2 原子力委員会の決定等

(1)原子力委員会決定一覧(原子炉等規制法に係る諮問・答申を除く)

(2)昭和59年度原子力開発利用基本計画

(昭和59年3月30日答申)原子力委員会
(昭和59年3月29日答申)原子力安全委員会
(昭和59年3月30日決定)内閣総理大臣

 はじめに

 我が国の原子力発電は,昭和38年に最初の原子力発電に成功して以来,すでに20年余の歳月を経過し,その間着実な進歩をとげ,現在では,総発電電力量の約20%をまかなうまでに至っている。また,最近では極めて良好な稼動実績を記録するなど,信頼性も着実に向上し,原子力発電は安定したエネルギー源として,国民生活,経済社会において確固たる地位を築きつつある。
 一方,我が国のエネルギー需給構造は,景気回復の遅れ,省エネルギーの着実な進展等を反映して,エネルギー需要が3年連続の減少を示す等,構造的な変化を遂げている。こうした状況の下で,昭和58年11月,総合エネルギー調査会は長期エネルギー需給見通しの改訂を行い,これを受けて,石油代替エネルギーの新供給目標が閣議決定され,原子力のエネルギー供給目標も下方修正された。
 しかしながら,石油依存度が以前として高い我が国のエネルギー供給構造はいまだ脆弱なものであり,石油代替エネルギーの開発は,我が国の重要な課題である。なかでも原子力は,経済性に優れた大量かつ安定的な電力供給源として最も有望なものであり,今後とも,原子力開発利用長期計画にのっとり,安全確保を大前提として,原子力発電の規模の拡大,核燃料サイクルの早期確立,次代の発電炉として期待される新型転換炉及び高速増殖炉の開発,核融合の研究開発等を引き続き積極的に推進していく必要がある。
 また,放射線利用についても,原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として医療,工業,農業等の分野で幅広く進められ,国民生活の向上に大きく貢献しており,利用分野の一層の拡大及び利用技術の高度化を図る必要がある。
 さらに,我が国の原子力技術は諸外国から高い評価を受けており,近時,高速増殖炉,核融合の研究開発等について,先進諸国からの共同研究の申し入れも多くなっている。また,開発途上国から我が国に対する期待もますます増大しており,我が国としては,相手国のニーズを的確に把握し,核不拡散にも配慮しつつ,これらに積極的に応えていくことが重要である。
 このような,原子力開発利用をめぐる各般にわたる動向を踏まえ,昭和59年度は,以下に示す具体的施策を講じ,原子力開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。

I 昭和59年度施策の概要
1.安全確保対策の強化
 原子力の研究開発利用を進めるに当たっては,これまでも厳重な規制と管理を実施し,安全の確保に万全を期してきたところであるが,原子力発電の推進,高速増殖原型炉の建設,新型転換炉実証炉及び,再処理工場の建設計画等今後における原子力研究開発利用の進展に対応してゆくためには,内外の事故・故障の教訓も踏まえ,原子力の安全確保対策をさらに充実し,安全性の一層の向上を図っていく必要がある。
(1) 原子力安全規制行政の充実
 原子力の安全確保のための規制については,行政庁において法令に基づき,厳正な安全規制を行っているが,今後とも,安全審査,検査,運転管理監督体制等のより一層の充実・強化を図る。
 原子力安全委員会においては,行政庁の行なった設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか,設置許可等の後の各段階においても必要に応じ審議し,行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い,原子力の安全確保に万全を期する。
 原子力安全委員会の審査,審議に当たったは,原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査・審議において,独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実を図り,客観性・合理性の確保に努める。また,行政庁の行った原子力発電所等主要原子力施設設置許可等に係る審査についてダブルチェックを行う際には,当該施設の安全性に関し,公開ヒアリング等を開催する。
 安全規制に必要な各種安全基準及び指針については,発電用軽水型原子炉,核燃料施設等に関し,原子炉立地審査指針,発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針,発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針等の見直しを引き続き行うとともに,再処理施設の安全評価及び原子炉の解体に伴う安全確保に関する考え方のとりまとめ,低レベル放射性廃棄物の陸地処分の安全規制のあり方に関する検討を進めていく。
 さらに,国際原子力機関(IAEA)における原子力発電所に関する安全基準作成計画及び放射性物質安全輸送規則の改訂事業並びに,経済協力開発機構―原子力機関(OECD-NEA)における原子力施設安全規制国際協力事業に参加するとともに,米国及びフランスとの間で安全規制の情報交換を進め,我が国の安全基準及び指針の整備等安全規制の充実に資する。
 なお,原子力全般に係る安全問題について専門家によるシンポジウムを開催することとする。
 また,放射性同位元素等の利用の拡大に対処して,より一層の安全確保に努める。国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告の国内制度への取入れについては,放射線審議会における審議及び関係行政庁における検討が進められているところであるが,放射線審議会の意見答申を踏まえて所要の措置を検討する。
(2)安全研究の推進
 安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し,各種安全審査基準・指針等の一層の整備・充実に資するため,軽水炉等原子力施設の工学的安全研究及び放射線障害防止に関する研究等の環境安全研究を推進する。
① 工学的安全研究
 軽水炉に関する工学的安全研究については,日本原子力研究所を中心に,国立試験研究機関等の協力の下に,総合的,計画的に実施する。特に,日本原子力研究所においては,加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-IV計画),原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故時の試験研究,実用燃料照射後試験施設(大型ホットラボ)による燃料の試験等を実施する。また,引続き,原子炉用電線材料等の建全性に関する研究等を進める。
 核燃料施設に関する工学的安全研究については,日本原子力研究所等において,臨界安全性に関する研究,しゃへい安全性に関する研究,再処理施設の安全評価に関する研究等を実施する。
 また,金属材料技術研究所,地質調査所,船舶技術研究所等の国立試験研究機関においては,軽水炉用金属材料の腐食に関する研究,断層の活動性調査法に関する研究,使用済燃料輸送容器のしゃへい性能に関する研究等の安全研究を実施する。
 さらに,国際協力による安全研究として,燃料の性能及び信頼性等に関する研究を行うハルデン計画,冷却材喪失事故の研究を行うLOFT計画,燃料照射研究を行うバッテル計画,炉心損傷研究計画,再処理施設の臨界安全性に関する日米共同研究計画等に参加するほか,日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)及び冷却材喪失事故試験装置(ROSA-IV)と,米国,西ドイツ,フランス等の安全性実験施設との間の研究員の相互派遣,情報の交換等を行う。
② 環境安全研究
 放射線障害防止に関する調査研究として,放射線医学総合研究所を中心に,低レベル放射線による晩発障害,遺伝障害,内部被ばく,トリチウムの生物影響に関する研究等を推進する。特に,プルトニウム等の内部被ばく研究を強化するため,内部被ばく実験棟の建設を59年度に完成させ,60年度以降のプルトニウムを使用した研究の実施に向けて本格的な運転を行う。
 放射線医学総合研究所以外の国立試験研究機関等においては,抗体産生系に及ぼす低線量放射線の影響解明に関する研究等を実施する。
 また,環境放射能に関する調査研究として,放射線医学総合研究所,その他の国立試験研究機関,日本原子力研究所,地方公共団体試験研究機関等において,環境放射線モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究並びに一般環境,食品及び人体内の放射能の挙動と水準の調査を行うほか,防災対策関連の研究として,日本原子力研究所及び気象研究所において緊急時環境放射能予測システムに関する研究等を実施する。
(3) 防災対策の充実
 原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため,引続き緊急時連絡網,緊急時環境放射能監視体制及び緊急医療体制等の充実・強化を図る。
(4) 原子力事業従業員の被ばく管理対策の充実
 原子力事業従業員の被ばく管理については,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律,労働安全衛生法等に基づき,今後ともその徹底を図る。
 さらに,定期検査等における従業員の被ばく線量の低減化対策の充実を図る。
(5) 核燃料サイクルの確立,新型炉の開発等に当たっての安全確保
 使用済燃料の再処理等核燃料サイクルの確立,廃棄物処理処分対策の推進,原子炉の廃止措置に関する技術開発の推進,高速増殖炉及び新型転換炉等新型炉の開発,核融合の研究開発等の進展が図られているので,これらに即応して,必要な安全基準の検討及び安全性に関する研究開発を進める。
2. 原子力発電の推進
 近年,原子力発電の必要性及び安全性についての国民の認識は高まってはきているものの,立地地域における合意形成は必ずしも容易なことではなく,地域の固有事情を踏まえ,よりきめ細かい推進方策を総合的に展開し,合意形成の促進に努め,原子力発電を推進する必要がある。
 また,現在の発電炉の主流を占める軽水炉の信頼性等の向上を図るため,軽水炉の改良・標準化等を推進する必要がある。以上の見地から次の施策を講ずる。
(1) 原子力発電所等の立地の促進
① 広報活動等の推進
 原子力研究開発利用に関する国民の正しい認識を求め,原子力発電を始めとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため,マスメディアの一層の活用,講演会,各種セミナーの開催,オピニオンリーダーに対する資料送付,原子力映画の作成等各種広報素材の提供,原子力モニター制度の活用等により広報活動等を積極的に推進する。
 さらに,原子力発電所等の立地を円滑に進めるために立地予定地域のオピニオンリーダー等を対象とした原子力講座等の開催を図るとともに,原子力発電所をはじめ再処理施設等の立地の初期段階における地元住民の理解と協力を得るための施策を進め,また地方自治体の行う広報対策等への助成を行う。
 また,電源立地調整官等の機動的な対応により,原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに,原子力発電所の設置県については,原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進める。
② 立地地域の振興対策の充実
 発電用施設周辺地域整備法等の電源三法を活用し,原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備,地域の産業振興及び住民,企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き推進する。また,施設周辺の環境放射能の調査・監視,温排水の影響調査,防災対策,原子力発電施設等の安全性・信頼性実証試験等を推進し,原子力発電施設等の立地の円滑化を図る。
 更に,昭和59年度から,新たに,次のような施策を推進する。
 イ.電源立地促進対策交付金の交付対象施設として,産業の振興に寄与する施設の範囲の拡大等,使途の充実等を図る。
 ロ.原子力発電所等の周辺海域における環境放射能に関する調査及び評価の体制を拡充する。
(2) 軽水炉の改良・標準化等の推進
 現在,建設,運転が進められている軽水炉について,信頼性の向上,保守点検作業の効率化,作業員の被ばく低減化等の観点から,自主技術による改良・標準化推進のための調査を行うとともに,原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業を行うロボットの開発を行い,また,民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。
 また,軽水炉の安全性・信頼性を実証するため,大型再冠水効果実証試験,配管信頼性実証試験,耐震信頼性実証試験,ポンプ信頼性実証試験等を引き続き実施するとともに実用原子力発電施設安全性実証解析等を新たに開始する。さらに,作業員の被ばく低減化のための実証試験及び技術開発を行うとともに原子炉内蔵型再循環ポンプ,大型炉心,高性能燃料等について確証試験を実施し,その実用化の促進を図る。
 このほか,実用発電用原子炉の恒久的な運転終了に備えて日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして原子炉の廃止措置に関する技術開発を推進するとともに,実用発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験等を実施する。
 また,原子力発電所の新立地方式に関する調査を行う。
3.核燃料サイクルの確立
 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため,海外ウラン調査探鉱活動の強化,ウラン濃縮国産化対策の推進,国内再処理事業の確立のための施策の推進,放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。
(1)ウラン資源確保策の推進
 動力炉・核燃料開発事業団によるオーストラリア,カナダ,ニジェール等における単独,又は,諸外国の機関と共同で行う海外ウラン調査探鉱活動の重点化を図るとともに,成果の得られたプロジェクトについては,民間への引き継ぎ方策の具体化を図る。また,金属鉱業事業団の出融資制度等により民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。
 国内探鉱については,動力炉・核燃料開発事業団で,東濃地区の美佐野鉱床の精密試錐等を行う。更にウラン資源開発のための研究開発として,動力炉・核燃料開発事業団において,ウラン鉱石から六フッ化ウランまでの製錬転換技術開発のための,製錬・転換パイロットプラントの運転を進める。また,動力炉・核燃料開発事業団において,低濃度ウランの回収技術に関する研究を行うとともに,金属鉱業事業団において,海水ウランの回収システムの開発調査等を行う。
(2) ウラン濃縮国産化対策の推進
 動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮パイロットプラントの運転試験を継続する。
 ウラン濃縮原型プラントについては,官民協力の下に,動力炉・核燃料開発事業団が岡山県の人形峠事業所内に建設することとして土地造成等を行うとともに建屋の建設,遠心分離機の製作等に着手する。
 また,高性能遠心分離機の信頼性試験を進めるとともに,遠心分離機の経済性向上ならびに高性能化に必要な研究開発及び六フッ化ウランガス処理系の合理化試験等を重点とした研究開発を行う。このほか,民間で行うウラン濃縮遠心分離機製造技術の確立に対して助成を行う。
 さらに,民間企業による化学法ウラン濃縮技術の試験研究及びシステム開発調査に対して助成を行うとともに,レーザー法ウラン濃縮技術に関し,工学基礎試験に着手する。
(3) 使用済燃料の再処理並びにプルトニウム及び回収ウランの利用の推進
① 再処理技術の実証と確立を図るため,動力炉・核燃料開発事業団において,東海再処理工場の安定した操業の確保を図るために必要な対策を講じ,操業の再開を図るとともに所要の施設整備を行う。
 また,プルトニウム転換施設の運転を行う。さらに,再処理の改良技術,工程管理技術等の研究開発を進める。また,民間による再処理工場の建設計画を推進することとし,動力炉・核燃料開発事業団において建設及び運転経験によって得られた技術等の円滑な移転を図るとともに,大型再処理施設の環境安全の確保及び保障措置の適用のための技術開発,再処理主要機器及びプロセス機器等の技術確証調査を引き続き行う。また,高燃焼度燃料の再処理技術及び使用済燃料の管理技術に関する研究開発に着手する。
 さらに,高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため,所要の研究開発を進める。
② プルトニウムについては,これを高速増殖炉及び新型転換炉等の燃料に利用するため,動力炉・核燃料開発事業団において,プルトニウム燃料加工技術の開発,プルトニウム燃料の照射試験等を行う。また,軽水炉へのプルトニウム実用規模利用の実証に関する調査,プルトニウム燃料加工の事業化に関する調査等を行う。
③ 回収ウランを再濃縮して利用する技術の確立を図るため,動力炉・核燃料開発事業団において,回収ウラン転換試験及び濃縮カスケード試験を行う。
(4) 放射性廃棄物の処理処分対策の推進
 低レベル放射性廃棄物については,原子力発電の進展に伴い,今後発生量の増大が予想されているところであり,発生量の低減化,減容化等のための処理技術開発を促進するとともに,発生から処理・処分に至る効率的な全体システムの確立に資する調査等を進める。処分のうち,海洋処分については,引き続き試験的海洋処分実施に関する諸準備を行うとともに,第7回ロンドン条約締約国協議会議で決まった科学的検討に積極的に参加・協力する等内外関係者の理解増進に努める。
 陸地処分については,引き続き日本原子力研究所における環境シミュレーション研究等の安全評価に関する試験研究を推進するとともに,処分技術に関する調査研究等を進める。
 また,原子力発電所・敷地外の施設における貯蔵について具体化のための所要の検討及び整備を進めるとともに,安全性実証試験を継続し,さらに,貯蔵技術の開発として新型容器,新型固化体等の開発に着手する。
 さらに,極低レベル廃棄物の合理的処分方法の調査等を進める。
 高レベル放射性廃棄物の処理処分については,動力炉・核燃料開発事業団を中心として,ガラス固化処理の技術開発,固化パイロットプラントの調整設計等を進めるとともに,地層処分に関し,地層に関する調査研究,工学バリアに関する研究等を進める。また,日本原子力研究所等において,処理処分に関する安全評価試験等を引き続き実施する。
 また,プルトニウムの利用に伴って発生する放射性廃棄物を処理するために,動力炉・核燃料開発事業団において,プルトニウム廃棄物処理施設の建設を進める。
 さらに,使用済燃料の海外再処理委託に伴う返還廃棄物に関しては,その技術仕様についての検討を行うとともに,我が国への受入れが円滑に行えるよう受入れ・貯蔵システムに関する開発調査・受け入れ検査機器の開発・仕様承認調査を行うほか,動力炉・核燃料開発事業団において固化体物性,耐震性等の試験を行う。
4 新型炉の開発
(1) 新型動力炉の開発
① 高速増殖炉
 高速増殖炉の開発については,動力炉・核燃料開発事業団において実験炉「常陽」の熱出力10万kWの照射用炉心での定格運転を行い,燃料材料の照射試験を実施する。同原型炉「もんじゅ」については,機器システム,燃料,材料,安全性等の研究開発を進める。さらに,敷地造成工事等の準備工事,建物の設計及び機器の設計・製作を進める。
② 新型転換炉
 新型転換炉原型炉「ふげん」については,連続運転を実施して,実証炉設計等へ反映するための運転経験及びデータの蓄積と評価を進めるほか,供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。
 同実証炉については,建設・運転の実施主体である電源開発株式会社において,基本設計,立地環境調査を行い,動力炉・核燃料開発事業団においては,関連する研究開発を進める。
③ その他
 動力炉・核燃料開発事業団において高速実験炉「常陽」及び新型転換炉原型炉「ふげん」に使用するプルトニウム燃料の開発のため,引き続き,プルトニウム燃料製造施設の操業を行う。また,高速増殖原型炉「もんじゅ」の燃料を製造する高速増殖炉燃料製造技術開発施設の建設及び,新型転換炉実証炉の燃料を製造する新型転換炉実証炉燃料製造技術開発施設の建設を進める。
(2) 多目的高温ガス炉の研究開発
 多目的高温ガス炉の開発については,日本原子力研究所において,これまで実施してきた実験炉の詳細設計のシステム調整を進める。また,実験炉を構成する各種プラント機器の安全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の炉内構造物実証試験部T2の建設を引き続き行うとともに,燃料体スタック実証試験部T1による試験を進める。
 さらに,実験炉の核的安全性の実証を行うため,半均質臨界実験装置(SHE)の改造を進めるとともに,炉物理実験,高温構造試験,伝熱流動試験等の実施及び被覆粒子燃料,黒鉛材料,耐熱金属材料等の研究開発を進める。
5. 核融合の研究
 核融合については,大学における各種研究の進展をも総合的に考慮し,国際協力の推進にも留意しつつ,日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発,国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。
 日本原子力研究所においては,臨界プラズマ条件達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT-60)の本体の据付を完了し,60年度よりの運転開始に備えるとともに同条件の達成に不可欠な加熱装置の製作を進める。さらに,JT-60等の核融合研究施設のサイトの整備を行う。
 また,中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)の改造,プラズマ加熱の研究開発,核融合炉心工学,炉工学技術の研究開発等を進める。
 特に,核融合燃料であるトリチウムについては,大量トリチウム工学技術の開発,習熟を目指し,トリチウムプロセス研究棟の建設を進める。
 電子技術総合研究所においては,高ベータ・プラズマの研究のため,圧縮加熱型核融合装置(TPE-2)により実験を進める。
 金属材料技術研究所においては,材料の基礎的研究を行う。
 さらに,米国のダブレットーIIIを使った共同実験,核融合材料の共同研究等の日米間の共同研究等の二国間協力,国際原子力機関(IAEA)のINTOR計画及び国際エネルギー機関(IEA)の大型超電導磁石計画(LCT計画)への参加等,多国間の核融合研究について国際協力を推進し,我が国の核融合研究開発の効率的推進に資することとする。
6. 原子力船の研究開発
 日本原子力船研究開発事業団において,原子力船「むつ」の維持,管理を行うとともに,58年度に引き続き関根浜地区において港の建設を進める。さらに,原子力船の開発に必要な研究についても,引き続き行うものとする。
 また,船舶技術研究所においても,原子力船に関する研究を進める。
 なお,日本原子力船研究開発事業団については,日本原子力研究所と統合することとする。
7. 放射線利用の推進
 放射線利用については,医療分野における各種疾病の診断,サイクロトロンによるガン治療等に関する研究,工業分野における放射線化学の研究開発,農業分野における放射線育種の研究等を推進する。
 このため,放射線医学総合研究所において,サイクロトロンを用いて速中性子線及び陽子線によるガン治療研究を引き続き進める。また放射線医学総合研究所においてポジトロン核種による診断に関する研究開発等,短寿命ラジオ・アイソトープの生産・利用の技術開発を推進する。
 日本原子力研究所においては,放射線化学関係の研究,ラジオ・アイソトープの生産及び利用を推進する。
 国立試験研究機関においても,電子技術総合研究所で放射線標準に関する研究等,放射線利用に関する研究を推進する。
 また,農林水産省各試験研究機関で,放射線による品種改良,トレーサー利用による生理生態研究等を行う等,農林水産分野における放射線利用を推進する。
 さらに,鹿児島県奄美諸島及び沖縄県における放射線照射によりウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。
8. 原子力開発利用の基盤強化
(1) 基礎研究等の充実
 我が国独自の原子力技術の研究を進めるため,その基盤となる基礎研究等を,日本原子力研究所,理化学研究所及び国立試験研究機関において大学との緊密な連携の下に推進する。
 日本原子力研究所においては,汎用研究炉の老朽化及び最近の研究炉利用の動向に対処するためにJRR-3の改造を進めるとともに材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。また,タンデム型重イオン加速器の運転を行い材料の照射損傷,核データ等の研究及び核融合等の開発に資する。
 また,理化学研究所においては,重イオン科学用加速器の前段加速器を用いて重イオンに関する各種研究を引き続き進めるとともに,重イオン科学用加速器の後段加速器であるリングサイクロトロンの建設を進める。
(2) 科学技術者等の養成訓練
 原子力研究開発利用の進展に伴い,原子力の様々な分野で,需要の増大している原子力関係技術者の養成訓練については,大学に期待するほか,海外に留学生として派遣し,その資質向上に努める。また,日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。
 また,引き続き,原子力発電所等の運転員の長期養成計画,資格制度の運用により運転員の資質向上を図る。
9. 国際協力の推進
(1) 多国間協議の中では,核不拡散を担保しつつ原子力資材の供給を円滑に行うための国際的な協議等が,国際原子力機関(IAEA)等を中心として進められており,他の原子力先進国と協調を図りつつ,積極的にこれに参加していく。また,二国間協議としては,日米間で再処理等に関する長期的取決めに関する協議が進められているが,我が国における再処理等を円滑に実施していけるよう適切に対処していくこととする。
(2) また,原子炉の安全研究協力,核融合,新型動力炉の開発,多目的高温ガス炉の研究開発等,各分野において,欧米先進国との二国間協力及びIAEA,経済協力開発機構-原子力機関(OECD-NEA)等を通じた多国間協力を進める。
(3) 開発途上国との関係については,原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練に関する地域協力協定(RCA)に基づく協力を進めるほか,各国との原子力関係者の交流の促進,強化等を通じて,核不拡散に配慮しつつ,これら諸国との関係強化を図る。
10. 保障措置及び核物質防護対策の強化
(1) 保障措置
 核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づく保障措置のより有効な実施を図るため,核物質に関する情報処理,査察,試料の分析等の国内保障措置業務を一層充実するとともに,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,核物質管理センター等において,保障措置技術の改良に関する研究開発を積極的に推進するほか,対IAEA保障措置支援協力計画(JASPAS)の推進を始めとするIAEA等との国際共同研究開発への参加や米国,西ドイツ等との保障措置技術開発のための協力を積極的に推進することを通じ,より効率的,効果的な保障措置体制の確立を図る。
(2) 核物質防護
 核物質防護については,原子力発電所,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団の施設を始めとする各種原子力施設の防護措置の一層の充実を図るとともに,関連調査研究等を行う。さらに,核物質防護条約等核物質防護に関する国際的な動向にも留意しつつ,関係法令に関する検討を行うなど国内核物質防護体制の一層の整備・充実を進める。

