が見られている。ヘリオトロン方式については,京都大学のヘリオトロンE装置において1900万度(プラズマ密度2×1013/cm3)の無電流プラズマの安定な閉込め・加熱を達成し,ベータ値も平均2%を達成した。ミラー方式については,筑波大学のタンデムミラー装置「ガンマ10」において,サーマルバリア付閉じ込め電位形成に関する実験を行い,イオン温度1,200万度,nτ=102sec/cm3の成果を挙げた。ピンチ方式については,電子技術総合研究所の逆磁場ピンチ装置(TPE-IRM)によるプラズマ温度600万度の達成及び圧縮加熱型装置(TPE-2)による約10%の高ベータプラズマの発生等が特記される成果である。

 さらに,慣性核融合については,大阪大学の20キロジュールガラスレーザー「激光12号」が昭和58年6月に完成し,昭和61年7月には核融合反応中性子発生数4.2×102個を観測する等,順調に実験が実施されている。また,荷電粒子ビームを用いた慣性核融合についても,基礎的研究が進められている。

ロ)炉工学技術
 超電導磁石に関しては,国際協力による大型コイル試験用のコイル(LC Tコイル)を他国に先がけて完成したほか,ニオブ・スズ化合物(Nb3Sn)を用いた高磁界コイルを完成し,20メガジュールのパルス・ポロイダルコイルの開発を開始する等,世界に先がけて開発を進めている。プラズマ加熱技術については世界的な水準にあり,JT-60用の10秒間という長時間パルスの中性粒子入射加熱技術を確立し,高周波加熱技術についても世界最高性能(1メガワット,10秒)のクライストロンの開発に成功する等顕著な成果を挙げている。炉構造材料については,材料の開発研究は世界的な水準にあるものの,中性子照射下における研究は立ち遅れていた。このため,米国のHFIR(High Flux Isotope Reactor)及びORR(Oak Ridge Research Reactor)を利用した照射実験を行う等,国際協力による研究を進めている。トリチウムの取扱い技術については,我が国には技術蓄積が少ないので,組織的な研究を進めているところである。炉設計技術については,我が国の水準は高く,国際原子力機関(IAEA)で行われている国際トカマク炉(INTOR)の共同設計に当たってワークショップの主導的役割を果たしている。その他,大型構造物の製作技術,電源技術,計測制御技術等については,従来の核分裂炉の技術等の蓄積に加え,JT-60の建設に当たっての開発研究の成果が付加されつつあるが,なお,遠隔保守技術,ブランケット総合技術等今後開発すべき課題も多い。


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