第5章 核融合,原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発

(参考)諸外国の動向

(1)核融合

 諸外国の核融合研究開発は,臨界プラズマ条件の達成を目指した研究開発の段階にあり,JT-60と同様臨界プラズマ条件の達成等を目標とするTFTR(米国),JET(EC)及びT-15(ソ連)の建設が進められ,昭和57年12月にはTFTRが,昭和58年6月にはJETが実験を開始した。さらに,各国とも臨界プラズマ条件達成後に建設すべき次期装置についても,検討が行われている。中でも,IAEAの場で,概念設計が進められている国際トカマク炉(INTOR)は,次期装置のモデルとして注目されるが,その検討の結果,従来考えられていた次期装置に比べ比較的コンパクトなトカマク炉による自己点火条件達成の可能性,100秒以上のD-T(重水素-トリチウム)燃焼達成の可能性等について専門家の間で見解が一致したことは,核融合研究開発がいよいよ新しい段階に入ることを示唆していると考えられる。

イ) 研究開発の現状
(i)トカマク方式
 トカマク方式による核融合研究開発の当面の主目標は,臨界プラズマ条件の達成である。このため,各国において,いわゆる大型トカマク装置による実験が進められている。
 これらの装置は,いずれも大容積高温プラズマの生成を共通の目標とする一方,それぞれ,長時間パルス,不純物制御,D-T燃焼,非円形プラズマ,超電導コイル使用等特徴的な目標を掲げており,それらの装置を用いた実験を通じて,次期装置の設計パラメータの最終的な確認が行われる見通しである。
 また,閉込めの効率化につながる高ベータ化非円形プラズマ制御の進歩,ダイバータに関する経験と知識の増大も注目される。これらの成果から,トカマクによる実用炉相当の炉心プラズマの実現についての見通しが極めて明るくなっている。

(ii)トカマク方式以外の方式
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,近年世界的に見ていくつかの進展が見られた。まず,ステラレータやヘリオトロンにおいては,プラズマ電流ゼロの状態での安定したプラズマ閉込めを達成した。
 また,ミラーではタンデム方式により静電場によるプラズマ閉込め及びサーマルバリやの可能性が示された。
 その他の方式についても,それぞれ性能の向上を目指して実験が行われている。
 さらに,慣性核融合については,米国において100キロジュール・レーザーの建設が進められる等科学的実証を目指して研究が進められている。

(iii)炉工学技術
 炉工学技術については,各国とも,数年前から,本格的研究を開始しており,炉心技術の進展を反映して精力的な研究開発が進められている。
主要な技術の状況は次のとおりである。
① 超電導磁石技術に関しては,IEAにおける大型コイル試験が開始されている。同試験では,トカマク核融合炉のトロイダルコイルとして予想される大きさの約1/3のコイルをトーラス状に並べた試験が行われている。
② プラズマ加熱技術は,大型トカマク装置の実験に用いるべく開発が進んでおり,炉心プラズマ条件達成に必要な温度までプラズマを加熱できる水準に達している。
③ 炉構造材料に関しては,米国を中心として各国において原子炉照射などによりデータが蓄積されつつあるが,さらに14メガエレクトロンボルトの中性子源による照射実験が計画されつつある。
④ トリチウムについては,諸外国において軍事用としてその取扱技術,生産技術等についての研究が行われ,相当の水準にあるが,核融合炉に応用するためには,まだ開発要素が残されており,例えば,米国等においては総合的な試験が開始されようとしている。
⑤ 炉設計技術は,各国における各種の設計研究により急速に進展した。特に,IAEAのINTORワークショップに見られる如く,次期装置に関しては,現実的な設計をし得る水準に達している。
 これらの技術の他,核融合炉技術には,既存の核分裂炉技術,重電技術等を基礎として発展させ得るものが多い。また,トリチウムを初め,放射化生成物等の生物への影響等についての研究も進められている。

ロ) 諸外国の次期装置
 前述のような進展状況を踏まえ,諸外国において,次期装置の検討が精力的に進められており,現在のところ,ある程度概要が示されている装置としては,米国のISP,ECのNET及びIAEAの国際トカマク炉(I NTOR)がある。


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