第I部 「総論」
第1章新しい時代を迎える原子力開発利用

2.昭和60年代の展望と課題

 我が国経済社会は昭和50年代末までに石油危機後の構造調整を終えて,昭和60年代には,情報化,ソフト化とサービス化,国際化を軸として技術革新に支えられた新しい成長の時代を迎えるものと期待されている。
 エネルギー情勢については,省エネルギー,石油代替エネルギーの進展に伴い,石油需給は緩和基調にある。しかし,世界的な景気回復の影響もあり,昭和59年には第2次石油危機以降初めて自由世界の石油需要が増加に転じたこと,また,我が国については,昭和58年度からエネルギー需要が増加傾向を示していること等,エネルギー情勢には変化の兆候があらわれ始めている。こうした動きから,開発途上国の経済発展等によるエネルギー需要の増加の見通し及び非OPEC地域における供給余力の限界等から,国際的な石油市場は1990年代には再び逼迫し,石油価格も上昇傾向を示す可能性が大きいと見込まれている。
 こうしたエネルギー情勢見通しの下で,省エネルギーの推進及び石油代替エネルギーの導入努力を継続し,石油依存度の低減を図ることは,昭和60年代においても重要な課題である。さらに,長期的視点に立って,エネルギー資源に乏しい我が国がエネルギー供給面から経済・社会の発展を制約されることのないよう安定したエネルギー需給構造を築く努力を払っていくことが必要である。このため,石油代替エネルギーの中核としての原子力発電を着実に進めること及びさらに将来の高速増殖炉を中心とするプルトニウム利用体系の実現に向けて研究開発を推進することの意義は極めて大きい。
 以上の認識の下に,原子力開発利用の進展状況を踏まえて,昭和60年代を展望する場合,我が国の原子力開発利用の昭和60年代における基本課題として第一に原子力発電の主力電源としての確立,第二に核燃料サイクルの自立化の進展,第三に21世紀に向けてのプルトニウム利用体系の基礎固めの3点を挙げることができる。

 本節では,これら3点を中心として,昭和60年代の展望と課題にふれることにする。

(1)原子力発電の主力電源としての確立

イ)原子力発電の見通し
 我が国のエネルギー供給の石油依存度は主要先進国に比べて依然として高く,エネルギー供給構造の脆弱性からの脱却は,昭和60年代を通じての重要課題である。すなわち,原子力,石炭を中心とする石油代替エネルギーを引き続き開発・導入して,今後の我が国のエネルギー需要の増加分の大半をこれらで賄うことが求められており,現在,一次エネルギーの約60%を石油に依存しているが,これを昭和70年度には48%まで低下させることを目標としている。原子力,石炭等の各石油代替エネルギー源の位置付け及び役割については,その供給安定性,経済性及び用途等の特性から総合的に勘案する必要がある。電力供給の分野においては,供給安定性及び経済性とその向上の可能性等を考慮すれば,原子力発電が最も有望であり,引続き原子力発電の開発・導入が必要である。これを一次エネルギー供給という面からみれば,原子力の占める割合は昭和65年度に10.8%,昭和70年度に14% (昭和59年度における実績は8%)と増大することが見込まれている。
 これに対応した原子力発電規模の見通しについては,発電設備容量で現在の2,363万キロワット(昭和60年9月末現在)から昭和65年度には3,400万キロワット,昭和70年度には4,800万キロワットへと拡大が計画され,総発電電力量における原子力発電の割合は,昭和70年度には35%(昭和59年度の実績は22.9%)に達するものと見込まれている。なお,昭和60年度電源開発基本計画においては,長期的な原子力発電の開発目標を昭和69年度約4,753万キロワット(総発電設備容量の23%,電気事業用)と定めている。この結果,原子力発電は単一の電源としては最大となり,主力電源としての地位を確立する見通しである。