II 昭和59年度原子力関係予算の概要
(略)

(3)中華人民共和国のIAEA加盟承認について

 昭和58年10月11日
 原子力委員会委員長代理談話

1. ウィーンで開催されている第27回IAEA総会において中華人民共和国のIAEAへの加盟が10日(現地時間)に承認されたとの報告を受けたが,歴史的にも文化的にもつながりの深い隣国として,その加盟を心から歓迎する。
2. 同国は,最近,原子力発電所の建設をはじめとする原子力平和利用を積極的に推進する計画を有しており,我が国としても,これまで社団法人日本原子力産業会議を中心に民間レベルでの交流・協力を図ってきたところである。
3. 国際的な原子力平和利用を推進しているIAEAへの今回の同国の加盟により,従来の民間レベルの協力に加え,政府間における協力を進める端緒が開かれたと言えよう。
4. 当委員会では,近隣諸国との原子力分野における国際協力を積極的に進めるべく,関係各位の協力を得て,その基本的な方策について検討を始めたところであるが,その検討を深め,同国との原子力分野の協力の推進を図って参りたい。

(4)日本原子力船研究開発事業団の統合について

 昭和58年12月23日
 原子力委員会

 当委員会は,日本原子力船研究開発事業団(以下,「事業団」という。)の統合問題について昭和54年12月27日,その見解を述べたところであるが,事業団法上,昭和60年3月31日までに事業団を他の原子力関係機関と統合することが求められていることにかんがみ,同問題について検討を行うため,当委員会の中に原子力船懇談会を設置し,幅広く検討を行った。同懇談会の検討結果を取りまとめた報告書を基に,更に,関係法人等からの意見聴取を行いつつ,慎重に審議した結果,以下の理由により,事業団は日本原子力研究所(以下,「原研」という。)と統合することが適当であると判断する。
1. 原子力船の実用化時期は21世紀に入ってからとみられることから,実用化を急ぐよりも段階的,着実に研究開発を進め,必要が生じた時点で適切な対応ができるよう,技術,知見,経験等の集積に努めておくことが重要である。従って,原子力分野において,長期的観点から基礎的研究を含め,幅広く研究開発を進めている原研が適当である。
2. 原研は,研究炉JRR-4を利用した実験等「むつ」開発に側面から協力してきた実績がある。
 また,原研は事業団の発足以来,研究者を派遣する等人的な面でも事業団に協力してきている。更に原研には「むつ」の開発を進める上で有効な軽水炉に係る安全性研究等原子力の基礎から応用にわたる幅広い技術基盤がある。
 「むつ」の開発を進めるに当たっては,慎重な配慮の下に,技術的に万全の体制で臨む必要があるので,以上のような「むつ」に関係する技術的経験,実績のある原研が適当である。
3. 原研は,我が国初の軽水炉の発電炉JPDRの建設,運転や軽水炉に係る燃料,材料等の諸研究の豊富な実績を有し,これらの全体的能力を幅広く活用しつつ船舶用原子炉(以下,「舶用炉」という。)の研究を行うのに適している。
 また,舶用炉は小型軽水炉であり,その研究の成果は,陸上での小型動力炉の利用の促進への寄与等種々の波及効果をもたらす可能性もあり,この観点からも幅広く研究を実施している原研が適当である。
 なお,統合に当たっては,原子力船研究開発業務の円滑な移行という点には十分配慮しつつも,原研の原子力に係る諸般の研究成果,経験等が有機的,効果的に活用されるよう,組織,業務運営の方法に配慮することが極めて重要である。
 また,円滑な統合という見地から,事業団は,統合までの間に「むつ」に係る諸懸案事項の解決に最善を尽すべきであると考える。
 本統合により,我が国の原子力船研究開発が,より確固たる体制の下で推進されていくことを期待する。

(5)今後の原子力船研究開発のあり方について

 昭和59年1月24日
 原子力委員会

 当委員会は,去る11月29日当委員会あて提出された原子力船懇談会報告書を基に,今後の我が国の原子力船研究開発のあり方について慎重に審議を重ねた結果,今後の我が国の原子力船研究開発のあり方を次のように定めることとする。
1. 原子力船研究開発の必要性
 原子力船の実用化の時期は,今日では21世紀に入ってからとみられるが,原子力船はその舶用炉技術の向上によって化石燃料による在来船では困難と見込まれる商船の高速化,長期運航等の実現の可能性があり,また,海運分野のエネルギー供給の多様化にも貢献することが期待される。従って,長い目で我が国の将来を考える時,原子力船に関する技術を保有しておくことは,重要なことであると考える。このような見地から我が国としては,今後,財政事情等を考慮しつつ,原子力船研究開発を段階的,着実に進め,今世紀中を目途に,その後の実用化に適切に対応し得る程度にまで原子力船の技術,知見,経験等の蓄積を図っておくべきであると考える。
2. 原子力船研究開発の進め方
(1) 原子力船「むつ」の実験・運航
 国産技術によって設計,建造された「むつ」は,遺憾ながら未だその所期の目的を達していないが,その開発を継続し,海上における実験・運航による諸データを得ることは,我が国の原子力船研究開発にとって極めて重要であり,1に述べた原子力船の技術等の蓄積のための最も有力な手段であると考える。
 今後の「むつ」開発の進め方としては,「むつ」が10年近くにわたり原子炉を稼動させていないこともあり,試験を再開し,長期的に実験・運航を進めていくにあたっては,慎重な試験計画の下で,十分な点検,整備を図る必要があり,技術的に万全の体制で臨むことが重要である。
 その上で試験の実施は安全性に配慮しながら,段階的に進めていくことが必要である。
 また,「むつ」 の開発を継続するためには,昭和49年以来の懸案である定係港の確保が必要である。このため,政府において青森県むつ市関根浜地区に新定係港を建設するための準備が進められているが,過去の経緯を考慮すれば,関根浜新定係港の建設は,誠にやむを得ないものと考える。
 新定係港建設に当たって当面最も重要なことは,今後の「むつ」の出力上昇試験,実験航海,最終的な廃船に至るまでの内容等,同港において計画されている「むつ」の全体的活動を具体的に早期に地元関係者に説明し,将来,原子力船の定係港としての機能が十分に発揮できるよう,基本的な理解と合意を得ておくことである。なお,新定係港については,極力経費の節減に努めるとともに,地元の物流の推移等を踏まえ,可能な限り多目的に利用することを検討することが望ましい。
 一方,「むつ」は関根浜新定係港の供用開始までの間大湊港に停泊することとされているが,大湊港停泊期間中においても,経費の効率的使用に留意しつつ,でき得る限り「むつ」開発の成果を挙げるよう努力すべきである。
(2)舶用炉の改良研究
 舶用炉の経済性,信頼性等の向上を目指して行う舶用炉の改良研究は将来の原子力船研究開発にとって重要であり,今後着実に進めていくべきである。また,同研究は,「むつ」の成果が得られなければ本格的には進められないものであり,この点に十分留意しつつ研究を進めることが肝要である。
(参考)
 下記の事項についての原子力委員会における検討内容は以下のとおりである。
1. 原子力船「むつ」開発の必要性(原子力船の実用化の見通し)
① 原子力船の実用化時期は最近における国際的な石油需給の緩和等により,更に遠のいたとみられるが,中長期的には石油需給が逼迫の傾向にあることから,石油価格は1990年代には上昇する可能性が高いとの見方が一般的であり,このような石油価格の上昇傾向が続けば,舶用炉プラントコストの低減化のための一層の努力と相まって,21世紀の初頭には原子力船の実用化のための経済環境が整うものと考えられる。
 従って,海洋国家,貿易国家である我が国が,将来の原子力船の実用化時期に適切に対処し得るようその技術を保有しておくことは,将来の我が国の安定的発展を図る上で重要なことであると考える。
(原子力船「むつ」開発の意義)
② 原子力船の技術を保有するに当たってどのように研究開発を進めていくかについては,欧米先進国においては,実際に原子力船を建造,運航し,それらの成果の上に立って次の段階の舶用炉の設計を終了するに至っていること,実船による海上での種々の運航データの活用なくして実用化につながる舶用炉の改良研究は進展し得ないこと等から,国産技術で設計,建造され,既に修理を完了し,実験再開が可能な状態にある原子力船「むつ」の開発を継続することが必要であると考える。(「むつ」廃船論に関する検討)③ 一部に「むつ」の原子炉は旧式化しており,実験をしても意味がないのではないかとの指摘があるが,「むつ」の原子炉は船舶用原子炉の基本型である加圧水型軽水炉であり,既に長崎県佐世保港において,最新の知見に基づき,原子炉部分の遮蔽改修,安全性総点検・補修工事も終了しており,また,維持管理も適切に行われているので,実験を再開することにより十分有益なデータが得られるものと判断される。
 一方,「むつ」を廃船とし,技術導入や陸上での振動台による模擬実験により代替すべしとの考えがあるが,技術導入や情報購入によっては真の技術が身につくかは疑問であり,また,陸上での振動台による模擬実験については,海上での振動,動揺,衝撃,負荷変動等を模擬し得る三次元振動台を開発,製作し,その振動台上で原子炉の運転実験を行うことは,内外の技術の実態からみて,事実上不可能である。
(結論)
④ 原子力船技術のように実用化までに長年月を要する技術の開発を行い,これを自らのものとして定着化させるためには,やはり基礎的段階から実船による実験運航等を含め,自主的に,一貫した研究開発を行う必要がある。
 また,今後の「むつ」の開発については,現下の厳しい財政事情に鑑み,極力経費の節減に努める等効率的な推進に留意すべきである。
2. 関根浜新定係港の建設の必要性(関根浜新定係港選定までの経緯)
① 「むつ」が昭和49年に放射線漏れを起こして以来の最大の懸案は定係港の確保である。
 この問題については,昭和55年8月,科学技術庁が「むつ」の新定係港として大湊港を再母港化することについて青森側関係者(県,むつ市及び青森県漁連)に協力要請したが,地元の同意をえられず,その話し合いの過程でむつ市関根浜地区に新定係港を建設することが合意され,昭和57年8月,青森側関係者との間で「原子力船「むつ」の新定係港建設及び大湊港への入港等に関する協定書」)以下,「五者協定」という。)が締結された。
(大湊港再母港化論に関する検討)
② 一部に議論のある大湊港の再母港化については,技術的見地からは可能であると考えられるが,①のような国と地元との経緯を考慮すれば,現実問題として必要な試験を実施し,廃船まで行い得る母港とすることについて,地元の同意が得られる見通しは殆どないものと考えられる。
 従って,関根浜新定係港を建設することは,これまでの経緯からみて,誠にやむを得ないものと考える。
 なお,付言すれば,五者協定の当事者たる国が,自ら協定を履行しないということになれば,地元に,政府に対する不信感を醸成する可能性があり,このことが原子力開発利用全体に対して大きな影響を及ぼすことが懸念される。
3. 「むつ」廃船の実行可能性
① 「むつ」の廃船の実行可能性については,「むつ」がこれまでのところ殆ど運転されていないため,内蔵放射能量も少なく,現時点で廃船にすることは,技術的には大きな困難性はないものと考えられる。
② しかしながら,「むつ」は,佐世保港では核封印による修理,現在の大湊港では原子炉凍結状態での停泊というような,厳しい制約条件が付された事情からみて,現状で国内において,廃船のためだけに「むつ」を受け入れてくれる場所を確保できる見通しは殆どないものと考えられる。
 既に修理の完了した「むつ」については,今後諸試験,実験運航を行い,その後関根浜新定係港において廃船とすることによって,諸試験から廃船に至るまでの一貫したデータを取得することが,将来の原子力船研究開発にとって最も有効であると考える。

