第1章 原子力開発利用の動向
4 国際協力と核不拡散

(1)国際協力

 近年,原子力分野における国際協力の機運はとみに高まっている。特に,近隣アジア諸国を中心とした開発途上国の我が国の協力に対する期待が高まっている。我が国としては,従来からの先進諸国との協力のほか,開発途上国との関係強化を図るとともに,原子力先進国としての国際的責務を果たすという観点から,これら諸国との協力を積極的に行うこととしている。
 国際協力を進めるに当たっては,「我が国が外国の原子力利用に関係する場合にも,原子力基本法の精神を貫くべきである」との原子力委員会決定を踏まえ,対処していくことが必要である。

イ)先進国との国際協力
 原子力分野における先進国間の国際的な研究協力は,安全研究協力,規制情報交換,高速増殖炉,核融合等多岐にわたる分野で,二国間,多国間あるいは国際機関の場を通じ,活発に行われている。高速増殖炉,核融合等の例を挙げるまでもなく,原子力研究開発は今後とも大規模化するとともに関連する分野もより広範になっていくものと考えられ,これらの開発には膨大な開発資金と多分野の人材を要するので,研究開発の効率化及び資金分担の観点から,国際協力の重要性が高まりつつある。
 高速増殖炉については,高速増殖炉開発懇談会において高速増殖炉実証炉開発促進のための国際協力のあり方について調査審議が行われており,また,核融合分野においても二国間及び多国間の国際協力について,核融合会議において連絡・協議が行われている。また,昭和57年6月に開催された先進諸国首脳会議(ヴェルサイユ・サミット)において,それぞれ科学技術協力プロジェクトとして取り上げられ,その後,専門家会合等により協力の内容,枠組等について具体的な議論がなされ,昭和59年6月にはロンドン・サミットにおいて科学技術作業部会報告の中に両プロジェクトの作業の進捗状況がとりまとめられ提出された。なお,ヴェルサイユ・サミットにおいて提唱され,その推進が奨励されていた軽水炉の安全研究についても,昭和58年11月に日本原子力研究所と米国原子力規制委員会(NRC)との間でROSA-IV計画の日米共同研究実施取決めが合意される等研究協力の推進が図られている。
 原子力に係る国際機関である国際原子力機関(IAEA),経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)及び国際エネルギー機関(OECD/IEA)においては,核融合,放射性廃棄物管理,安全研究等の分野で国際プロジェクトが積極的に推進されている。これら国際機関は,国際協力の場として今後ますます重要な役割を果たしていくことが期待される。

ロ)開発途上国との国際協力
 開発途上国の原子力開発意欲の高まりにつれて,放射線利用からエネルギー利用まで幅広い分野において,我が国の協力に対する開発途上国の期待は高まり,その内容も次第に明らかになってきている。
 このような開発途上国からの協力期待に応えることは,原子力先進国としての我が国の国際的責務であり,各国の原子力開発が健全かつ安定的に発展し,原子力利用の実績及び信頼性が国際的にも高まることは;我が国の原子力開発利用の今後の円滑化に資するものであると考えられる。また,こうした協力が進み,関係が深まれば,長期的には相手国のニーズ及び技術レベルに応じた適切な機器輸出等が可能となり,更に,協力により得られる各国の原子力研究開発の成果,原子力発電の運転管理に係る情報等は,長期的観点に立てば我が国が原子力開発利用を進めていく上でも有益なものとなっていくものと考えられる。
 開発途上国協力について,我が国は,従来よりIAEAの「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく協力,国際協力事業団(JICA)による政府ベース技術協力等を通じて,放射線・アイソトープの利用を中心に,資金の拠出,研修員の受入れ,専門家の派遣,各種ワークショップ・セミナーの開催等積極的に協力活動を行ってきている。
 しかしながら,従来からの我が国の協力は,欧米原子力先進諸国と比べると,質・量ともに劣っており,今後,我が国は,上述した開発途上国協力の意義を踏まえ,所要の対応策をとっていく必要がある。
 このような状況に鑑み,原子力委員会は,開発途上国との協力促進に資するため,昭和58年8月,開発途上国協力問題懇談会を設置し協力の進め,方,協力の円滑化のための方策等について調査審議を進めてきたが,同懇談会は,昭和59年8月,報告書をとりまとめ,同年9月,同報告書を原子力委員会に提出した。同報告書においては,原子力分野の協力を我が国の開発途上国協力全体の中で重要な分野として適切に位置づけるべきものとしており,各国が長期的,計画的に原子力開発を進められるよう,各国の実情を適確に把握し,相手国の真のニーズに即した協力を進めていくことが重要であり,特に,開発途上国との人材交流は,今後最も重点を置くべき協力の方法であると考えられる旨指摘している。また,従来先進国に偏って実施されてきた国際研究協力は,開発途上国の原子力開発のための基盤整備に効果的であり,今後は開発途上国との間でもそのニーズに応じて研究交流を技術協力と合わせて積極的に推進していく必要がある旨述べている。
 また,隣国である中国は,原子力発電所の建設を諸外国の協力を得つつ進めていく計画であり,昭和59年1月にはIAEAに加盟し,国際的動きが活発化している。
 昭和58年10月に開催されたIAEA総会における中国のIAEA加盟承認に際し,安田科学技術庁長官は我が国代表として演説を行い,,同じアジアに属する国としてその加盟を歓迎した。
 我が国と中国との間の原子力協力は,従来民間ベースで行われてきたところであるが,昭和58年9月に開催された第3回日中閣僚協議において,原子力の平和利用分野における協力を促進・発展させるべく協議を進めていくことで両国の意見が一致した。これを受け,日中両国間の本格的な原子力協力を円滑に進めていくための枠組となる原子力協定を中心とし,両国政府間の協議が昭和58年10月以来行われているが,同時に,同国が建設を予定している秦山原子力発電所への原子炉圧力容器の輸出,中国におけるウラン資源の共同調査等,協定の締結を待たずとも行い得る協力が進められている。
 このような状況の中で,原子力委員会は,将来の日中原子力協力の基礎固めを行うため,中国側の原子力開発の最高責任者である方毅国家科学技術委員会主任を昭和59年4月に招へいし,我が国の原子力開発の現状を紹介するとともに,原子力分野における日中協力について関係者と意見交換を行った。


目次へ          第1章 第4節(2)へ