各論
第6章 核融合,原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発

1 核融合

 核融合エネルギーの利用は,これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能とするものであり,人類の未来を担う有力なエネルギー源として役立つものと広く期待されている。特に,エネルギー資源に乏しい我が国としては,その意義は大きい。
 核融合の研究開発については,昭和50年7月に原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づいて推進されている。
 この基本計画では,トカマク型の「臨界プラズマ試験装置(JT-60)」を開発し,臨界プラズマ条件を達成することを中心に炉心技術及び炉工学技術等の研究開発を推進することとしている。これらの研究開発は,日本原子力研究所を中心として,電子技術総合研究所,金属材料技術研究所等において実施されている。
 以上の他,大学関係においては,①核燃焼を指向した研究の推進,②トカマクに代わる方式に関する研究の推進,③炉材料等広範な関連分野における研究の推進の三つの推進方策に沿って,名古屋大学(核反応プラズマ発生準備研究),京都大学(ヘリオトロンE計画),大阪大学(レーザー核融合計画),筑波大学(複合ミラー計画)等において,プラズマ物理及び関連分野の研究が幅広く実施されている。

(1)研究開発
 イ)炉心技術
 トカマク方式については,日本原子力研究所において,臨界プラズマ条件の達成を主目的とするJT-60の建設が昭和60年4月の本体装置の完成及び実験開始を目途に進められており,加熱装置については,昭和61年度に完成させ,以後,臨界プラズマ条件の達成を目指した臨界プラズマ試験が行われる予定である。昭和59年6月からは既に据付けた装置についての総合機能試験が開始される等,建設は順調に進んでいる。

 一方,トカマクの高性能化の研究も精力的に推進されている。日米協力により,米国のダブレット-III(非円形トカマク試験装置)を用いて4.6%の高ベータ値の達成に続いて(平均プラズマ温度5,800万度)×(プラズマ密度 7×1013/cm3)を実現する等好結果が得られている。また,ダイバータ効果,高周波によるプラズマ電流の励起維持等の研究をさらに進めるため,中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)の改造を進め,非円形プラズマ実験を行うこととしている。
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,新しい展開が見られている。ヘリオトロン方式については,京都大学のヘリオトロンE装置による無電流プラズマの安定な閉込め・加熱,ミラー方式については,筑波大学のタンデムミラー装置「ガンマ10」の本体完成・実験開始,ピンチ方式については,電子技術総合研究所の,ピンチ装置による高ベータプラズマの

 実現等が特記される成果である。
 さらに,慣性核融合については,大阪大学の20キロジュールガラスレーザー 「激光12号」が昭和58年6月に完成し,実験が実施されている。また,荷電粒子ビームを用いた慣性核融合についても,碁礎的研究が進められている。
 ロ)炉工学技術
  超電導磁石に関しでは,国際協力による大型コイル試験用のコイル(L CTコイル)を他国に先がけて完成したほか,3ニオブ・スズ(Nb3Sn)を用いた高磁界コイルを完成する等,世界に伍して開発を進めている。プラズマ加熱技術については世界的な水準にあり,JT-60用の10秒間という長時間パルスの中性粒子入射加熱技術を確立し,高周波加熱技術についても世界最高性能(1メガワット,10秒)のクライストロンの開発に成功する等顕著な成果を挙げている。炉構造材料については,材料の開発研究は世界的な水準にあるものの,照射下における研究は立ち遅れている。このため,米国のHFIR(High Flux Isotope Reactor)及びORR(Oak Ridge Research Reactor)を利用した照射実験を行う等,国際協力による研究を進めている。トリチウムの取扱い技術については,我が国には技術蓄積が少ないので,組織的な研究を進めているところである。炉設計技術については,我が国の水準は高く,国際原子力機関(IAEA)で行われた国際トカマク炉(INTOR)の共同設計に当たってワークショップの主導的役割を果たしている。その他,大型構造物の製作技術,電源技術,計測制御技術等については,従来の核分裂炉の技術等の蓄積に加え,JT-60の建設に当たっての開発研究の成果が付加されつつあるが,なお,遠隔保守技術,ブランケット総合技術等今後開発すべき課題も多い。

(2)国際協力
 現在,我が国が進めている国際協力としては,日米等の二国間協力とIAEA及び経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD/IEA)における多国間協力がある。
 日米協力については,昭和54年5月に締結された日米エネルギー等研究開発協力協定において核融合が協力の重点分野のひとつとされ,ダブレット-III(非円形トカマク試験装置)を用いた共同研究,情報交換及び研究者の相互派遣等を行う交流計画,プラズマ物理の共同研究及びダブレット-IIIに続く新しい共同研究を行う共同計画の4分野について協力が行われている。
 なお,ダブレット-III研究協力計画については,昭和54年8月に政府間で結ばれた協力取決めに引き続き,日本原子力研究所と米国エネルギー省の間で取決めが行われているが,昭和58年7月に同取決めの改訂を行い,現在のダブレット-III装置の真空容器を改造し,大型非円形プラズマに関する共同研究を実施するため協定期間を4年間延長し研究協力を続けていくこととなった。
 IAEAにおける協力については,プラズマ物理及び制御核融合研究国際会議,大型トカマク会合,原子分子データ情報交換及び国際トカマク炉(INTOR)の共同設計を主とする協力に積極的に参加している。
 さらに,OECD/IEAにおける協力については,大型実験装置計画,超電導磁石計画,プラズマ壁面相互作用計画及び核融合材料照射損傷研究開発計画の協力に積極的に参加している。


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