(6)原子炉等規制法に係る諮問・答申について

(7)専門部会等報告

イ)原子力船懇談会報告書

 昭和58年11月
 原子力委員会原子力船懇談会

 はじめに
 我が国の原子力船研究開発は,昭和38年8月に発足した日本原子力船開発事業団を中心に進められてきた。開発の当初においては,原子力船「むつ」の建造,実験運航さえ行えば,その後は民間主体で原子力船の実用化が可能であると考えられていたが,遺憾ながら「むつ」開発は,昭和49年の放射線漏れを契機として大幅に遅延しており,今日においても所期の目的を達していない。
 政府は昭和55年11月,それまでの原子力船開発のあり方の反省等を踏まえ,将来の原子力船実用化のため,「むつ」の開発に加えて,新たに舶用炉の改良研究を進めることとし,日本原子力船開発事業団に新たに研究機能を付与し,日本原子力船研究開発事業団(以下「事業団」という。)に改組した。以来,同事業団においては,「むつ」の開発と舶用炉の改良研究に取り組んできている。
 しかしながら,最近,このような「むつ」の開発を中心とする我が国の原子力船研究開発のあり方について様々な議論がある。即ち,原子力船の実用化の時期すら明確ではない中で原子力船研究開発は果たして必要なのか,厳しい財政事情をも考慮すれば多額の経費を必要とする「むつ」の開発の継続は適当でなく,廃船にすべきではないか,また,「むつ」は建造以来10年余が経過し,老朽化等により実験の意味は大きく減殺されており,外国からの技術導入等を行えば「むつ」を用いた実験を行わなくてもよいのではないか等の疑問,意見がある。
 このような「むつ」を巡る厳しい状況を踏まえて,指摘されている各般の問題点に検討を加え,国民に納得のゆく説明と対応策を明らかすることができなければ,今後の原子力船研究開発に対する国民の理解と協力は得られないものと考えられる。また,事業団は昭和59年度末日までに他の原子力関係機関との統合が求められているが,統合を実施するためにも今後の原子力船研究開発のあり方を明らかにしておく必要がある。原子力委員会は,かかる認識に立ち,長期的観点から原子力船研究開発の今後のあり方について検討を行うため,当懇談会を設置した。当懇談会は,設置以来精力的に検討を進めてきたが,今般本報告書をとりまとめた。
 本報告書の構成は,
 I 原子力船実用化の見通し及び原子力船研究開発の必要性
 II 原子力船「むつ」の必要性とその役割
 III 原子力船研究開発の進め方
 IV 日本原子力船研究開発事業団の統合
 からなる。Iでは,原子力船の実用化の見通しとそれを踏まえた原子力船研究開発の必要性如何について,IIでは,「むつ」に係る様々な議論を基に果たして「むつ」の開発は必要かどうかについて当懇談会の考えを示した。
 また,IIIでは,Ι及びIIで示した考えを踏まえて,我が国の原子力船研究開発について,過去の進め方の反省に立ち,今後の長期的なあり方を展望しつつ,現時点で可能な限り具体的な手順,計画等を示し,その際事業実施主体等が十分留意すべき事項についても併せ,当懇談会の考えを示した。IVでは,事業団の統合問題に関する当懇談会の考えをとりまとめている。

I 原子力船実用化の見通し及び原子力船研究開発の必要性
1.原子力船実用化の見通し
 原子力船の実用化時期については,昭和30年代に我が国において,原子力船の研究開発が始められた頃は,昭和50年代にも実用化が進展するとの見通しがもたれていたが,現実には2度の石油危機を経た今日においても,世界的に原子力船実用化の動きは顕在化するに至っていない。従って,開発当初以来の原子力船実用化の見通しが楽観的に過ぎたとの批判を受けてもやむを得ないことであると考えられる。
 最近において,原子力船実用化の見通しにつき,経済性の観点から評価したものに,日本原子力産業会議原子力船懇談会報告書(57.9)及び原子力委員会原子力船研究開発専門部会報告書(54.12)がある(参考1)。両報告書ともに,今後のエネルギー情勢にもよるが,21世紀には原子力船の導入がかなり進むものと予想している。
 一方,最近における国際的な石油需給は緩和基調で推移しており,原子力船の在来船に対する相対的経済性は高まっていないため,原子力船の実用化時期は更に遠のいているとの見方もある。
 原子力船の実用化を左右する大きな要因としては,石油価格と舶用炉プラントコストがあり,それらの長期的動向を踏まえて,実用化時期の確たる見通しを得ることは容易ではないが,中長期的には石油需給が逼迫の傾向にあることから,石油価格は,1980年代後半以降特に1990年代には上昇する可能性が高いとの見方が一般的であり,このような石油価格の上昇傾向が続けば,舶用炉プラントコスト低減化のための一層の努力と相まって,21世紀の初頭には原子力船の実用化のための経済環境が整うものと考えられる。
 なお,諸外国において原子力船開発を中止しているのは,実用化の可能性がないからではないかとの意見がある。これについては,ソ連を除く欧米先進国においては,現在,原子力船研究開発がいわば停滞状態にあるが(参考2),これらの国々では原子力船の建造,運航及びそのデータ・経験に基づく舶用炉の設計等により,既に原子力商船実用化のために必要な技術基盤を確立しており,今後のエネルギー情勢,経済環境等の変化により,原子力船の経済性が有利になる見通しが得られれば,いつでも実用化に対応し得る状況にあると考えられる。従って,将来の実用化に備えた技術水準としては,かなりの段階に達していると判断される。
2. 原子力船研究開発の必要性
 資源が少なく,海外との貿易に大きく依存しつつ,国の経済活動を支えていかなければならない我が国にとって,科学技術及び産業の振興,エネルギーの安定供給の確保を図ることは,国家的見地にとどまらず,世界的視野からみても,極めて重要な課題である。
 原子力船は,長期的には,造船の技術水準の向上に資することが期待されており,舶用炉技術の向上によって,化石燃料による在来船では困難と見込まれる商船の高速化,長期運航等の実現の可能性もある。また,海運のエネルギー供給の多様化にも貢献することが期待される。従って,長い目で我が国の将来を考える時,21世紀の原子力船実用化時代に備え,今後,財政事情等を考慮しつつ研究開発を進め,必要が生じた時点で適切な対応ができる程度にまで技術,知見,経験等の集積に努めておくことが重要であると考えられる。特に我が国は,平和利用に徹して研究開発を進めており,欧米先進国に比べ,より多くの努力が必要であると考えられる。

II 原子力船「むつ」の必要性とその役割
 当懇談会は,前述のように,原子力船研究開発を進めることが必要であると判断したが,原子力船「むつ」を巡る厳しい議論を踏まえ,原子力船の研究開発が必要であるとしても,果たして「むつ」の開発を継続する必要があるか否かについて検討を行った。その結果は次のとおりである。
1. 「むつ」の健全性について
 「むつ」は核燃料装荷以来,既に10年余が経過しており,経年劣化が進んでいるとともに,原子炉も旧式化しており,実験をしても意味がないのではないかとの指摘がある。
 これについては,「むつ」は既に長崎県佐世保港で遮蔽改修を終え,更にその際,最新の知見に基づき原子炉部分の安全性総点検・補修工事も終了しており,この間の維持管理の状況をも併せ考慮すると,今後とも原子炉等の慎重な点検,整備に遺漏なきを期することとすれば,試験を再開し,支障なく実験を遂行し得るものと判断される(参考3)。
2. 「むつ」廃船論について:「むつ」の役割と意義
 最近,いろいろな角度から「むつ」の廃船論が出されている。当懇談会としては,この問題について,「むつ」の役割,今後の実験・運航計画等について事業団より,説明(参考4及び参考5)を聴取しつつ,検討を行った。その結果は,次のとおりである。
 まず,「むつ」廃船論の有力な根拠として,経費がかかり過ぎるとの指摘がある。事業団が検討している計画どおりに「むつ」の実験運航を進めていくとすれば,今後,新定係港の建設経費も含めて廃船までに直接必要な事業費が相当な額にのぼる。この点が,今日のような厳しい財政事情の下では,「むつ」の開発を進めることについて疑問が生ずる所以である。また,「むつ」を廃船とし,その代替手段として外国からの技術導入や陸上の振動台等によるシミュレーションを検討すればよいのではないかとの議論もある。
 こつについては,以下のように考える。
① 「むつ」は国産技術によって設計,建造されており,その開発を継続する場合は,実船の経験のない我が国として貴重なデータ,即ち,「動揺,振動,衝撃等の船体運動及び船の前後進又は,後前進切換時の操船や荒天中でのプロペラの空転等による急激な負荷変動」による原子炉系への影響等「むつ」の実験運航によらなければ得られないデータが得られ,これによって設計値との比較検討が行われ,舶用炉の改良研究等に反映されること等が期待し得る。
 また,「むつ」の運航を通じて,原子力船の乗組員の養成訓練が図れるとともに,一般港への入出港の経験等を蓄積できれば,地方自治体の受入れ体制の整備,入出港方法のマニュアル化等原子力船の運航システムの確立に資することが可能である。
 このように,「むつ」の実験・運航を実施し,将来にわたって可能な限り多くの実験等を行うこととすれば,原子力船研究開発にとって極めて有意義な相当の技術,知見,経験等の集積が可能になるものと認められる。
② また,「むつ」を廃船とし,技術導入によって代替するとの考えについては,技術の導入や情報の購入が可能であるとしても,内容に制限が加わる可能性があり,必要とするノウハウの導入も容易ではないと考えられる。従って,将来原子力船の運航時等に何らかのトラブル等が発生した場合には,その原因把握等適切な対応が可能であるかどうかについても疑問が残る。
 更に,陸上に振動台を設置し,模擬実験を行うことにより「むつ」に代替するとの考えについては,相当の重量物を積載し,海上での振動,動揺,衝撃,負荷変動等を模擬し得る三次元の振動台(大振動の可能なもの)を開発,製作し,その振動台上で原子炉の運転,実験を行うことは,内外の技術の実態からみて,技術及び経費の面から事実上不可能であると考えられる。
 従って,陸上における舶用炉の研究開発だけでは,原子力船実用化を目指した研究開発としては,技術的に極めて不充分なものであると考えられる。
③ 一方,「むつ」の廃船の実行可能性については,「むつ」がこれまでのところ殆ど運転されていないため,内蔵放射量も少なく,現時点で廃船にすることは,技術的には大きな困難性はないものと考えられるが,原子炉施設の取扱いについては法律上の規制が加えられており,これらの規制を満足する施設の整備等については,計画の立案から廃船作業の完了までにはかなりの経費と期間が必要とされよう。
 更に廃船にする上で最も大きな問題は,社会的問題であると考えられる。廃船のためだけに「むつ」を引き受けてくれる場所を確保することが可能かどうかである。「むつ」は,佐世保港では核封印による修理,現在の大湊港では原子炉凍結状態での停泊というように,その取扱いについて遺憾ながら厳しい制約条件が付されており,現状では国内において廃船のためだけに「むつ」を受け入れてくれる場所を確保することは現実問題として不可能ではないかという意見が多い。
 また,現時点で修理の完了し「むつ」を,運航もせずに廃船にするとすれば,既にこれまでに相当な額の開発経費が投資されており(参考6)これに新たに廃船のための投資を加えることになりながら,「むつ」から将来につながる原子力船の実証的データが殆ど得られないままに終わるということは,大きな問題であろう。
④ 原子力船技術のように実用化までに長年月を要する技術の開発を行い,これを自らのものとして定着化させるためには,やはり基礎的段階から実船による実験運航等を含め,自主的に,一貫した研究開発の努力をする必要があると考えられる。
3. 大湊港再母港化論について:関根浜新定係港の建設について
 「むつ」については,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下,「原子炉等規制法」という。)に基づき,その支援施設として陸上の附帯原子力施設の整備が求められており,「むつ」の開発を進めるためには,当該施設を有する定係港が必要であるが,「むつ」の開発を継続するとしても,大湊港の現定係港を再母港化すべきではないかとの指摘がある。
 この大湊港再母港化論は,「むつ」の定係港は,現在も法律上は大湊港にあり,しかも,新たに新定係港を建設するには,多額の経費が必要と見積もられていることから,新定係港を建設するよりも,大湊港を再母港化する方が適当であるとするものである。
 当懇談会としては,これについても技術,経費,パブリック・アクセプタンス,過去の経緯等の多角的見地から総合的に検討した。
 その結果は次のとおりである。
① 科学技術庁及び事業団の説明によれば,新定係港の建設が必要な理由は昭和49年の放射線漏れを契機とした地元との協定により,大湊港からは「むつ」の定係港を撤去することを約束し,それに伴い主要な附帯原子力施設も既に実質的に機能を喪失した状態にあるからだとしている。
(参考8)。
 また,関根浜に新定係港を建設するのは,昨年8月,青森県側関係者との間で締結した「原子力船「むつ」の新定係港建設及び大湊港への入港等に関する協定書」(以下「五者協定」という。)(参考7)に基づくものであり,その際,改めて関根浜新定係港の完成をまって大湊港の定係港を撤去することを確認しているとしている。
② 大湊港の再母港化を技術的見地から検討すると,主要な附帯原子力施設が実質的に機能を喪失しているので(参考8),これらの施設は,すべて改修・再整備が必要であり,計画立案から法手続も含め,再母港化が完了するまでには,新定係港の建設費ほどではないにしても,かなりの経費が必要とされ,またある程度の期間も要しよう。
 更に,飛躍的に発展を遂げてきたむつ湾内の漁業経営の実態からみて,昭和49年の放射線漏れ当時以来の「むつ」の経韓をも併せ考慮すると,漁業関係者の理解を得て大湊港において円滑に出力上昇試験,実験航海を実施し,最終的に廃船を行い得るような定係港を再整備し,運用し得ると考えることは現実的ではないとする意見が多い。
 また,科学投術庁の説明では,昭和55年8月「むつ」の新定係港として大湊港を再母港化することについて青森側関係者(県,むつ市及び青森県漁連)に協力要請したが,地元の同意を得られず,その話合いの仮定で関根浜地区に新定係港を建設することが合意され,五者協定の締結に至った経緯があるという。「むつ」の開発を進めようとすれば,地元関係者の理解と協力が不可欠であるので,このような地元との一連の経緯については十分配慮すべきであると考える。
 当懇談会は,以上のような検討の結果,「むつ」の開発を継続することが我が国の原子力船研究開発にとっては重要であり,そのために関根浜新定係港を建設することは,定係港を他に確保できる可能性がない現状においては,誠にやむを得ないと考える。
 しかしながら,現下の財政事情の下で,関根浜新定係港の建設には多額の経費を要するとみられ,これについては,厳しい批判があることを国及び地元の関係者は十分肝に銘ずるべきであり,極力経費の節減を図るよう努力すべきである。更に,後述するように,昭和49年の放射線漏れの時に発生したような事態を繰り返さないためには,事業団の技術面及び地元対策面での一層の努力が必要であることはもとより,関根浜新定係港を基地とする将来の「むつ」の実験・運航等の全体的活動について,事前に関係者の理解と合意をとりつけておくことが是非とも必要である。

