各論
第7章 放射線利用

2 農林水産業への利用

 農林水産業における放射線利用としては,食品照射,害虫防除,品種改良等があげられる。

(1)食品照射
 食品照射は,放射線を利用して殺虫,殺菌,発芽防止等を行い,食品の保存期間を延長するものであり,食品流通の安定化及び食生活の改善に大きく寄与するものと期待されている。我が国における食品照射の研究開発は,昭和42年に原子力委員会が策定した「食品照射研究開発基本計画」に基づき,関係国立試験研究機関,日本原子力研究所,理化学研究所等において進められてきた。この結果,バレイショについては,昭和47年に,発芽防止を目的とした照射が許可され,北海道士幌町農業協同組合において実施されている。玉ねぎについては,現在,実用化について農林水産省において検討中である。また,その他の品目(米,小麦,ウィンナーソーセージ,水産ねり製品,みかん)については,基本計画に従って各実施機関が研究開発を行い,昭和56年度をもって概ね完了しており,現在,研究成果のとりまとめを行っているところである。このうち,米,小麦については,貯穀害虫であるコクゾウ,ココクゾウを放射線照射により殺虫し,貯蔵期間中の害虫による食害を防止することを目的に研究開発が進められたが,20〜50キロラドの線量を照射することにより,食品としての健全性を損なうことなく,殺虫できることが明らかとなり,昭和59年1月に,この成果をとりまとめ,公表した。
 なお,米国食品医薬品庁(FDA)では,昭和59年2月に,生鮮野菜,果実を対象に殺虫等の目的で100キロラドまでの放射線照射を承認すべく,準備を開始した。

(2)害虫防除
 不妊虫放飼法により害虫防除が行われている。この方法は,コバルト60のガンマ線照射による不妊虫を大量に野外に放飼することにより,野外の健全虫が正常な交尾をする機会を減少させ,正常な産卵を抑制し,次世代の個体数を減少させることを数世代にわたって繰り返し根絶に至らしめるものであり,農薬による防除と異なり,人体及び環境への影響のない画期的な方法である。この方法により,沖縄県久米島のウリミバエについては,昭和53年に根絶に成功している。現在,宮古群島,沖縄本島周辺の慶良間諸島及び奄美群島の喜界島でウリミバエの不妊虫放飼を行っているほか,小笠原諸島においてもミカンコミバエの根絶を目的とした不妊虫放飼を行っている。
 また,南西諸島全域のウリミバエを根絶するため那覇市及び名瀬市において不妊化虫大量増殖施設の建設を行っている。

(3)品種改良
 農業生物資源研究所放射線育種場等において,コバルト60等からの放射線を利用した品種改良が行われており,イネや大豆等の農作物の耐倒伏性・多収性,早熟等の改良が進められている。
 また,スギ,ヒノキ等の林木についても品種改良が進められている。


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