ロ)原子力発電の課題
 今後,原子力発電を推進するに当たっては,経済性の向上,立地地点確保等の要素を考慮する必要がある。
 経済性については,原子力の発電原価は他の発電方式に対し,かつて程でないにしても依然として優位である。通商産業省の試算によれば,昭和60年度運開ベースのモデルプラントについて原子力発電の初年度原価は13円/kWh程度,これに対し石炭火力は14円/kWh程度,石油火力は17円/kWh程度,LNG火力17円/kWh程度となっている。また,原子力委員会の調査においても,同様の結果が得られている。
 この原子力発電原価には廃炉費用及び放射性廃棄物の最終処分費が含まれていないが,これらは初年度発電原価の概ね1割程度と見られており,これを考慮すれば原子力と石炭火力の発電原価はほぼ同水準にあるものと見られている。
 なお,これまで,発電原価の差が縮小してきたのは,近年の原子力発電所の建設費の上昇と火力発電所の化石燃料費の低下によるものである。
 今後,原子力発電の比重が高まるにつれて,社会経済に与える影響がより大きくなることから,その経済性の向上が一層重要となり,現在検討が進められている軽水炉の高度化のための計画においても主要課題となっている。軽水炉による原子力発電は長期サイクル運転等種々の点で改良・改善の余地が大きく,今後とも十分な技術開発努力が払われ,これら計画が進展するならば,原子力発電の他の発電方式に対する経済的優位性は揺らぐことはなく,むしろ将来はその優位性が強まるものと期待できる。
 また,原子力発電は高い稼働率で操業し,大量供給を行う場合に優れた経済性を発揮し,燃料健全性確保等の観点からも一定出力での運転が望ましいとされ,現在は,電力需要のうち,ベースロードに対する供給を行っている。将来,原子力発電の比重の増大に伴い,電源構成における位置付けを踏まえつつ,負荷追従性を向上させることが必要と考えられるが,これについては,今後の技術開発努力によってその信頼性,経済性を一層向上させつつ,核燃料設計の改良・改善等を図ることによって負荷追従型の運用が可能である。原子力発電を今後とも我が国の石油代替エネルギーの中核として着実に増加させていくという政策目標は,こうした技術的可能性を踏まえたものである。
 立地地点の確保については,原子力発電の基数増加に伴い,新規立地地点確保の困難性が増大することを考慮する必要がある。これに対しては,従来から実施している電源三法の活用等の立地地域の振興対策の充実,普及啓発活動の積極的推進は勿論のことであるが,さらに,立地地点選定の幅を広げるため,新立地方式の調査・検討の積極的推進も課題となろう。
 原子炉の廃止措置については,技術的には既存の技術又はその改良により対応可能であると考えられるが,将来の原子炉の廃止措置に備えて,廃止措置のための資金確保対策,発生する廃棄物の合理的な処理処分対策等,廃止措置を適切に実施するための制度面での整備を図る必要がある。また,被ばくの低減,経済性向上等のための関連技術の開発を進める必要がある。

(2)核燃料サイクルの自立化の進展

イ)核燃料サイクル確立の意義と展望
 現在の核燃料サイクルは,軽水炉を中心として,ウラン資源の入手,濃縮から燃料加工に至るいわゆるフロントエンドと,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処理処分を含めたいわゆるバックエンドからなっている。
 再処理によって得られる回収ウランとプルトニウムは軽水炉,さらには新型転換炉及び高速増殖炉等次世代のプルトニウム利用体系において活用される。
 我が国は,ウラン資源を海外に依存しているほか,ウラン濃縮及び再処理についても,ほとんどを海外に依存している。このため,核燃料サイクルにおける自主性を高める観点からウラン濃縮を事業化し国内供給割合を高めていくこと及び再処理を原則として国内で行うこと等を目標に技術開発を推進している。また,軽水炉を中心とする現在の核燃料サイクルを完成させる観点から放射性廃棄物の処理処分の技術開発,体制整備を進めている。
 ウラン濃縮及び再処理については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められ,前者については国際的水準に達し,後者についても基本的に技術が確立した。昭和60年代には,その成果を踏まえ,民間においてウラン濃縮及び再処理の事業化が進展する見通しである。また,原子力発電所等より発生する低レベル放射性廃棄物について,これまでの研究開発を踏まえて,民間による最終貯蔵施設の建設計画が具体化している。
 このように昭和60年代は,核燃料サイクル分野において研究開発及び事業化が進められ,核燃料サイクル自立化が進展する見通しである。