III 原子力船研究開発の進め方
 今後の長期的な原子力船研究開発の進め方については,原子力船実用化の見通しとあわせ,事業団の説明(参考4及び参考5)を聴取しつつ検討した。
1.研究開発目標
 原子力船の実用化は近い将来は期待し難いが,今後の原子力船の研究開発の基本的なあり方としては,我が国の長期的な造船技術の方向,海上輸送等を展望しつつ研究開発の方向を決めていくことが重要である。
 また,原子力船研究開発に取り組む国の基本姿勢としては,当面,「むつ」の開発を中心として,できるだけ早期に欧米先進国との間の技術格差を解消すべきであるが,多額の経費を要する「むつ」の開発を一層効果的なものとするためには,長期的に「むつ」の成果を舶用炉の改良研究に積極的に生かしていくという姿勢が必要である。
 従って,我が国における原子力船研究開発の目標としては,今後,財政事情等を考慮しつつ研究開発を進め,今世紀中を目途に,その後の実用化に適切に対応し得る程度にまで原子力船に関する技術,知見等の蓄積を図っておくべきであると考える。原子力船「むつ」はその最も有力な手段である。また,舶用炉の改良研究も併せて推進していく必要があるが,「むつ」の成果が得られなければ,舶用炉の改良研究は本格化し得ないものであると認識すべきである。この意味で,両者は密接な連携の下に進められることが肝要である。
 なお,更に長期的な課題として,「むつ」による実験成果等が得られ,原子力船に対する国民的理解と合意が進み,諸外国への寄港が容易になるような状況に至れば,原子力第2船の構想が検討される環境が整うものと考えられる。
2.研究開発の具体的な進め方
(1) 「むつ」の実験・運航計画
① 長期計画
 事業団は「むつ」の長期的なスケジュールとして現在装荷されている炉心による実験航海(1),その後新たに改良された燃料を装荷して行う実験航海(2)を検討している。これらの過程で原子力船技術の基本的な確証を行うとともに,できる限り国内外の一般港への出入港の経験を積み,原子力船の運航システムの確立を図りたいとしている(考参5)。
 しかしながら,試験再開後の長期的な実験・運航計画については,何よりも安全性に配慮しながら,段階的に試験,実験・運航を進め,その都度計画の見直し,検討を行ない常に実態に即したものとしていくことが重要である。従って現時点においては,実験航海(2)の実施を判断するには,不確定な要素があり過ぎると思われる。
 当面は実験航海(1)の実施に全力を挙げ,その進捗状況に応じて,その後の実験・運航計画を検討していくべきであろう。
 「むつ」の実験・運航における一つの課題として,国内外の一般港への出入港の問題がある。国内の港への出入港については,「むつ」が,今後の出力上昇試験及び実験航海において安全運航の実績を積み上げることができれば,国民の理解と協力を得やすくなると思われるが,国としてもこれに積極的に努力しなければならない。
 また,外国の港への出入港については,「むつ」が実験航海の可能な状態となれば,制度的には,海上における人命の安全に関する条約(SOLAS条約)の枠組の中で,日本政府と相手国政府との話合いさえまとまれば可能である。原子力船は一般的には外航船としてその特長が活かされるわけであり,「むつ」の将来の実験・運航の過程では外国の港への出入港の経験を積むことも真剣に検討する必要がある。
 なお,新定係港においては,「むつ」の試験再開後の保守,検査等の円滑な実施の観点から,ドックあるいはこれに代わる手段をどうするか十分検討しておかねばならない。
 また,「むつ」が我が国の原子力実験船として,その使命を果たすことができた場合には,廃船は,安全性に万全を期す観点から,陸上の支援施設の整備された定係港において実施することが適当である。
② 関根浜新定係港での試験再開の手順
 イ.試験再開に当たっての基本的態度
 「むつ」の試験再開は,今後とも慎重な点検,整備に遺漏なきを期すこととすれば,安全上基本的な問題が生ずることはないものと判断されるが,長期間稼動を停止しているプラントを再稼動させるに当たっては,一般に慎重な配慮の下に綿密な計画を立てて取り組む必要があり,「むつ」にういても同様の配慮が必要である。従って,出力上昇試験の再開前には,念のため,圧力容器の上蓋を開け,炉心の点検を行う等可能な限りの点検,整備を行うべきである。一方,試験再開後においては,周辺環境等に影響を与えるような事故等は決して起こさないことを前提に,新技術の開発の過程で経験されるような初期的なささいなトラブル等は起こり得るものであると認識しなければならない。その上でこれらの問題に対しては,「むつ」乗組員と陸上の支援組織との緊密な連絡協調体制の確立,「むつ」乗組員の中での実験班と運航班との責任及び役割の明確化ならびに緊密な連携等,事前に技術的に万全の体制を整え,常に適切かつ円滑に対処できるようにしておく必要がある。
 更に重要なことは,試験の再開に当たっては,試験の内容及び実施体制,トラブル等への対応策等試験の全体計画をあらかじめ地元関係者に十分説明し,その理解を得てから実施することである。
 ロ.試験再開の具体的手順
 事業団からの説明によれば「むつ」の試験再開については,第1段階の起動前試験まで,第2段階の零出力試験まで,第3段階の定格出力の20%までの段階的出力上昇試験,第4段階の100%までの出力上昇試験及び第5段階の海上公試による原子力船としての完成を経て,実験航海を実施するという手順(参考9)を検討しているとのことである。これらは概ね妥当なものと考えられるが,第3段階では定格出力の20%というように固定的に考えているふしがある。このような低出力段階では,基本的な安全性を確認することに主要な目的があり,出力幅についてはもつと弾力的に考えるべきである。また,陸上の支援組織との連携が必要なことから,低出力の出力上昇試験までは,「むつ」が岸壁に係留された状態で実施されるべきである。
 更に出力上昇試験,実験航海の過程においては,米国のサバンナ号,西独のオット・ハーン号等が実験運航の過程で経験したようなトラブル等を経験する可能性もあり,そのような場合にも適切に対処できるようにしておくことが必要である。
③ 関根浜新定係港の使い方
 関根浜新定係港の建設を行う場合には,新定係港の長期的な使い方について国と地元との間で基本的な理解と合意がなされていなければならない。「むつ」の開発の経緯を顧ると,国は当面の問題の処理に追われるあまり,本質的な問題を先送りする傾向があったことは否めない事実である。
 新定係港については,既に漁業補償が完了し,建設着工を目前に控えている状態にある。この上は,「むつ」の出力上昇試験及び実験航海を経て廃船に至るまでの基本的内容,そのための支援施設である陸上の附帯原子力施設や港湾施設の諸機能等新定係港において計画されている全体的な活動を早急に地元関係者に説明し,将来原子力船の定係港としての機能に支障が生じないよう,基本的な理解と合意を得ておくことが必要である。万一,そのような理解と協力が得られないようなことになれば,関根浜新定係港は「むつ」の真の定係港たり得ないことになり,建設に価しない。
 また,長期的に考えれば,我が国において原子力第2船の構想が具体化される場合には,関根浜新定係港がその定係港ともなるよう配慮すべきである。また,原子力船の定係港としての機能に支障が出ない範囲で,地元の物流の推移を踏まえ,その需要に応じて積極的に新定係港の多目的利用を検討すべきである。
④ 「むつ」の大湊港での取扱い
 「むつ」については,当面新定係港の建設に日時を要し,本格的な試験の再開は新定係港の完成後まで待たざるを得ない。
 従って,現在の大湊港停泊期間中においても,でき得る限り開発の成果を挙げることが望ましい。
 五者協定においても,青森側3者(県,むつ市及び青森県漁連)の同意があれば,「むつ」の原子炉凍結状態の変更が可能になる道が開かれている。
 従って,国はこのために地元関係者と話合いを持つ等最善の努力をすべきである。また,地元関係者においても,国が関根浜新定係港建設という五者協定の基本を履行することになれば,「むつ」の大湊港での取扱に対しては,理解ある対応をすることを期待する。
 なお,五者協定では,関根浜新定係港の完成後は,大湊港の定係港は撤去されることになっている。従って,「むつ」の大湊港での取扱いに関連し,関根浜新定係港建設との間で二重投資が生ずることのないよう注意する必要がある。
(2)舶用炉の改良研究等
 舶用炉の改良研究は,「むつ」の原子炉が経済性に力点を置いて設計,建造されていない点を踏まえ,将来の原子力船実用化に向けて,新たに始められたものであり,その意義は今日においても基本的に変化はなく,今後着実に研究を進めていく必要があると考えられる。しかしながら,舶用炉の改良研究に係る事業団が検討しているスケジュール(参考5)は,前提となる「むつ」の開発が順調に進展してはじめて可能となるものである。従って,今後,「むつ」の実験運航の進捗状況に応じて,現実的かつ効果的な内容のものになるよう検討を加えていく必要がある。
 また,「むつ」の開発を効率的,効果的に進めるためには,海上における実験・運航の過程で経験する各種の事象等の解明,解析等のため,必要に応じて陸上において所要の研究を実施することも必要となろう。
 なお「むつ」の原子炉や将来の改良舶用炉は小型の加圧水型軽水炉であり,この技術には,極地,僻地(離島等)や開発途上国における発電,地域暖房等のための熱供給等を目的とする小型動力炉あるいは海上原子力発電プラント等の分野にも生かせる技術が多く含まれていると考えられる。原子力船の研究開発には,このような波及効果があることも考慮する必要がある。
(3)その他の研究開発上の留意事項
 これまでの「むつ」の開発の過程において,国も地元も当面の問題の処理に当り,いわゆる地元対策費を支出することによって解決を図ってきたとの厳しい批判があり,関係者は厳しく認識すべきである。従って,今後の原子力船の研究開発を進めるに当たっては,このような批判を受けることのないよう,国民の眼からみて納得の得られるような対応が重要である。
 また,今後原子力船の国際的安全基準の整備や原子力船の安全性,信頼性等に関する社会的,国民的合意の促進等社会的環境の整備も必要不可欠である。

IV 日本原子力船研究開発事業団の統合
1.背景
 事業団は,日本原子力船研究開発事業団法附則第2条において,昭和60年3月31日までに他の原子力関係機関と統合するものとし,このために必要な措置を講ずるものとすると規定されている。また,同法の国会提出に先立つ昭和54年12月28日の閣議決定(昭和55年度以降の行政改革計画(その1)の実施について)において,事業団は科学技術庁主管の原子力関係機関に統合するとの方針が定められている。
 従って,具体的な統合先としては,日本原子力研究所又は動力炉・核燃料開発事業団が考えられ,統合に係る法案等は次期通常国会に提出することが予定されている。
 当懇談会としては,I,II及びIIIにおいて今後の原子力船研究開発のあり方に関する考えをとりまとめたところであるが,事業団の統合については以下のように考える。
2.統合に当たっての留意事項
 我が国の原子力船研究開発の実施主体として,今の事業団がその任に当たってきたわけであるが,開発の当初より事業団は限時的性格としての法人として取り扱われてきており,開発主体としての当事者能力が十分に発揮できたとは言い難く,そのことが「むつ」問題を混迷せしめた原因の一つであると考えられる。
 しかし,事業団の統合によって,原子力船の研究開発は,実質的に恒久的な体制の下で実施できることになるわけであり,これまでのような限時的性格からくる問題は解決さ熟ることが期待され,統合後の法人は自ら主体的に研究開発を実施し,組織として身をもって技術及びノウハウを習得していくことが期待される。また,そのために核となる人材については,組織に固定させ,長期にわたって一貫した責任をもって研究開発を担当させることが望まれる。
 一方,原子力船の当面の研究開発を円滑に実施するためにも,また,将来の原子力船実用化への社会的環境を整備していくためにも,統合後は従来にも増して原子力船研究開発の必要性や安全性に関し,地元のみならず,国民一般の理解と協力を得ることが必要なことはもとより,国も一体となって推進に当たることが必要である。
 なお,統,合までの間,事業団は「むつ」に係る諸懸案事項の解決に最善を尽すべきであり,それによって統合後の原子力船研究開発ひいては全体の業務の円滑な推進が図れるようにすることが望ましい。
 このような認識の下で,統合先,統合内容等の決定に当たっては以下のような点に十分配慮し,判断する必要があると考えられる。
① 原子力船研究開発の長期的見通しに対する考慮
 原子力船「むつ」の開発の継続及び舶用炉の改良研究の推進を図るとしても,それらの成果が実を結ぶまでには相当長期間を要するものとみられる。即ち,研究開発目標において示したように原子力船研究開発は,当分の間実用化を急ぐよりも段階的,着実に進め,技術,知見等の蓄積に努めるべきであると考える。
 従って,このような原子力船技術の今後の発展段階を十分に考慮する必要がある。
② 「むつ」開発及び舶用炉の改良研究への適切な対応
 事業団の統合の実を挙げる意味から,統合後においては,統合先のこれまでの原子力研究開発の技術蓄積,業務運営の方法,人材,地元対応能力等諸般の経験,実績等が有機的,効果的に活用されることが望ましい。
 特に「むつ」については,昭和49年の放射線漏れ以来,肝余曲折を経て今日に至っており,一連の経緯を考えれば,地元との間で明確な理解と合意を得るべく,十分な意志の疎通,情報の交流を積極的に行なえるような体制,事業運営への配慮等が重要である。このため,原子力発電所等の立地における諸経験,実績等も十分参考とすべきである。
 更に,試験の再開に当たっては,あらゆる事態に対応し得るような技術的に十分な能力と万全の体制が必要である。
 また,舶用炉の改良研究については,「むつ」の成果を的確に反映することが最も重要であるが統合先法人の発電炉に係る研究開発の成果,設備,人材等を総合的,有機的に活用することが効率的,効果的であることに十分留意すべきであろう。
③ 円滑な統合への配慮
 イ.統合先法人の統合に関する考え方及び意向を十分考慮する必要がある。
 ロ.統合先が現に有する研究テーマ,プロジェクト等と原子力船研究開発とが,予算上,スケジュール上十分調和のとれた形で推進される必要がある。また,統合することによって生ずる職員の処遇,組織機構のあり方,経理処理等の問題についても円滑な調整がなされ,統合後の全体の業務運営に支障が出ないようにする必要がある。
 まとめ
 当懇談会としては,我が国の原子力船研究開発の今後のあり方として,修理の完了した「むつ」を積極的に活用し,その開発は継続すべきであるとの判断に至ったが,その進め方についてはこれまで様々な批判があることを関係者は厳しく受けとめるべきである。本報告書において指摘した種々の事項については,これを十分に尊重し,今後の「むつ」開発に生かしていくことを強く要望する。また,日本原子力船研究開発事業団の統合先,統合内容等の決定に当たっても,原子力委員会及び政府においては,当懇談会の示した留意事項に配慮されるよう要望するとともに,統合によって,我が国の原子力船研究開発がより確固たる体制の下で,自主的に推進されていくことを期待する。

○参考資料
(参考1)原子力船に係る経済性評価(運輸省船舶局)
(参考2)世界の原子力船技術の動向(科学技術庁原子力局)
(参考3)原子力船「むつ」の安全性(日本原子力船研究開発事業団)
(参考4)原子力船「むつ」の役割日本原子力船研究開発事業団)
(参考5)原子力船研究開発の今後の進め方(案)(日本原子力船研究開発事業団)
(参考6)原子力船「むつ」に関する主要経緯および原子力船開発関連経費(科学技術庁原子力局)
(参考7)原子力船「むつ」の新定係港建設及び大湊港への入港等に関する協定書
(参考8)新定係港建設が必要な理由(日本原子力船研究開発事業団)
(参考9)原子力船「むつ」試験再開の手順(日本原子力船研究開発事業団)

ロ)放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)

 昭和59年8月7日
 原子力委員会
 放射性廃棄物対策専門部会

 はじめに
 当専門部会においては,低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策,並びに高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物処理処分方策について,年初より検討を行ってきたところである。
 本報告は,現在までの検討状況を整理し,中間的な取りまとめを行ったものである。

