第I部 「総論」
第2章我が国の原子力開発利用の現状33

1.原子力発電の動向

(1)原子力発電の現状
 原子力発電は,昭和59年度において3基,228万4千キロワット,昭和60年4月から9月までの間に3基,307万キロワットが商業運転を開始した。昭和60年9月末現在,運転中のものは合計31基,総発電設備容量2,363万1千キロワットとなっており,これに,建設中及び建設準備中のものを加えた合計は48基,総発電設備容量4,069万4千キロワットとなっている。
 また,原子力発電は昭和59年度実績で,総発電設備容量の13.9% 昭和59年度末現在,総発電電力量の22.9%を占めた。また,一部地域では電力需要の少ない時期に,原子力発電の比率が約95%に達した。

(2)安全確保の徹底
 昭和41年に商業用原子力発電所が運転を開始して以来,従業員に放射線障害を与えたり,周辺公衆に放射線の影響を及ぼしたりするような事故・故障は現在に至るまで皆無であり,この実績からも今日,原子力発電の安全性は基本的に確立していると言えよう。ちなみに,原子力発電所の事故・故障件数は昭和59年度に18件,また一基あたりの年平均事故件数は0.6件と昭和41年以来の最低を記録し,近年確実にトラブルが減少していることを示している。
 また,放射性気体及び液体廃棄物の放出量は,従来からと同様,年間放出管理目標値を十分に下回っており,また従業員の被ばく実績も,法令に定める許容被ばく線量を下回っている。

 一方安全研究については,安全研究年次計画を原子力安全委員会において策定しており,この計画に沿って日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心として進められている。

(3)信頼性及び経済性の向上
 原子力発電の設備利用率は,昭和55年度に60%を超え,それ以来,着実な伸びを示し,昭和59年度には73.9%と過去最高値を示した。また,運転中のトラブルによる運転停止頻度も昭和59年度は0.1回/炉・年と米国等と比較しても1桁低い値となっている。このことから示されるように,我が国の原子力発電の信頼性は世界的にみても高い水準にある。

 経済性については,原子力発電は他の発電方式,特に石油火力発電,LN G火力発電に対しては,相当な優位性を保つている。ただ石炭火力に対しては,原子炉の廃止措置に係る費用及び廃棄物処分に係る費用を考慮すれば,初年度発電原価においてほぼ同等と見られている。

(4)立地の推進
 近年,原子力発電の必要性及び安全性についての国民の認識は高まってきてはいるもの,立地地域における合意形成は必ずしも容易なことではなく,現在,立地の促進の手段として,各種マスメディア,原子力モニター制度等の活用による広報活動等を積極的に推進しているところである。また立地地域の振興対策の充実を図るため,電源三法の活用等が逐次図られているところである。

(5)軽水炉技術の向上
 現在,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業員の被ばく低減等を目的として軽水炉改良標準化が行われている。これまで第1次,第2次改良標準化計画が進められてきたが,現在,これらの成果をベースに,日本型軽水炉を確立するため,第3次改良標準化計画が昭和60年度までの予定で進められている。

(6)原子炉の廃止措置
 発電用原子炉の稼働年数は,30年以上と言われており,現在稼働中の原子力発電のうち,廃止措置がとられるものが出てくるのは,昭和70年代以降においてと見込まれている。
 本年7月,原子力委員会廃炉対策専門部会の報告を踏まえ,総合エネルギー調査会原子力部会において,5〜10年の密閉管理後解体撤去するという標準工程が示され,また,その費用については110万キロワット級の原子炉で約300億円との試算が示された。
 また,関連の技術開発については,昭和56年度以来,日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして,除染,解体,遠隔操作等の技術の開発が行われてきた。現在,要素技術の開発についてはほぼ終了し,解体実地試験の遂行に技術的見通しが得られたとの評価を受けている。今後はこの成果を踏まえ解体実地試験を実施する予定としている。


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