ロ)ウラン濃縮の課題
 ウラン濃縮に関する国際的な需給動向を見ると,米国,フランス等は当面,我が国の需要も含めて国際的需要に対応する供給能力を有しており,世界的な原子力発電所の新規建設の低迷の中でむしろ供給過剰の状況になり,この結果,厳しい価格競争が展開されている。
 このような情勢下にあって,我が国が濃縮ウランの国内需要の一部を国産濃縮ウランで賄い,さらに将来,その割合を高めるためには国際競争力を有するウラン濃縮事業を確立することが重要である。さらに,米国において本年6月,将来の濃縮技術としてレーザー法を選択するとの決定を行ったことにみられるとおり,厳しい国際競争を背景として技術革新のための開発競争が行われる見通しであり,我が国としてもこうした動向を十分に把握しつつ,遠心分離技術の高性能化を進めるとともに,次世代の技術としてのレーザー法の将来性に鑑み,官民協力のもとにその研究開発を着実に進めていく必要がある。

ハ)使用済燃料再処理の課題
 再処理はその重要性に鑑み極力海外からの制約を被らないようにすべきであるが,民間再処理工場に用いる技術の選定にあたっては国内外の技術に関して,十分に調査・検討を行い,それらの中から最良の技術を選定する方針としている。その際,海外の技術を導入する場合には,技術を十分咀嚼し,国内に定着するよう努めることが重要である。また,民間再処理工場の設計,建設及び運転に当たっては,動力炉・核燃料開発事業団が保有する技術,経験等を適切に活用することが極めて重要である。さらに,民間再処理工場の設計,建設及び運転を行うに当たっては,安全の確保に努めるとともに,商業プラントとして建設費及び運転経費の低減化,稼働率の確保等を図ることにより経済性の向上に努めることが重要である。
 また,東海再処理工場については,今後,安定した運転実績を積み重ねること及び運転管理システムの改良,設備の改善に努め,その成果を民間再処理工場の建設に継続的に反映させ,技術水準の向上を図っていくことが肝要である。

ニ)放射性廃棄物処理処分の課題
 放射性廃棄物の処理処分対策は,国民から重大な関心を寄せられており,昭和60年代において,その進展が大いに望まれている分野の一つである。
 この問題は,我が国ばかりでなく,原子力発電を行っている各国に共通のものであり,従来より経済協力開発機構原子力機関 (OECD-NEA)や,国際原子力機関(IAEA)等の国際機関において,処理処分方法の検討,技術開発,安全性等の評価が進められている。この結果,ほとんどの放射性廃棄物の処理処分は,現在実施中もしくは開発中の処理・処分技術で十分に対応できるものであり,原子力発電コストを大幅に増大させることなく,放射線防護上の安全確保が可能であるとの方向が示されている。
 原子力委員会においては,本件の重要性に鑑み,放射性廃棄物対策専門部会においてその検討を進め,昭和59年8月及び昭和60年10月に「放射性廃棄物処理処分方策について」と題する報告書をとりまとめたところであり,今後,これらの検討結果を踏まえて所要の施策を講じていく必要がある。
 具体的には,低レベル放射性廃棄物の陸地処分については,放射能レベルに応じた合理的な処分のあり方について調査・研究を進める一方,民間における最終貯蔵計画について,指針・基準等の整備を進めるほか,同計画の円滑な推進を支援する必要がある。
 一方,低レベル放射性廃棄物の海洋処分については,関係国の懸念を無視して強行はしないとの方針のもとに,第9回ロンドン条約締約国会議における決議にもとづく科学的,政治的検討等に関して,関係諸国とも協議しつつ対処することが必要である。
 高レベル放射性廃棄物処理処分については,今後,固化について所要の技術実証を進め,さらに2000年頃に地層処分技術の実証を行うことを目指して着実な研究開発を進める必要がある。