第1部 低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策について
1.序
 原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,昭和57年6月に「低レベル放射性廃棄物対策について」をとりまとめ,関係各機関において,この方針に基づいて所要の対策が講じられてきたところである。
 その後,低レベル放射性廃棄物の処分に関しては,陸地処分の推進が従来にも増して早期に実現すべき状況に至っている。このため,低レベル放射性廃棄物の陸地処分に関し放射能レベルに応じた処分のあり方等について具体的検討を行うこととした。
 また,昭和57年6月に,原子力委員会において決定された原子力開発利用長期計画においては,極低レベル放射性廃棄物の合理的な処分方策を確立すべきことが明示されており,特に,近い将来必要となる原子炉の解体実施に当たっては,極低レベル放射性廃棄物が大量に発生することが予想されるところから,その合理的な処分方策についても具体化を図ることとした。
 このため,当専門部会は,新たに低レベル放射性廃棄物対策小委員会を設置し,年初よりこの問題に関する検討を行ってきたところである。本報告は,現在までの検討状況を整理し,中間的な取りまとめを行ったものである。
2.要旨
(1)原子力発電所等でいわゆる低レベル放射性廃棄物として発生する廃棄物については,現在のところ法令上,放射能レベルによる区分がないため,極めて放射能レベルが低いもの,あるいは放射性廃棄物であるとは実質的には認め難いものまで,全て,敷地内の施設に貯蔵されている。従って,その取り扱いを,安全性を前提としつつ放射能レベルに応じて合理的に行うため,低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物とを区分する「特別区分値」の概念,及び放射性廃棄物と放射性廃棄物として扱う必要のないものを区分する「一般区分値」の概念を設ける必要がある。その際,各区分値は放射性物質の濃度等で示すことが実際的である。
(2)低レベル放射性廃棄物の陸地処分は,人間の廃棄物への接近等が可能であるという点で,海洋処分と大きく異なる。このため,陸地処分においては,放射性廃棄物に含まれる放射能が時間の経過に伴って減衰し,人間環境への影響が十分に軽減されるまでの間,以下のような放射能レベルに対応した管理を行う必要がある。即ち当初は,処分に先立って固化体,ピット等の人工バリアにより放射性物質を閉じ込める段階とする(この段階を「最終貯蔵」という。
 いわゆる敷地外施設貯蔵はこの段階に相当する)。次に,主として土壌等の天然バリアについての安全評価を行い,安全であることを確認して,人工バリアと天然バリアの組みあわせにより放射性物質の人間環境への移行を防止する段階へ移る(この段階及び次の段階が「処分」に相当する)。次いで,人間の特定の行為の禁止あるいは制約のみを行う段階(「軽微な管理」の段階)へと,順次管理の軽減を図り,最終的には,管理を必要としない状態に至る。
(3)最終貯蔵,処分の具体的方法としては,放射性廃棄物を安定な形態で収納したドラム缶等をコンクリートピット等に俵積みするなどし,砂等の充填材を注入した後,蓋をして盛り土を行う方法が代表的である。また,同様のバリア機能を確保できる場合には,廃坑等の地下空洞を利用することも有効と考えられる。
 なお,個別のサイトに搬入可能な放射性廃棄物の放射能総量を評価する必要がある。
(4)極低レベル放射性廃棄物は,処分の開始時において,既に管理の軽減を図れるものである。従って上記の低レベル放射性廃棄物の陸地処分における人間の特定の行為を禁止あるいは制約する段階が,極低レベル放射性廃棄物の処分の開始時に当たる。具体的にはコンクリート片等を素掘りのトレンチにそのまま埋め戻すこと等の簡易な処分が考えられる。また,一定の条件を付したうえで,コンクリート類は埋め立て材等として,金属配管類等は資材,素材等として再利用することが考えられる。
(5)廃棄物中の放射能濃度等が一般区分値を下まわるものは,放射性廃棄物としての取扱いを必要としないものである。
(6)なお,今年末を目途に最終貯蔵及び処分に係る実施主体等の責任のあり方等について検討を行う。
3.放射能レベルによる区分
 いわゆる低レベル放射性廃棄物として,原子力発電所等の敷地内の施設に貯蔵されている固体状の放射性廃棄物は,現在のところ法令上放射性廃棄物の放射能レベルについての区分がないため,極めて放射能レベルが低いものまで,全て,放射性廃棄物として扱われている。また,貯蔵期間中に減衰によって放射能レベルが下がるものの他,将来原子炉等の解体によって発生する廃棄物を考えた場合,放射能レベルが極めて低い廃棄物ばかりか,放射性であるとは実質的には認め難い廃棄物が多量に発生することが予想されている。
 従って,今後の放射性廃棄物の処理処分方策を考えるに当たっては,これらの状況を勘案したうえで,放射能レベルに応じたより合理的な方策を定めて行く必要がある。このためには低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物とを区分する「特別区分値」の概念,及び放射性廃棄物と放射性廃棄物として扱う必要のないものを区分する「一般区分値」の概念を設ける必要がある。
 その際各区分値は,放射性物質の濃度等で示されることが実際的である。
4.処分と管理のあり方
(1)低レベル放射性廃棄物
① 陸地処分の概念について
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分は,人間の廃棄物への接近・関与が可能という点で,海洋処分と大きな違いがある。このため,陸地処分においては,放射性廃棄物に含まれる放射能が時間の経過に伴って減衰し,人間環境への影響が十分軽減されるまでの間,固化体,ピット等の人工バリアと,土壌等の天然バリアを組みあわせ,放射能レベルに応じた管理を行うことによって,放射性廃棄物を安全に人間環境から隔離することを基本的考え方とする。
 廃棄物搬入後の管理の時間的流れは,基本的には以下の通りである。
(i)人工バリアにより放射性物質のバリア外への漏出を防止し,所要の観測,測定(巡視点検,施設のモニタリング等)によって漏出の無いことを確認している段階。
(i)人工バリア及び天然バリアによって放射性物質の移行を防止し,所要の観測,測定(周辺環境のモニタリング等)によって安全であることを確認している段階。
(iii) 主に人間の特定の行為を禁止あるいは制約する管理のみを行う段階。
(iv) 管理を必要としない段階
 このうち,(i)は人工バリアの閉じ込め機能で,放射性物質をバリア外に漏出させない段階(貯蔵の段階)であり,主として天然バリアについての評価を行って安全性を確認した後,そのままいわゆる処分の段階に至るという意味で,原子力発電所等で現在行われている貯蔵に対し,「最終貯蔵」と呼ぶことができる。また,(ii)については,人工バリアの劣化を考慮したとしても,土壌等の天然バリアの放射性物質移行遅延効果を適正に評価することにより安全性が確保できる段階であり,ここからいわゆる「処分」の段階に入る。
 なお,以上の管理は安全性の確認が行われれば(i)の段階を省略して(ii)の段階から開始することが可能である。

② 最終貯蔵及び処分方法
 最終貯蔵及び処分の具体的方法としては,低レベル放射性廃棄物を安定な形態で収納したドラム缶等をコンクリートピット等に俵積みするなどし,砂等の充填材を注入した後,蓋をして盛り土を行う方法が代表的である。また,同様のバリア機能を確保できる場合には,廃坑等の地下空洞を利用することも有効と考えられる。
 なお,サイトに搬入する廃棄物について単位量当たりの濃度等のみならず,当該サイトの諸条件に基づく評価モデルを確立し,搬入可能な放射性廃棄物の放射能総量(キュリー)の評価を行う必要がある。
③ 管理のあり方
 低レベル放射性廃棄物の管理に当たっては,廃棄物搬入時に,例えば廃棄物の数,形状,放射線レベル等の確認を行った後,放射性崩壊による放射能の逓減に対応して,以下のように段階的に管理内容の軽減を図ることが合理的である。
(i) 最終貯蔵の段階は,固化体,ピット等の人工バリアの健全性を維持し,人工バリアによって放射性物質の閉じ込めを行う。
 この段階においては,人工バリアの閉じ込め機能が保たれていることをピット等のモニタリング等によって確認するとともに,その機能低下が認められた場合には修復を行う。
(ii) 次段階への移行については,人工バリアの劣化を考慮して,主として天然バリアについての安全評価を行い,安全であることを確認した後行う。
 この段階では,人工バリアと天然バリアの組みあわせによって安全性を維持する。即ち,人工バリアの劣化によって放射性物質の漏出があった場合も,天然バリアの機能によって人間環境への移行を防止し,また,周辺環境における地下水等のモニタリング等を行って,安全であることを確認する。
(iii) 放射能レベルが,さらに低減した段階においては,人間が侵入し放射性廃棄物に直接接触すること等を防止するため,主として特定の行為を禁止あるいは制約する管理のみを行う (「軽微な管理」の段階)。なお,その管理の程度は,一般公衆の立入り制限から,使用目的の制約,第3者への譲渡行為を制限するなど段階的に軽減する。
(iv) 最終的には管理を不要とする。
 なお,以上の管理の軽減化については,サイトの一定区域ごとに行うことが考えられる。
(2) 極低レベル放射性廃棄物
① 処分及び再利用の概念
 極低レベル放射性廃棄物は,将来の原子炉の解体等を考慮すれば,その発生量が飛躍的に増大することが予想されるが,その放射能レベルは極めて低いものである。従って低レベル放射性廃棄物に比べ,簡易な処分を行い,処分の開始時から低レベル放射性廃棄物における軽微な管理を行っても十分に安全性を確保できるものであり,また,一定の条件を付して再利用の道を開くことが,合理的であり,経済性の面からも極めて重要である。
② 具体的な取り扱い方法
(i) 簡易な処分
 具体的処分の代表的な例としては,コンクリート片等を素掘りのトレンチにそのまま埋設すること等が考えられる。
 この場合の処分場は,経済性等の観点から,低レベル放射性廃棄物の場合とは,別個の場所とすることが考えられる。
 また,陸地処分以外の処分方法として,可燃性物質については,簡易焼却炉による焼却処分が考慮される。
 なお,極低レベル放射性廃棄物の処分についても,低レベル放射性廃棄物と同様,個別サイトの条件を折り込んだ評価モデルを確立し,搬入可能な放射性廃棄物の放射能総量(キュリー)を評価するものとする。
(ii) 再利用
 例えば原子炉等の解体に伴って発生する大量のコンクリート類,除染によって極低レベルとなった,あるいは,発生時より極低レベルである金属配管類等の極低レベル放射性廃棄物は,用途を限定するなど,処分の場合と同程度に,人間の放射性廃棄物への直接的な関与を防止するための一定の条件を付して,再利用の道を開くことが可能である。
 具体的な再利用法としては,コンクリート類は土地造成時の埋めたて材等として,また,金属配管類等は資材,素材等としての再利用が考えられる。
③軽微な管理のあり方
 極低レベル放射性廃棄物の管理に当たっては,以下のように処分の開始時から,人間の特定の行為を禁止し,あるいは制約する管理(低レベル放射性廃棄物における「軽微な管理」の段階に相当する)のみを行うことが合理的である。
(i) 簡易な処分を前提とした安全評価を行い,安全であることを確認する。
(ii) 放射性廃棄物を処分場に搬入する際には,例えば,量,放射線レベル等を確認する。
(iii) 処分場においては,人間が侵入し,放射性廃棄物に直接接触することを防止するため,主として特定の行為を禁止,あるいは,制約する管理のみを行う。
 なお,その管理の程度は一般公衆の立入り制限から,使用目的の制約,第3者への譲渡行為を制限するなど段階的に軽減する。
(iv)最終的には,管理を不要とする。

(3) 放射性廃棄物として扱う必要のないもの
 一般区分値を下まわる廃棄物は,極くわずかの放射能は持つものの,その人間環境への放射線による影響が全く考慮に値しないものであり,放射性廃棄物としての取扱いを必要としないものである。
5. 今後の検討課題
 当専門部会においては,以下の検討課題について,今年末に結論を得ることを目途に,今後も継続して審議を行うものとする。
(1) 低レベル放射性廃棄物最終貯蔵及び処分における実施主体のあり方等について
 低レベル放射性廃棄物の処分については,昭和57年6月原子力委員会が定めた原子力開発利用長期計画において,事業者の責任において行うこととされているが,今後,最終貯蔵,処分の具体化に対応して,多数の異なる事業者の集中貯蔵等の場合など,その責任のあり方等に関する検討を進めるものとする。
(2) その他
 低レベル放射性廃棄物の最終貯蔵,処分等の推進にあたり必要なパブリックアクセプタンス対策等についても検討を行う。
 なお,当専門部会は放射性廃棄物の処分を考えるに当たり,放射性物質による汚染の度合についての基礎を与えるものとして,「一般区分値」及び「特別区分値」の概念を設け,それらに応じた処分と管理のあり方を明らかにしたところである。これら区分値の設定に係る基本的考え方及びその具体値の設定については,原子力安全委員会(放射性廃棄物安全規制専門部会)において審議が進められているところであり,この審議の方向を見究めつつ対処することが重要である。

