第2章 核燃料サイクル
6.放射性廃棄物の処理処分対策

(1)放射性廃棄物処理処分の現状

イ) 低レベル放射性廃棄物処理処分
 原子力発電所等の原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物は,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める濃縮廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,蒸発濃縮等の減容を行った後,ドラム缶にセメント固化する等の処理を施し,原子力施設内の貯蔵庫に安全に保管している。
 気体状放射性廃棄物及び一部の液体状放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を下回るようにして施設の外に放出している。
 これら低レベル放射性廃棄物は,昭和59年度には原子力発電所から200リットルドラム缶にして約3万5千本発生しており,累積で約40万本が貯蔵されている。また全原子力施設では,昭和59年度末の累積で約58万本に達している。
 低レベル放射性廃棄物の処分は,陸地処分と海洋処分を併せて行う方針である。
 このうち,陸地処分については,低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において集中的に貯蔵し,土壌等について所要の評価を経た後,そのままいわゆる処分に移行する最終貯蔵の計画が進められている。
 具体的には,昭和59年7月に電気事業連合会が,核燃料サイクル3施設の一つとして,低レベル放射性廃棄物最終貯蔵施設の立地協力要請を,青森県に対し行っており,昭和60年4月には,県が受け入れ表明を行っている。また,同年3月には,同施設の建設,運営等に当たる日本原燃産業(株)が設立されている。
 また,昭和60年10月の専門部会報告書においては,青森県六ヶ所村における最終貯蔵の計画のような場合には,廃棄事業者が安全確保に関する法律上の責任を負うこととすることが,安全確保の責任を集中し,より効率的な処分を行うなどの観点からはより適当であるとされている。低レベル放射性廃棄物の管理等に当たっては,現在,極めて放射能レベルが低いものまで全て敷地内の施設に貯蔵されている他,今後原子炉等の解体によって,放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないものが大量に発生する可能性がある。前記の放射性廃棄物対策専門部会中間報告においては,低レベル放射性廃棄物を,「低レベル放射性廃棄物」と「極低レベル放射性廃棄物」及び「放射性廃棄物として扱う必要のないもの」に3区分し,「低レベル放射性廃棄物」と「極低レベル放射性廃棄物」をそれぞれ放射能レベルに応じて合理的に処理・処分する方策を示している。すなわち,「低レベル放射性廃棄物」の陸地処分については時間の経過とともに順次管理が軽減され,一般人の立入制限,使用目的・譲渡の制限等のみを行う軽微な管理の段階を経て,最終的には管理を必要としない段階に至るものとされている。これに対し「極低レベル放射性廃棄物」は,処分の開始時から軽微な管理でよく,処分方法自体も簡易な形態で足りるものとされており,再利用の途も開かれている。
 また,海洋処分については,これまで所要の調査研究の実施,国内法令の整備,環境安全評価,国際協調の下にこれを進めるための国際条約への加盟等,所要の実施準備が進められてきた。
 一方,昭和58年2月の第7回ロンドン条約締約国会議において,放射性廃棄物の海洋処分について,科学的な研究グループを設置して検討を行うこと,その結論が出るまで,海洋処分の一時停止を呼びかけること等を内容とする決議案が採択された。その後,我が国を含む専門家による科学的検討が行われ,科学的見地からは,低レベル放射性廃棄物の海洋処分が人間及び海洋環境に与える影響は極めて小さく,障害を与えるとは考えられないとの検討結果が昭和60年9月の第9回ロンドン条約締約国会議に報告された。しかし,本件海洋処分についての各国の意見は分かれ,科学的検討のみならず,政治的,社会的検討を含む広範な調査,研究を終了するまで海洋処分を一時停止するとの決議がなされた。我が国としては,海洋処分については関係国の懸念を無視して行わないとの従来よりの方針の下に本締約国会議の決議に基づく検討等に関して,関係諸国とも協議しつつ対処していくこととしている。

ロ) 高レベル放射性廃棄物処理処分
 再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物については,その量は昭和59年度末現在,溶液の状態で約169m3であり,東海再処理工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。これらは,今後安定な形態に処理(ガラス固化)し,30年ないし50年の間冷却のため貯蔵した後,地下数百メートル以深の深地層に処分する方針である。
 前記中間報告は,高レベル放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分の研究開発,具体化への手順等に係る今後の方針を示している。現在,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として,1990年頃に固化処理技術の実証を行うことを目標に技術開発を進めるとともに,処分技術については,2000年頃の早期技術実証を目標として計画的に地層処分の研究開発を進めている。更に,東海村の再処理施設で発生した高レベル放射性廃棄物等を貯蔵するとともに,処分に関連した試験研究を行うこと等を目的とした貯蔵工学センターの計画が進められているところである。
 また,昭和60年10月の専門部会報告においては,今後の高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を,国の重要プロジェクトとして位置付け,当面10年間の研究開発の目標である処分予定地の選定は動燃事業団が行い,国がその妥当性を確認するものとされている。


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