はじめに
第2章我が国の原子力開発利用の動向

1.我が国の原子力開発利用の進展状況

(1)原子力発電の状況

イ)原子力発電の現状
 原子力発電は,昭和61年9月末現在,運転中のものは合計32基,発電設備容量2,452万1千キロワットとなっており,これに建設中及び建設準備中のものを加えた合計は48基,発電設備容量4,069万4千キロワットとなっている。
 また,原子力発電は昭和60年度末現在,総発電設備容量の15.9%,昭和60年度実績で,総発電電力量の26.3%と石油火力の25%を初めて上回った。

 また,国際的にみても,我が国は米国,フランス,ソ連に次ぐ世界第4位の原子力発電規模を有している。

ロ)信頼性及び経済性の向上
 原子力発電の設備利用率は,昭和60年度には76.O%と過去最高の実績となった。また,運転中のトラブルによる自動停止頻度も昭和60年度は0.2回/炉・年と米国等と比較しても1桁低い値となっている。このことから示されるように,我が国の原子力発電の信頼性は世界的にみても高い水準にある。
 経済性については,原子力の発電原価は他の発電方式に対し,かつて程ではないにしても依然として優位である。昭和60年度運開ベースのモデルプラントについての電源別発電原価試算結果によれば,原子力発電の初年度原価は13円/キロワット時程度,これに対し石炭火力は14円/キロワット時程度,石油火力は17円/キロワット時程度となっている。さらに,発電に係る経費が経年的に変化することを考慮した耐用年数発電原価は原子力が10円〜11円/キロワット時程度,石炭火力が12円〜13円/キロワット時程度,石油火力が17円〜19円/キロワット時程度となっている。(燃料価格の上昇をいずれも年率実質1%〜3%で上昇するとして試算)

 なお,昭和61年1月以来,石油価格が急激に下落し,さらに円高の進行もあって,特に石油火力の発電原価は低下してきている。しかし,今後の新規立地を考慮すると,運転開始までかなりのリードタイムが必要であり,その間に石油価格は再び上昇することが十分予想されること,また,原子力でも発電コストの約7〜8割を占める建設費の低減が図られていること,かつ,燃料費の割合が小さいうえ安定していることから,原子力の経済性上の優位は,この面では変化はないと考えられ,原子力発電が経済性で不利になることはない。

ハ)立地の推進等
 現在,立地の促進の手段として,各種マスメディア,原子力モニター制度等の活用による広報活動等が積極的に推進されているところである。
 ソ連のチェルノブイル原子力発電所の事故に際しては,我が国の原子力発電の安全性等に係る説明会,パンフレット配布等広報が適時実施された。
 また,立地地域の振興対策の充実を図るため,電源三法の活用等が逐次図られているところである。

二)軽水炉技術の向上
 自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上及び従業員の被ばく低減等を目的として軽水炉の改良標準化が行われ,これまで第1次,第2次改良標準化計画が終了し,これらの成果をベースに日本型軽水炉を確立するため,第3次改良標準化計画が本年7月にとりまとめられた。また,今後原子力発電の重要性がさらに増大していくことを踏まえ,軽水炉技術について,現在の水準に満足することなく,さらに技術高度化を図っていくため,その目標の設定及び達成の為の課題並びに開発のあり方について総合エネルギー調査会原子力部会において報告書がまとめられた。

ホ)原子炉の廃止措置
 発電用原子炉の稼動年数は,30年以上と言われており,現在稼動中の発電用原子炉の廃止措置がとられるのは,昭和70年代以降においてと見込まれている。
 廃止措置関連の技術開発については,昭和56年度以来,日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして,解体,遠隔,除染技術等の技術開発が行われ,これらの要素技術の開発はほぼ完了し,同研究所が外部専門家からなる検討委員会に評価を依頼した結果解体実地試験の遂行に技術的見通しが得られたとの評価を受けている。今後は,昭和61年度より,この成果を踏まえ,JPDRの解体実地試験を約6年間をかけて行うこととしている。
 さらに,昭和60年9月,OECD/NEAのもとで,原子力施設の廃止措置について,各国での解体技術に関する情報交換を内容とした国際協定がとり決められた。