第2部 高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物処理処分方策について
1. 序
 当専門部会は,昭和55年12月の「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」(以下「55年報告書」という。)において高レベル放射性廃棄物処理処分に係る研究開発の基本方針を示したところである。
55年報告書においては,固化処理及び貯蔵技術の開発の指針としてホウケイ酸ガラスによる固化処理・貯蔵技術に重点を置くこと,及び地層処分研究開発に関して「可能性ある地層の調査」から「試験的処分」に至るまでの5段階に区分した開発方式を提唱した。
 このうち,固化処理及び貯蔵技術の開発については,これまでの研究開発成果の評価を行い,これを踏まえ開発スケジュール等所要の見直しを行うこととした。
 一方,処分技術については,昭和59年度が第1段階の最終年度に当たっており,地層処分について「可能性ある地層」の中から「有効な地層」の選定を行い,第2段階(有効な地層の調査)への橋渡しを行う年度として位置付けられている。従って,現在までの調査研究及び研究開発成果の評価を行い,併せてできる限り早期の処分技術の実証をめざして第2段階以降の研究開発等のあり方に関し,所要の検討を行うこととした。
 また,TRU(Trans Uranium:超ウラン)廃棄物については,当専門部会の昭和57年6月報告書(「低レベル放射性廃棄物対策について」)においてその処理処分の基本的考え方を示したところであるが,今後の発生量の増加を見越し,より一層TRU廃棄物の特性に応じた処理処分方策の確立を図ることとした。
 このため,当専門部会は,新たに高レベル放射性廃棄物対策小委員会を設置し,年初よりこれらの問題に関する検討を行ってきたところである。本報告は現在までの検討状況を整理し,中間的な取りまとめを行ったものである。
2.基本的考え方
 使用済燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物」という。)は,発生量自体は少いものの,極めて高い放射能を有し,また長半減期核種も含まれることから,その放射能が減衰して環境汚染あるいは放射線の影響のおそれが十分軽減されるまで,長期間にわたり人間環境から隔離する必要がある。
 このため安定な形態に固化し,処分に適する状態になるまで冷却のための貯蔵(以下「貯蔵」という。)を行い,その後地層に処分することを基本的な方針とする。この基本方針の具体化に当たっては,国の重要なプロジェクトとして国及び民間の総力を結集するものとする。
(1) 我が国の高レベル放射性廃棄物処理処分の実施の具体化及びこれに係る研究開発の推進については,官民の研究機関の協力の下に動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という。)が中心的な役割を担って行う。
 また,安全性評価研究及び関連新技術開発に当たっては,日本原子力研究所(以下「原研」 という。)が担当し,その主体的役割を果たすものとする。この他の研究機関における関連研究開発についても有機的連携の下に推進を図るものとする。
(2) 固化処理及び貯蔵については,従来方針通りホウケイ酸ガラスによるガラス固化(以下「ガラス固化」という。)に最重点を置くものとし,研究成果を集大成し動燃における固化プラントの建設・運転を通じ1990年代前半を目途に処理技術の実証を図るとともに,処分に移行するまでの間の貯蔵に必要な貯蔵プラントを建設する。
(3) 地層処分については地下数百メートルより深い地層(以下「深地層」という。)へ行うものとし,有効な地層の選定等,現在までの研究開発の成果を踏まえ,一層の研究開発の進展を図り2000年頃を目途に処分技術の早期実証を目指すものとする。
 なお,当面は処分の具体化に向けて,第1段階における基礎的研究を発展的に継続する他,複数地点における広域調査及びそれを踏まえた候補地点における精密調査並びに深地層における試験,地上における深地層を模擬した環境工学試験等を実施し,これらの成果について所要の評価を行った後,処分を行う予定地を選定する。
(4) 再処理工場の運転,プルトニウムの利用等に伴い発生するTRU廃棄物については,当面,安全に貯蔵してゆくことで問題はない。しかし,将来的には発生量の増加が見込まれ,放射線レベルはさ程高くないものの長半減期核種を含み,その性状,種類が多様であること等の特徴を有しているため,その特性に応じた処理処分方策の確立を図ることが重要である。このため,関係機関の緊密な連携の下に処理処分の実施に向けて研究開発を行い,処理処分の具体化を図るものとする。
(5) 国際協力に関しては,原子力利用を進める各国共通の課題について協力して解決を図る観点から,二国間及び多国間において研究協力を積極的に推進するものとする。
(6) 高レベル放射性廃棄物処理処分方策の確立に関しては,研究開発等の進展に伴い,関連研究開発施設等の立地問題をはじめとして従来より一層,国民各層の広範な理解と協力を得て進めることが必要となっている。
 このため,国等による広報活動の一層の充実,電源三法制度等の積極的活用等を図るものとする。
(7) 返還廃棄物対策,処理処分に関する国と民間の具体的役割分担等については,今年末頃までを目途に検討を行うこととする。
3. 主要各機関の役割分担
 高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物の処理処分に係る研究開発を円滑に進め,処理処分体制の早期確立を図っていくに当たっては,経済性・効率性の面から無用な重複を避けるとともに,各機関がその特性・専門領域を活かし明確な役割を定め,それに応じて緊密な協力の下に具体的な研究課題及び実施に当たっての課題を分担していくものとする。なお各機関における分担実施に当たっては,その効率的な協力運営を期するため,国は必要な調整機能の確保に配慮するものとする。
 処理・貯蔵・処分の研究開発,及び,処理・貯蔵・処分の実施に関する主要機関の役割は以下の通りである。
(1) 処理・貯蔵・処分の研究開発
① 動力炉・核燃料開発事業団;動燃は東海再処理工場から発生する高レベル放射性廃棄物の発生者であり,また十分な技術的基盤を有することから,ガラス固化・貯蔵・処分の推進に係る研究開発の主体としてその中心的役割を担う。また,TRU廃棄物についても発生者の立場から研究開発を行う。
② 日本原子力研究所;原研は,原子力に関する中立的,基礎的研究の担い手として,高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物の固化・貯蔵・処分等に関する安全性評価に係る研究開発を行い評価手法を確立する。併せて新技術に関する研究開発を行う。
③ (財)電力中央研究所;電力中央研究所は電気事業者の当面の中心的課題である海外再処理に伴う返還廃棄物に主力を置いて研究開発を進める。
④ 大学,国立研究所等;大学及び地質調査所等の国立試験研究所等は,それぞれの専門的知見に基づき,動燃,原研等の研究と緊密な連携をとりつつ,専門的分野における研究を行い,高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物処理処分の実現に貢献する。
(2) 処理・貯蔵・処分の実施
 高レベル放射性廃棄物の処理・貯蔵については,動燃及び民間の再処理事業者が行うものとし,処分については,研究開発成果の蓄積を有し,また官民の協力を結集する上で必要な経験を有する公的機関である動燃が,中心的役割を担う。
4. 高レベル放射性廃棄物処理方策
(1) ガラス固化処理・貯蔵等
① ガラス固化処理
 我が国における高レベル放射性廃棄物の固化処理技術開発は,55年報告書においてホウケイ酸ガラスによる固化処理に重点を置いて研究開発を進めることとしている。その後,動燃の高レベル放射性物質研究施設(CPF)及び原研の廃棄物安全試験施設(WASTEF)において,実廃液を用いた固化試験,安全性評価試験等がほぼ当初の予定通り行われている。これら両機関を中心とした研究開発の進展に伴い,ホウケイ酸ガラス固化は固化処理技術の主流としての地位を確立したものと評価される。従って,固化処理については今後ともガラス固化の実用化に最重点を置いて研究開発を継続することとし,その成果を集約して動燃において1990年の運転開始を目途に技術実証のための固化プラントを建設することとする。また,これと併行してガラス溶融炉の長寿命化・小型化等の高性能化を図るとともに,廃液前処理,オフガス処理,遠隔操作技術等に関し,より高度なプロセス技術の開発を行う。
 原研においては,ガラス固化体の長期健全性評価,衝撃特性評価等の安全性評価及びその手法に係る研究開発を行う。
 以上の研究開発成果については,海外再処理に伴い1990年以降返還される可能性のある返還廃棄物の仕様の検討,及び民間再処理事業者の行う固化処理への活用を図るものとする。
② 貯蔵等
 ガラス固化体は,それに含まれる放射性核種の崩壊熱が深地層の岩盤へ与える影響を緩和するため,使用済燃料として原子炉から取り出された後再処理を経てガラス固化され,深地層中へ搬入されるまでの間,30年間から50年間程度,冷却のため貯蔵する。
 貯蔵技術についてはこれまで順調な進捗を見ており,今後は,実用化に向けて除熱対策等を中心に熱等の利用の可能性も含めて,従来からの研究開発を一層推進する。
 動燃においては,固化プラント建設と平仄を合わせて1992年操業開始を目途に貯蔵プラントを建設する。
 一方,原研においては,将来の処分に備えて,キャニスター等に係る安全性評価及びその手法に係る研究開発を行う。
 また,動燃の貯蔵プラント立地及び電気事業者が委託している海外再処理に伴う返還廃棄物に備えて,民間において早期に輸送体制の整備を行うとともに,併せて返還に伴う受入体制・施設の整備を行うこととする。
(2) その他
① 新固化方式
 現在実証段階にあり,固化処理技術の主流としての地位を確立しているホウケイ酸ガラスと比較して,処分時の耐久性等の面で,より優れている将来技術として期待されている新固化方式について,その研究開発を原研等において進める。当面,長期安定性及び高温領域における核種の耐浸出性に,より優れていると期待されるシンロック固化法について,原研を中心に豪州との研究協力を進め,その他セラミック固化法等についても各研究機関において調査研究を継続する。
② 群分離
 長半減期の核種を分離する群分離技術は,高レベル放射性廃棄物の管理の合理化,発生量の低減,資源の有効利用等に資する将来技術であり,当面,原研等において基礎研究を行うものとする。
5. 高レベル放射性廃棄物処分方策
(1) 地層処分
 高レベル放射性廃棄物の処分に当たっては,その放射能が減衰して,環境汚染あるいは放射線の影響のおそれが十分軽減されるまで,長期間にわたり人間環境から隔離を行うことが必要である。この隔離の方法としては,従来方針通り地層処分によることとし,地下数百メートルより深い地層中へ処分を行い,天然バリアと人工バリアを組みあわせた多重バリアによることを基本的な概念とする。
① これまでの研究開発の成果
 地層処分に係る研究開発は,55年報告書において段階的に順を追って進め,各段階の成果を踏まえて次に進むことを基本方針と定めている。これまでの研究開発は,このうちの第1段階として地層に関する調査を行い,地層処分の研究対象となり得る「可能性ある地層」の中から,地層特性の調査研究,人工バリアの研究等の成果を踏まえて我が国における「有効な地層」の選定を行うことを目的に進められてきた。この調査・研究については動燃・原研を中心に進められ,所要の成果を挙げたものと評価される。具体的には,我が国における「有効な地層」としては,未固結岩等の明らかに適性に劣るものは別として,岩石の種類を特定することなくむしろ広く考え得るものであることが明らかとなった。即ち,同一種類の岩石においても,それが賦存する地質条件によって地層処分に対する適性にはかなりの差が認められることから,岩石の種類を特定するのではなく,むしろその地層条件に対応して必要な人工バリアを設計することにより,地層処分システムとしての安全性を確保できる見通しが得られた。この結果,処分予定地等の選定に当たっては,自然的条件,社会的条件等に柔軟に対応する余地があるものと評価される。
② 地層処分に至る全体の流れ
 地層処分に係る研究開発手順として55年報告書では,開発段階を可能性ある地層の調査有効な地層の調査模擬固化体現地試験実固化体現地試験試験的処分の5段階に区分し,これらの手順は各開発段階の進捗に応じて順次見直しを行っていくこととしている。
 本報告書では,この趣旨を受けて,有効な地層の調査を開始するに当たり,第2段階以降についての見直しを行い,既に終了した第1段階も含め以下のような4段階の開発手順を採用することとした。即ち,55年報告書においては第2段階(有効な地層の調査)の終了時に試験地の選定を行うものとしているが,この試験地はその後の研究開発の結果が良好であれば処分地となり得るものであることから,今回検討の結果,概念をより明確化し,第2段階終了時には処分予定地の選定を行うものとした。また,55年報告書における第3段階(模擬固化体現地試験)は,コールド試験のみならず短半減期の放射性物質を使用した試験についても行い,処分技術の実証を図るものとする。更に第4段階の実固化体現地試験は第5段階の試験的処分との違いを見い出し難いことなどから,本報告書においては両者をまとめて第4段階とすることとした。今回新たに策定した第2段階以降の具体的内容は以下の通りであり,処分の実施とそれに向けての研究開発については動燃が,また,安全性評価手法の確立とそれに係る研究開発については原研が,それぞれ関係機関との緊密な連携をとりつつ行うものとする。特に,地質調査所は,地質に関する総合研究機関としての特性を生かして,専門的見地から動燃・原研の計画に必要な協力・支援・助言を行う。なお,開発手順の見直しについては各段階の進捗に応じて順次行うものとする。
(i) 4段階開発方式の推進
(イ) 第2段階「処分予定地の選定」
 第2段階においては,第1段階における天然バリア及び人工バリアに関する研究,地層処分システム研究を発展的に継続する。併せて複数地点において,物理探査等の地表踏査を中心とする広域調査を行い,順次候補地点を選定し精密調査を行うとともに,深地層試験場を設け深地層での天然バリア及び人工バリアの試験を行い処分予定地の選定に資する。更に地上では,深地層の条件を模擬した環境工学試験施設において,各地点で採取したサンプルについてホット試験を行う。これらにおいては,次段階以降も引き続き試験を継続して,所要の手法の開発,評価データの蓄積・解析を行う。これらの総合評価の結果,処分予定地を選定するとともに,第3段階において必要な開発手法を策定する。
(ロ) 第3段階「模擬固化体による処分技術の実証」
 第3段階では,第2段階で選定された処分予定地において,それまでの研究開発成果を踏まえて,深地層で模擬固化体を用いた天然バリア及び人工バリアに関する試験研究及び関連技術開発を行う。更に深地層において短半減期の放射性物質を使用した試験を行う他,深地層試験場等で並行的に行われている研究結果,技術開発の成果等を含めて総合的に処分技術及び処分システムを実証する。
(ハ) 第4段階「実固化体処分」
 第4段階においては,順次本数を増やしながら実固化体を深地層へ搬入する。初期の間は,第3段階までの総合的な研究成果をもとに,回収可能性を保持しながら,人間環境への有意な影響がないことをモニタリングによって確認する段階として最終貯蔵を行う。この間,引き続き埋め戻し後のモニタリングのための補完的な技術開発を行い,最終的に閉鎖して処分に移行する。
 なお,第2段階における処分予定地の選定期間は,社会的な諸情勢如何によってはかなりの幅を必要とし,それに伴って第3段階,第4段階の開始時期はかなり変動し得るものである。
 また,実固化体の相当量が,冷却期間を経過して処分可能となる時期の予測についても幅があるが,当面2000年頃に処分技術の実証を行うことを目途として開発を進めることとする。
(ii) 4段階開発方式に係る安全性評価
 第2段階においては,総合安全性評価モデルの作成,安全性評価コードの開発整備等を行うとともに,深地層試験場,環境工学試験施設等における試験により,評価コードに必要な入力データの整備及びコードの改良を進める。さらに,処分予定地の選定に当たっての安全性事前評価を行うとともに,フィールドモニタリング技術の開発を行う。
 第3段階においては,試験研究を継続するとともに,処分予定地におけるデータを収集し,総合安全性評価システムの整備改良を行ってシステムを実証し,第4段階への移行に際し,総合安全性評価を行うとともにフィールドモニタリング技術の開発を継続する。
 第4段階においては,最終貯蔵,処分等の安全性確認を行うものとする。
③ 第2段階における調査・研究開発項目
(i) 処分技術開発
(イ) 広域調査
 第1段階の終了に伴い有効な地層の選定が行われたが,第2段階はこの有効な地層のうちから複数地点を取り上げ経済的・社会的要因調査,地表踏査,必要によって試錐等を行う。これにより岩体規模等を調査し,精密調査地点の選定と深地層試験の場所選定を行う。
(ロ) 精密調査
 広域調査によって順次選定された候補地点において,水理機構調査及び試錐,必要によって岩体の開削を行い,岩体規模,岩石特性等を調査することによって処分予定地の選定に資する。
(ハ) 深地層試験
 深地層試験場を設置し,深地層環境下において以下の調査研究を行い,処分予定地の選定に資するとともに次段階以降の研究・開発に必要な手法の開発,評価データの蓄積・解析を行うものとする。
 なお,本件については広く諸外国にも呼びかけ,国際プロジェクトとして行うことも考えられる。
(a) 天然バリアに関する研究深地層における水理機構,岩石特性についての調査研究を行うとともに,地震動や岩体の掘削,熱等が天然バリアの包蔵性及び健全性に及ぼす影響等を調査する。
(b) 人工バリアに関する研究深地層中に人工バリアを設置するに当たって適当な材料に関する研究,施工技術の開発を行い,その地層中での人工バリアの有効性及び健全性を評価する試験研究を行う。
(ニ) 環境工学試験
 地層の処分環境を模擬した条件下で,廃棄物からの放射性核種浸出メカニズム,天然バリア及び人工バリアの隔離性能等を解明するための施設を設置し,地上建屋内でのホット試験を行い,処分予定地の選定に資する。
(ii) 安全性評価
 総合安全性評価モデルの整備,改良等を行うとともに,これを構成する計算コードの開発を進める。評価コードに必要なデータの整備については,深地層試験場等を活用した岩盤フィールド試験,岩盤模擬試験,WASTEFにおけるホット試験等により行い,評価基準の整備に資する。あわせて処分予定地の選定に当たっての安全性事前評価を行う。また,フィールドモニタリング技術について開発を行う。

 さらに,地層処分の安全性向上のため,新人工バリア材に関する研究開発を行う。
(2)その他
① 海洋底下処分
 高レベル放射性廃棄物地層処分の将来技術の一つとして,海洋底における堆積層等への処分が考えられている。この海洋底下処分については,経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)等国際協力の場で,関連研究等についての情報交換を中心とした調査・研究を原研等において進めていくものとする。
② 消滅処理処分
 超ウラン元素を短半減期核種に変換する消滅処理処分技術については,高レベル放射性廃棄物等の処分に係る将来技術であり,当面,原研等において基礎研究を行うものとする。
6. TRU廃棄物の処理・処分方策
 超ウラン元素を含むTRU廃棄物は,現在は発生量,発生場所が限られており,当面は十分安全に貯蔵できるものの,今後,民間再処理工場の運転・プルトニウム燃料利用が本格化するにつれ,発生量の増加が見込まれるものであり,処理処分対策の推進が必要である。
 TRU廃棄物は,放射線レベルは低く,発熱量も少ないものの,長半減期のアルファ放射性核種を含むものであり,また,放射性廃棄物の性状も多様で種類も多く,現状における試算によれば高レベル放射性廃棄物に対し20倍程度とかなり発生量が多いという特徴を有している。
 従って,ベータ・ガンマ廃棄物と分別管理した上で,除染,減容等によって廃棄物の量を低減化し,放射線レベル等その性状にあった,かつ,長期間の人間環境からの隔離に適した固化形態とし,内部被ばくに対する考慮を払って処分を行うものとする。処分の形態としては,低レべル放射性廃棄物の陸地処分については,浅地中への処分,また高レベル放射性廃棄物については,深地層処分が基本方針となっているが,TRU廃棄物については,その特性を勘案すると,低レベル放射性廃棄物よりは深く,高レベル放射性廃棄物よりは浅い地層への処分も考えられる。
 TRU廃棄物については,高レベル放射性廃棄物に関する研究開発等の成果を参考としつつ,動燃は発生者の立場から,主として発生量の低減,減容等に関する研究開発を行い,原研は安全性研究及び新技術開発の面から,主として処理技術等の高度化,処分システム等の研究開発を行うものとする。
7. 国際協力の推進
 高レベル放射性廃棄物の処理処分対策の確立は,原子力開発利用の推進を図る各国の共通の課題であり,情報交換,人材交流,研究分担等により,国際協力を進めることは,研究の活性化,経済的効果,パブリックアクセプタンス等の面で有効である。このため,二国間あるいは多国間の協力を積極的に進めていくものとする。
 具体的には,二国間協力に関し,動燃が進めている米国エネルギー省(USDOE)及び西独カールスルーエ研究所(KfK)との研究協力,原研が進めている米国原子力規制委員会(USNR C)及び豪州原子力委員会(AAEC)との研究協力等について,今後とも積極的に取り組むとともに,中国等の近隣諸国についても協力の対象としていくこととする。
 また,多国間協力としては,国際原子力機関(IAEA),OECD/NEA等における国際的な基準の作成整備作業,共同研究プロジェクト等に対して積極的に参加していくこととする。
8. パブリックアクセプタンス
 高レベル放射性廃棄物処理処分方策の確立に関しては,研究開発等の進展に伴い,関連研究開発施設等の立地問題をはじめとして従来より一層,国民各層の広範な理解と協力を得て進めることが必要となっている。
 このため,国の施策,各研究機関の研究成果等が国民に広く理解されるよう国及び各研究機関等によるきめ細かな広報活動,フォーラムの開催等を積極的に行っていくものとする。その際,原子力のもつ難解さを単に理論的,技術的に説明するだけでなく,社会一般に理解しやすい説明を行うことが肝要である。
 また,立地推進の観点からは,電源三法制度等を地域振興のための方策として積極的に活用していくこととする。高レベル放射性廃棄物の処分の実施に当たっては,今後なお長期間にわたる研究開発が必要であり,特に候補地点における試験研究が重要である。
 従ってその円滑な実施を図るため,例えば,原子力発電所立地において行われている諸種の地域振興制度の適用を考慮する必要がある。
 このように,パブリックアクセプタンス(PA)は,高レベル放射性廃棄物対策を円滑に進めていくうえで大きな意味を持つが,PA達成に当たっては,社会的諸情勢を科学的,体系的に分析し,それを踏まえて総合的なPA対策を推進していくことが必要である。
9. 今後の検討項目
 当専門部会においては,今後も今年末頃までを目途に,以下の2項目を中心に検討を継続することとしている。
(1)返還廃棄物対策
 現在,電気事業者が英・仏2国に再処理を委託している使用済燃料については,今後,両国から廃棄物固化体の仕様の提示がなされた後,再処理を行うこととされており,1990年以降廃棄物の返還が行われる可能性がある。このため,現在,電気事業者を中心に返還廃棄物の仕様,受入れ体制等についての検討を進めるとともに,電力中央研究所等において所要の研究開発がなされている。
 当専門部会においては返還廃棄物の我が国への円滑な受入れを図る観点から,受入れ体制等について,所要の検討を行うこととする。
(2)高レベル放射性廃棄物等処理処分に関する国及び民間の役割分担
 原子力委員会が策定した原子力開発利用長期計画(昭和57年6月)では,高レベル放射性廃棄物の処理・貯蔵については再処理事業者が行い,国は技術の実証を行うものとされている。
 また,処分については長期にわたる隔離が必要であること等から,国が責任を負うこととされ,必要な経費については,発生者負担の原則によることとされているが,今後,処理処分方策の具体化を図っていくに当たっては,長期計画に述べられている責任等の内容についてその明確化を図ることが肝要であり,所要の検討を行なうこととする。
 なお,TRU廃棄物の処理・貯蔵・処分に係る官民の役割分担についても,併せて検討を行うものとする。

