はじめに

1.今日,我が国の原子力発電については,既に32基,約2,452万キロワットの規模に達し,昭和60年度には石油火力を上まわり総発電電力量の約26%をまかなうまでに発展するとともに,設備利用率も過去最高の76%となった。また,核燃料サイクルについては,青森県六ヶ所村における核燃料サイクル三施設計画及びこれを支える研究開発が進展している。さらに,高速増殖炉を中心とするプルトニウム利用体系の確立に向けて,高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」本格工事着手など研究開発の進展がみられた。
 また,放射線利用も国民生活に広範に浸透し,さらに核融合等の研究開発も強力に推進されている。
 一方,これら各分野の開発利用の進展に加えて,放射性廃棄物処理処分の適切な安全確保に関する責任の明確化を図ることを目的とした原子炉等規制法の改正法案が第104回通常国会において成立し,国際的には,日中原子力協定の発効,原子力協力の新しい枠組みに向けて日米間の協議の進展等が見られた。
2.エネルギー情勢については,本年初頭から原油価格が急激に下落するなど変動しており,石油代替エネルギーの開発・導入の意義が低下するのではないかとの懸念が出されている。しかしながら,エネルギー大量消費国であり,エネルギー海外依存が高いなどの我が国の状況は基本的に変化しておらず,石油代替エネルギーの開発がこれまでエネルギー需給の安定化に果してきた役割を考えれば,今後とも石油代替エネルギーの開発を進めていく意義は高い,とりわけ原子力は,経済性,供給安定性等の優れた特性を有しており,これらを正しく把握したうえで,今後の開発利用の推進方策を考える必要がある。
 昭和61年4月に発生したソ連チェルノブイル原子力発電所事故により,大量の放射性物質が大気中に放出され,地球規模で拡散した。この事故により,原子力施設において一度大事故が発生すれば,その影響は国内にとどまらず広く国際的なものとなる可能性のあることが示され,原子力施設の安全確保の重要性が強く再認識された。これを契機として原子力安全に係る国際的な連携・協力の動きも一層強まっている。我が国では,これまで,原子力安全の基本的な考え方に従い,原子力安全委員会をはじめとして国,地方公共団体,事業者,メーカーが一体となって,不断の努力が払われてきており,これが我が国の優れた安全実績を支える基盤となっている。この基盤をいかに着実に維持・発展させていくかが今後の極めて重要な課題である。
3.原子力委員会は,2000年頃までを目途とする今後の原子力開発利用の基本的推進方策を明らかにするため,原子力開発利用長期計画の改定作業に入っている。今回の長期計画の改定は,我が国の原子力開発利用が30年を経て一つの節目を迎えていること,現行長期計画が策定されてから約4年が経過しその間の研究開発の進展,昨今のエネルギー情勢の変化等を踏まえて行われるものであり,現在広範な検討が進められている。
4.本年の年報においては,広く国民の理解の一助となることを目的として,国際的視点にも留意しつつこの1年における我が国の原子力開発利用の状況を記述するとともに,新長期計画の策定への取り組みを含め,原子力を巡る最近の情勢の変化に対する原子力委員会の考え方を明らかにするものである。


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