各論
第3章 核燃料サイクル

6 放射性廃棄物の処理処分対策

 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは,原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり,国民の関心事でもある。このための施策については,従来から長期的観点に立ち計画的かつ積極的に進めてきている。現在,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,低レベル放射性廃棄物,高レベル放射性廃棄物等の放射性廃棄物対策の具体的な推進方策について昭和59年末を目途に調査審議を行っており,昭和59年8月,それまでの検討結果を中間報告書としてとりまとめ,原子力委員会に提出した。なお,原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会においても,安全規制のあり方について所要の調査審議を行っている。

(1)放射性廃棄物処理処分の現状

イ)低レベル放射性廃棄物処理処分
 原子力発電所等の原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物は,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める濃縮廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,蒸発濃縮等で減容を行った後ドラム缶にセメント固化する等の処理を施し,安全管理上良好な状態にして原子力施設内の貯蔵庫に保管されている。
 また,気体状放射性廃棄物及び液体状放射性廃棄物の一部については,法令に定められた基準値を下回るようにして施設の外に放出されている。
 低レベル放射性廃棄物発生量については,昭和58年度には原子力発電所における廃棄物はドラム缶にして約3万6千本増加しており,累積すると約37万本になっているなど,全原子力施設では約52万本に達している。

 これら低レベル放射性廃棄物の処分は,海洋処分と陸地処分を併せて行う方針である。このうち,海洋処分については,これまで所要の調査研究の実施,国内法令の整備,環境安全評価,国際協調の下にこれを進めるための国際条約への加盟等,所要の実施準備が進められてきた。現在は,試験的海洋処分の実施について内外の関係者の理解を得る努力を行っでいる。
 また,昭和58年2月の第7回ロンドン条約締約国会議において,放射性廃棄物の海洋処分について,科学的な研究グループを設置して検討を行うこと,その結論が出るまで,海洋処分の一時停止を呼びかけること等を内容とする決議案が採択されたところである。科学的検討については,昭和58年9月に準備会合として国際機関間会合がウィーンで開催され,海洋処分に係る科学的文献の分類整理が行われ,さらに昭和59年2月の第8回同締約国会議において専門家パネルの構成,パネルへの付託事項,スケジュール等科学的検討に関する具体的進め方が決められた。これにより昭和60年9月に予定されている第9回同締約国会議へ報告することを目途に科学的検討が進められることとなった。我が国は,海洋処分の安全性に対する一層の信頼を確立するとの観点から,この科学的検討に積極的に参加・協力することとしている。
 一方,陸地処分については,安全評価手法の整備等を図るための所要の試験研究等が進められているところであるが,低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において長期的な管理が可能な施設に貯蔵することが現実的な方策と考えられており,これまでの経験を踏まえ,早期に開始するよう,具体化のための内容の検討及び準備が進められている。
 民間においては,昭和59年7月に電気事業連合会が,低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の青森県六ヶ所村への立地について,青森県及び同県六ヶ所村に対し申入れを行った。また,同施設の事業主体の設立準備が進められている。
 また,現在,いわゆる低レベル放射性廃棄物は法令上放射能レベルによる区分がないため,極めて放射能レベルが低いものまで全て敷地内の施設に貯蔵されている。さらに,今後原子炉等の解体によって,放射性廃棄物であるとは実質的には認め難いものが大量に発生する可能性がある。昭和59年8月の放射性廃棄物対策専門部会中間報告においては,従来のいわゆる低レベル放射性廃棄物を,低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物及び放射性廃棄物として扱う必要のないものに3区分し,低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物をそれぞれ放射能レベルに応じて合理的に処理処分する方策を示している。すなわち,低レベル放射性廃棄物の陸地処分については時間の経過とともに管理が軽減され,一般人の立入制限,使用目的,譲渡制限等のみを行う軽微な管理の段階を経て,最終的には管理を必要としない段階に至る。これに対し極低レベル放射性廃棄物は,再利用あるいは簡易な処分を行い処分の開始時から軽微な管理でよいものとされている。

ロ)高レベル放射性廃棄物処理処分
 再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物については,その量は昭和58年度末現在,溶液の状態で約154m3であり,東海再処理工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。
 なお,昭和55年12月の放射性廃棄物対策専門部会報告において,昭和59年度は,この時期までに進められた地層処分に係る研究開発について,評価検討を行う年として位置付けられている。この趣旨を受けて昭和59年8月の同専門部会中間報告では,処分技術の早期実証の観点からの具体的方策を定めている。