ハ)開発途上国協力問題懇談会報告書

 昭和59年9月
 原子力委員会
 開発途上国協力問題懇談会

1.序
 昭和57年6月に決定された原子力開発利用長期計画においては,原子力分野における我が国の協力に対する開発途上国の期待に積極的に応え,今後開発途上国に対する技術協力等原子力分野における国際協力をより活発化する必要があるとの指摘がなされている。
 また,我が国原子力関係者の開発途上国への訪問や,開発途上国の原子力関係者の我が国訪問の機会等を通じて,中国,韓国,アセアン諸国等近隣諸国を中心として開発途上国の我が国に対する期待も次第に明らかになってきている。
 このような状況を踏まえ,原子力委員会は,昭和58年8月,原子力分野の開発途上国協力に関する幅広い関係者の意見を集約し,今後の我が国の協力の進め方等について調査・審議するため,開発途上国協力問題懇談会を設置した。
 開発途上国協力問題懇談会においては,約1年間にわたり,開発途上国の原子力開発利用の現状と我が国に対する期待,我が国の原子力分野の開発途上国協力の現状と問題点等について調査・検討し,官民を含めた我が国全体の開発途上国協力のあり方について審議を行い,ここに,その結果を報告書としてとりまとめた。
 本懇談会は,本報告書の内容が,原子力委員会における今後の我が国の原子力分野の開発途上国協力に関する方針決定等に反映され,関係各方面における協力の一層の強化,推進に資することを期待する。
2.原子力分野における開発途上国協力の意義
(1)我が国にとって,貿易,資源,エネルギーその他の面で深い相互依存関係を有する開発途上国の自立的経済発展を積極的に支援することは,我が国が世界の平和と安定に貢献する重要な方策の一つであり,さまざまな分野に亘って協力の拡充が図られてきているところである。
 平等互恵の精神に立脚した息の長い途上国との科学技術協力もまた,途上国の経済社会開発の自助努力を支援し,途上国の科学技術能力を強化し,南北格差の是正に寄与する上で極めて重要な役割を果たし得るものである。
 このような我が国の協力分野の一つとして,原子力分野における開発途上国との間の協力も重要な意義を有するものであり,長期的見地からみて,途上国におけるエネルギー供給の安定化への寄与等を通じて,途上国における国民福祉と生活水準の向上に資することが期待される。
(2)我が国の原子力開発利用は四半世紀にわたる経験を経て,その規模においても,技術水準の高さにおいても,世界的に高い評価を受ける段階に至っている。
 このように原子力先進国の一員となった我が国に対して,既に,相応の国際的役割を果たしていくことが要請されており,我が国が過去に欧米原子力先進諸国から技術を学びつつ,原子力開発利用を発展させてきたことを考えれば,近年高まりつつある原子力分野における開発途上国からの協力期待に積極的に応えることは,原子力先進国としての我が国の国際的責務であると考えられる。
 また,我が国の原子力開発利用の最も基本となる方針を定めた原子力基本法第2条においては,「進んで国際協力に資するものとする。」と規定しており,開発途上国協力の推進は,まさにこの基本法の精神にかなったものであると考えられる。
(3)スリーマイル島の事故の例を引くまでもなく,原子力開発利用は,一旦,安全性や平和利用確保等の点で問題が生じれば,その影響は,当該国にとどまらず,我が国をはじめ世界各国に大きな影響を与える性格を有している。
 我が国の積極的な協力が,開発途上国の原子力開発の健全かつ安定的な発展に資することになれば,途上国における原子力開発利用の実績とその信頼性が国際的にも高まることとなり,我が国にとっても今後の原子力開発利用を円滑に進めていくことに資することとなろう。
 また,開発途上国との関係を強化していくことは,我が国の原子力開発利用に関する考えかたや活動について世界各国の理解を深め,原子力分野における我が国の国際活動を円滑化していくことにつながるものと考えられる。
(4)更に,我が国と開発途上国との協力が進み,関係が深まれば,長期的には,相手国のニーズ及び技術レベルに応じて,我が国から適切な機器輸出を行うなど,商業取引も活発化することが可能となることが予想され,我が国の原子力産業の発展にもつながるものと考えられる。
(5)なお,現状では,我が国と発展途上国の原子力開発利用の水準には相当の差があるが,各国は原子力の研究や原子力発電の導入に人材を投入し,相当の努力を傾注していることに鑑みれば,各国との協力により我が国が得られる各国の原子力研究開発の成果,原子力発電の運転管理に係る情報等は長い眼でみれば,我が国の原子力開発利用を推進していく上でも有益なものとなっていくものと考えられる。
3. 開発途上国の原子力開発利用の現状と我が国への協力期待の高まり
(1)開発途上国の原子力開発利用の現状
① 二度にわたる石油危機による石油価格の高騰に伴い,開発途上国におけるエネルギー問題は先進国以上に深刻な問題となっている。
 このため,脱石油を図るとともに,経済的かつ安定的なエネルギー源としての原子力開発の重要性が,多くの開発途上国において共通の認識となってきている。
 また,原子力の非エネルギー的利用である放射線・RI利用も,開発途上国の工業,農業,医療等幅広い分野において,数多くの有益な用途を有しており,これに対する開発途上国のニーズの大きさは,従来より,つとに認識されているところである。
② 現在,我が国の近隣諸国において行われている原子力開発利用の状況を概観すると,既に3基の原子力発電所を運転中であり,更に6基を建設中である韓国,秦山発電所を建設中で2000年までに1000万kW以上の原子力発電所の建設を計画している中国など相当高度の実用段階に至っており,積極的に原子力発電を推進している国々から,海外からの全面的な導入により60万kW原子力発電所1基を建設中のフィリピン,更には大型の研究炉を建設中のインドネシ小規模の研究炉を中心に基礎的研究をすすめているマレーシア,タイなど放射線利用や研究炉を用いた基礎的研究に取り組み,将来の発電を目指して,研究開発基盤の整備に取り組んでいる国々まで,各国の開発のテンポ,レベルには相当の差がある。
 しかしながら,各国に共通していえることは,政府内に原子力委員会や原子力省,原子力庁など原子力開発利用を推進するべく行政組織を整備し,原子力研究所等を中心に積極的に原子力開発利用に取り組んでいるということである。
(2)原子力分野における我が国への協力期待の高まり
① 原子力は先端的な技術分野の一つであり,特に原子力発電を推進するためには,極めて高度かつ総合的な技術が要求される。しかしながら,一般的に開発途上国においては,技術基盤,経済基盤の脆弱さから,原子力開発に必要な高度の技術を有する人材の不足,研究用の装置の不備等様々な困難に直面している。
② このため,各国は広く原子力先進諸国に協力を求めており,アジアの原子力先進国であり,原子力発電においても極めて良好なパフォーマンスを示している我が国へも,各国の種々な開発段階に応じて,放射線・RI利用,研究炉利用をはじめ,原子力発電分野に至るまで,幅広く様々な協力要請が寄せられており,我が国に対する協力期待がとみに高まりつつある。
4. 我が国の原子力分野における開発途上国協力の現状と問題点
(1)従来からも,原子力分野における開発途上国協力は,種々の機関により,様々な形態で実施されてきているが,その主なものは以下のとおりである。
① 国際原子力機関(IAEA)を通じた技術協力
 我が国は,国際原子力機関の実施する開発途上国への技術援助活動に資金を拠出(1984年で2.3百万ドル,IAEA加盟国全体の技術援助拠出金の約10%にあたる)するとともに,IAEAからの要請に応じて放射線・RI利用分野を中心に専門家の派遣や研修生の受け入れを行っている。
 しかしながら,後述するRCA協定に基づく協力を除いた我が国のIAEAを通じた技術協力は,相当の資金拠出を行っている割りには,他の欧米諸国と比べると,専門家派遣や研修生の受け入れは小規模なものにとどまっている。
② IAEAのアジア原子力地域協力協定(RCA)に基づく協力
 RCAは,IAEAの枠内で,アジア・太平洋地域の開発途上国を対象に,原子力科学技術に関する研究開発及び訓練の推進協力を行うことを目的とするもので,1972年に発効し,1978年より我が国も正式加盟し,積極的な協力活動を行っている。我が国のRCA協力活動は,開発途上国の緊急課題である食糧,工業,医療問題等の解決に資するという観点から,放射線・RIを利用した「食品照射」,「工業利用」,「医学・生物学利用」の各プロジェクトを三本柱として推進していくこととしている。
 RCA協力活動は,放射線・RI利用の分野に限られてはいるが,相当の資金拠出 (1983年30万ドル,RCA加盟国の特別拠出金の約73%にあたる)を行うとともに,日本原子力研究所(以下,「原研」という)等政府関係機関や民間の(社)日本原子力産業会議(以下,「原産会議」という)の協力を得て,専門家の派遣,研修生の受け入れ,ワークショップ,セミナー等の開催などの活動を積極的に展開しており,従来から我が国の原子力分野の開発途上国協力の大きな柱となっている。
③ 国際協力事業団(以下,「JICA」という)による政府ベース技術協力
 政府ベース技術協力の実施機関であるJICAは,自国の総合的,長期的な観点からの開発ニーズを踏まえて開発途上国が行う外交ルートを通じた要請に基づき従来より原子力分野においても着実に技術協力を実施してきている。具体的協力の形態としては,研修員の受け入れ,専門家の派遣,機材の供与あるいはこれら三つの形態を有機的,総合的に組み合わせた大規模なプロジェクト方式技術協力等があるが,実施にあたっては,国,地方公共団体及び民間にわたり幅広い協力を得ている。また,JICAは,IAEA及びRCAに基づく要請に対しても研修生の受け入れ,専門家の派遣を通じ協力を実施している。協力の実績としては,昭和58年度では研修事業において放射線・RIの医学生物学利用及びがん対策についての集団研修コース,放射線・RIの医学利用,放射線育種等の分野の個別研修員受け入れを合わせて43名受け入れており,昭和49年度から58年度までの累計では321名に達している。また,昭和48年度から58年度までの累計で117名の専門家を派遣している。更に,単独機材供与については工作機械や防護室等の関連機材について年1件程度実施しており,プロジェクト方式技術協力として医療分野で放射線治療機器等の供与及び技術指導を行っている。
④ 原研等政府関係研究機関による協力
 原研においては,IAEA,RCA及びJICAを通じた協力の受け皿として,放射線・RI利用の分野を中心に年間3~4名の研修生受け入れ,年間5~6名の専門家派遣や,年1件程度のワークショップ,セミナーの開催を行っている。なお,このような,他の技術協力機関の要請と資金提供により行われる協力に加えて,原研の自主的な開発途上国との研究協力活動として,昭和59年度より,日・インドネシアの科学技術協力協定に基づき原研とインドネシア原子力庁との間で放射線加工処理分野の共同研究を実施することとなったことが特記される。
 また,本年7月に行われた第6回日韓科学技術大臣会議において,原子力安全研究等7つのテーマについて,今後原研と韓国エネルギー研究所との間で研究交流を進めることが合意された。
 放射線医学総合研究所においては,昭和56年より,RCA協力活動の一環として毎年1回放射線・RIの医学・生物学への利用等に関するワークショップやスタディーミーティングを開催している。
 また,JICAベースの研修生受け入れや専門家派遣を行った実績もある。
 動力炉・核燃料開発事業団(以下,「動燃」という)においては,二国間のウラン探鉱協定に基づき,アフリカ諸国よりウラン探鉱技術に関する研修生を毎年7~8名程度受け入れている。また,本年5月には,動燃と中国核工業部との間で,中国においてウランの広域調査を行うことが合意され,同調査が進められつつある。
⑤ 原産会議,電力等民間ベースの協力
 原産会議は,1973年に韓国原子力産業会議と協力に関する覚書を締結し,日韓原子力産業セミナーを開催しているほか,中国核工業部との間でも1981年に原子力平和利用分野における協力に関する覚書を締結し,放射線・RI利用から,原子力発電に至る幅広い分野で専門家,技術者の相互派遣等を実施している。また,原産会議は,RCAの放射線工業利用プロジェクトにおける,製鉄,製紙業における工程管理や放射線計測機器保守についてワークショップの開催をホストするなど積極的に途上国協力に取り組んでおり,昭和58年7月には,途上国協力の推進に組織的に対応するため,原産会議内に国際協力セミナーを設立している。電気事業者においても,韓国,台湾等の電気事業者と我が国の電気事業者との間で情報交換,研修生の受け入れ等の協力が実施されている。
⑥ 大学における原子力分野の途上国からの留学生受け入れ状況は,必ずしも明らかではないが,東京大学等にマレーシアからの研修生6名を受け入れた例などがある。
 また,大学の教職員等がJICAの派遣専門家として途上国で研究指導等にあたっている例もある。
 以上に述べたように,従来より,原子力分野の途上国協力は,官民の様々な機関で実施されているが,従来の我が国の協力活動は,そのほとんどが放射線・RI利用の分野であり,研修生の受け入れ人数,専門家の派遣人数等協力の規模も小規模なものに止まっている。
(2) 一方,欧米原子力先進諸国は,1950年代より,開発途上国との原子力分野の協力に着手しており,米,仏,加等は途上国との間で二国間の原子力協力協定を締結し,原子炉の商業取引や核燃料の供給等を含む,原子力全般にわたる本格的な協力を各国と進めている。また,昭和58年度に原子力委員会の委託により原産会議が行った調査結果によると,①フランスの原子力庁(CEA)は傘下の原子力技術者養成機関や原子力研究機関に積極的に外国人技術者等を受け入れており,開発途上国の原子力分野の技術者・研究者の受け入れ数は,1960年より現在までに総数15,000名に達している,②西独においてはカールスルーエ原研だけでも,現在,開発途上国の原子力分野の研究者を年間130名受け入れており,その他ユーリッヒ原研等においても相当の研究者の受け入れを行っていると見込まれる,③米国は,IAEA経由の研修生を年間20名程度受け入れているほか,原子力安全規制の分野で原子力規制委員会に年間20名程度,保健物理等の分野で国立アルゴンヌ研究所に年間20~30名程度を受け入れているなど米国全体の受け入れ規模は必ずしも明らかではないが相当数の技術者・研究者の受け入れを行っていると見込まれるなど,技術者・研究者の受け入れの点をとってみても相当の規模の協力を実施している。さらに,このような長期にわたる人材交流を通じて開発途上国で原子力分野の指導的階層は,そのほとんどが欧米原子力先進国で原子力を学んだ人々に占められており,協力の基礎となる人的つながりの面でも欧米原子力先進国は開発途上国と深いつながりを有している。
(3)このような,欧米原子力先進諸国の原子力分野の開発途上国協力と比較すると(1)に述べた我が国の協力は,質・量とも相当劣っている。
 しかしながら,原子力分野における開発途上国協力の我が国のポテンシャルは,言語の問題等はあるものの,原子力開発の体制,技術水準からみて決して欧米諸国には劣っていないものと考えられ,前述した開発途上国からの協力期待に応え,本格的な協力を行っていくことは十分に可能であると考えられる。
 従って,今後,我が国は,2.に述べた途上国協力の意義を踏まえ,原子力分野の開発途上国協力を質・量ともに総合的に拡充すべく,国内的にも国際的にも積極的に対応していく必要がある。
5. 今後の原子力分野の開発途上国協力のあり方
(1)基本的考え方
① 原子力開発利用は,長期的な観点に立てば,途上国が,科学技術,経済・社会開発を進めていくことはもとよりエネルギー制約を克服する上でも今後重要な役割を果たしていくものと考えられ,このような認識に立って原子力分野の協力を我が国の途上国協力全体の中で重要な分野として適切に位置付け,積極的に推進していく必要がある。
② 原子力は,先端的技術が集積されている総合的かつ大規模な科学技術であり,かつ,それを自らのものとして使いこなすためには長年月にわたる努力が必要である。
 特に,原子力開発においては,安全性の確保を大前提として,安全の確保に万全を期していく必要があり,このためには所要の研究,経験を着実に積み上げていくことが求められる。このようなことから,原子力開発利用を円滑に進めるためには,他の分野の産業開発より以上に,研究基盤,技術基盤,経済基盤の充実・整備が必要不可欠であり各国が,長期的,計画的にこのような基盤整備に取り組み,着実に原子力開発利用を進められるよう,各国の実情を的確に把握し,相手国の真のニーズに即して我が国の協力を進めていくことが重要である。