(3)プルトニウム利用体系の基礎固め

イ)プルトニウム利用体系の意義と展望
 軽水炉を中心とする現在の核燃料サイクルは,基本的には 235Uの利用体系であり,ウラン資源の有効利用,資源の海外依存度低減の点で限界がある。これに対して,消費した以上の核燃料を生産する高速増殖炉とその燃料の加工・再処理事業を中心とするプルトニウム利用体系は核燃料の自給自足を可能とする,いわば国産エネルギー体系として考えられ,エネルギー・セキュリティ上の意義は極めて大きい。
 今後,こうした次世代の原子力利用体系実現を目指して着実に高速増殖炉の研究開発を進める必要があるが,その実現にはなお長期間を要する。
 また,プルトニウム蓄積量の増加に対しては,資源の有効利用,プルトニウム貯蔵に係る経済的負担の軽減,核不拡散上の配慮等が必要である。従って,我が国としては,高速増殖炉の開発と並行して新型転換炉開発及び軽水炉での利用を進めてプルトニウムをエネルギー源として活用を図り,天然ウラン所要量及び濃縮役務の節減を図る一方,プルトニウム利用技術の定着に努めることが必要である。
 高速増殖炉及び新型動力炉の開発は,これまで,動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきた。
 昭和60年代には,高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の臨界が予定され,さらにその次の開発段階である実証炉について民間が主体的役割を果して建設する計画が具体化する見通しである。また,新型転換炉については,動力炉・核燃料開発事業団による原型炉「ふげん」の成果をふまえて,電源開発(株)による実証炉計画が進められる。さらに,電気事業者により軽水炉におけるプルトニウム利用の実証計画が進展する見通しである。
 このように,昭和60年代は,技術開発が実証段階にさしかかり,21世紀におけるプルトニウム利用の本格実用化を実現するための基礎固めが行われる時期である。

ロ)プルトニウム利用体系に係る課題
 今後,上記に述べた各技術開発計画を推進するとともに,次の諸点を念頭に置きつつ,プルトニウム利用を我が国経済社会に定着させるための諸準備を進めるべきである。
(i)  各種計画の進展に伴うプルトニウム需要の増大については,東海再処理工場において回収されるプルトニウム及び海外再処理委託により回収されるプルトニウムによって対処することとなる。今後,東海再処理工場の順調な運転に努めるとともにプルトニウムの海外からの返還の円滑化を図り,プルトニウムの供給面から研究開発計画に支障をきたさぬようにする必要がある。
(iii)  プルトニウムの本格利用においては安全性とともに経済性を無視しては考えられないところである。今後は,常に経済性を念頭に置き,開発計画を進める必要がある。
(ii)  混合酸化物(MOX)燃料供給体制,高速増殖炉燃料の再処理技術の実用化等,全体として調和のとれたプルトニウム利用体系の整備に向けて,着実にその開発を進める必要がある。
(iv)  さらに,プルトニウム利用に対し,国民の理解と協力を得るための努力を重ねる必要がある。また,国際的な核不拡散,核物質防護に対する要請に応えて,信頼されるプルトニウム管理・輸送体制を整備する必要がある。

(4)原子力開発利用推進上の共通的課題

イ)官民の役割の変化への対応
 今後,原子力開発利用は,その推進体制に関し,官民の役割,官民協力のあり方において質的に変化するものと考えられる。すでに原子力発電の分野では,電力会社,メーカー等民間が開発主体としての役割を担っており,国は安全規制,安全研究等の面で中心的な役割を果たす一方,開発面では民間の技術力をベースにその活用を促す立場に立っている。昭和60年代においては,核燃料サイクル,新型動力炉等の分野で,これまで国を中心に進められてきた技術開発の成果が順次民間に移転され,民間が中心となって国の支援のもとに実証,実用化の段階へと移行していく見通しである。
 このような民間事業化については,開発成果の円滑な移転がプロジェクトを成功させるための鍵となる。
 このため,当事者の密接な連絡,協力が必要であることはもちろんのこと,関係省庁,電気事業者,メーカー等相互間の理解を得ることが不可欠であることに鑑み,関係者の協力体制の確立に特段の配慮が払われなければならない。
 今後の原子力開発利用の推進にあたっては,開発プロジェクトの民間移行期に即した,官民の役割分担と協力のあり方,研究開発のあり方等を検討し,これを踏まえて,大型化する研究開発を効率的に推進する必要がある。