(2)自主的核燃料サイクルの確立に向けた進展

イ)核燃料サイクル事業化の進展
 核燃料サイクル分野については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が積極的に推進されているが,ウラン濃縮及び再処理については,民間において同事業団の経験を踏まえて事業化する段階にまで達している。
 具体的には,日本原燃サービス(株)及び日本原燃産業(株)が,青森県六ヶ所村において,核燃料サイクル3施設の建設を準備中であり,昭和60年6月より陸域調査及び昭和61年6月より海域調査を行っている。また,ウラン濃縮機器(株)は,昭和60年10月に遠心分離機製造のための工場の建設を開始した。なお,動力炉・核燃料開発事業団は,日本原燃サービス(株),日本原燃産業(株)と技術協力基本協定を締結し,同事業団の研究開発成果の円滑な移転を図っている。
 原子力委員会は,こうした事業化に伴う情勢の変化を踏まえ,核燃料サイクル推進会議を随時開催して,核燃料サイクル全般にわたる施策の効果的推進を図っている。
 さらに,放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し,その安全規制の充実強化を図ること等を目的とした原子炉等規制法改正法案が昭和61年5月第104回通常国会において成立し,公布された。これにより,我が国の放射性廃棄物処分を円滑に推進していくために必要な枠組が明確化されることとなった。

ロ)ウラン濃縮
 我が国においては,動力炉・核燃料開発事業団を中心として遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発が進められてきており,岡山県人形峠のパイロットプラントでは,昭和60年度末までに約59tUF6の濃縮ウランを製造し,現在,なお技術開発成果を得つつある。また,原型プラントについては,民間の協力により,建設・運転することとなっており,昭和60年11月に,人形峠で建設工事が開始され,昭和62年半ば頃には,部分運転を開始する予定である。
 同事業団の遠心分離法に関するこれらの技術開発の成果は,昭和66年頃操業を開始する日本原燃産業(株)の濃縮プラントに引き継がれることになっている。
 また,同事業団においては,複合材料を用いた高性能遠心分離機についても民間との協力により技術開発を進めている。
 一方,遠心分離法に続くウラン濃縮技術として,レーザー法の開発も進められており,原子レーザー法については,日本原子力研究所において原理実証に成功し,データベースの整備を実施している。また,分子レーザー法については,理化学研究所において,ラマンレーザーを用いた原理実証試験が進められている。

 原子力委員会は,ウラン濃縮技術の進歩に鑑み,昭和60年12月にウラン濃縮懇談会を設置し,技術開発の推進方策等について審議を行っている。特にレーザー法については,懇談会の下に設置されたワーキンググループにおいて,昭和61年4月に報告書がまとめられ,産学官の連携による研究開発推進の必要性,原子力委員会によるチェック・アンド・レビューの必要性等を指摘している。

ハ)使用済燃料の再処理
 再処理の技術開発は,動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められており,同事業団東海再処理工場における昭和61年8月までの累積再処理量は,約258tに達している。同工場においては,過去に溶解槽及び酸回収蒸発缶にピンホールが発生したが,新たに遠隔補修技術を開発し,溶解槽を補修することに成功した。また,国産の酸回収蒸発缶及び溶解槽の製作・据付等の整備を行って,昭和60年2月には,運転を再開し,昭和60年度には,73.5tと過去最高の処理実績を示した。なお,現在同工場の処理能力を上回って発生する使用済燃料については,英国及びフランスに委託して再処理することとしているが,将来的には,昭和75年頃操業開始予定の民間再処理工場(処理能力800t/年)も加え,再処理需要に対応することとなっており,その建設・運転にあたっては,動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の建設・運転により得られた技術蓄積を基にコンサルティング,技術者の訓練等の技術協力を行うこととなっている。
 また,原子力委員会再処理推進懇談会において,回収ウラン,プルトニウムの利用等について,調査審議が行われている。

二)放射性廃棄物の処理処分方策の確立

(i)低レベル放射性廃棄物
 原子力発電所等において発生している低レベル放射性廃棄物は,濃縮・圧縮・焼却等の処理後,性状に応じてセメント,アスファルト等により固化するなどして,それぞれの敷地内に安全な状態で貯蔵されており,昭和61年3月末現在,我が国における累積量は200lドラム缶約63万本分に達している。
 低レベル放射性廃棄物の最終的な処分方法としては,陸地処分と海洋処分を併せて行うことが基本方針である。
 このうち,陸地処分については,現在,青森県六ヶ所村において低レベル放射性廃棄物を陸地処分する計画の具体化が図られており,電気事業者が中心となって設立した日本原燃産業(株)が,施設の設置のための調査等を進めているところである。
 一方,海洋処分については,所要の準備がほぼ終了しているところであるが,関係国の懸念を無視して強行はしないとの方針の下に,昨年9月に開催された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)締約国会議に基づく政治的,社会的検討等に関して,関係諸国とも協議しつつ対処していくこととしている。