 このため,今後の我が国の原子力分野の協力は,現在の開発途上国における原子力開発利用の発展段階を考慮し,途上国が自立的かつ着実な原子力開発を進めるために必要な研究基盤,技術基盤の整備に重点を置き,長期的な観点から協力を行っていく必要がある。
③ 我が国が実施すべき途上国協力の方法として開発途上国との人材交流は,永続的な協力の発展に不可欠な両国間の信頼関係を築いていく基礎となる人的つながりの形成と,人材育成を通じた研究基盤・技術基盤の整備にも大いに貢献するものであり,今後,最も重点を置くべき協力の方法と考えられる。従って,原子力分野の要人,行政官,研究者,技術者等官民の幅広い層で交流の規模を拡大していく必要があり,それによって開発途上国との協力関係を一層強固なものにすることが期待される。また,研究基盤,技術基盤の整備を効果的に行うためには,人材交流と合わせて機材供与等も有効な協力方法として実施していく必要があろう。
 更に,平等,互恵の精神に立った国際研究協力は,・原子力分野においては,従来先進国に偏って実施されてきており,開発途上国との間では十分に行われていない。
 しかしながら,このような研究交流は,開発途上国の原子力開発のための基盤整備に効果的であり,今後は,途上国との間でもそのニーズに応じて原子力分野における研究交流を技術協力と合わせて積極的に推進していく必要がある。
④ 当面の協力相手国は,我が国と経済的にも地理的にも特に関係が深く,原子力分野における我が国への協力期待が高いアセアン,中国,韓国等近隣諸国に重点を置くことが適当である。この場合,これら諸国における原子力開発のレベル,テンポにはかなりの差があることから,画一的な協力方法は適当でなく,各国の実情を踏まえたきめの細かい対応をすることとし,人材交流,研究協力,技術協力等を長期的観点に立って,整合性のとれた形で,有機的に組み合わせて実施していくことに留意すべきである。
 なお,その他の開発途上国から協力の要請があった場合にも,上述した協力の基本的考え方を踏まえ,できる限りの協力を行う方向で対応を検討することとする。
(2)協力の分野
 今後推進すべき原子力分野の開発途上国協力の分野は,広汎多岐に渡っているが,代表的な分野に関する今後の協力の方向としては以下のように考える。
① RI・放射線利用
 RI・放射線の農業,工業及び医学分野における利用は,途上国の民生の向上に直接役立つとともに,巨額の初期投資を必要とせず技術移転も比較的容易なことから,開発途上国における原子力平和利用の重要な分野を占めている。我が国は,従来より,本分野について前述したRCA活動を中心に積極的に協力を行っているが,今後とも,RCAについて積極的に貢献していくとともに,各国との間の二国間ベースの協力も含めて,更に協力の拡充・強化を図っていくことが必要である。
 本分野において当面適切と考えられる協力項目としては,以下のものがあげられる。
 i)農業利用
 多収・良質の新品種を開発するための放射線育種技術, RIをトレーサーとして利用する作物栄養と土壌肥料研究技術,じゃがいもの発芽防止等の食品照射技術等
 ii)工業利用
 天然ゴムの放射線による改質,木材の放射線加工等放射線照射利用技術,製鉄,製紙業の基盤的な工業におけるRI放射線を利用した各種測定技術等工程管理への放射線計測の応用技術,非破壊検査技術等
 iii)医学利用
 環境放射能調査,保健物理等人の健康や安全に関する放射線衛生学,「がん」等の放射線治療技術,甲状腺や肝疾患などの核医学診断技術,放射線医学利用技術の基礎となる放射線生物学等
② 研究炉利用
 我が国の近隣諸国は,ほとんどすべての国が原子力研究機関の中核的設備として研究用の原子炉を設置利用している。これら各国の研究炉は,RIの生産や,原子炉物理等の基礎的研究に利用されているほか,原子炉の運転管理,安全管理等の経験を蓄積し,原子力発電導入の基礎を整備するという重要な応割を担っている。
 現在まで,我が国は,本分野においては,マレーシアの研修生を大学を中心に受け入れた例のほかはみるべき協力を行っていないが研究炉利用が開発途上国の原子力開発利用の上で極めて重要な役割を果たしていることに鑑み,今後下記の項目で開発途上国の要請に応え積極的協力を行うことが必要である。
 i)研究炉運転管理
 研究炉を安全に運転し,効率的に利用するために必要な技術等(放射線防護及び放射線計測を含む。)
 ii)研究炉によるRI製造
 原子炉による照射技術, RI製造技術及び放射線管理技術等
 iii)放射化分析及び中性子ラジオグラフィー
 研究炉を用いた放射化分析及び中性子ラジオグラフィー技術等
 iv)原子炉による基礎研究
 中性子物理,物性物理,原子炉物理,放射化学,照射損傷等の研究に関する技術等
③ 原子力発電
 原子力発電分野における協力についても,原子力発電の開発を進めている韓国,中国を中心として開発途上国から我が国への協力期待が高まっている。この背景には,我が国が商業用原子力発電を開始して以来15年余,今や運転中の原子力発電所27基,総出力1,969万kWに達し,自由世界において米仏に次いで第3位の規模であるとともに,運転実績においても15年余の運転経験を経て,設備利用率が最近では70%にも達する等原子力発電先進国の中でも極めて良好なパフォーマンスを示していることに対する我が国への評価であり,アジア地域で最も進んだ原子力発電国である我が国から多くを学びたいとする現れでもあると考えられる。
 原子力発電分野の協力は,核不拡散上の観点からの配慮,ライセンス契約上の問題,トラブルを生じた場合の責任の問題等センシティブな問題をはらんでおり,これらの問題には十分留意する必要があるが,開発途上国の経済・社会開発のための原子力発電の果たす役割の重要性及び開発途上国から我が国に対する期待の大きさに鑑み,むしろ各国の原子力発電分野の開発が健全に発展するよう,我が国としても,開発途上国の協力要請に対しては長期的視野に立って積極的に応えていくことが重要である。
 本分野の協力は,当面,原子力計画の立案,原子力発電プラントの計画,建設,運転,補修,各種検査等原子力発電の安全管理及び運転管理並びにプラント機器類の設計,製造,据え付け工事等について我が国の経験,知識を開発途上国に伝えていくことを基本として,相手国の原子力発電の技術・産業等の基盤整備に資する協力とすることが適当である。
④ 原子力の安全確保及び核物質管理
 原子力の開発・利用を円滑に推進していくためには,安全確保が大前提であり,各国は,自国の社会的,自然的条件等を十分考慮し,国情に応じた万全な安全確保の体制を自らの責任によって確立しなくはならない。
 原子力安全に関する協力を実施するにあたっては,相手国との間でこのことを共通な認識とすることが必要であり,この認識のもとに,相手国の安全確保体制整備等のための支援となるような協力を実施すべきであると考えられる。
 特に,既に述べたように原子力については,一旦事故等が起これば,この影響は当該国にとどまらず,世界各国に及ぶものである。
 この見地から,開発途上国における原子力安全確保体制がその原子力開発利用の進展に対応した適切なものとなり,開発途上国の原子力開発利用がバランスのとれた健全な形で発展するよう,我が国が協力していくことは,長期的には我が国の原子力開発利用の円滑な推進にも資するものであると考えられる。
 また,我が国が原子力の平和利用に徹していること及びそのための担保措置である保障措置,核物質防護に関して有する豊富な経験を協力の相手国となる開発途上国に広めることは,これら諸国の原子力平和利用の一層の円滑な推進に資するものと考えられる。
 当面考えられる本分野の協力内容は,以下の項目の情報交換,人材交流等である。
 i)環境モニタリング及び緊急時対策(オフサイト)の体制整備等
 ii)原子力施設及びRI使用施設等の安全審査基準,指針等の安全規制
 iii)核物質管理(保障措置及び核物質防護)
⑤ 原子力安全性研究
 原子力発電開発を推進している開発途上国においては,上述した原子力安全確保体制の充実整備の基礎となる原子力安全性に関する技術の習得並びに研究の推進は緊急な課題となっており,この分野においても豊富な技術蓄積と経験を有する我が国の積極的な協力が求められている。
 従来,我が国は,本分野においては,先進国との研究協力は非常に活発に行ってきたが,途上国との協力はほとんど行っていない。
 しかしながら,原子力の安全性の追求は,我が国のみならず国際的な課題であり,我が国もこれまで先進各国との協力により多くを学んできたことに鑑み,今後は,本分野における途上国の研究基盤の醸成等のため,積極的な協力を行っていくべきものと考えられる。
 本分野における協力の項目としては当面,下記の項目についての人材交流,情報交換が考えられ,長期的には共同研究という形に発展していくことも期待される。
 i)環境放射能安全
 ii)保健物理及び放射線防護の基礎技術
 iii)放射性廃棄物の処理処分
 iv)軽水炉安全解析
 v)構造材料安全等
⑥ ウラン資源の探査・開発に関する協力
 我が国は将来におけるウラン資源の安定供給を図るため,その供給源の分散,確保策の多様化に努める必要がある。このような方策の一環として,開発輸入の重要性が「原子力開発利用長期計面」において指摘されているところである。
 このため,我が国は,開発途上国に対してウラン資源の調査・探鉱の実施,ウラン資源の探査・開発に係わる技術者の教育・訓練等の協力を行い,その結果として,これらの国から将来におけるウラン資源の開発輸入の道を開いておくとともに,併せて当該国の原子力開発利用のためのウラン資源の供給にも貢献していくことが必要である。
(3)開発途上国協力拡充への国,関係機関及び民間の課題
 原子力分野における開発途上国協力については,(1)の基本的考え方を踏まえ,(2)に示した各協力の分野に応じて国,及び民間を含む各機関が,欧米原子力先進諸国と遜色のないレベルを目指して今後適切に対処していく必要があるが,それぞれに期待するところは次のとおりである。
① 国は,我が国の原子力政策及び外交政策の一環として開発途上国との協力を重要なものとして位置付け,長期的,総合的な観点から,関係諸機関,民間と有機的に連繋し,今後の途上国協力の拡充強化に取り組んでいく必要がある。このため,国は引き続き,各種調査,原子力関係要人の招へい及び我が国関係者の派遣等により,開発途上国における原子力開発利用の実情及びその真のニーズの把握に更に努力するとともに,我が国の原子力政策及び原子力開発利用の経験,現状に対する各国の理解を深める努力を一層着実に積み重ねていく必要がある。更に,当面,開発途上国の研究基盤,技術基盤の整備に貢献し得る人材交流の強化を中心とした所要の施策について,必要な財政的措置を講ずるほか,関係機関や民間とも密接に協力する等効果的,効率的な国内の協力体制をつくり上げるため主導的役割を果たすべきである。また,今後増加していくものと見込まれる二国間ベースの協力においては,政府間レベルでの積極的な対応を行い,必要に応じ原子力協力協定を締結するなど各国と適切な政府間の協力の枠組みを作っていくことに前向きに対処していく必要がある。更に,IAEAの技術援助活動に対しても,IAEAの技術協力担当部局と密接な連絡を行うこと等により,従来,相当の拠出金を出していた割には,我が国が研修生の受け入れ,専門家の派遣を実施した実績が低かった点を改善していく必要があるものと考えられる。
 また,現在,我が国が国際的に高い評価を受けているRCAに基づく協力活動については,放射線・RIの工業利用及び医学・生物学利用を中心に,今後ともより一層積極的に推進していくことが望まれる。
② 国際協力事業団(JICA)は,今後とも各国から政府ベースで原子力分野の技術協力要請がなされた場合には,政府の指示に基づき国内受け入れ機関と密接に連絡をとりつつ,できる限り前向きな対応を行うことが適当である。また,我が国のJICAベースの技術協力の仕組み等を相手国の原子力関係者に周知せしめ,必要とされる原子力分野の要請が相手国政府内部の調整に反映されるよう側面的に助力することが必要な場合があると考えられる。更に,原子力分野の集団研修コースの新設,専門家の派遣等と組み合わせた単独機材供与等についても更に前向きに検討し,このような協力の積み重ねによりプロジェクト方式技術協力のような総合的大規模協力についても可能性を検討していく必要があるものと考えられる。
 原研等政府関係研究機関には,我が国のこれまでの研究開発により得られた知識及び経験が蓄積されており,途上国からの協力要請の強い,RI・放射線利用,研究炉利用,安全性研究等幅広い分野で協力に応えられる十分な技術力と人材を有している。従来までに行われてきた開発途上国との協力においても,研修生の受け入れ,専門家の派遣等の実施機関として各研究機関は重要な役割を果たしてきたが,今後とも,原子力基本法第2条の精神に立って各研究機関は,更に一層積極的に開発途上国協力を実施していく必要がある。
 このため,国の支援のもとに,相互的な研究交流を進めるため,開発途上国研究者と我が国研究者との交流,情報交換,相互にメリットのあるテーマを選定しての共同研究を今後本格的に実施していくとともに,そのために必要な開発途上国からの研究者の宿舎の整備等所要の体制整備を行うことが望まれる。また,技術移転を目的とするJICAベースの技術協力に対して積極的に応えて,開発途上国の原子力開発利用の最も基礎となる原子力専門家の養成に貢献していくことも重要である。
 更に,将来的には,上記開発途上国との国際研究交流の円滑な推進あるいはJICAベースの技術協力に一層積極的に対応するため,研修等を実施するための体制の整備等についても検討していく必要がある。
③ 民間には,特に原子力発電分野において,我が国の技術,経験が蓄積されており,この分野の協力において,中心的な役割を果たしていくことが期待される。
 このため,官民の緊密な連繋の下に原産会議国際協力センター,海外電力調査会等が本分野の協力の民間の窓口として機能し,電気事業者,プラントメーカー,(財)発電用熱機関協会等が協力の実施機関としてそれぞれの専門分野に応じて情報の提供,我が国及び現地でのシンポジウム・セミナー等の開催,研修の実施,技術者の交流等を更に積極的に推進することによりこの分野の開発途上国からの要請に応えていくことが必要であると考えられる。そのような協力実績の積み重ねは,開発途上国と我が国原子力産業界との商業取引の活発化にもつながるものと期待される。また,放射線・RI利用分野等においても,応用面での技術等は民間に蓄積されており,これらの面でも,国や政府関係機関ベースの協力を補完していくことが必要である。更に,民間においても,JICAベースの専門家派遣,研修の実施等について,積極的に対応していくことが重要である。
④ 開発途上国の人材養成に協力していく上で,大学が果たす役割も重要である。特に現在の開発途上国の原子力分野の指導的立場にある人々のほとんどが欧米の大学留学経験者であり,そのことが,欧米原子力先進国と開発途上国との協力の円滑化に大きな寄与をしていることが着目される。我が国の大学への途上国留学生,研究者の受け入れは,言葉や学位の問題等もあり,欧米の大学に比べて低い水準にあることは原子力に限らず一般的に言えることであるが,今後長期的観点に立って原子力分野の途上国留学生,研究者受け入れ及び大学からの途上国への専門家派遣に対し積極的に対応していくことが期待される。
(4)核不拡散上の配慮
 我が国が今後,原子力分野における開発途上国との協力を積極的に進めていく際には,「我が国が外国の原子力利用に関係する場合にも,原子力基本法の精神を貫くべきである」との昭和37年の原子力委員会決定を踏まえ,厳に平和目的に徹するとともに国際的な核不拡散動向にも配慮していくことが必要である。
 従って,我が国と相手国の間に原子力協力協定が締結される場合には,それに従って協力を進めることとなるが,原子力協力協定がない場合は,ロンドンガイドライン等の国際的に合意された基準に従い必要な措置をとりつつ進めることが適当である。しかしながら,核不拡散上機微な技術(濃縮,再処理,重水製造)に関する協力については,特に慎重な配慮が必要とされるものと考えられる。
 一方,核不拡散上の配慮は開発途上国協力の推進に対し,常に制限的にとらえられることは望ましくなく,原子力平和利用の推進と両立されるべきものである。我が国としては,この点について十分考慮し,開発途上国との原子力分野の協力を積極的に進めていくべきものと考えられる。


目次へ      3.原子力関係予算へ