ロ)国際化の進展と自主性の確保
 昭和60年代において,核燃料サイクル分野で事業化が進められ,自立化が進展するが,国際関係の面でもこれに対応して適切な枠組みを整備していかなければならない。
 昭和60年代には我が国の原子力開発利用は,規模,技術力の面で国際的に一層重要な地位を占めることとなろう。我が国原子力発電については,機器の品質管理,発電所の運転管理の面で評価が国際的に高まりつつある。
 また,核燃料サイクル,新型動力炉開発等において我が国より進んでいるフランス,英国,西独等との技術的な差も漸次縮まる見通しである。こうした点を背景として開発途上国はもとより,先進国からも我が国の技術力等に着目した協力要請が高まりつつある。また,我が国としても研究開発を効率的に進めるために積極的に先進国との協力を進めることが望ましいが,その際,自主開発と国際協力を整合性をもって進めることが肝要である。
 我が国原子力産業は原子力発電所建設を中心に展開し,昭和50年代後半から黒字基調が定着してきており,経営基盤が固まりつつある。我が国メーカーの原子力発電設備生産能力は年間6基程度であり,経営の観点から年間3基程度の市場が必要と言われている。今後中期的にみて原子力産業市場が,メーカー側の必要とする規模を維持し得るか否かは,現行長期計画等の開発計画の達成如何に依存し,より長期的には,原子力発電の経済性を向上し,導入のインセンティブをどれだけ増大させうるかに依存する。
 一般的には,今世紀中は原子力市場は弱含みで推移するとの見方が強く,国内市場の拡大とともに国際市場への展開が重要なものとなる。この点について海外主要国は,既に国内市場の低迷に対応して輸出の強化に努めているところである。
 従って,昭和60年代においては,次のような点に留意しつつ,多角的な視点から原子力の国際化を推進していく必要がある。
(i)  核不拡散における二国間関係については,平和利用の促進を必要以上に制約するような措置を排し,我が国の核燃料サイクルに係る自主性を確保するよう努める。この観点から,現在継続中の日米原子力協議への対応は特に重要である。
 他方,今後ともIAEA保障措置体制の信頼性及び効率性の一層の向上に協力する等,核不拡散条約に基づく国際的な核不拡散体制の強化に積極的に貢献していく。
 具体的には,IAEAを中心に進められている保障措置の改善に協力していくとともに,IAEAの場で検討が進められている国際的なプルトニウム管理,あるいは原子力資材等の供給保証等に関する新しい国際的枠組み作りに対しても,有効かつ効率的な形で実現するよう貢献していく。
(ii)  我が国の原子力関連研究開発はより一層大規模化するとともに関連する分野はより一層広範になってくるものと考えられる。これらの研究開発には膨大な資金と多分野の人材を要するので,研究開発の効率化,資金分担の観点から先進国との協力を一層推進する。なお,資源に乏しい我が国が国際社会において主体性を確保していくためには,自主技術の確立が重要であり,また国内に十分な技術基盤があることが国際協力を進めるうえでの要件である。
(iii)  開発途上国からの協力要請に応えることは原子力先進国としての我が国の国際的責務であり,原子力委員会の決定(昭和59年12月)を踏まえ,今後とも平和利用に限るとともに,世界の核不拡散体制の確立に貢献していくという我が国の基本的考え方に従って,開発途上国において自立的かつ着実な原子力開発を進めるために必要な研究基盤,技術基盤の整備に重点を置いた協力を各国の国情に応じ拡充していく。
 その場合,人材交流を中心に我が国に対する期待が高いアジア近隣諸国に特に配慮して協力の拡大を図る。
(iv) 今後我が国は,原子力技術の向上,原子力産業の成長を背景として原子力資機材,技術等の供給国となっていくと考えられるが,供給に当たっては,核不拡散のための慎重かつ十分な配慮を行う。
 また,原子力発電プラントの輸出について原子力産業は,国際競争力を保有すべく技術基盤の強化,経済性の向上等を図るとともに,核燃料サービス,人材訓練,プラント保守等について整備を図る一方,政府においても原子力発電プラント輸出の円滑な推進に必要な対策等の検討を進める。