(ii)高レベル放射性廃棄物
 再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物については,現在,東海再処理工場内のタンクに厳重な管理の下で貯蔵されており,その量は,昭和61年3月末現在,溶液の状態で226m3である。
 これらについては,今後,安定な形態に処理(ガラス固化)し,処分に適する状態になるまで冷却するため,30年間ないし50年間程度の貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層に処分することを基本方針としている。
 高レベル放射性廃棄物のガラス固化技術については,フランス等において,実績が積み重ねられているところであり,我が国でもこれまでガラス固化技術については動力炉・核燃料開発事業団が,ガラス固化体の安全性の研究については,日本原子力研究所がそれぞれ中心となって,研究開発を進め,既に,実物大の模擬ガラス固化体を製作するとともに,実廃液を用いたガラス固化体を製作し,各種の試験研究等を行っている。
 これらの研究成果等を踏まえて,動力炉・核燃料開発事業団では,昭和65年の運転開始を目途に,東海再処理工場に付設してガラス固化プラントを建設することとし,所要の準備を進めている。また,動力炉・核燃料開発事業団では,高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)等の貯蔵を行うとともに,高レベル放射性廃棄物の処分技術を確立するために必要な試験研究等を行うことを目的とした「貯蔵工学センター」を北海道幌延町に計画し,昭和60年11月より,同センターに係る立地環境調査を実施している。
 高レベル放射性廃棄物の最終的な処分については,昭和59年8月及び昭和60年10月に放射性廃棄物対策専門部会が取りまとめた報告書に従って,今後,深地層試験等の研究開発を進めて処分技術の確立を図るとともに,これと並行して,全国的な調査を行い,これらの成果を踏まえて,処分予定地を選定し,その後,処分予定地における処分技術の実証を経て,処分場の建設・操業を行うこととしている。
 これらの研究開発は,長期間を要するものであり,かつ,原子力政策上の重要課題であるため,地層処分の実施に至る研究開発を国の重要プロジェクトとして計画的に推進することとし,国による総合調整の下に,動力炉・核燃料開発事業団は,開発プロジェクトを推進し,あわせてこれに必要な研究も進めるとともに,日本原子力研究所は,安全性の評価に必要な研究等を実施することとしている。さらに,地質調査所等の国立試験研究機関,大学等は,それぞれの専門的知見を生かした研究を行うこととしている。
 なお,動力炉・核燃料開発事業団は,この開発プロジェクトの中核的推進機関として,体制を整備するとともに,電気事業者,民間研究機関等との間の有機的連携を確保することとしている。

(3)プルトニウム利用に向けた研究開発の進展
 軽水炉を中心とする核燃料サイクルは,基本的には235Uの利用体系であり,ウラン資源の有効利用,資源の海外依存度軽減の点で限界がある。これに対して,消費した以上の核燃料を生産する高速増殖炉とその燃料の加工・再処理事業を中心とするプルトニウム利用体系は核燃料の有効利用を可能とする,いわば国産エネルギー体系として考えられ,エネルギー・セキュリティ上の意義は極めて大きい。プルトニウム利用体系実現を目指して着実に高速増殖炉の研究開発を進める必要があるが,高速増殖炉が実用化するまでの間プルトニウムを早期に利用するため,新型転換炉及び軽水炉によるプルトニウム利用技術の定着に努めることが必要である。また,高速増殖炉,新型転換炉及び軽水炉によるプルトニウム利用技術の開発の進展に応じ,MOX燃料加工体制を整備していく必要がある。