(2)放射性廃棄物処理処分の研究開発

イ)低レベル放射性廃棄物処理処分
 低レベル放射性廃棄物の海洋処分については,試験的海洋処分をできるだけ早い時期に実施することを目標に,昭和58年度も前年度に引き続き,関係省庁,(財)原子力環境整備センター等において,試験的海洋処分の実施に関し所要の調査研究が進められた。一方,陸地処分については,日本原子力研究所により放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験,(財)電力中央研究所により陸地処分のための各種パッケージ及び処分施設の基準作成に関する試験,(財)原子力環境整備センターによりモニタリング手法開発のための調査研究が行われている。
 また,昭和58年7月に,原子力安全委員会は低レベル放射性廃棄物の処理処分に係る安全規制に必要な安全基準・指針,安全評価手法等の整備に必要な研究・技術開発について今後5ヵ年間の計画を「低レベル放射性廃棄物安全技術研究年次計画」としてとりまとめ,さらに,昭和59年7月にはその第1回の見直しを行ったところであり,今後は,この計画に沿って計画的かつ総合的に研究が進められることとなっている。

ロ)高レベル放射性廃棄物処理処分
(i)固化処理技術開発
 固化処理については,昭和59年8月の放射性廃棄物対策専門部会中間報告の方針に示されるように,世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に最重点をおいて研究開発が進められている。動力炉・核燃料開発事業団においては,昭和65年度の運転開始を目標に,固化プラントを建設し,固化処理技術の実証を行うとともに,昭和67年度の操業開始を目途に貯蔵プラントの建設を行うこととしている。固化処理技術の開発を進めるに当たっては,実験室規模の試験と実規模の試験,コールド試験とホット試験を組み合わせて行うこととしており,動力炉・核燃料開発事業団においては,昭和53年度から模擬廃液を用いた実規模でのガラス固化処理の試験を進めているほか,昭和57年度からは,高レベル放射性物質研究施設(CPF)において,東海再処理工場で発生した実廃液を用いた実験室規模でのガラス固化処理の試験を進めている。
 なお,無機材質研究所においては無機材質の高レベル放射性廃棄物処理処分への利用に関する基礎的研究を,また,大阪工業技術試験所においてはガラス固化処理に関する基礎的研究を,さらに地質調査所においては地層処分の岩体に与える影響等について基礎的研究を進めている。
(ii)地層処分研究開発
 地層処分においては,地層という天然バリア(障壁)に固化体,キャニスター等の人工バリアを組み合わせることによって高レベル放射性廃棄物を人間環境から隔離することを基本的考え方とし,2000年頃を目途に処分技術の早期実証を行うことを目標に研究開発を進めることとしている。このため,動力炉・核燃料開発事業団においては,我が国における地層の賦存状態の調査を文献調査及び地質概査により行うとともに,処分に適する地層を選定するための手法を開発するため,昭和56年度からは宮城県細倉鉱山において岩石の透水性や熱的特性の試験等を行っているほか,スウェーデンのストリパ鉱山における経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の国際共同研究計画に参加し,岩石の基礎的な特性や試験方法について試験研究を行っている。
 これらの成果から,我が国においても天然バリアと人工バリアを適切に組みあわせることにより,地層処分は十分可能であるとの見通しが得られている。以上の技術開発と並行して,日本原子力研究所においては,処理処分の各段階の安全評価手法の整備を図るため,ガラス固化体の特性,処分条件下での放射性物質の挙動等の基礎的な試験研究を行っており,昭和57年度からは廃棄物安全試験施設(WASTEF)において放射性物質を用いた試験を進めているほか,シンロック等ガラス固化以外の新固化技術,群分離等に関する基礎的研究を進めている。
 ハ)TRU廃棄物処理処分
 再処理工場の運転およびプルトニウム燃料の製造等に伴って発生するTRU(Trans-Uranium:超ウラン)廃棄物は,放射能レベルは低く,発熱量も少ないものの,長半減期のアルファ崩壊放射性核種を含むものであり,また,放射性廃棄物の性状も多様で種類も多く,試算によれば高レベル放射性廃棄物に対し20倍程度と,かなり発生量が多いという特徴を有している。このため,昭和59年8月の放射性廃棄物対策専門部会中間報告の方針に示されるように,その低減化を図るためベータ・ガンマ廃棄物との区分管理技術,減容・除染技術の開発を行うとともに,安定な形態への固化技術及び高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を参考とした処分技術の開発を,動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力研究所等で行っている。


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