第I部 「総論」
第2章我が国の原子力開発利用の現状33

2.核燃料サイクルの動向

(1)進展する核燃料サイクル計画及び事業化
 これまで,核燃料サイクル分野については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が積極的に推進されてきたが,ウラン濃縮及び再処理については,民間において同事業団の経験を踏まえて事業化する段階にまで達している。すなわち,昭和59年4月に電気事業連合会は,ウラン濃縮施設,再処理施設及び低レベル放射性廃棄物最終貯蔵施設の立地協力要請を青森県に対して行い,昭和60年4月には協力要請を受諾する旨青森県及び六ヶ所村から回答がなされるとともに,関係者間において地域振興,安全対策等を盛り込んだ基本協定の調印が行われた。さらに同月,これら核燃料サイクル施設の立地に伴う「むつ小川原工業開発第2次基本計画」の一部修正が,青森県から提出され,これに基づきむつ小川原開発の推進について,閣議口頭了解が得られた。これに先立ち,昭和60年3月には日本原燃産業(株)が設立され,同年7月には動力炉・核燃料開発事業団と日本原燃産業(株)はウラン濃縮施設の建設・運転等に関する技術協力基本協定を締結した。また,日本原燃サービス(株)は動力炉・核燃料開発事業団と昭和57年に技術協力基本協定を締結していたが,昭和60年2月に更に技術移転の円滑化に資するよう技術協力実施協定を締結した。
 昭和60年6月からは日本原燃サービス(株)及び日本原燃産業(株)により,陸域の立地調査が開始された。原子力委員会においては,こうした事業化計画の進展を踏まえ,核燃料サイクル推進会議を随時開催して,核燃料サイクル全般にわたる施策の効果的な推進を図っている。
 なお,昭和59年12月には(株)日立製作所,(株)東芝,三菱重工(株)の3社が合弁企業として,遠心分離機の製造に当たるウラン濃縮機器(株)を設立した。

(2)核燃料サイクル各分野の開発状況

(イ)ウラン濃縮
 ウラン濃縮については,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として遠心分離法による濃縮技術の開発を推進してきている。原型プラントは,民間の協力を得て,同事業団が人形峠に建設・運転することになっており,昭和59年10月末から土地造成工事が始まっている。今後,安全審査を終了した後,昭和60年秋にも建屋の建設を開始する予定である。また,技術開発も順調に進展しており,従来の濃縮装置と比べ分離能力が1.5倍となった濃縮装置RT-2が同事業団東海事業所に完成し,昭和60年4月末より試運転を開始した。RT-2は昭和63年後半に運転開始が予定されている原型プラントの,第2運転単位へ導入することとされている。
 一方,遠心分離法に続く将来のウラン濃縮技術として期待されているレーザー法の開発も進めている。
 レーザー法のうち,原子レーザー法については,日本原子力研究所において原理実証に成功し,昭和59年度から工学試験を開始,分子レーザー法については理化学研究所においてラマンレーザーの開発に成功し,昭和60年度から原理実証試験を開始している。

(ロ)再処理
 これまで我が国は動力炉・核燃料開発事業団を中心に,再処理の技術開発を推進してきた。同事業団の東海再処理工場について,従来より環境への放出放射能量を極力抑えるため所要の施設を設計・建設してきており,昭和59年4月には,廃溶媒処理技術開発施設を完成させ,また,再処理プロセスに関する技術開発及び保障措置技術の開発を進めてきており,酸回収蒸発缶及び溶解槽におけるピンホール発生のトラブルのため一時運転を停止していたが,国産酸回収蒸発缶への取替,国産新型溶解槽の追加等を行い,昭和60年2月には運転を再開し,以来順調に稼働し,本年9月末までの累積再処理量は約236トンに達した。