イ)高速増殖炉
 動力炉・核燃料開発事業団においては,実験炉「常陽」の運転成果の蓄積等を踏まえ,現在,原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の昭和67年度臨界を目指した建設工事が進められている。
 また,関連する研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターを中心として原型炉「もんじゅ」,大型炉等に係る研究開発が実施されている。一方,民間においては,(財)電力中央研究所等において所要の研究開発が行われている。
 実証炉の開発については,原子力委員会の高速増殖炉開発懇談会の「中間とりまとめ」(昭和59年秋)以後の実証炉の基本仕様の選定に向けての研究開発の進展,実用化についてのより厳しい見方の強まり,これまでの設計概念に対して更に飛躍した新設計概念の提案等の情勢の変化を踏まえ,原子力委員会は,昭和61年5月,高速増殖炉開発懇談会を発展的に解消し高速増殖炉開発計画専門部会を設置した。同部会では高速増殖炉の開発の長期的な進め方,研究開発に関する推進方策,実証炉の基本仕様等の評価検討等について,現在調査審議が進められているところである。
 さらに,電気事業者は,実証炉の建設・運転主体を日本原子力発電(株)とし,同社を中心に実証炉関係の研究開発,実証炉の基本仕様の選定等を行うこととしている。
 また,我が国としての高速増殖炉開発を一本化して推進するため,動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力発電(株),日本原子力研究所,(財)電力中央研究所の四者は,昭和61年7月,高速増殖炉研究開発運営委員会を発足させ,実証炉以降の諸課題を四者で協議・調整し効率的に分担して進めることとしている。

 国際協力については,自主開発を補完し,全体として整合性をとりつつ,より積極的に進めることとしており,従来から動力炉・核燃料開発事業団を中心として米国及び欧州諸国等と協力が進められている他,電気事業者においても米,仏,英と研究協力を行っている。現在,米,仏,西独など先進諸国においても将来展望を模索している状況に鑑み,我が国はこうした国々との積極的な連携に努め,今後の研究開発推進の牽引車としての役割を分担していくことが重要と考えられる。

ロ)新型転換炉及び軽水炉によるプルトニウム利用
 これまで新型転換炉(ATR)の開発は,動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,現在,原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されている。
 実証炉「大間原子力発電所」については,昭和61年8月のATR実証炉建設推進委員会(電源開発(株),動力炉・核燃料開発事業団,電気事業連合会科学技術庁,通商産業省で構成)においての実証炉建設計画の了承に基づき,建設・運転の実施主体である電源開発(株)は,昭和66年4月着工,昭和72年3月運転開始を目指して,建設準備を進めている。
 一方,軽水炉によるプルトニウム利用(プルサーマル)は,電気事業者を中心に進められてきており,原子力発電所におけるプルトニウムーウラン混合酸化物(MOX)燃料の小数体実証計画として日本原子力発電(株)敦賀1号機(BWR)に昭和61年7月MOX燃料体2体を装荷した他,地元の理解を得たうえで関西電力(株)美浜1号機(PWR)にMOX燃料体4体を装荷することとしている。さらに引き続いて実用規模実証計画(最終装荷規模1/4炉心程度)及び本格利用(最終装荷規模1/3炉心程度)の計画も予定されている。
 なお,こうした今後のプルーサーマル計画については本年6月に総合エネルギー調査会原子力部会において,報告書がとりまとめられている。

ハ)MOX燃料加工及び高速炉燃料の再処理
 MOX燃料加工技術及び高速炉燃料の再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。
 MOX燃料加工については,新型転換炉原型炉「ふげん」用及び高速実験炉「常陽」用燃料加工施設の建設,運転(昭和61年3月末までに製造実績は累積80.4トン供給)の経験を踏まえ,高速増殖炉原型炉「もんじゅ」用(5トンMOX/年)の燃料加工施設の建設が進められており,また,新型転換炉実証炉用(40トンMOX/年)の燃料加工施設の建設準備が進められている。
 また,高速炉燃料の再処理技術は,基本的には,軽水炉燃料の再処理技術をベースとしつつも,プルトニウム含有量が多いこと,熱中性子炉の場合よりも燃焼度が高くなること等高速炉燃料特有の性質から,東海再処理工場の経験を踏まえ,燃料の溶解,溶媒抽出等のプロセス評価試験,モックアップ試験等の研究開発が進められている。
 一方,日米高速炉協定に基づき,高速炉燃料再処理技術の確立のための共同臨界実験及び遠隔技術に関する研究開発が進められている。

