第2章 我が国経済社会に根づく原子力
(2)放射線利用

イ)放射線利用体制の整備

 放射線の利用は,医療,工業,農林水産業等の国民生活に密着した幅広い分野において行われており,原子力発電とともに原子力平和利用の重要な柱となっている。
 我が国における放射線の利用研究は,戦前よりエックス線診断やトレーサーとしての利用分野において行われていたが,終戦とともに一時中断の後,昭和25年に米国の原子炉でつくられた放射性同位元素(RI)を得て再開された。
 当初,総理府科学技術行政協議会が日本におけるRIの輸入,配分等の一切の行政事務を所掌していたが,昭和26年9月の講和条約締結を機に民間貿易へ切りかえられた。また,それに伴い同年5月の日本放射性同位元素協会(現,(社)日本アイソトープ協会)の設立により, RIの入手とその配分, RIの利用と放射線障害の防止に関する知識の普及等を一元管理する民間側の受け入れ体制も整備され,それ以後RIの利用分野と輸入量が拡大,増加していった。
 昭和31年原子力委員会はRIの利用促進の重要性に鑑み,これを総合的に進める機関を設置して,
 ① RIの性質及び放射線による物質変性等に関する基礎的な研究,
 ② 共通的な利用に関する研究,
 ③ RIの生産,
 ④ 技術者の養成訓練,
等を行うことが重要と考え,アイソトープセンターを日本原子力研究所に置くこととした。この方針に従い,昭和31年より日本原子力研究所においてRIの製造実験が開始された。そして,昭和32年JRR-1により最初のRIとして24Na(ナトリウム24)が試験的に製造され,昭和37年には日本放射性同位元素協会を通じて32P (リン32),198Au(金198)などトレーサー用の6核種の領布を開始した。その後,RI製造棟が完成し,JRR-2及びJRR-3を用いたRI生産が開始された。昭和40年にはアイソトープ事業部が設置され, RIの生産領布,製造研究,放射性廃棄物の処理受託及びRIの新利用に関する研究を進める本格的体制が整備されることとなった。
 一方,RIの利用等に伴う放射線の障害防止対策については,昭和27年から科学技術行政協議会において検討が進められ,昭和32年「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」が制定され,放射性同位元素及び放射線発生装置の使用を規制することにより,これらによる放射線障害を防止し,公共の安全の確保を図ることとなつた。さらに同年,放射線障害の防止に関する重要事項について審議する放射線審議会が設置された。
 また,急速に発展する原子力開発利用に対処するためには,放射線の測定,放射能の環境中挙動,放射線の人体に対する影響,放射線障害の診療等について総合的に研究を行うことが緊急の課題となり,昭和30年の日本学術会議の政府申し入れを直接の契機として,科学技術行政協議会及び原子力委員会において検討が進められ,昭和32年放射線医学総合研究所が設立された。以来同研究所において放射線障害に関する研究及びその予防,診断,治療に関する研究が進められた。さらに放射線利用による診断,治療の研究等も行われている。また,電子技術総合研究所では,放射線標準に関する研究が行われている。
 このようにRIの流通機構,放射線利用の研究開発体制,放射線障害防止に係る法制度等の整備化に伴い,放射線の利用は急速に拡大していった。


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