 また,民間再処理工場建設までの間に,東海再処理工場の処理能力を上回って発生する使用済燃料については,英国及びフランスに委託して再処理することとしており,昭和59年度には約400トンの使用済燃料を搬送した。なお,昭和59年11月,フランスにおいて再処理され回収されたプルトニウムが,我が国に船舶(日本船籍)により輸送された。
 なお,原子力委員会においても,再処理の長期的目標及び今後の再処理開発のあり方を調査審議するため,昭和59年5月に再処理推進懇談会を設置し,現在審議を行っているところである。

(ハ)放射性廃棄物対策
 現在,原子力発電所等において発生している低レベル放射性廃棄物については,濃縮,圧縮,焼却等の処理後,多くのものは性状に応じてセメント,アスファルト等により固化し,敷地内に安全な状態で貯蔵されており,昭和60年3月末現在,その累積量は全国でドラム缶相当で58万本に達している。
 原子力委員会は,放射性廃棄物対策専門部会において,放射性廃棄物対策について調査審議を進めてきたところである。同専門部会の昨年8月の中間報告及び本年10月の報告の概要は以下の通りである。
(i) 低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策については,放射性廃棄物の放射能レベルに応じて合理的に処分するものとし,また,安全性の確保を前提としつつ,放射能の減衰に対応して段階的に管理を軽減し,最終的には管理を必要としない段階に入るものとする。
(ii) 再処理工場において発生する高レベル廃液は,ガラス固化し,冷却のため30〜50年間程度貯蔵した後,地下数百メートルより深い地層に地層処分するとの基本的な考え方をとっており,地層処分技術については,4段階に分けて技術開発を行い,2000年頃を目途に早期に技術の実証を行うこととされており,第2段階の目標である処分予定地の選定は動力炉・核燃料開発事業団が行い,国が選定結果の妥当性を確認する。
(iii) プルトニウム等超ウラン元素を含む廃棄物については,その特性にあわせた処理処分方策を確立する。
(iv) 海外の再処理委託に伴い我が国に返還される返還廃棄物については,基本的には,国内再処理工場からの放射性廃棄物と同等な扱いとする。
(v) これら放射性廃棄物は,原子力事業者の事業活動に伴って発生するものであることから,その処理処分が適切かつ確実に行われることに関しては,原則的には発生者たる原子力事業者の責任と考えられる。一方,高レベル放射性廃棄物の処分に関しては,長期にわたる安全の確保が必要なことなどから,国が責任を負う必要がある。
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分については,日本原子力研究所,原子力環境整備センターを中心に試験研究が実施されている。
 低レベル放射性廃棄物の海洋処分については,ロンドン条約下において専門家による科学的検討が行われ,科学的見地からは,低レベル放射性廃棄物の海洋処分が人間及び海洋環境に与える影響は極めて小さく,障害を与えるとは考えられないとの検討結果が,昭和60年9月の第9回ロンドン条約締約国会議に報告された。しかし,本件海洋処分についての各国の意見は分かれ,科学的検討のみならず,政治的,社会的検討を含む広範な調査,研究を終了するまで海洋処分を一時停止するとの決議がなされた。
 我が国としては,海洋処分については,関係国の懸念を無視して行わないとの従来よりの方針の下に本締約国会議の決議に基づく検討等に関して,関係諸国とも協議しつつ対処していくこととしている。
 再処理に伴い発生する高レベル放射性廃液については,現在,再処理工場内のタンクに安全に貯蔵されている。固化処理については,動力炉・核燃料開発事業団を中心として,ホウケイ酸ガラスによる固化処理に重点を置いて研究が進められており,昭和65年には固化プラントの運転を開始する計画である。また,固化体の貯蔵については,固化プラントの建設スケジュールと整合性をとりつつ,貯蔵プラントを建設する計画であり,貯蔵及び処分に関連した試験研究を目的とした貯蔵工学センターの計画も進められている。高レベル放射性廃棄物の処分については,同事業団が中心となり,地層処分に重点を置いて研究開発を進めている。


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