(4)その他主要な研究開発の進展

イ)高温ガス炉
 高温ガス炉の研究開発は,日本原子力研究所を中心に進められており,大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)による伝熱・流動等の実証試験,高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)を用いた臨界実験,大洗ガスループ(OGL-1)による照射試験等により,高温ガス炉要素技術について技術的知見が蓄積されてきている。
 近年のエネルギー事情,核熱プロセス利用の需要の動向等高温ガス炉を取り巻く社会情勢の変化も著しいため,原子力委員会は今後の高温ガス炉研究開発計画について改めて検討,評価を行うため,昭和61年3月高温ガス炉研究開発計画専門部会を設置した。同部会は核熱利用の需要の動向,高温ガス炉研究開発の意義,今後の高温ガス炉研究開発の進め方等について検討を行い,昭和61年8月中間報告をとりまとめた。同報告においては,現状では高温核熱の産業界での利用は,その技術的見通しはあるものの近い将来経済性が成り立つ情勢にないため,現行長期計画に示された,高温ガス炉の早期の実用化への一ステップとして位置付けられている実験炉の建設計画は,この際,見直すことが適当である。しかしながら,高温熱供給,高い固有の安全性,燃料の高燃焼度等の優れた特性を有する高温ガス炉の研究開発は,安全性の確保の下に経済性の向上,利用分野の拡大等の課題の解決に寄与し得るという点で我が国の原子力開発上大きな意義を有しているので,今後はその技術の基盤の確立及び高度化を展開すべきであり,又,高温ガス炉施設を利用する各種材料の大型試料の高温照射試験等の各種の高温に関する先端的基礎研究は新技術の萌芽を創生することが期待される。そこで,そのための研究施設として高温ガス試験研究炉を早急に建設することが適当である旨等が述べられている。

ロ)放射線利用
 放射線利用は,原子力発電等のエネルギー利用と並び原子力平和利用の重要な柱であり,医療,工業,農林水産業等の幅広い分野で活用されている。
 医療分野においては,放射線は診断,治療の手段として既に不可欠のものとなっているが,さらに新たな利用技術の研究開発も積極的に進められている。診断の面では,従来のエックス線コンピュータ断層撮影装置(X線CT)による診断では不可能な脳,心臓等における代謝及び機能の診断を可能にするポジトロン(陽電子)CTも,現在,放射線医学総合研究所等において研究開発が進められている。
 また,治療面でも,がんの治療においては電子線,エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されている。その他中性子線,陽子線によるがん治療も行われている。さらに昭和59年度から放射線医学総合研究所において,がん細胞に対する治療効果が高く患部への集中照射が可能な重粒子線によるがん治療の早期実現を目指して,重粒子線がん治療装置の研究が行われている。
 工業分野においては,各種工程管理に放射線を利用した液面計,厚み計等がすでに実用化されているほか,高分子材料開発,環境保全等への放射線の利用技術の開発が進められている。
 農林水産業分野においては,品種改良,害虫防除等に放射線が利用されている。また,食品照射については,原子力委員会が策定した計画に基づき,国立試験研究機関等において,馬鈴薯,玉ねぎ,米,小麦等7品目を対象に研究が進められ,馬鈴薯については,すでに実用化されているが,国際的には,昭和55年のFAO/IAEA/WHOの合同専門家委員会による10kグレイ以下の線量での照射食品の健全性には問題はない旨の結論,殺虫,殺菌剤等化学合成物質の規制に関する世界的な動向等を反映して,近年食品照射の利用拡大の動きが高まってきており,米国においては,本年4月に生鮮果実,生鮮野菜等を対象とした食品照射が承認された。
 これらのほかに,放射性同位元素(RI)はトレーサーとして生物の代謝の解明等各種研究に広く利用されている。
 さらに,日本原子力研究所等では,耐放射線性極限材料,新機能材料,バイオ技術等先端科学技術分野へのイオンビームの利用等放射線利用の高度化等を進めるための放射線高度利用研究が行われている。

ハ)原子力船
 原子力船の研究開発については,昭和60年3月31日以降日本原子力研究所が日本原子力船研究開発事業団の業務を継承し,原子力船「むつ」を中心とした研究開発が進められている。
 原子力船「むつ」の研究開発については,現在,むつ市関根浜に新定係港が建設されており,港湾施設については,昭和62年度末の完成,また附帯陸上施設については,昭和63年度末の完成を目途に建設が進められている。また,信頼性,経済性等に優れた改良舶用炉の研究開発についても,3つの炉型の試設計の結果に基づいて,その評価が進められているところである。

