各論
第4章 安全の確保,安全の実証及び環境保全

1 原子炉施設等の安全確保

(1)原子炉施設の安全確保
 原子力発電等の円滑な推進を図るためには,安全の確保が大前提であり,このため,従来から国は厳格な安全規制等を行うことにより原子炉施設の安全確保に万全を期してきたところである。

イ)安全規制の概要
 原子炉等規制法の定めるところにより,実用発電用原子炉については通商産業大臣が,試験研究の用に供する原子炉及び研究開発段階にある原子炉については内閣総理大臣が,さらに実用舶用原子炉については運輸大臣が一貫して規制を行うこととしている。
 規制の具体的内容としては,(i)原子炉施設の設置(変更)許可,(ii)原子炉施設の設計及び工事の方法の認可,(iii)使用前検査の実施,(iv)保安規定の認可,(v)定期検査の実施,(Vi)事故報告,放射線管理報告等の徴収等がある。
 このうち,原子炉施設の設置許可については,原子力安全委員会は,通商産業大臣,内閣総理大臣または運輸大臣の諮問に基づき,各所管行政庁の行った安全審査の結果について調査審議(いわゆるダブルチェック)を行うこととしているほか,設置許可後の段階についても,必要に応じて重要事項について審議を行うこととしている。

ロ)運転管理
 原子力施設の運転管理については,原子炉等規制法に基づく保安規定等により行われており,昭和54年3月のスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故(TMI事故)を踏まえ,運転管理体制の充実・強化が図られてきたところであるが,さらに,日本原子力発電(株)敦賀発電所の事故等の教訓をも踏まえ,保安規定については,原子炉主任技術者の業務の明確化による整備充実が,また,運転管理専門官制度についても,業務方法の内容の明確化,教育・研修の充実等の改善が図られた。

ハ)防災対策
 原子力発電所等に係る防災対策については,災害対策基本法に基づき,国,地方自治体等が防災計画を定める等の措置を講じてきたところである。
 TMI事故の経験に鑑み,防災体制の再点検作業が進められ,関係府県市町村においては,中央防災会議における国として当面とるべき措置の決定(昭和54年7月),原子力安全委員会における緊急技術助言組織の設置(昭和54年6月)及び「原子力発電所周辺の防災対策について」の決定(昭和55年6月)を受け,地域防災計画の見直しを行った。
 一方,国においては,いわゆる電源三法を活用して,関係都道府県が行う緊急時連絡網の整備,緊急医療施設等の整備,防災関係者の教育・訓練,防災活動資機材の整備等に対し助成を行っている。さらに国立研究機関等において,緊急時対策研究,緊急時動員用資機材の整備,緊急時モニタリングに関する技術調査等を行う等原子力防災対策の充実・強化を図っているところである。なお,日本原子力研究所において開発が進められてきた緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI)が,昭和59年4月に完成し,これによって,防災対策に必要な情報を迅速かつ正確に提供することが可能となった。

(2)核燃料施設等の安全確保

イ)安全規制の概要
 核燃料施設は,製錬施設,加工施設,再処理施設及びその他の核燃料物質または核原料物質の使用のための施設から成っており,これらの核燃料施設に関しては,原子炉等規制法に基づき,製錬施設については内閣総理大臣と通商産業大臣が共同で,その他のものについては内閣総理大臣が一貫して規制を行っている。
 原子炉等規制法の主な規制体系と規制形態別事業所数を表に示す。

ロ)輸送の安全確保
 事業所外における核燃料物質等の輸送の規制について,陸上輸送については原子炉等規制法,海上輸送については船舶安全法及び航空輸送については航空法に基づき規制が行われており,一定レベル以上のものについては輸送に際し,法令で定める技術上の基準に適合することについて行政庁の確認を受けるほか,陸上輸送に関しては都道府県公安委員会に届出をする等の規制が行われている。なお,事業所内の輸送については,原子力施設の規制の一環として原子炉等規制法に基づき規制が行われている。
 一方,これらの規制に関連して,原子力安全委員会放射性物質安全輸送専門部会において,国際原子力機関(IAEA)の放射性物質安全輸送規則の改定に係る事項(1985年版の策定及び同規則の国内法令への取入れ)等について調査審議を行っている。

(3)放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保

イ)許可及び届出並びに安全管理
 放射性同位元素等の取扱いに伴う安全性の確保については,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)等に基づき許認可等の厳正な審査,立入検査,監督指導等所要の規制が行われている。
 なお,昭和58年度末の放射性同位元素等の使用事業所数は4,352事業所,販売事業所数は187事業所,廃棄事業所数は11事業所となっており,使用,販売,廃棄事業所の総計は4,550事業所となっている。
 また,昭和58年度における放射性同位元素等に係る事故は,盗難1件,紛失1件であった。これについては,立入検査等所要の措置を講じた。

ロ)輸送の安全確保
 放射性同位元素等の輸送について,陸上輸送については放射線障害防止法,海上輸送については船舶安全法,及び航空輸送については航空法に基づき規制が行われているが,昭和55年の放射線障害防止法の改正により陸上における運搬について科学技術庁及び運輸省による確認制度並びに都道府県公安委員会への届出制度が導入された。

ハ)廃棄物処理処分
 放射性同位元素取扱事業所で発生する極低レベルの液体状及び気体状の放射性廃棄物については,必要に応じ適切な処理を施し,法令に定められた基準値を十分に下回ることを確認したのち,環境中に放出している。
 また,液体状及び固体状の放射性廃棄物のうち,各事業所で処理処分することが困難なものについては,一時,各事業所の保管廃棄設備に保管された後,廃棄業者である(社)日本アイソトープ協会に引き渡されている。


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