ハ)基礎研究の強化及び人材養成の充実
 基礎研究は,研究活動の基盤として,また新しい技術開発の源泉として不可欠のものであり,今後とも長期的視点に立って,物理・化学分野,生物・医学分野,燃料・材料その他の工学的分野等の基礎研究を幅広く行うことが重要である。このような基礎研究を今後強化していくためには,特に次のような課題が挙げられる。
 原子力における基礎研究は,他分野の基礎研究に比べ原子炉,加速器等の大型設備を必要とするものが多い。このため,今後とも計画的にそれらの大型設備の整備・改善を図っていくとともに,共同利用等によりその十分な活用を図っていくことが重要である。特に,研究用の原子炉については老朽化しつつあるものもあり,改善等の検討を進める必要がある。また,加速器については,大型加速器等の計画的な整備が必要である。

 また,官民の役割が変化することに伴い,民間における基礎研究の重要性も一層高まっており,今まで我が国が進めてきた研究成果を大学・民間においても十分に活用できるよう努める等産学官の協力を強化していかなければならない。
 人材養成については,原子力は,その研究開発に長期間を要すること,総合的かつ高度な技術であることから,優秀な人材を数多く養成することが重要であることに留意しなければならない。昭和60年代を展望すると,原子力の研究開発利用が今後とも拡大していく見通しであり,人材養成は一層重要となる。
 このような状況を踏まえ,今後,研究者独自の創意工夫と自主性の尊重を図り資質向上に努めるとともに,研究者相互の連携・協力を促進するため,産学官間及び国際間における人材交流,共同研究を積極的に進めていく必要がある。

ニ)国民の理解と協力
 今日,原子力発電が社会に定着するに至った背景として,我が国のエネルギー事情,原子力の必要性と安全性について国民の間で理解が進んだことが挙げられる。これについては,政府の施策はもとより,地域住民と直接接する立場にある関係地方公共団体の行政施策,原子力発電技術の向上のための電気事業者,メーカー等産業界の努力,正しい知識の普及に関して,各界専門家,報道関係者等が果たした役割等がそれぞれ寄与するところが大きかったと考えられる。
 しかしながら,国民の間には,なお原子力をめぐって様々な意見があることを十分認識しなければならない。
 これまで述べてきた原子力開発利用に関する今後の課題は,国民の理解と協力を得ることなしには達成しえないものである。
 特に,原子力研究開発は巨額の資金と長いリードタイムを要し,国民各層の理解と支援が不可欠であることに鑑み,国民の合意形成を求めるためのたゆまない努力が必要であり,
(i)  原子力発電の必要性,安全性について,正しい知識に基づいて,広く議論が行われることが理解を広げるうえで役立つこと,
(ii)  原子力発電所,東海再処理工場等の原子力施設の優れた安全運転実績の積み重ねが国民の不安解消のための大きな説得力となること,
(iii)  原子力発電だけでなく,原子炉の廃止措置,放射性廃棄物処理処分等も含めて,原子力全体として整合性のある体系の確立が国民から強く求められていること,
(iv)  原子力開発は,地域社会と調和し,地域社会の健全な発展に寄与するものであるべきこと,等の諸点を十分認識し,国民の信頼に応える原子力政策を展開しなければならない。


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