ニ)核融合
 核融合エネルギーの利用は,これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能にするものであり,人類の未来を担う有効なエネルギー源として,その開発に大きな期待が寄せられている。
 我が国における核融合研究は,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等において進められており,今日,世界的水準にある。
 日本原子力研究所においては,トカマク方式による臨界プラズマ条件の達成を目指した臨界プラズマ試験装置JT-60の本体が昭和60年4月に完成し,“First plasma"の発生(最初のプラズマ電流の発生)に成功した。
 その後,初期プラズマ実験を行うとともに,引き続き,計測装置や加熱装置の据付調整を逐次進めている。昭和62年4月には加熱装置の据付調整を完了させ,本格的加熱実験を開始する予定であり,昭和62年末には臨界プラズマ条件を達成できる見通しである。
 このように,第2段階核融合研究開発基本計画の目的である臨界プラズマ条件の達成が間近になりつつある状況を踏まえて,原子力委員会の核融合会議では,大学,その他の関係機関との緊密な連携を保ちつつ,次段階研究計画の検討が進められている。

 一方,大学,国立試験研究機関等においては,各種のプラズマ閉込め方式の研究や炉心技術及び炉工学を含む幅広い関連分野における研究が行われている。

(5)原子力産業の状況

イ)我が国の原子力産業の現状及び今後の見通し
 原子力開発利用の着実な進展を図るためには,信頼性の高い機器,核燃料等が効率的かつ経済的に生産でき,かつ,十分な国際競争力を持つ原子力産業の発展が不可欠である。また,原子力産業は,高度な技術複合産業であり,原子力技術の持つ,優れた技術基盤,高い知識集約度を持って我が国の産業構造の高度化に大きく寄与するものと期待されている。
 原子力産業は,原子力関連機器の製造,核燃料サイクル関連事業,原子力関連の施設建設,輸送,各種サービス等の業を行うものの総称であり,多種多様な業種により構成されている。
(社)日本原子力産業会議の調査によれば,昭和59年度における原子力関係の売上高は前年度比26%増の1兆7,200億円余りとなっており,原子力市場は急増しており,4年間で2倍以上の伸びを示している。
 また,原子力関係輸出は,前年度の147億円から238億円へと急増した。これは主に技術輸出が前年度より2倍の62億円に増えたこと,さらにRI・放射線機器輸出が増加したためである。
 軽水炉技術については,機器の国産化率は100%近くなっており,それらの設備利用率も極めて良好である。また,日本型軽水炉の確立を目指して,自主技術により軽水炉改良標準化計画が進められ,在来型の軽水炉について改良標準化を図るとともに,新型軽水炉(A-LWR)の国際共同開発が進められている。
 また,核燃料サイクル関連,新型動力炉関連の技術についても,我が国の原子力産業は,動力炉・核燃料開発事業団等の研究開発プロジェクトヘ参加することにより相当の技術を蓄積してきている。現在,高速増殖炉原型炉の建設及び新型転換炉実証炉の建設計画が進められてきており,また,核燃料サイクルについては,事業化が進展しつつある。原子力産業も,これらの計画が円滑に推進されるよう,その技術基盤を一層強化することが望まれる。
 最近,原子力発電プラント市場の規模については,2000年までは現状維持程度に止まるとの見通しがあり,原子力産業の健全な発展を図るためには,今後とも,原子力産業の技術力の維持・向上及び国際的にも競争力を有する自立型の原子力産業の育成が必要と考えられる。

ロ)我が国の原子力産業による研究開発投資
 我が国の原子力産業による研究開発状況を調査すべく科学技術庁は昭和61年4月に原子力開発利用状況調査を実施した。調査結果の概要は以下の通りである。
(i)我が国の鉱工業と電気事業者による原子力関係研究開発支出高(外部からの委託費を含めない実質額)は昭和59年度において約1,110億円にのぼる。このうち鉱工業が790億円,電気事業者は320億円である。
(ii)鉱工業において,研究開発支出高と原子力関連売上高との比で示される研究投資率は4.5%であり,一般産業のそれが2.3%(昭和58年度)であることを勘案するとこれは高い値といえ,原子力産業は研究開発により積極的に取り組んでいる産業と考えられる。さらに,海外への技術提携支出高は116億円であり,研究開発支出高(790億円)に対しなお高い比率を示している。
 鉱工業による分野別の研究開発支出高をみると軽水炉が420億円と全体の53%を占め,以下,再処理・廃棄物処理処分が70億円(8.8%),RI・放射線機器,利用が67億円(8.4%),高速増殖炉が59億円(7.5%),ウラン濃縮が47億円(5.9%)と続いている。また,研究投資率については,軽水炉は3.6%と全体平均をやや下回り他分野に比べ研究開発段階から事業化の段階により進んでいると考えられるのに対し,高速増殖炉が30.7%,ウラン濃縮が19.7%,燃料が14.0%,RI・放射線機器,利用が13.2%とこれらの分野においては研究開発投資率が高いことが示されている。
(iii)電気事業者の場合,内部で使用した研究開発支出高は59億円であるのに対し,外部への支出高は268億円とその比率が大きいことが特徴である。
(iv)鉱工業における研究開発の段階については以下の結果が得られた。軽水炉では回答のあった59社のうち基礎研究色が強いと回答したのは1社のみで,20社が応用研究色,38社が開発研究色が強いと回答しており,軽水炉開発について鉱工業では応用,開発段階が強いことがわかる。一方,核融合については,回答のあった27社中9社が基礎研究色が強いとしており,この分野の我が国の研究段階の現状を示しているといえる。

(v)鉱工業における原子力研究者数は総計2,964人である。分野別の内訳は,軽水炉が1,416人と圧倒的に多く,次にRI・放射線機器,利用が536人,核燃料サイクルが509人,核融合が111人と続く。研究施設については,軽水炉,放射性廃棄物処理処分,RI・放射線機器,利用においては各々30社以上が研究施設を有している。そのうちRIの使用についてはRI・放射線機器,利用において高い割合で使用が可能であるが,軽水炉等の分野では使用可能な施設を有する企業は少なく,核燃料物質については使用可能な施設を有する企業は各々10社以下である。
(vi)鉱工業における今後の研究開発意欲については,全ての分野において現在より積極的に行うもしくは現状維持との回答が過半数を越えた。すなわち,軽水炉については回答のあった74社中21社が現在より積極的,39社が現状維持としている。また,高速増殖炉については回答のあった50社中20社が現在より積極的,17社が現状維持としている。一方,核燃料サイクル分野においては,廃棄物処理処分について回答のあった83社中56社が現在より積極的に行うと,再処理についても回答のあった54社中37社が現在より積極的に行うとしており,これらの分野への強い研究開発意欲が示されている。

(vii)今後の研究開発の主体について,鉱工業と電気事業者へのアンケートの回答は以下の通りであった。軽水炉については73社中61社,再処理については48社中28社が民間が主体となるべきと回答している。さらに,高速増殖炉については53社中27社,ウラン濃縮については33社中16社,廃棄物処理処分については75社中39社,核融合については40社中37社が国及び国の機関等が主体となるべきと回答しており,各分野における研究開発の主体に関する考え方が読みとれる。

(6)国際協力と核不拡散

イ)国際協力

(i)国際的な安全確保
 ソ連チェルノブイル原子力発電所事故は原子力施設の安全確保の重要性を一層強く認識させるとともに,国際的な安全確保体制確立の必要性をも認識させた。特に,今回の事故においてはソ連からの情報の通報が遅れたことから,原子力に関する緊急事態・事故については情報を迅速に提供することの重要性が改めて認識され,事故発生直後に東京にて開催された主要先進国首脳会議において原子力に関する緊急事態もしくは事故に際して報告及び情報交換を義務づける国際協定の早期考案を求める声明が5月5日発表された。
 このような動きをうけ,国際原子力機関(IAEA)において,原子力事故の早期通報に関する条約並びに原子力事故及び放射線緊急事態における援助に関する条約について草案の検討が行われ9月下旬のIAEA総会(特別会期)で正式に採択された。さらに,IAEA,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)等において事故評価,情報の交換等が行われている。

(ii)先進国との協力
 先進諸国においては厳しい財政事情の下で,プロジェクトの大規模化に伴う必要資金の確保,研究開発の効率性の追求等の見地から,エネルギー研究開発の国際協力を積極的に推進しようとの動きがある。一方,原子力開発利用においても我が国は優れた品質管理技術を応用することにより高い技術水準を確保するに至り,軽水炉運転管理技術開発等においてはすでに世界をリードする立場にある。その結果,原子力分野においても国際的に,様々な分野で指導的役割,開発の分担が求められており,我が国としても,二国間,多国間あるいは国際機関の場を通じ活発に国際協力を行っている。特に軽水炉運転管理技術に関しては,我が国の軽水炉運転実績が極めて良好なことから,我が国に関心を寄せる国が多く,昭和61年4月には,OECD/NEAの「原子炉スクラム頻度低減化シンポジウム」,日米原子力学会の「原子力プラントの熱流動と運転についての国際会議」,日本原子力産業会議の「軽水炉技術高度化に関する国際会議」が相次いで開催された。一方,世界的な技術水準に達している核融合分野では,昭和61年1月に,日本,米国及び欧州共同体(EC)が,臨界プラズマ条件の達成を目指す大型トカマク装置について情報交換,人材交流等の国際協力を進めるための「三大トカマク協力取決め」に署名した。同協定は昭和57年6月のベルサイユサミットを契機に設けられたサミット科学技術作業部会で,我が国が提案したことから検討が始まり,その後,我が国が中心となって協定案を作成し,昭和60年7月のIEA閣僚理事会で合意に達したものである。JT-60(B),JET(EC),TFTR(米)の三装置はそれぞれ独自の特徴を有しており,相互の協力は今後の核融合研究開発上大きな意義があると考えられる。
 なお,他分野の国際協力については各論において記述する。

(iii)開発途上国との協力
 近年,近隣アジア諸国を中心に開発途上国の原子力分野における我が国の協力に対する期待が高まっている。このような状況に鑑み,原子力委員会は,昭和59年12月,開発途上国協力は原子力先進国となった我が国の国際的責務であり,世界の核不拡散体制の確立に貢献していくという我が国の基本的考えに従って,今後積極的に協力を推進すべきであること,特に,開発途上国のニーズに応じ,技術協力の一層の促進に加え,人材交流を中心とした研究交流が重要であること等を内容とした「原子力分野における開発途上国協力の推進について」を決定し,この方針に従い,開発途上国との研究交流制度の拡充,IAEAの「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」等による協力の一層の推進がなされている。
 また,昭和60年7月31日,第4回日中閣僚会議において署名された日中原子力協力協定は,昭和61年7月108,協定の効力発生のための外交上の公文の交換が行われ同協定は同日から発効した。なお,日中間では今後,中国におけるウラン資源の共同探鉱,原子力安全研究等の分野において協力を拡大していく方針である。

ロ)核不拡散

(i)日米原子力協議
 昭和57年6月に日米双方は再処理問題について包括同意方式による解決を早期に図るため直ちに話し合いに入ることで意見の一致を見,昭和57年8月以降,これまで15回にわたって日米両国間の原子力協力をより安定的なものとする枠組の作成につき協議を実施してきた。第13回協議(昭和60年11月)以降「包括同意方式を導入し,我が国として十分な利点を得ることを前提として協議改定に応じる」との方針で協議に臨むこととし,第14回協議(昭和61年1月)を経て,第15回協議(昭和61年6月)においては,包括同意方式を導入した日米間の新しい協力の枠組の検討が大きく進展した。

(ii)多国間協議
 昭和52年から55年にかけて実施された国際核燃料サイクル評価(INFCE)における検討結果を踏まえ,保障措置の改良や核不拡散に関する新しい国際制度について国際原子力機関(IAEA)の場を中心として,検討・協議が引き続き行われている。
 なお,「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)については5年毎に必要に応じて条約の運用を検討するための再検討会議が開催されることが規定されており,この規定にもとづき,昭和60年には8〜9月に約4週間にわたりジュネーブで第3回NPT再検討会議が開催された。その結果,N PTの核不拡散上の意義等を再認識し,引き続きNPT体制を支持強化する旨の「最終宣言」がコンセンサスで採択された。

(iii)保障措置及び核物質防護
 核不拡散上極めて重要である保障措置については,日・IAEA保障措置協定に則した国内計量管理制度を維持し,IAEAの保障措置を受け入れるとともに,昭和61年5月に開催された第7回日・IAEA保障措置合同委員会等を通じて,IAEAと意見交換を行う等,密接な連携を図っている。
 また,保障措置技術については,対IAEA保障措置技術開発支援計画(JASPAS)の積極的な推進を図る等,保障措置の効果的・効率的適用のため,各種研究開発を行っている。
 さらに,核物質防護については,核不拡散上及び災害の防止上重要な課題の一つであることが認識されてきており,昭和55年3月,IAEAの場でまとめられた核物質防護条約が署名のため開放されている。同条約は21カ国の締結で発効することとなっているが,昭和61年8月末現在すでに18カ国が締結しているので近い将来発効することが予想される。このような状況下で我が国としても早期の署名,締結を目指し,諸般の準備を進めているところである。


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